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ホスピタリティで「WeWork最大のライバル」に – 累計156億円以上調達のIndustriousに潜入

記事作成日:[January 08, 2019]
/ 記事更新日:[February 21, 2019]
BY Wilmer Balmocena

現在アメリカ全土で人気を博しているコワーキングスペースのIndustrious(インダストリアス)がついにサンフランシスコにも進出し、市内1店鋪目をオープンさせた。すでにブームとなっているコワーキング業界の市場状況を今まさに完全に変えようとしている。同社は2018年までに45のロケーションで施設をオープンしており、さらに年内までに新たに55の施設をオープンする予定。WeWorkに徐々に近づく形で、アメリカ国内におけるコワーキング業界のリーディング企業になろうとしている。

今回サンフランシスコ市内エンバカデロのロケーションを訪問するにあたり、このIndustriousが市内にある他のコワーキングとどのように差別化を行っているのかは一番の疑問点だった。WeWorkはほぼ毎ブロックごとにあると言ってもおかしくないほどの存在感を誇り、Covoは充実したアメニティ提供で急成長を遂げている。その中でIndustiousが持つ新しい提供価値は何なのか?今回筆者の初訪問の機会に、担当者に話を聞いた。

Industrious lobbyIndustriousサンフランシスコのロビーエリア

Industriousの創業者であるJamie Hodari氏は、この事業を始める前の前職でもコワーキングスペースの運営に携わっていた。ある時、そこの入居者でもあった1人の起業家がパートナー候補との重要な会議の準備をしていた。しかし彼はそのコワーキングスペースでこの会議を開くことに恥ずかしさを感じ、カフェに場所を移したというのだ。この光景がHodari氏にコワーキングの改善点や本当に重要な要素が何かを考えさせた。そこで彼は、コワーキングスペースにはカジュアルな雰囲気を演出する要素が重要である一方、真剣なビジネスの場面にも対応できる空間が必要であるという気づきに至ったという。こうしてIndustriousは生まれた。

この新進気鋭のコワーキング企業は、入居企業が自社社員に対し効率よく働ける場所を提供しやすいようにする、という考えから立ち上げられた。この企業ミッションはIndustriousのすべての側面に埋み込まれ、特に彼らが重視した3つの分野に強く根付いている。それはデザイン、コミュニティ、そしてホスピタリティだ。

デザイン

Indsutriousはニューヨーク、ロサンゼルス、アトランタ、そしてダラスでその存在感を高め、それからテクノロジー都市であるボストンとサンフランシスコに複数のスペースを開く計画を持っている。彼らのロケーションは各都市の中心部で見られ、入居企業に通勤利便性を提供している。このサンフランシスコ・エンバカデロロケーションも市内の中心部である1700 Montgomery Streetに位置し、市を象徴する建物のフェリービルディングや主要交通拠点から徒歩圏内にあることでその交通利便性を反映している。

Industrious embacaderoIndustriousエンバカデロの外観

多くの一般的なコワーキングスペースは派手で楽しげなスペースをつくりがちで、これがテナントたちの求めているものだと思い込む節がある。これは時として正しいのかもしれないが、入居するほとんどの従業員たちは1日を通してそのようなスペースで生産的で居続けることはできない。それに対し、Indsutoriousはすべてのロケーションで意図的に多くの自然光を取り入れられる物件を探し、同社のデザインチームがすべてのクリーンでモダンなデザインを組み込むように心がけている。またWest ElmArticle、その他著名な中世デザインブランドのオフィス家具を採用し、居心地の良さを維持しながらスタイリッシュな空間を各部屋に与えている。落ち着きや空気感がありながら退屈さを感じさせないこの室内の雰囲気は、これまでのコワーキングスペースにあった芸術美的な鬱陶しさ無しでも働くことに寄与するように作られている。

スペースの多様性

Industriousは多様なニーズや目的を念頭に置いた上でスペース作りを行っている。ガラス壁は全米にある他のロケーションと同じくサンフランシスコオフィス内のスペースを区切り、また仕事に没頭する企業の姿を見通せるようになっている。コミュニティマネージャーを務めるEmily Coe氏は「すべてガラスにすることでテナント達は身の回りで働く他の入居者の働く姿からエネルギーを感じて、より生産性を感じるようになるのです」と語る。

カジュアルなギャザリングエリアは入居企業たちが楽に集まり座り互いにコラボレートしやすい空間になっている。

Industrious SFの共用スペース

大人数での会議も可能なボードルームは清潔感が保たれ、自然光で溢れている。

Industrious meeting roomIndustrious SFのカンファレンススペース

フォーカスルームはどのロケーションにも存在し、集中や瞑想、仮眠が必要な際の静かなスペースとして利用されている。

Industrious focus roomIndustrious SFのフォーカススペース

冷蔵庫が備え付けられたウェルネスルームは子育てをする母親用に用意されている。

industrious wellness roomIndustrious SFのウェルネススペース

あらゆるニーズに対応したスペース作りを心がけるIndustrious。明るさを重視した共用エリアはカジュアルなコラボレーションを促す一方、プライベートカンファレンスエリアはクライアントミーティングにより適した空間となっている。

Industrious client meetingIndustrious SFのクライアントミーティングスペース

コミュニティ

市内にある他のコワーキングスペースに比べ、Industriousは駆け出しのスタートアップ企業や起業家たちだけでなく、より大規模な企業の誘致も行っている。実際に入居企業にはPandoraやMashable、Instacart、Pinterestといった企業も名を連ねる。このような多種多様なテナント間のコミュニティ感を強めるために、Industriousは数ある取り組みを行っている。

長期間のパートナーシップ

Industriousは、ふらっと立ち寄り時間単位で利用するフローティングデスクのような一般的なコワーキングメンバーシップを用意していない。彼らの契約はそれよりも長い12ヶ月間の月単位契約で、移動・退去には最低60日間の事前申請を必要とするもの。入居者たちはこれを踏まえ、Industriousが単により多くの入居者数獲得に躍起になっているのではないと理解しており、これが長期間続くコミュニティを形成している。このポリシーの結果、オフィス契約を結んでいるIndustriousの入居者たちは、フローティングデスク・メンバーシップの影響で常に人で溢れかえる競合のコワーキングよりも共有スペースを利用しやすいのだ。

ソーシャルイベント

Industriousのコミュニティ育成には週ごとに行われるハッピーアワーの他に月に4、5回開かれるイベントも含まれ、入居者が普段の平日から解放され他の入居者と知り合える機会を提供している。イベントには日本酒の試飲やマッサージ、ホットチョコレートやホットサイダーを楽しめるバー等、様々なものがある。

industrious happy hourIndustriousのハッピーアワー

すべてのロケーションが利用可能

コミュニティ形成は1つのロケーション内に限った話ではない。Industriousではメンバーであれば全米にある他のすべてのロケーションも利用可能で、それを通じて全ロケーションでのコミュニティ育成を行っている。例えば自社オフィスを別に持つ入居企業の社員も出張時だけでなく、地元のIndustrioalのスペースに行ってすぐに利用することができる。こう行ったメンバーは各地で他のメンバーとのコネクションを作ることが可能。このどこでも「プラグ・アンド・プレイ」できるシステムは、Industriousの競合があまり持っていない貴重なポリシーだ。

industrious private officeIndustriousの個室オフィス

ホスピタリティ

Insutriousのメインとなる分野で競合との差別化ポイントとなるものが、彼らが何よりも優先するホスピタリティの質の高さだ。そのオフィススペースはまるでサービスに特化されたホテルのように運営されている。Industriousはそのサービスに非常に大きな投資を行い、St. RegisやW Hotelsでの経験を持つRachale Gursky氏をホスピタリティ部門長(Head of Hospitality)として迎えている。Gursky氏は高級ホテルの研修メソッドを駆使し、すべてのロケーションでコミュニティマネージャーの育成を行う。この率先したホスピタリティ戦略は研修を受けた現地スタッフとIndustriousの契約にある「包括的サービス」という性質の2つでもたらされている。

サービス重視

Industriousの各ロケーションには、各入居企業の追加メンバーとして振る舞えるコミュニティマネージャーが常駐している。一般的なコワーキングスペースのコミュニティマネージャーと言えば、多少なりともプロとして一定のレベル感で、オフィス用具や簡単な食べ物・飲み物等アメニティの補充やスペースのオペレーション等を安定的に行うもの。一方、Industriousのコミュニティマネージャーはすべての入居企業が個別にプロフェッショナルなサービスを受けられているか徹底して管理を行う。彼らは入居企業に入社する新入社員用のデスク準備だけでなく、誕生日のお祝いや、社内パーティのサポートも行う。まさに各入居企業のオフィスマネージャー、もしくはオペレーションマネージャー的役割を担う形だ。テナントたちが何を考え感じ、求めているかを直感的に理解できるように研修を受け、また顧客のニーズにより応えられるよう入居者全員の名前と興味を覚えるようにしているという。

また、彼らは入居者のアメリカ市民権テストの学習支援を行ったり、何かに落ち込むCEOの姿を見た時にはビールの買い出しに出たり、また投資家へのピッチに成功したスタートアップのためにシャンパンボトル買いに行くようなことでも知られている。入居者の1人でCape CoachingのExecutive Coachを務めるKevin Cape氏は、Industriousが持つコミュニティ意識に対しこう語る。「私がうまくいかない日や厳しいセールスミーティングがあるときほど、オフィスにもどって彼らコミュニティマネージャーたちとまたリラックスすることを楽しみにしています。ここは本当に特別な場所で特別な人たちばかりなんです。」

重要な会議を控える入居者が会議相手に良い印象を与えたいと思う時には、この熟練のコミュニティマネージャーたちがIndustriousの従業員ではなく、その企業のメンバーであるかのように振る舞う。入居者の来客は徹底したマナーのもとに迎えられ、会議の開かれる場所に案内される。飲み物とお菓子が出され、会議が始まるまでの「チェックイン」プロセスに必要な工程すべては受付のレセプショニストではなく、本物のプロによって行われる。このようなサービスはこれから重要な会議に出席するという入居者の気持ちを楽にし、また来客が丁重にもてなされているという彼らの自信にもつながるのだ。

「全部込み」サービスの裏側にある徹底したロジスティクス

Industriousは全入居企業との間に結ぶ「包括的サービス」によって、月々のオペレーショナルコストが安定しないという懸念を背負っている。そのサービスには、毎日の朝食にお菓子、オフィス用具、雑誌のサブスクリプション、Industriousが運営するすべてのイベントの他にも数多くのものが含まれている。この甲斐もあってか、このような充実したサービスと、実際にこれらのものが常備され常に使用可能な状態にあるという彼らへの信頼は、入居企業にとって大きな価値となっているようだ。

industrious kitchen spaceIndustriousのキッチンスペース

入居者が常に気遣ってもらえていると感じることから得られる信頼感は、結果として彼らを仕事に集中させ、オフィスのロジスティクスにいちいち惑わされないようにしている。ホスピタリティの部分を語る上で、Kavin Capes氏は次のように述べる。「このようにすべてのことが徹底して管理されているスペースにいることで、私はロジスティクス部分について一切心配しないでいられるのです、これは本当に楽なことです。」

まとめ

サンフランシスコ市内のコワーキングスペースはもはやあらゆる場所にあるように感じる。特に今は大きなブームで市場の競争率も激しい。Industriousはその中で一番最初にコワーキング市場に参入した企業でなければ10番目ですらもなかったが、彼らは成功する機会を掴んだのだ。多くのコワーキングスペースは入居企業の社員たちが効率よく仕事を進められる環境をすでに提供しているが、ここでIndustriousの差別化ポイントとなったのは、この「仕事の効率性重視」というマインドセットを把握した上で実際に重要箇所に応用しているところだった。結果として他の都市での成功で証明してみせたように、Industriousは他のコワーキングスペースには欠けている「サービス重視の文化」をサンフランシスコに持ち込んでいる。

入居企業の1スタッフとしても動けるようにコミュニティマネージャーへの研修を重視している点は、実際に入居企業にとって大きな価値となっていた。特に時間の節約、またオフィスでの努力やオペレーションにおける事務作業の効率化の面でその効果が発揮されていた。コミュニティマネージャーが入居企業のケアを個別にプロフェッショナルに行うというその信頼感こそがIndustriousの人気の鍵だったのだ。

少しでもスペースを埋めるために賃貸契約を交わすことに専念する競合が多いコワーキング市場において、Industriousはサービスに投資することを選択。現実を見てみれば、彼らのサービスモデルが影響を受けた高級ホテルと同じように、サービスに投資するIndustriousの姿勢そのものが彼ら自身を自然と際立たせていたのであった。

※日本語文責:Worker’s Resort編集部

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この記事の執筆者

Wilmer Balmocena Wilmer has been a resident in the San Francisco Bay Area for over fifteen years and has an extensive background in Business Operations and Office Management that gives him a fresh perspective on various topics. As the Operations Manager at btrax, an experience design agency in San Francisco, he is passionate about understanding what motivates businesses and individuals to succeed and excel.

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