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ニューノーマル時代の”場所に縛られない”働き方を代表するABWの真髄

記事作成日:[October 08, 2020]
BY Kazumasa Ikoma

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コロナ禍でフリーアドレスやテレワークが注目を集め、デスクの位置やオフィスの場所に縛られない働き方がニューノーマル時代の主流となりつつある。これを見据え、Worker's Resort編集部は「作業内容に合わせて働く場所を選ぶ」という「アクティビティ・ベースド・ワーキング (ABW) 」について、その創設者であるVeldhoen + Companyに取材を実施。前後半の2記事に分けて内容をお伝えする。

前編となる本稿では、多くのメディアに取り上げられたことでアクティビティ・ベースド・ワーキングの根本的な考え方が誤解して伝わることが増えてしまったという問題に着目し、その真髄について、同社のアジア地域マネージング・パートナーを務めるヨランダ・ミーハン (Iolanda Meehan) 氏から得られた解説を紹介する。

アクティビティ・ベースド・ワーキングは仕事観の1つ

ミーハン氏によると、アクティビティ・ベースド・ワーキングとは、仕事における1つの”哲学”であるという。従業員が仕事でベストパフォーマンスを発揮するためには、いつ、どこからでもつながって作業できる権利と信頼が与えられ、なおかつそれを支える環境も用意されるもの。その考え方に基づいた仕事観こそがアクティビティ・ベースド・ワーキングというわけだ。

アクティビティ・ベースド・ワーキングを導入することは、組織そのものやそこに務める管理職層の仕事に取り組み方、さらにはビジネスを成長させることにおける根本的な変化を意味する。その大きな変革には、①物理的な空間、②ITツール、そして最も重要である③組織のマインドセットとカルチャーの3本柱を頭に入れることが必要であるとミーハン氏は語る。それぞれについて、順を追って説明していこう。

1. 物理的な空間

「作業に合わせて働く場所を変える」とは本質的にどのような意味だろうか?テレワークと何か違いがあるのだろうか?アクティビティ・ベースド・ワーキングはその注目度の高さ故に日本で数々のメディアで取り上げられるようになったが、ミーハン氏によると「そのニュアンスの理解にばらつきがあり、真意が誤解されて伝わるケースが多い」ようで、その傾向は特にこの物理的な空間の使い方に関係するという。

巷では「作業内容に合わせて働く場所を選ぶ」というアクティビティ・ベースド・ワーキングに対し、働き方改革の解決策と崇めたり、新しいオフィスデザインの一種と捉えたり、また多種多様な家具を取り揃えることと解釈していることもあれば、アジャイル型ビジネス戦略の1つとして誤った認識をする人の話も聞かれる。そのため、アクティビティ・ベースド・ワーキングを理解するには、まずこの誤解を解き、先の仕事観としての概念を知る必要がある。

家に例えると分かりやすい

働く場所を自由に選ぶアクティビティ・ベースド・ワーキングは一見新しいコンセプトのように感じるが、「活動内容に合わせて作業する場所を移動する」こと自体は、実は多くの人が自宅でも行っているとミーハン氏は語る。

例えば料理をするときにはキッチン、身体を洗うときにはシャワールーム、寝るときには寝室に行く。私たちの生活にはいくつもの”活動”があり、家の中にはその活動を支えるために上記の専用エリアや環境がそれぞれ用意されている。このように生活の中で活動ごとに場所を変える、または選択することを「アクティビティ・ベースド・リビング」とミーハン氏は呼ぶ。

オフィスでは複数の活動が存在する

これと同様に、私たちの”働く”にもいくつもの活動が存在する。個人の集中作業や同僚との打ち合わせ、さらに電話や休息など、以前にも増して多くの活動をオフィスでこなすようになった。これは、「ナレッジワーカー」と呼ばれる、専門的な知識やデータを活用して知的生産性のある活動を行う現代のオフィスワーカーが高い生産性を出すために、自らをリフレッシュさせるあらゆる働き方を導入するようになったからだ。

従来のオフィスにおいて、ワーカーはこのような活動をデスク1つと会議室だけでこなしてきた。しかし、働き方改革の波やリモートワークの推進により、その環境にも限界が訪れようとしている。仕事の質や生産性を高めるために、活動に合わせた空間がそれぞれ用意され、ワーカーには場所を選ぶ自由が与えられる。これが「アクティビティ・ベースド・ワーキング (ABW) 」だ。

しかし、異なる空間をただいくつか用意するだけでは本質的ではないとミーハン氏は語る。

注意点:キッチンや寝室の大きさやつくりは「人によって異なる」

アクティビティ・ベースド・ワーキングを実践するには、組織ごとにどのぐらいの業務や活動がどの程度行われるか分析・把握した上で、それに合わせた環境を用意することも重要になる。

話を「家」に戻す。先述したキッチンやシャワールーム、寝室は基本的にどの家にも共通して備わっている。しかし、それぞれの空間の広さやつくりは各家庭で異なる。例えば自宅で頻繁に料理をする人の家では、キッチンは一般的な家庭よりも広々とし、数多くの調理具を取り揃えるだろう。同じように睡眠を重視する人は、充実した寝室環境にこだわる。

つまり、自らの活動量や内容によって家のつくりを調節するのである。自炊しない人にとって炊飯器は必要ないし、広々としたキッチンもデッドスペースになりかねない。

アクティビティ・ベースド・ワーキングもまったく同じで、組織ごとに働き方が異なるからこそ、異なるワークプレイスを用意する必要がある。働き方は業種で大きく変わるし、組織内でもさらに部署や役職ごとに変わるのである。

2. ITツールの重要性

アクティビティ・ベースド・ワーキングを実践する上で物理的な空間の使い方と共に重要なのが、ITツールの存在だ。先述の通り、アクティビティ・ベースド・ワーキングでは、従業員は信頼され、自社オフィスの内外関係なくどこからでも仕事ができるようになる。ただし、これはITツールが適切に用意されてこそ成り立つものであり、多くの企業ではこのITの分野に関しても大きな変化が求められる。

アクティビティ・ベースド・ワーキングにスムーズに移行するためには、ペーパーレス(日本では特に脱ハンコやデジタルストレージなどを活用したシェアリングソリューションへの移行が課題)やノートパソコンの活用はもちろんのこと、固定電話に縛られないスマートフォンの内線化や、オンライン会議ツール・デジタルコラボレーションツールの導入、さらにはデータセキュリティの徹底などが重要な要素として挙がる。言わずもがなだが、非常に複雑なのだ。

今や多くの企業がアクティビティ・ベースド・ワーキングを採用しようとしているが、実際には従業員がそれぞれ異なる場所や方法でも一緒に作業できる環境を整える上で必要とされる、IT導入にいたるまでのロードマップの作成や脱・紙文化を考え直す準備ができていないところがほとんどだ。しかし、企業がこれを乗り越えデジタルな働き方に順応すれば、自ずと意思決定のスピードや生産性が向上するだけでなく、従業員から発せられる自由なアイデアや提案が増えたり、さらには彼らの学びの増加にもつながったりするとミーハン氏は語る。

テクノロジーはさらに組織内の階層間やチーム間におけるサイロ化の解消にも寄与するとミーハン氏は付け加える。特にコロナ禍でリモートワークを経験している人からすれば、この問題の解決がいかに重要であるかは想像に難くないだろう。ITツールを駆使することは、実は多くの声を拾い上げるという”人的な”解決につながるのである。

3. 組織のマインドセットとカルチャー

これら2つの要素に加え、アクティビティ・ベースド・ワーキング導入において最も重要な柱が、マインドセットと行動の変化を起こすことだ。 ここでも非常に複雑なプロセスが取られるのではないかと推察しそうだが、ミーハン氏によると、考え方と行動の変化を組織内で広めるのに必要な要素は限られているという。その要素を次のように挙げている。

明確な理由

会社が働き方を変えようとしているのは何故か?経営者から中間管理職、そして従業員に至るまで働き方を見直そうとするのはどういった背景があるのか?組織として達成したいことは何か?これらの問いに対する答えが全社でしっかりと説明され、なおかつ認識されているかが、アクティビティ・ベースド・ワーキング導入における重要なファーストステップとなる。

明確性、信頼性、成果に基づくチームマネジメント

監視し指示を与えるというアプローチは、アクティビティ・ベースド・ワーキングの原則ではうまく機能しない。ここで注意しておきたいのは、組織のヒエラルキーはもはや重要ではなく消えるべきだ、ということではなく、あくまで自身の仕事に対する責任を持つことが大切で、その上で周囲からの信頼を築くとともに、自分も他人の仕事に対して可能な限り信頼することが重要なのである。

組織内の全部署・全階層による協力

アクティビティ・ベースド・ワーキングは、不動産設計やオフィスデザインプロジェクトではなくビジネス戦略であるからこそ、企業の代表がITや、HR、不動産部門と一緒になって組織全体に変化を促す努力をする必要がある。

リーダーやロールモデルの存在

これまでとは異なる新しい方法で効果的かつ創造的な仕事をすることをまわりに促すロールモデルやリーダー的存在の人をつくりだす必要がある。さらにリーダーシップには、他人のアイデアに耳を傾けるカルチャーを育てる素質も含まれる。

忍耐力

メンバー全員がそれぞれ自分のペースで変化に順応できるように皆が忍耐力を持つことが重要である。お互いにサポートする雰囲気を保つことで、結果的に変化が個人だけでなくチーム全体で受け入れられるようにする。

(後編「ABW導入でよくある6つの失敗」に続く)

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この記事の執筆者

Kazumasa Ikoma オフィス業界における最新情報をリサーチ。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

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