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SmartHRに学ぶ、人材獲得に成功するスタートアップオフィスの3つのポイント

[September 03, 2019] BY Kazumasa Ikoma

IT業界の人材獲得が今多くの企業で課題となっている。世界的に見てエンジニアといった職業は人材流動性が高く、またみずほ情報総研によると、日本では少子高齢化を背景にしたIT人材の「量」の不足に加え、給与水準や働く環境の面から日本でIT人材として活躍することの魅力の不十分さが生む「質」の不足も問題となっている。そんな日本において、今回取材したSmartHRはそんな不安をはね返すほどの成長ぶりを見せる。

同社は2013年1月に設立、2015年11月にクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の提供を開始した企業である。今年1月にはシリーズCラウンドで61.5億円にも及ぶ大型資金調達を発表し、その約半分の30億円は「『ヒト』に投資する」と同社代表の宮田昇始さんは自身のブログで語っている。実は昨年5月には半年間エンジニアの採用が滞ったことが経営課題にも挙がっていた同社だが、現在約140人いる社員の離職率は低い。一方で、健全な新陳代謝もされるよう「変に退職しづらい雰囲気にはならないように」心がけていると、今回の取材で宮田さんは話す。

今年4月には住友不動産六本木グランドタワーに移転したばかりのSmartHR。最初のオフィスだった渋谷桜丘のワンルームマンションを2016年に出てから、ほぼ1年ごとに事業拡大に伴う移転を続け、今回で同社5つ目のオフィスとなる。そんな勢いある企業に潜む、働く環境や人材施策における成功の秘訣は何なのか。宮田さんへの取材から得られた、3つのポイントを紹介する。

1. 「透明性」を通じたカルチャーフィットへのこだわり

最初に挙げるのは、社員のカルチャーフィットへの徹底したこだわり。SmartHRで意識している「透明性」や「成果主義」といったキーワードは今では耳にすることが珍しくないものだが、それに対する同社の実行力は突出している。

まず印象的なのが、経営の透明性だ。資金調達の状況から会社の銀行口座の残額の最新状況まで、ほぼすべての情報は全社会議で共有される。一般的な会社ではなかなか信じられないことだが、この透明性の根幹には「経営陣とメンバーが握っている情報が同じだと自律的に動き、意思決定も似てくる」という合理的な考え方が存在する。

会議の理解度を上げるため、このような札を用意。全社会議など参加人数の多い会議で使われる。

会社資料もオープンでわかりやすく

また会社概要のみならず、今後の方針や働く環境の紹介、社員の給与テーブルや評価制度、今会社が抱えている課題にいたるまでの情報は自社ウェブサイトにある会社紹介資料に掲載。この紹介資料は会社の「今」を外部にもオープンに伝えるために定期的に更新され、公開からすでに67万回も見られているとのこと。「大企業でもない我々のような100名規模の会社の紹介スライドがそれだけ見られているのは重要なこと」と宮田さんは実感する。

また宮田さん自身のブログでは、会社資料では紹介されていない、社長としての仕事内容や調達した資金の活用内容、社長に対する社員からの評価、代表としての会社のあらゆる制度に対する自身の考え方や仕事に必要なスキルの紹介なども公開。どれも外部の人が見てもわかりやすい形でまとめられている。

そのおかげもあって、同社に興味のある人たちはこれらの情報を事前に見て、会社の理解度がある程度高い状態で面接を受けにくる。そして実際の面接では人事側もそれを前提に、企業の方向性や制度に対する面接者の考え方を深掘りするような質問をすることが多いという。彼らの価値観や企業が掲げるバリューへのマッチ度を測った上で、面接者にはもう一度会社資料を見て自身の価値観とマッチするか深く考える機会を与える。そうして人材のフィルタリングが進み、カルチャーに合う人を採用できる仕組みとなっている。「『中途採用者にはカルチャーを浸透させにくい』という話を一般的に聞くが、特に感じていない」と宮田さんは語る。

こういった明確な企業カルチャーをわかりやすく説明したスライドと、それをもとにした人材のフィルタリングは、有名なNetflixのカルチャーガイドを筆者に想起させる。オープンに情報を開示し、その分社員に責任を持たせ自律駆動を促し、過剰な管理はしない。SmartHRが強みとする合理性とスピードの速さはこの文化から由来しているのだろう。

実際に宮田さん自身もNetflixのカルチャーガイドを意識しているようだ。例えば上に挙げた今ある6つのバリューに対し、宮田さんは社員への浸透しやすさを重視し数を減らそうとしていたというが、近年の急成長ぶりから社員が増えて判断が分かれる場面が多くなることを考えると「少なくて覚えやすいバリューよりも、ボリュームは多くても判断に迷わないバリューを目指すべきかもしれない」と正直な悩みをブログで綴っていた。このような意識の共有も会社に対する社員の会社の経営に対する当事者意識を高めると筆者は推察する。

今後も常にアップデートされていくであろうSmartHRの会社資料を通じて、どのように会社として考え方が変わっていくのか非常に興味深い。

ガラス張りの部屋で扉を閉めない会議スタイル

オープンに情報を共有するという会社の方向性は、オフィスの使い方にも表れる。ガラス張りの部屋で、扉は基本的に閉めないで行う会議スタイルはその特徴の1つ。唯一扉が閉められるのは人事評価が行われる1on1ミーティングのみだ。

人事評価システムにはOKR(Objectives and Key Results)をアレンジしたもの採用している。定性的な目標を設定した上でその結果を振り返る方法であるため、評価のタイミングでサプライズが起きないように2週間に1度のタイミングで1on1ミーティングが設定される。

smarthr open spaceオープンスペースと奥に見える1on1ミーティング用の会議室。ちなみに3年前にはMBO方式の人事評価システムを試したが合わず半年でOKR方式に方向転換したという。それに合わせて作られたマネージメント専用空間だ。

明確なカルチャーとそれに合わせたオフィスを通じて、創業以来からの徹底した透明性を維持してきたSmartHR。同社社員の高い満足度は、その「透明性」というフィルターで濾された彼らの会社に対する高いフィット感が支えている。

2. 社員の声や生き方の多様性を考慮した福利厚生

SmartHRが人材を惹きつける2つ目のポイントは、ボトムアップで会社の制度が決まっていくところ。会社の姿勢として事業にメリットがありそうな人事評価や福利厚生といった制度は積極的に導入してみて、成果がなければすぐに引っ込める柔軟性を支持している。制度の導入・見直しは毎週金曜日に行われ、各部門のリーダーの他にメンバーも自由参加の形式でカジュアルな雰囲気で制度の話が進められる。制度は利用率を見るわけではないが、見直すタイミングを事前に決め、形骸化を避けるようにしている。

SmartHRの福利厚生(会社紹介資料より)

SmartHRにはそのようにしてできた福利厚生制度がある。そのいくつかを紹介する。

まずは「セキュア手当」。SmartHRはクラウド人事労務ソフトを通じて個人情報を扱うサービスであるため、社員のパスワードの使い回しには厳しく対応。1Passwordといったパスワード管理ツールの費用は会社が負担するようにしている。社員の声から生まれた福利厚生の1つだ。

「お昼寝推奨」では、オフィスの奥に10畳程度の男女別の昼寝スペースを用意しており、社員は自由に使うことができる。時間ではなく成果で評価するという会社の方針から、昼寝の時間帯は一切決められておらず、すべて社員に委ねられる。「フリーアルコール」は18時半以降に退勤してから自由に飲むことが可能。コミュニケーション活性化に一役買っている。「10万円までのPC周辺機器の選択OK」もエンジニア職を中心に、使いやすさに敏感な人ほど仕事の成果に影響が出るため、その懸念を払拭するために生まれた制度だ。

smarthr nap roomお昼寝スペース

このような生産性を高めるための制度は、「花粉症や熱中症などの対策グッズ付与」にも共通している。さらに麻疹やインフルエンザの予防接種は、シーズン時に病院の予約が取れないという懸念と、時間節約の観点から、費用の負担だけでなく、オフィスに医師を呼んで社員とその家族も受けられるようにしている。

あとは「リモートワーク(週に1回)」制度も認めているが、実は宮田さんの考え方としてオフィスに来て顔を合わせることへのこだわりがあるという。リモートワークは楽だが、まだ世に無いプロダクトを作ったり、クリエイティビティや生産性を高めると言うところではマイナスと考えている。しかし、エンジニアの採用を行う上でリモートワーク制度はもはや欠かせないもの。そこで既存のエンジニアたちで自分たちに合ったリモートワークのスタイルを試してもらった結果、週1で十分という提案を受けたようだ。

約30あるオンライン商談スペース。基本的にオンラインでのセールス活動を行うため、吸音スポンジに囲まれたスペースを数多く揃えている。

執務スペースは、全員に支給されるモニターを4Kディスプレイの移動に手間がかかるため固定席となっているが、組織の替えが多いため月に1回席替えがある。もちろん社員は他のオープンスペースでも作業が可能。

広々としたキッチンスペース。18時半以降はフリーアルコールとなる。

さらに取り上げるのは「タバコ吸わない手当」や「育児環境を整える補助」だ。人間は仕組みに流されるという考えのもと、社員間のギスギスの原因になるうるものはすべて制度で解決すると話す宮田さん。例えば、社員の9割が対象となっているという「タバコ吸わない手当」は、タバコ休憩にいく人に対して疑問視する社員もいたりする中で、そのストレスを無くすため喫煙者から意見があがった制度だという。

また「育児環境を整える補助」に関して言えば、「出産祝い金」という名称を取っていない。結婚をしない、子供をもたないという選択を取る人もいる時代に、そういった人たちに肩身の狭い思いをさせたくない。とは言え、子供をこれからもつという人は生活が変わるのも事実。食洗機やロボット掃除機など家事の負担を減らして、育児をしながら仕事に集中できる環境を持てるように、10万円を支給しているという。

このようにSmartHRは社員の声を拾い上げ、今の時代の働き方や生き方も考慮しながら仕組みに組み込むことで社員に働きやすい環境を提供している。

3. 1フロアへのこだわり

最後はとてもシンプルであるが、1フロアオフィスをもつことへの宮田さんのこだわりだ。これも最近良く聞く話かもしれないが、洋の東西を問わず多くのスタートアップCEOや投資家が口を揃えて障害物のない1フロアオフィスにこだわることから、改めてオフィスにおいて重要な要素として取り上げる。

SmartHRでは、これまでのオフィスでも増床を重ねて1フロアを保ち続けてきた。しかし、2つ目のワンルームマンション時代では、スペース中央が緩やかに仕切られており、社員を10人ずつに分けて部屋を使っていたら、会社の空気感が変わってしまったことがあったという。壁とも言えないような出っ張り1つが与える影響の大きさを感じ取った宮田さんは、フロアを分けることが考えられなくなった、と語る。

2017年頃にSmartHRが入居していたオフィスでは、少しの仕切りでも社員同士を分断させてしまっていた。「柱や壁は怖い」を宮田さんは語る。

株主からも1フロアにこだわるように言われたという宮田さんは、最新のオフィスでも変わらず柱が1つもない執務スペース空間を維持している。先述の制度の話と同じく、変なセクショナリズムが広まることで社員のマネージメントコストが上がるのを、1フロアオフィスを用意することによって抑えているのだ。

8階にあるイベント専用のスペースは、全体で137坪。外部を招いたイベントや社内勉強会に使われる。

しかし同社の社員数はすでに140人に達し、1フロアに置ける人数にも限界が見えている。オフィスの端にいる社員同士は顔を合わす機会が少なくなるため、ついにフロアを増やすタイミングかもしれないと宮田さんは考える。いつか本当にフロアを分けることになった時、宮田さんは何を思うのか。その時はまた宮田さんのブログを見るのに良い機会だろう。


今回取材したSmartHRの宮田昇始さんは、2019年9月2日〜5日まで京都で開催されるICCサミット KYOTO 2019のセッション「働く意味と、人事施策×福利厚生×ワークプレイスのデザインを考える。」にご登壇予定です。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。詳細は公式ページをご覧ください。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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