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NY発コワーキングスペース「THE WING」から読み解く、女性が求める社会参画支援のあり方とは

[October 29, 2019] BY Chinami Ojiri

近年、欧米を中心に各国の主要都市では、女性専用のコワーキングスペースが急激に増えている。その背景には、フリーランスやリモートワーク、副業や兼業といった働き方の変化から、女性の社会参画機会拡大の流れがあると考えられる。

この中で、THE WINGはアメリカを中心に、多くの女性から支持を得ている女性専用コワーキングスペースとして、一目置かれる存在である。これまで数多くのメディアに取り上げられてきたTHE WINGだが、おしゃれな内装や豊富なアメニティのラインナップから、充実したハード面のみに注目されることが多く、それらが人気を博す要因になったと誤解を受ける人も多い。しかし、THE WINGが好評を博す理由はハード面だけではない。ソフト面、すなわち、女性支援の為のビジョンや姿勢が評価されているからだと言えるだろう。

今回は、現代おける女性の社会参画支援のあり方をベースに、THE WINGが提供するプログラムに焦点を置き、THE WINGが大きな支持を得る本質を見ていく。

THE WINGとは

2016年、ニューヨークに誕生したTHE WING。女性のニーズに寄り添った施設やおしゃれなアメニティが充実しており、「女性の、女性による、女性のための空間」としてのこだわりが溢れた空間となっている。現在、ニューヨークにある5ヶ所のロケーションに加え、ボストン、ワシントンD.C.、シカゴ、サンフランシスコ、ウエストハリウッド、ロンドンと11箇所に拠点を構える。更に、2020年にはシアトルとトロントのロケーションが加わり、オープン以降順調な成長を見せている。

ニューヨーク・SOHOロケーション (画像: Vox “The big, controversial business of The Wing, explained”記事より)

THE WINGで提供されるアメニティ内容 (画像: THE WINGウェブサイトより)

THE WINGの利用には入会審査が設けられており、THE WINGのミッションをベースとしたいくつかの質問に答え入会許可を得る必要がある。利用料は、最低月額料金が400ドル(約43,000円)のWeWorkや他のこワーキングスペースに対して、比較的安価となっている。1つの拠点のみを利用する場合は月額215ドル(約23,000円)、月額250ドル(約27,000円)で全てのロケーションが利用可能。2019年1月時点で会員は10,000人以上となり、入会待ちリストには8,000人以上の女性が登録されているという。

ニューヨーク・DUMBOロケーション (画像: marie claire “The Wing Dumbo Is Here—See the Women’s Club’s Gorgeous New Brooklyn Location”記事より)

先人の思いを引き継ぐ設立背景

THE WINGは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてアメリカに広がった女性クラブをモデルとしており、先進的なキャリアや生き方を追求する女性や、「男性でもあり女性でもある、もしくはどちらにも分類されない」というノンバイナリーの拠り所となる場の提供を目指している。

この想いの背景には、創設者であるオードリー・ゲルマン(Audrey Gelman)とローレン・カッサン(Lauren Kassan)、彼女たち自身の経験がある。ニューヨークで各々異なる業界で多忙な日々を送っていた2人だが、日々の業務の中で、女性向けに整備された場所が不足していることに疑問をもつ。例えば、イベント出席時の着替えの場所探しに困ったり、出先で気兼ねなくリフレッシュする場所が無かったり、化粧を直す場所が無かったり。1つ1つは小さな事柄かもしれないが、こういった日常の不便さから、CEOのオードリー・ゲルマンは今日における女性の為の場が必要だと感じたのだ。

創設者である、[左]ローレン・カッサン(Lauren Kassan)と[右]オードリー・ゲルマン(Audrey Gelman) (画像: Forbes’ “The Wing’s Audrey Gelman On Building A Feminist Co-Working Empire”記事 より)

女性たちが交流し、意見を交換し、将来について考える社交場の存在は、決して目新しいものではない。19世紀末から20世紀初頭にかけて、世界的に女性の社会参加を求める運動が活発化し、アメリカでは各地に女性クラブが結成された。当然、今よりも女性の権利が制限されていた時代だったが、女性クラブは政治や社会に女性の声を届ける起点として、重要な役割を果たしていた。

1913年 アメリカ合衆国財務省前で、女性参政権を求めデモを行うアメリカ人女性たち (画像: The United States Library of Congress’s Prints and Photographs divisionより)

そして、ここ数年の女性の進歩的運動を見てみると、かつての行動力、組織力、および資源力に引けを取らない勢いがある。女性運動の波は日に日に拡大しており、新たなフェーズに移行していると言える。THE WINGは、先人の想いを引き継ぐと共に、今日のライフスタイルとニーズに合わせて蘇った21世紀の女性の社交場なのだ。

THE WINGの提供プログラム

強固なコミュニティ形成

THE WINGは「女性のビジネス的、社会的、経済的な立場の向上と発展」をミッションに掲げており、ビジネス、政治、アート、文学、ファッション、美容、料理、交流会、クラフトなど多岐に渡るイベントを行っている。女性やノンバイナリーの著名人を招いて実施するコミュニティープログラム。

また、フェミニズムや政治をテーマにした講演会やトークイベントも頻繁に開催され、女性に関する社会的運動が起きた際には積極的なサポートも行っている。

THE WING CEOのオードリー・ゲルマンと女優のジェニファー・ローレンスによる会談イベント (画像: Vox “The big, controversial business of The Wing, explained”記事より)

スカラーシップ制度

2018年にスタートした奨学金プログラム。この背景には、THE WINGに関わるメンバーやコミュニティの多様化がある。奨学金の対象者には、非営利団体や教育機関、ソーシャルサービス、および女性の社会進出を支援する仕事に従事する女性やノンバイナリージェンダーが含まれる。奨学金はTHE WINGが拠点を構える、全ての都市から申請が可能。奨学金受給者に選ばれれば、1拠点の年間利用料が無料となり、イベントやプログラムなどへも参加できる。

2018年のプログラム導入以降、ニューヨークとサンフランシスコの2拠点で200人以上の奨学金を後援しており、受給者の70%がLGBTQ、有色人種(people of color)、またはノンバイナリージェンダーである。

また、入会選考を通過しても、様々な理由からメンバーシップを購入できないメンバーも受給対象者となる。THE WINGの値段設定はコワーキングスペース業界では比較的手頃だが、経済的余裕が無く入会を断念したり、途中で解約するユーザーがいるのも事実だ。職業や人種、年齢に縛られず、ミッションに共感した利用者の多様性を保つことを目指すTHE WINGは、スカラーシップという形で問題解決を図っている。

コミュニティ・エンゲージメント

女性の社会参加を積極的に推し進めるTHE WINGでは、New York City Department of Parks & Recreation(ニューヨーク市内の公園と公共スペースを管理するニューヨーク市政府部門)やBlack Girls Code(若い黒人女性のコンピュータサイエンス分野での学習を支援する非営利組織)、The Legal Aid Society(貧困層を対象とした法的援助機関)など様々な組織と提携することで、新たなコミュニティとの繋がりを創出する。コミュニティと共に仕事をする機会をつくり、商品開発やサポート、時にはTHE WINGのメンバーがメンター的役割となりプロジェクトを進める。

コミュニティイベントの様子 (画像: THE WINGウェブサイトより)

2018年の夏、THE WING発の新たなアパレルラインを発足した際には、売上の一部をWomen’s Prison Association(刑事司法に関与する女性とその家族の為の支援組織)に寄付。商品は、THE WINGのウェブサイトにて購入可能となっている。アパレルの他にも、女性が設立したブランドによるキャンドルやコーヒーマグ、文房具なども揃う。

THE WING 2018 summerコレクション (画像: ESSENCE “The Wing’s New Summer Merchandise Takes Flight” 記事より)

子育て支援

THE WING会員とその家族のサポートシステムとして新たに加わった子育て支援プログラム、The Little Wing。The Little Wingの導入は、THE WINGメンバーからのフィードバックに起因している。メンバーの25%は子どもを持ち、その母親達から保育オプションの必要性を求める声が上がったのだ。そして、THE WINGの創設者であるローレン・カッサンもその必要性を感じたメンバーの1人であった。カッサンが息子を妊娠した時、彼女はTHE WING運営の為の資金集めに奔走しており、長時間働き詰めだったという。妊娠時でさえも、仕事と生活の両立が難しい現実を目の当たりにしたカッサンは、質の高い保育へのアクセスが、働く親にとってどれほど重要であるかを身をもって実感したのだ。

The Little Wingスペース (画像12: THE WINGウェブサイトより)

2018年よりスタートしたThe Little Wingでは、チャイルドケア、クラス、プレイタイムの3つのサービスを提供している。

・チャイルドケア
母親はTHE WINGのスペースで働いている間、同じ建物内のThe Little Wing専用スペースに子どもを預けることができる。The Little Wingスペース全体はWing-sittersと呼ばれる認定保育士が監修しており、施設内には以下で紹介するクラスやイベントなどが利用できる。また、比較的安価な料金設定(2〜3時間の利用で25〜35ドル)でベビーシッターの利用も可能だ。

仕事中だけでなく、スペース内で同僚や友人とお喋りしながら過ごす時間中も、子どもたちを近くで見ることができ、母親が自由時間を楽しむ手助けとなる。常に子供のそばで安心して働ける環境づくりは、働く母親にとって理想的なワークプレイスであることは間違いないだろう。

・クラス
地元の専門家と協力し、子どもと親の両方を対象としたクラスを開催する。子ども向けクラスには、音楽、アート、睡眠トレーニング、ダンス、自らの心理状態を制御・調整できるように社会的感情学習を身につけるコース、STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)などがある。また、親向けのクラスには出生前ヨガや産後ヨガ、育児休暇からの復帰プログラムなど、子育ての各フェーズに対応した内容となっている。

今後はブッククラブや語学レッスン、料理教室など、子どもと親が一緒に学べる場としての教育的プログラム開発を計画していくとのことだ。また、Stories Bookshop&Storytelling Lab(ブルックリンにある子ども向けのプログラムを発信する本屋)と提携し、本棚には様々な児童文学が揃う。

・プレイタイム
THE WINGは基本的に女性のみの出入りに限られているが、週末の朝はWINGメンバーの家族を対象にスペースが開放されている。このプレイタイムには季節のイベントや誕生日パーティーの開催など、より公共の場としての役割を提供する。

さいごに

THE WINGの提供する女性のための社会参画支援の一つひとつは、単純な解決策のように聞こえるが、現実にはまだまだ斬新な取り組みであり、実現されている場は少ない。

SNS映えするピンクの壁紙やお洒落なデスクと椅子を装備したオフィスを、女性の嗜好やニーズに応えた職場創りと言うならば、それは短絡的な解決策であり、本来の意味でその目的を達成していない。女性のニーズを満たし、長期的かつ未来的なサポートを行うならば、より実質的なプログラムの実施やアメニティーの充実などに力を注ぐべきだろう。

また、追記として、あるニッチに特化した施設の存在は時として社会的議論のテーマになり得る。女性専用コワーキングスペースも例外ではなく、THE WINGのように女性だけでなくノンバイナリーユーザーも対象とした場所もあるが、LGBTQインクルージョンや多様性が主張される社会の中で、女性専用のコワーキングスペースの存在自体に疑問の声も挙がっている。

<その他参考記事・文献:>
THE WING HP: https://www.the-wing.com/
Rosie Naberezny Website: http://www.rosienaberezny.com/
dezeen The Wing article: https://www.dezeen.com/2019/01/29/little-wing-children-playroom-soho/

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この記事を書いた人

Chinami Ojiriフロンティアコンサルティングで設計デザイン部に勤めた後、渡米。経験と知識を広げる為、現在はNYの美大にてインテリアデザインを学んでいる。

    

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