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海外のESG不動産投資事例に見る、ウィズコロナ時代の「ワークプレイス」最前線

[March 16, 2021] BY Rui Minamoto

「ESG不動産投資」が注目される理由

持続可能で長期的なリターンを得るため、投資の意思決定に環境(Environment)、社会(Social)、統治(Governance)の要素を組み込む「ESG投資」。2006年に国際連合が「PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)」を提唱した後、2008年のリーマンショックに始まる世界的な金融危機を乗り越えるにあたり、機関投資家を中心にESG投資の機運が盛り上がった。その背景には、金融市場における長期的安定志向の高まりがある。

ESG投資を重視する傾向は、不動産投資分野においても見られる動きだ。国際連合環境計画(UNEP)と金融セクター間のグローバルなパートナーシップである「UNEP FI不動産ワーキンググループ」も、PRIを不動産投資に適用する考え方として「責任不動産投資(RPI)」を推進しており、2007年に「10か条の不動産投資戦略」を公表している。

10か条の責任不動産投資戦略

  1. 省エネルギー(省エネルギーのための設備改良、グリーン発電およびグリーン電力購入、エネルギー効率の高い建物など)
  2. 環境保護(節水、固形廃棄物のリサイクル、生息地保護など)
  3. 自発的認証制度(グリーンビルディング認証、認証を受けた持続可能な木材による仕上げなど)
  4. 歩行に適した都市整備(公共交通指向型都市開発、歩行に適したコミュニティ、複合用途開発など)
  5. 都市再生と不動産の利用変化への柔軟性(未利用地開発、柔軟に変更可能なインテリア、汚染土壌地の再開発など)
  6. 安全衛生(敷地内の保安、自然災害の防止策、救急対応の備えなど)
  7. 労働者福祉(構内託児所、広場、室内環境のクオリティー、バリアフリーデザインなど)
  8. 企業市民(法規の遵守、持続可能性の開示と報告、社外取締役の任命、国連責任投資原則のような任意規約の採択、ステークホルダーとの関わりなど)
  9. 社会的公正性とコミュニティ開発(低所得者向け住宅供給、コミュニティの雇用研修プログラム、公正な労働慣行など)
  10. 地域市民としての活動(質の高いデザイン、近隣への影響の極小化、地域に配慮した建設プロセス、コミュニティ福祉、歴史的な場所の保護、不当な影響の排除など)

 

RPIの軸となる部分は、省エネルギーやCO2の見える化など、持続可能な環境価値の高い「環境不動産」の考え方にも通じている。また、日本国内の不動産業界を見渡しても、企業として環境への取り組みを実践する動きは広がっている。

ESG投資

では、日本の機関投資家の関心度はどうだろうか。一般社団法人不動産証券化協会が2017年と2018年に行った調査によると、「不動産のESG投資に興味がある」と答えた機関投資家の割合は1年で32.1%から49%と約17%上昇したものの、2019年の調査では42.9%に下がり、揺れが見られる。

ESG不動産に興味がある理由としては、2019年の調査で「運用パフォーマンスの向上」をあげる声が45.8%だった一方で、「運用パフォーマンスに関係なく責任投資を行うのが妥当」との声が50%と最も高い割合を示した。今後さらに広く認知されることで、ESG投資への関心が高まる可能性はあるだろう。

オフィスにも浸透するESG投資の観点

世界的にはESG投資の運用額は増加傾向にあり、コロナ以後も存在感が増すと予想されることは、以前の記事「コロナ以後も注目の「ESG投資」 経営者が大切にしたい3つの視点とは」でお伝えした。

パンデミックや地球温暖化など様々な問題が生じている今、「持続的な経済活動」を可能にする仕組みが必須との認識が改めて広がっている。その際、環境・社会・統治に配慮しながら、企業としての成長を目指すESGについて、より本質的な認知と理解が求められるのは必然だ。

国土交通省が2019年7月に報告した「ESG不動産投資のあり方検討会 中間取りまとめ」(p.20)でも、今後ESG不動産投資は、短期的な取引価格上昇への期待だけに基づくものではなく、不動産が中長期的に生み出す価値をベースに判断する必要があることに触れている。また、企業が関わる不動産活動においても、単にESGに配慮した物件の投資運用だけではなく、自社ビルの運営やオフィスの賃借に関してESG投資の観点を盛り込むことが求められはじめている。

海外におけるワークプレイス関連のESG不動産投資事例

では、海外ではどんな動きが見られるのだろうか。ESGに配慮した不動産運営のヒントとして、アメリカ、カナダ、イギリスにおける先行事例を紹介する。

1. アメリカ「アップル社データセンター」

アメリカ・アップル社のデータセンター(データを管理・運用する施設)は、100%がグリーン電力で運営されている。現在もアイオワ州に3万7,000m2規模のデータセンターを建設中で、既存のデータセンターと同様に再生可能エネルギーのみで稼働する予定だ。世界的企業である同社は、ユーザーまたは顧客への訴求や、株主となる金融・投資家などからの評価も考慮していると考えられる。

アップル社のデータセンター

アイオワ州で建設中のデータセンター
(画像はアップル社のウェブサイトより)

アイオワ州のデータセンター建設は約550人分の雇用を創出する見込みで、同社は周辺の地域開発およびインフラのための公共開発基金(Public Improvement Fund)にも最大で1億USドルを寄付する予定だ。同基金は、公園、図書館、娯楽用スペースのようなコミュニティプロジェクトのほか、社会インフラの開発支援にあてられるという。

ESG不動産投資には、環境への配慮はもちろん、地域活性化など社会問題への貢献も期待されている。社会問題の解決により不動産価値が上がり、ひいては投資収益性の向上にもつながる。そうした理解を象徴する事例だと言えるだろう。

2. カナダ「150​ ​King​ ​West」

環境に配慮した建物、いわゆる「グリーンビルディング」の存在感も高まっている。明確な定義はないものの、アメリカの環境保護庁はグリーンビルディングを「立地、設計、建築、運営、メンテナンス、改装、解体まで、建物のライフサイクル全体を通して、環境に責任のある、資源効率の高い仕組みや方法を用いた建物」と認定している。

2019年にベントール・ケネディ社とグリーンオーク・リアル・エステート社が合併して生まれたベントール・グリーンオーク社は、ESG不動産投資分野におけるリーダー企業だ。2020年には、「グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク(GRESB)」にも選出されており、ベントール・ケネディ社時代には、運用する投資資産の78%(資産価値基準)がグリーンビルディング認定を受けていた。

カナダのトロント中心部にある、近代的な28階建てオフィス・商業複合ビル「150​ ​King​ ​West」もベントール・グリーンオーク社が運用しており、米国グリーンビルディング協議会の環境性能評価システム「LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)」のゴールド認証を取得している。ビルのロビーには壁面緑化が施されており、室内の空気の質とHVACシステム(建物の暖房、換気、空調に関するシステム)のパフォーマンスを大幅に向上させている。

さらに同ビルには、200以上の自転車収容可能スペース、ヨガやピラティスのクラスが開催される2,500m2のスペース、6つのシャワー、スチームルームなども併設されている。環境に配慮しながら、施設内の景観や、オフィスで働く人々の健康性・快適性にも積極的に寄与する好例と言えよう。

3. イギリス「キングス・クロス駅」再開発

ESGの潜在的なマイナス影響が緩和され、プラスの貢献がもたらされる金融のことを「ポジティブ・インパクト金融」という。不動産分野の事例としては、投資管理会社であるハーミーズ・インベストメント・マネジメント社などが関わったロンドンのキングス・クロス駅周辺の大規模再開発があげられる。

さびれた工業跡地であった同駅周辺は、すべてBREEAM(イギリスのグリーンビルディング評価)を取得したオフィス棟をはじめ、サステナビリティに配慮した複合施設へと改修された。使用する熱の大部分を敷地内供給しており、太陽光発電の設置や屋上緑化なども行っている。

この再開発は、文化面では歴史的建築物の保存、経済面では周辺地域の雇用の増加、社会面では公共スペースの提供など、様々な側面での便益を実現している。ESG不動産投資が与える地域社会・経済への寄与の大きさを示す事例だ。

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ウィズコロナ時代に対応する「ワークプレイス」とは

新型コロナウイルスの影響でテレワークの普及が進む今、オフィスの存在意義が改めて見直されている。ESGへの配慮も、物件を選択する上で基準の一つになるだろう。今回紹介したESG不動産投資事例のように、環境・社会・統治がワンセットになったオフィス設計に対するニーズも、今後高まっていくかもしれない。

前述のベントール・グリーンオーク社は、高レベルでESGに配慮しているビルはそうでないビルに比べ、賃料、稼働率、満足度が向上すると報告している。自社ビルの運営という側面だけでなく、そこで働く人々においても、離職率や欠勤の抑制など良い影響をもたらす可能性は十分に考えられる。

また、環境に配慮したオフィスビルの建築は、結果としてその周辺地域のコミュニティや経済にも大きく寄与する。このようなポジティブな循環を生み出す労働環境は、社会的意識が高いと言われるミレニアル世代の労働者にも強い訴求力を持つだろう。自分が働く環境にも周辺地域にも好影響を及ぼす構造こそが、彼らにとって最先端の「働く環境」なのではないだろうか。

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この記事を書いた人

Rui Minamoto女性誌のインタビューから経済誌の書評欄まで、幅広いテーマの取材・執筆を担当。近年は、広告・PRプランナーとして消費者インサイトの発掘や地方若者議会で「広報力養成講座」の講師も務めている。



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