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政府がオフィスのサーキュラーエコノミー化をけん引・オランダの循環型オフィス事例

オランダは政府主導で完全循環型経済を目指しており、オフィス構築においても建材のリユースなど、廃棄物を出さない取り組みが広まっている。この記事では循環型オフィス3例を紹介する。

世界が注目するサーキュラーエコノミーとは

世界中でサステナビリティへの関心が高まるなか、「サーキュラーエコノミー(Circular Economy)」という言葉にも注目が集まっている。日本語では「循環型経済」と訳され、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした「リニアエコノミー(Linear Econony/直線型経済)」システムに代わる新たなシステムを意味している。オランダでは、いち早くこのサーキュラーエコノミーが建築業界にも採用され、オフィス設計にも影響を与えている。

オランダが目指す循環型社会

オランダでは2016年9月、「2050 年までのオランダのサーキュラーエコノミー」と題する循環型経済のための政府全体のプログラムが下院に提出された。2050 年までに廃棄物のない完全な循環型経済をオランダ国内で実現すると宣言し、そこまでの道筋が示されたことになる。今後このプログラムは、政府主導のもと、ビジネスコミュニティ、大学などのアカデミア機関、自然環境保護団体、労働組合、金融機関など、ありとあらゆる社会組織を巻き込んだ取り組みへと発展していくだろう。

特に「2030年までに原材料の使用量を50%削減する」「廃棄物のない社会を目指す」という項目は、建築デザイン業界にも影響を与えていくと考えられる。オフィスの建築・リノベーションも例外ではなく、既に近年では建材のリユースなどへの意識的な取り組みが行われている。

本記事では、先進的な取り組みが行われているオランダのオフィス3例を紹介していきたい。

1.オランダ政府会議室

「2050年までにサーキュラーエコノミーを実現する」という大きな目標を掲げたオランダ政府。アムステルダムの中心地にほど近い場所にある政府会議室(Rijksontmoetingskantoor)をリノベーションする際も、サーキュラーエコノミーを意識した取り組みが行われた。

リノベーションを担当したのは、1896年創業のオフィスデザイン会社「Ahrent」。同社のウェブサイトによると、今回のプロジェクトは「政府の要望に完璧に応え、(コーヒーコーナーの場所を除き)デザイン第一稿からほぼ直しなしで施工までたどり着いた」という。

まるでカフェのようなミーティングスペース
半個室のような会議用スペースも
画像はすべてAhrent社のWebサイトより

床材もさることながら、特にサーキュラーエコノミーを意識したのは設置した家具だという。オフィスインテリアも手掛けるAhrent社のセカンドハンド家具のほか、衣服をリサイクルしてつくられたプレートをテーブルの天板に採用する、分解して修理ができるように椅子やテーブルのフレームにはスチール素材を選ぶなど、さまざまな取り組みを行っている。

ベーシックなスチールフレームは飽きのこない美しさで、かつ人間工学に基づいたデザインを採用しているため、身体への負担も少ない。

「オフィスデザインにおけるサーキュラーエコノミー」と聞くと、建材に意識が向きがちだが、オフィスに導入する家具も無視できないファクターのひとつなのだ。

画像はすべてAhrent社のWebサイトより

このプロジェクトを担当した政府関係者は、このオフィスを「さまざまな部門の公務員が、交流できる場所」と評価する。コロナ禍の在宅勤務は、オランダの政府関係者にとっても無縁ではなかった。

一方、コロナによる影響がおさまってきた現在、オランダ政府は人々がビジネスで物理的に交流することを望んでいる。

そうしたなか、「オフィスか在宅勤務か」とどちらかに振り切るわけではなく、ゆるやかなハイブリッドワークスタイルをこの場所がサポートできるはずだと期待を寄せる。オランダ政府にとってのこの場所は、新しい働き方の象徴でもあるのかもしれない。

2.メガバンクの循環型施設「CIRCL」

オランダの3大メガバンクの一角をなす「ABN AMRO(エービーエヌ・アムロ)」の施設も、サーキュラーエコノミーを意識したものとなっている。ABN AMROは、2015年にアムステルダムのZuid(ザウド)地区にあるオフィスの増設計画をスタート。2017年9月に完成したのが、このCIRCLだ。

CIRCLにはさまざまな工夫がほどこされており、「オランダにおけるサーキュラーエコノミー建築の代表」とも言われている。

「パビリオン」とも呼ばれる「CIRCL」(画像はCIRCLのFacebookより)
環境への負荷を配慮し、入り口は自動ドアではなく手動の回転ドア(画像は著者撮影 ⒸNaoko Kurata)
明るいエントランスホール。奥のレストランは一般開放されている(画像は著者撮影 ⒸNaoko Kurata)

CIRCLの建築には再利用素材がふんだんに使用されており、通常の建築物と比べ、36%素材が節約されているという。スタイリッシュな床材もリサイクル素材で、古い修道院やサッカークラブのクラブハウスなど、15カ所から回収された廃材が使用されている。

画像は著者撮影 ⒸNaoko Kurata

地下はビジネス用のフロアで、主に銀行の会議室と行員のためのカフェコーナーとなっている。会議室のドア枠には、オランダの機械メーカー「フィリップス」の建物で使われていた建材が再利用されている。

画像は著者撮影 ⒸNaoko Kurata
フロアの両側には、スタイリッシュな小会議室が。ドア枠はリユースの建材(画像は著者撮影 ⒸNaoko Kurata)

このほか、建物の天井や会議室の壁に断熱材兼防音素材として使われている素材もリユースだ。建設前はジーンズの回収キャンペーンが行われ、集まった1万6千本の古ジーンズの繊維が再利用されたのだという。

また、建物内の電気はすべて太陽光発電で賄われている。屋根の上に設置された260台に加えファサード上にも260台が設置されており、その電力を効率的に活用するために電力ロスを減らす「直流給電」システムが採用されている。

意外なことに「CIRCL」は、自分たちのサーキュラーエコノミー的な取り組みポイントとしてエレベーターの存在を上げている。館内のエレベーターは「Mitsubishi Elevator Europe BV」との15年契約のレンタルであり、更新ごとに環境負荷が低くなるように開発されたモデルなどと交換できるという。購入してしまうと古く環境負荷が高いものを使い続けなくてはならないが、一定期間で見直しができるのは確かに理に適っている。

CIRCLは銀行の施設なので、もちろんビジネス目的で建設されているが、これらの工夫を見ると本気で環境問題に取り組んでいることを窺い知ることができる。ビジネスとサステナビリティを両立させている好例と言えるだろう。

3.ユニリーバの「フード・イノベーションセンター」

最後にあげるのは、世界的企業「ユニリーバ(Unileaver)」の施設だ。ユニリーバはイギリスの石鹸会社とオランダのマーガリン会社が統合したという経歴をもつ。そのため、いまでもオランダ国内に複数の拠点を有している。オランダ中部のワーヘニンゲンにある研究施設「フード・イノベーションセンター」は、世界で最もサステナブルな建物のひとつだとデザインに関わったAhrent社は説明する。

建築家をはじめとするプロジェクトチームは、そこで働くスタッフの健康、建物のエネルギー効率、材料の選択、建材の循環性に関する基準を考慮して建設に取り組んだという。

建物の屋根には1550枚のソーラーパネルが装備されており、発電に利用されているほか、そのパネルから収集された熱を貯蔵できるよう、地下にはエネルギー貯蔵システムも有しているのだ。

ユニリーバ社の「フード・イノベーションセンター」
ゆたかな自然光にはエネルギー節約になるだけでなく、従業員のストレスも和らげる効果が
木目調の梁もメカニカルな施設の冷たさを和らげている
機械の稼働もソーラーパネルからの電力が賄う(画像はすべてAhrent社のWebサイトより)

施設内で使われているオフィス家具や什器のほとんどは、リサイクル品だという。95%の家具がユニリーバ・グループの他施設などから持ち込まれ、バランスを慎重に考慮した上で配置されている。

これらのハードとソフト両面における環境配慮の工夫が評価され、2019 年には「BREEAM-NL」という「持続可能な構築環境の認証」を取得している。

リサイクル家具だが、クリーニングされている(画像はAhrent社のWebサイトより)

この「フード・イノベーションセンター」があるワーヘニンゲンは、食品業界の新興企業や研究センター、NGOなどの組織が数多く存在する「フードバレー」と呼ばれる場所にある。他組織のスタッフも利用可能なレストランでは、日々さまざまなアイデアが交換されているという。サーキュラーエコノミー最先端の施設で生まれるビジネスアイデアは、これまた斬新なものなのだろう。

インテリアから建材まで、さまざまな工夫がこらされたオランダのオフィス。政府が原材料の使用量の半減を目標に掲げた2030年までには、さらなる進化を遂げるだろう。引き続きその変化を追っていきたい。

この記事を書いた人:Naoko Kurata