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パンデミックがもたらしたイノベーションと未来の働き方 ―WORKTECHレポート

[May 27, 2021] BY Worker's Resort Editorial Team

ポストコロナ時代に求められるワークプレイス・イノベーション

2020年初頭から続く新型コロナウイルスの影響で、世界は大きな変化を迫られている。特にデジタル活用の文脈で、その動きが顕著だ。オフィスから自宅へ。パンデミックの中、ワーク・フロム・ホームの流れが加速した背景には、デジタルテクノロジーの進歩が大きく寄与している。

働く場所が変わったことで、人々の仕事に対する考え方にも変化が生まれた。そうした変化に対応するため、まさに今、生産性のみならず様々な課題を考慮した、ワークプレイスの未来像を描くことが求められている。

2021年3月25日に開催されたWORKTECHのバーチャルフォーラム「ワークプレイス・イノベーション」では、各業界から国際的なオピニオンリーダーが集まり、イノベーションとテクノロジーが仕事と職場の未来に与える変化について議論された。

フォーラムでは、ケーススタディや最新のレポートなどを通して変化するワークプレイスの現状が共有されたが、その内容は「社員のオフィス復帰戦略」を練る上で示唆に富むものだった。本記事ではその中から、特に重要と思われる3つのポイント、「環境づくり」「企業文化」「テクノロジー」にフォーカスを当てて紹介していく。

バーチャルフォーラム「ワークプレイス・イノベーション」とは

WORKTECHは25以上の都市で開催される、文字通り「働き方」や「働く場所」について考える世界的なカンファレンスだ。2003年にフィリップ・ロス氏とジェレミー・マイヤーソン氏によって立ち上げられた。その一環である「ワークプレイス・イノベーション」は、同イベントのシリーズの一つで、仕事と職場の未来について意識を高め、変化を促すことを目的としている。

ポイント1.コミュニケーションが活発化する環境を整える

機械やコンピュータープログラム、AIなど、近年の科学技術の発展は目覚ましく、いまやその力を借りずに日常生活を送るほうが難しくなってきている。2020年に世界経済フォーラムが発表したレポートでは「2025年までに人間と機械が仕事に費やす時間は同等になる」と示されており、特にデータ処理や事務系の仕事においては、ロボットやコンピューターが役割を果たす割合が大きくなると予想されている。

オーストラリアのスインバン工科大学・Centre for the New Workforceでディレクターを務めるショーン・ギャラガー博士は、「人間はクリエイティビティを発揮することで優位性を示せる」と語る。人は自らの力で新しいアイデアを生み出せるが、コンピューターを動かすには知識を学習させる必要がある。だからこそ、人にはビジネスの中核を成す創造的なアイデアを生み出すことが求められる。ギャラガー博士は、ワーカーたちが革新的で創造性に富んだアイデアを生み出すには、お互いに学び合い、協力し合うことが必要となると付け加えた。

スインバン工科大学が2021年に発表した報告書、「National Survey Report: Peak Human Workplace(人々の職場に関する全国調査)」によると、オーストラリアの企業で働く人々にとって、「自らが主体となり多様な背景や経験を持つ人々と一緒に取り組むこと」が、アイデアの創出やインキュベーションにとって理想的な環境を生み出すことがわかっている。

また、アイデアを生み出すためには、別の部署やチームなどに所属する同僚とのつながりである「ブリッジング・ソーシャル・コネクション」が重要であることも強調された。一方、同じ部署やチームなどの身近な同僚とのつながりである「ボンディング・ソーシャル・コネクション」は、アイデアの実現に適しているという。

リモートワークでは親しい同僚とのコミュニケーションは比較的容易だが、つながりの薄い同僚とはコミュニケーションの機会が少なくなりやすい。そのため、アイデアの創出とその実現には、社員を刺激するようなオフィスワークとリモートワークを融合させた「ハイブリッド・ワークプレイス」をつくることが重要だ。

別の課題もある。オンラインコミュニケーションが主体のバーチャルな世界では、「企業文化」も育まれにくい。従業員がオフィスとリモートといった複数の環境で働くオムニチャネルの未来では、企業文化はこれまで以上に重要な意味をなすだろう。ギャラガー博士は、「チーム単位だけでなく会社全体で取り組むことで、仕事上関係の薄い同僚ともつながりを持ち続けられる」と語る。

また、世界三大会計事務所でありコンサルティングファームとしても知られるPwCのシニアアナリストであるキャサリン・ビグネル氏は、次のように付け加える。「企業文化を維持するためには人々をオフィスに呼び戻す機会をつくることが重要だ」。その上で、企業が積極的にソーシャルイベントやネットワーキング、セミナーなどを行うことを勧めている。これは、新卒社員と中途採用の社員のどちらにとっても、同僚との絆や関係性を築くために欠かせないものだ。彼らが会社の一員であることを実感できるように、ガイダンスや新入社員研修を行うのも効果的だろう。

企業が抱えるもう一つの問題は、職場での孤独感や孤立感だ。たとえ社員がオフィスに戻ってきたとしても半数しか出社せず、フロア全体に散らばって座っていたら、受ける印象は以前とは異なるはずだ。そのため、出社時に活気を感じられ、社員同士がコミュニケーションを取りたくなる座席配置にオフィスを再デザインすることが必要となる。

在宅時のホームオフィスが集中できる生産性の高い場所である一方で、企業の用意するオフィスはコラボレーションとイノベーションの場所という位置付けになる。だからこそ企業は、自宅では経験できないような学習や関係構築の機会を得られるよう、新しいオフィスのデザインに向けて準備を進める必要があるのだ。

ポイント2.従業員の働きやすさに重きを置く

企業にとって生産性の向上や業務の効率化は不可欠だ。とはいえ、これらが最も重要な指標だということではない。前述したように、創造性は人間と機械を区別するものであり、顧客に付加価値を与えるものだ。だからこそ、従業員を企業の核として捉え、その働きやすさを考えることが鍵となるのだ。

認知科学に基づいた育成プログラムを提供するEQラボのチーフコグニティブオフィサー、リチャード・クレイドン博士は、次のように強調する。「リモートワークによって多くの人は働きやすい環境を手に入れたが、一方で過重労働や社会的孤立を招き、メンタルヘルスに影響を受けたワーカーもいる」。ウェルビーイングを「実現できたらよい」という程度にしか考えていない企業も少なくないが、ビジネスの中核をなすものと捉えなければならないのだ。

クレイドン博士は、同僚とのコーヒーブレイク、仕事の後の一杯、知見を広げるための動画視聴など、直接は仕事にひも付かない「測定不能な仕事」こそ優先させるべきだと言う。これらは、人々が独創力や想像力を発揮するための力の源になるからだ。

しかし、そのような中間的な仕事はパンデミックによって奪われ、いまやすべてがスケジュール化されるようになった。Zoomでの会議には目的があり、目的のないおしゃべりを楽しむために時間が使われることはない。

それらの「測定不能な仕事」に割く時間をキープするためには、インフォーマルなコミュニケーションの場を意識的に確保する必要がある。どんなビジネスでも、成功するためには知識や見聞を深めることが必要で、これは定量化して表せないものなのだ。

また、クレイドン博士は働きやすさを評価するにあたって、オフィスで語られる「言葉」に注目することも提案している。従業員の感情を知る手掛かりは仕事上の議論や体験談の中にあり、それを知ることは組織にとって非常に有益だという。

インフォーマルなコミュニケーションの測定は、必ずしも定性的である必要はない。エクスペリエンス(体験)の分析や従業員調査によってデータを定量化することができるからだ。企業はそれを将来の意思決定や、創造性を発揮できるようなワークプレイスの実現に役立てられるはずだ。

ポイント3.デジタル化を促進して利便性を高める

オフィスで働く従業員の数が減少する中で、空間の使い方や不動産に対する考え方も変わってきている。世界有数のリサーチ会社であるGartner社のレポートによると、72%の企業が今後2年間で使用する不動産の10%以上を削減したいと考えているという。これは、ハイブリッド・ワーキングが私たちの未来の一部になる可能性が高いことを示すものだ。

今後、企業がオフィスを最大限に活用するためには、従業員がより使いやすいものへとワークプレイスのあり方を見直す必要があるだろう。

こうした背景の中、テクノロジー企業であるSmarten Spaces社のCEO兼創設者であるディネス・マルカニ氏は、ワークプレイスをデジタル化するメリットについて論じた。具体的には、ワークプレイスのデジタル化によって、ソーシャルディスタンスが取れるよう座席を再配置したり、固定席とフリーアドレススペースを分けたり、チームごとに適切なスペースを確保できたりするようになるという。

また、座席や会議室の予約を簡単にできるようにするほか、自動化技術を使って各チームがオフィスに来る日を最適化する必要もある。多くのリーダーにとって職場での孤独感は頭を悩ませる大きな問題であり、チームのメンバーが同じ日にオフィスに来て共同作業を行うのは非常に重要だ。

さらにマルカニ氏は、会議室の予約、スケジュール管理、入退室管理などにも目を向ける。これまでは別々に管理されていたが、今後は統合されたシステムでの利用が重要になるだろう。必要な機能に一カ所でアクセスできるエンドツーエンドのデジタルプラットフォームがあれば、ハイブリッド・ワークプレイスをより簡単に実現できるのだ。

続けて、イギリスのソフトウェア企業であるコンデコ社のチーフセールスオフィサーであるマイク・ピルチャー氏は、ソフトウェアを使って従業員の体験を向上させることを提案した。ソフトウェアはオフィスに来る従業員の数を管理したり、検査の陰性結果を確認したり、ワークフローやプロセスを管理したりする際に利用できるという。これにより、完全なリモートワークからハイブリッドワークへの移行を、よりスムーズかつ安全に行うことができるのだ。

テクノロジーが私たちの仕事に欠かせないものになっている今、企業はこれを受け入れることが重要だ。ピルチャー氏は「デジタル化は過去数十年にわたって行われてきたが、今、さらなるステップを踏み出したに過ぎない」とセッションの中で指摘した。

WORKTECHが予想する未来のワークプレイスとは

ポストコロナ社会では、ワークプレイスはパンデミック以前と大きく異なる「ニューノーマル」なものとなることが予想されている。多くの企業でハイブリッド型のオムニチャネル・ワークシステムが採用されるにつれて、従業員もそれに合わせて働き方を変える必要が出てくるだろう。

近い将来、ワークプレイスは社員同士のコラボレーションを活発化させる場所となり、そこで働く人々のウェルビーイングを重視したデザインになっていくはずだ。また、デジタル化の促進で、より利便性の高いものへと変わっていくことだろう。個人の能力を活かし、イノベーションとクリエイティビティをいっそう発揮させるために、従業員の知見を広げること、企業文化を根付かせること、そして適切なテクノロジーを取り入れることが、今、企業には求められている。

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