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VOYAGE GROUPのオフィス「SHIP」が多くのクルーを魅了する秘訣とは

[August 28, 2019] BY Kazumasa Ikoma

人材採用力の高い、働きやすいオフィス事例の多くはスタートアップ企業で見られる。そのスタートアップから高い評価を得ているのが、今回取材を行ったVOYAGE GROUPのオフィス。同社は1999年10月の創設からもうすぐ20年目を迎えつつある企業だが、今年5月に移転したばかりのオフィスは企業文化を鮮明に反映させた前衛的なオフィスだ。

VOYAGE GROUPは「変化への対応が遅れてしまうかもしれない」という理由からあえて企業ビジョンを掲げていない。その代わりに、世界を変えるようなスゴイことをやるという意のソウル「360°スゴイ」と、それを実現するための8つの価値観をクリードとして持っている。そうした冒険的な姿勢を航海に例えた「VOYAGE」の社名、オフィスを船体に捉えた「SHIP」の呼び名、その1つの大きな船を一緒に前に進める「クルー」と呼ばれる従業員は、まさしく社の明確な理念を象徴している。

VOYAGE GROUPとして5回目となった今回の移転は、これまで渋谷の3拠点に分散されていたオフィスの集約だけでなく、今年1月に持株会社のCARTA HOLDINGSの下で行われたサイバー・コミュニケーションズ(CCI)との経営統合も背景にある。組織構築の上で重要な役割が期待される今回のSHIPの中身はどのようなものなのか。VOYAGE GROUP代表取締役社長兼CEOであり、CARTA HOLDINGS代表取締役会長の宇佐美進典さんに話を聞いた。

voyage group usami引っ越し初日の夜にできたウォールアートの前に立つ宇佐美さん。アーティストを招いて「海図(CARTA)」をモチーフに描いてもらったアートに、クルーが「航路(VOAYGE)」を足していくというアート企画は、クルー達が交流できる機会として盛り上がった。

3拠点を集めた1つの大型SHIPでは働き方に自由度の高さを追加

今回の移転は、それまで渋谷ファーストプレイス、渋谷スクエアA、ヒューマックスビル渋谷の3拠点に分かれていたオフィスを渋谷ソラスタに集結。フロア面積の広い建物に入居し、社員同士の物理的な距離をなくす施策は近年のオフィス傾向で見られるが、宇佐美さん自身も従業員数350人以上の規模に会社が成長した今、オフィスの物理的制約で部署間の交流が減ってしまうことを懸念したという。「コストは増えたが一緒に働けることはプライスレス」と自身のブログで集約化の大切さを語る宇佐美さんが取材時に放った「物理的な距離が気持ちの距離」という言葉は、オフィスの価値をまさに表している。

移転に合わせ、社員の要望を聞き入れながらオフィスでの働きやすさが再考された。今回新たにキッズスペース等社員の生活を支える空間を導入。リモートワークは会社全体としては推奨していないものの個別で対応可能にしており、フレックス制度も社員の裁量に任せている。大きなSHIPを前に進めるクルー1人1人を信頼し、責任を与えた上で、社員自らが自分にあった働き方を実現できるようにしている。

voyage ajito以前のオフィスからVOYAGE GROUPオフィスの象徴となっていた社内バー『AJITO』は今回のオフィスでも1番の存在感を放つ。

社員が持ち寄ったお酒が並ぶ。定時以降は自由に飲むことができる。

フリーアドレスはあえて導入せず、社員はそれぞれ自分専用のデスクを与えられている。しかし、パソコン1つでオフィスのどこでも働けるようにしている。

経営統合を経ても、VOYAGE GROUPのカルチャーはそのままに

VOYAGE GROUPがここまでカルチャー重視のオフィス空間や柔軟な働き方を提供しているのは、同社の視点が常にクルーたちに向いているからだ。浮き沈みの変化が激しいインターネット業界では、事業やサービスをつくる「人や組織、カルチャー」が本質的な競争優位性に繋がる。そのため「事業内容」よりも「人や組織、カルチャー」を前面に押し出しているという。

カルチャーという面では、1月のCCIとの経営統合の上に、VOYAGE GROUP3拠点の集約という目的を持った今回の移転は、複雑なプロセスになるだろうと筆者は予想していた。しかし宇佐美さんは、事業や出自も異なり、違う拠点でフロアも異なる環境で育まれたカルチャーを無理に1つにまとめようとはしていないと回答。だからこそVOYAGE GROUPとして移転前のオフィスの雰囲気を引き継ぎつつ、それに付け加える形で今回さらに進化したオフィスが構築されたのかと納得できる。

「人事や組織はシンプルであること、一貫性があることが大事で、そこに異なる2社のところで1つを入れようとするとうまく当てはまらない」と語る宇佐美さん。そのため、これからも2社で別の採用や給与・評価制度を維持するという。しかし、事業シナジーの推進には共通言語を作ることを重視し、それは人事組織上でも同じだと宇佐美さんは続ける。その上でカルチャーは「作るものよりもできあがるもの」という考え方で、これからもこのオフィスで醸成されるカルチャーを見守っていくようだ。

これまでVOYAGE GROUPが立ち上げた企業やサービスが並ぶ。

執務スペースにはコミュニケーションスペース「デッキ」があり、軽い打ち合わせなどに多く活用される。ドリンクや雑誌・新聞などもこのスペースに集約されているため、人が自然と出会う場となる。

大事なのは、「透明性」よりも「納得度」

ここまで企業理念を体現し、自然とできあがるカルチャーをそのままに映し出すオフィス空間を目の当たりにすると、「透明性」がキーワードになるかと思われる。しかし宇佐美さんにとって透明性は特別に意識しているものではなく、むしろ重要視しているのはクルーの「納得度」だという。

例えば、VOYAGE GROUPの評価制度は、実績・能力・CCFB(CREED Competency Feedback:経営理念であるクリードに対して、自身の行動に周囲のクルーがフィードバックを行うVOYAGE GROUP独自の仕組み)の3つを軸としている。給与改定や昇格人事の決定までには最低3回以上の評価会議を実施。さらにエンジニアなどの技術者やデザイナーに対してそれぞれ異なる全社横断の評価会を事業部内での評価とは別に設けており、成果物ではなく成果物を通しての技術力(能力)を評価する仕組みとなっている。

一般的にエンジニアやデザイナーといった職種は評価が難しいとされるが、この評価プロセスを活用することで全社での評価軸のブレを抑えることができるという。時間のかかる取り組みだが、クルーの評価における納得度を高めるためには欠かせないものなのだ。

また細かいレベルでは、CCFB1つを例に取ってみても、フィードバック方法においてクルーの納得度が得られるように心がけているという。クリードの1つに「挑戦し続ける。」があるが、中には挑戦してうまく物事を進めない人もいる。そうした際でも挑戦したことだけを評価することもないし、そこでの失敗をネガティブに評価することもない。会社の理念として「挑戦する分結果を残す機会が多くなる」ことの重要度をわかってもらうことが大切だと宇佐美さんは強調する。

このような評価制度を用いながら、良いフィードバックをする人の方法を学べる環境作りにも意識している。社員が互いを理解し合いながら、多角的な視点で評価を行う制度を採用するVOYAGE GROUPだからこそ、偶然の出会いや思いがけない発見を意味する「セレンディピティ」やコミュニケーションの活性化を促す今回の新オフィスは、経営において社員からの納得度を得るために重要な要素の1つという位置付けになっている。

社員の声を拾い上げる仕組みも「納得度」において重要

納得度向上のためには、社員からの声を的確に拾い上げる仕組みも大切だ。

VOYAGE GROUPでは組織づくり施策の1つとしてボーディングパス制度を用意しており、パスを受け取った社員は毎週開かれる役員会議(ボードミーティング)や3ヶ月に1回行われる経営合宿に役員と同様に参加することができる。四半期ごとに募集の告知をだし、350人を超える社員の中から10〜20人の応募があり、そのうち2人が選ばれる仕組み。選抜は、男女比や参加の珍しい職種、年齢のバランス感等を考慮しながら、総合的に判断される。

選ばれた社員にはボーディングパスの予算として、他の社員との「飲み」を目的とした3か月間10万円が支給される。機密情報を除く経営会議の内容を他の社員と共有する機会作りを促すほか、現場の声を聞く機会としても重要な役割を果たしている。おもしろいことに、実際にボーディングパスを獲得した社員は、予算の存在が知られているため、他の社員から飲みに誘われることが多くなるという。社員にも経営に対して当事者意識を持ってもらいながら、彼らの納得度を高める制度として機能していると宇佐美さんは実感する。

また社内ではそのほかに従業員満足度調査を記名で半年ごとに取っており、それを10年以上続けている。回答率90%を超えるその調査の中で会社のカルチャーに共感しているか、常に測るようにしているという。

voyage group office柱にはそれぞれ企業カルチャーが明記されている。

新卒の納得度を高める無人島インターンの存在

新卒採用にも一貫して納得度を追求するVOYAGE GROUPでは、会社のことをどのように学生に理解してもらうか考えた上で、事業内容とは関係ない無人島インターンを実施している。

現在同社では学生向けの事業がほとんどなく、アドやECポイントについて語っても内容や魅力を伝えるのが難しいことから、あまり関係がないと感じてしまう学生が多い。しかし、「自分たちの船で未知なる世界に踏み出す」というカルチャーと関連する無人島を絡めればワクワク感を持った人や新しいもの好きの人が集まるため、より幅広い学生に会社のあり方を知ってもらえる。

カルチャーを体現したオフィスに無人島インターンという組み合わせで、本来出会うことがなかったかもしれない人材にも会社を理解してもらえるのはとても興味深い取り組みだ。

最後に

オフィスや数々の制度でユニークさが光るVOYAGE GROUPだが、取材の最後に宇佐美さんは「VOYAGE GROUPで働いていることを誇りに思ってもらえるようにしたい」と付け加えた。オフィスで働くのも、会社に縛りつけられるからではなく、いたいからいる。そのプライドを持ってもらうように仕掛けるあらゆる仕組みが、結果として採用にもつながっているのだ。

「人事や組織はシンプルであること、一貫性があることが大事」。今回「納得度」というキーワードで一貫性を見せたSHIPが今後の成長もある中でどのように社員との一体感を増していくのか。その行方が楽しみだ。


今回取材したVOYAGE GROUPの宇佐美進典さんは、2019年9月2日〜5日まで京都で開催されるICCサミット KYOTO 2019のセッション「働く意味と、人事施策×福利厚生×ワークプレイスのデザインを考える。」にご登壇予定です。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。詳細は公式ページをご覧ください。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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