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ハイブリッド・ワークプレイスとテクノロジーの未来 | WORKTECHレポート

新しいオフィスモデルとして注目されるハイブリッド・ワークプレイス。本記事では、WORKTECHで紹介されたデータをもとに、ポストコロナを見据えたその未来を考察する。

ハイブリッド・ワークプレイスの今後

2021年上半期に起こった職場のイノベーションとは何か。それは「オフィス」と「自宅」を組み合わせて働くハイブリッドなワークスタイルがこれからも続く、ということかもしれない。オフィスワーカーとリモートワーカー、その双方をサポートするための環境設計は、パンデミックを機に開発された種々のテクノロジーによって今後も維持されていくだろう。

2021年4月21日に開催されたWORKTECHのバーチャルフォーラム「プロフェッショナル・サービス・ワークプレイス・バーチャル・カンファレンス」では、各業界の専門家やイノベーターが集まり、ハイブリッド・ワーキングの今後について活発な議論が交わされた。

そこで改めて確認されたのが、「新型コロナウイルス感染防止」の取り組みは、今後も人々の「働き方」や「仕事の考え方」に大きな影響を与え続けるということだ。コロナ禍が終わっても、単純に「従業員がオフィスに復帰する」とはいかないだろう。ハイブリッド・ワークプレイスに対する期待はここにある。

本記事では、「職場環境のハイブリッド化」と「ハイブリッド・ワークプレイスのためのテクノロジー」に焦点を当て、フォーラムの内容を紹介していく。

データに基づくハイブリッド化

パンデミックが収束すれば、「再びオフィスに戻る企業」と「リモートワークを継続する企業」が出てくるだろう。その中で、ハイブリッド型のワークスタイルを取り入れる企業はますます注目を集めるはずだ。

コロナ以前は、ハイブリッド型の働き方について真剣に議論される機会がほとんどなかった。しかし、パンデミック以降、リモートワークを導入する企業が増えたことで多くのデータが集まり、より戦略的にハイブリッド・ワーキングについて議論できるようになった。「データをどう解釈し、いかに活用するか」は、オフィスのこれからを考えるにあたって喫緊の課題だと言える。

例えば、従業員の労働時間ではなく生産量をモニタリングした場合。そこで得られたデータは、「オフィス」と「リモート」、それぞれの利点をより浮き彫りにするだろう。パンデミック以前と比べて、従業員はスケジュールや職場環境により柔軟に対応できるようになった。「オフィス」は、定例のチームミーティングや会議などの決まった活動で使われる一方、メンバー紹介やトレーニングといったこれまで対面が必須と思われていた作業は、テクノロジーの進歩によって当たり前のように「リモート」で行われるようになるのかもしれない。

多くのワーカーがハイブリッド型を支持

大手会計監査グループのEYが2021年に行った、新しい働き方に関する調査「Work Reimagined Employee Survey」によると、約9割のワーカーが「働く時間と場所の柔軟性」を望んでいることがわかっている。さらにこの調査では、回答者の半数以上が、柔軟性が認められなければ現在の仕事を辞めると回答。同様に、全米企業エコノミスト協会(NABE)による調査「National Association for Business Economics」(2021年1月)でも、社員がコロナ以前の勤務体制に戻ることを望んでいる企業は、10社中1社程度であると報告されている点は注目に値する。

このように、いまやワーカーらが「リモート環境での仕事」に違和感を持っていないことは明らかだ。しかしこれは、短絡的にワーカーらが「完全なリモートワークを望んでいる」ことを意味してはいない。再び「Work Reimagined Employee Survey」を見てみると、ほとんどの従業員が週に2~3日のリモートワークを期待しているというデータがあり、その証左と言える。一方で、完全にオフィスで働くことを期待している従業員は約5分の1程度となっている。

なお、この傾向はワーカーだけに見られるものではない。上記NABEの調査では、経営者もパンデミック以前の働き方からの脱却を期待している様子がうかがえるほか、前述のEYの調査でも極めて示唆的なデータが取り上げられている。具体的には、マネジメントレベルの回答者の約4分の3が、「オフィス資源」「学習」「リモートワーク戦略」「デジタルツールとテクノロジー」の4つのカテゴリーにおいて、ハイブリッド化に肯定的な回答をしている、というものだ。

事実、WORKTECHでは、ビジネスリーダーらがビジネスの様々な局面でハイブリッド化に取り組みはじめていることを伝えている。共有するワークスペースの再設計、バーチャル・ラーニングの強化、リモート・ファシリテーションのためのトレーニングに対する投資、スケジュールやコミュニケーションに関するポリシーの見直し、テクノロジー(ビジネス・コミュニケーション・プラットフォームやクラウドベースのサービスなど)の導入拡大と、枚挙にいとまがない。

ハイブリッド化の必要性

パンデミック時のリモートワークの経験から、自宅などオフサイトで仕事をすることにはいくつかのデメリットがあることがわかっている。その多くが「社会的なつながり」に関するものだ。多くの社員が、リモートワークによってチーム内のコミュニケーションが希薄になり、ブレインストーミングなどの取り組みができなくなったと感じている。

一方、オフィスワークとリモートワークを組み合わせれば、「生産性」と「クリエイティビティ」を向上させられることもデータからわかっている。「Work Reimagined Employee Survey」の調査を再度参照すると、65%のワーカーがハイブリッドワークで「生産性」と「クリエイティビティ」が向上すると認めている。

離れてみて改めて気付いたこと――。それは、パンデミック以前、私たちが一日中オフィスの机の前に座っていたわけではないということ。つまり、オフィスは「つながりのための空間」とも言えるのだ。

チームを必要としない仕事はリモートで行えるが、コラボレーションが要求される場合はやはりオフィスで行う。その意味で、ハイブリッドワークでは、オフィスにいるときの従業員同士のコミュニケーションのあり方にこだわるべきだろう。すなわち、それはリモートでのコミュニケーションとは対照的な、よりエモーショナルで即時性のあるコミュニケーションだ。

具体例をあげると、「個別のタスク」や「メールのやり取り」のように時間をずらして行うコミュニケーションは、なにもオフィスで行う必要はない。一方で、それ以外のタスクは、これからも対面でなければ達成できないレベルの共時性を必要とし続けるだろう。つまり、これからのオフィスには、従来型の机の配置から脱却することが求められるということ。コミュニケーションに焦点が当てられた今、例えば、多目的ルームの設置はより重要な意味を持つようになる。スペースの有効活用とその管理こそ、ハイブリッドワークの要諦となるのだ。

ワークプレイスの再設計は様々なタイプの仕事、すなわち「ワークプレイス・アーキタイプ」を適切に分析し、理解することから始まる。例えば、家族や友人と生活空間を共有しているワーカーは、集中して仕事をするためにオフィスを必要とするかもしれない。別のワーカーはソーシャルな仕事をするために、あるいはチーム管理やチーム指導のためにオフィスを必要とするかもしれない。ハイブリット化の難しさの一つは、このように複雑化した、職場の新たな「ペルソナ」を把握し、対応していくことにある。

加えて、社員同士の出社スケジュールの調整という問題もある。ジョージ・ワシントン大学の研究によると、社員が週に2日しかオフィスで働かない場合、社員AとBが同じ日にオフィスにいる可能性は29%しかないという。

では、こうした課題はどう乗り越えていけばいいのか。「Work Reimagined Employee Survey」の調査結果は次のように示す。

「64%のワーカーがハイブリッド・ワークプレイスをサポートするため、優れたテクノロジーを求めている」

以下に、ハイブリッドワークをより良いものとする、いくつかのテクノロジーを紹介していこう。

オンライン作業を効率化するクラウド・テクノロジー

ハイブリッドワークの課題は想像以上に複雑だ。特に米国の場合、在宅勤務希望者は様々な地域や国に住んでいるため、スケジュール調整から給与計算まで、乗り越えるべき領域も多岐にわたる。

そこで期待されるのが、テクノロジーの活用だ。事実、パンデミック以降はMicrosoft Teamsのようなビジネスコミュニケーション・プラットフォームのユーザー数が大幅に増加しており、組織のハイブリッド化が進むにつれてその必要性はますます高まると予測される。Muralのようなデジタルワークスペースも、チームのコラボレーションやクライアントとのコミュニケーションがバーチャル環境へと移行していく中で、さらに重要な役割を果たすようになるだろう。

Mural’s digital workspace

同様に、ドキュメント(財務、ラーニング、タイムシートなど)へのリモートアクセスの必要性が高まるにつれ、クラウドベースのサービスもより推進されると考えられる。さらに、クラウド・テクノロジーとコラボレーションツールを組み合わせた機能もますます求められるようになるだろう。例えば、顧客への提案書を作成するチームがオフィスとリモートで分かれている場合、同じ文書で共時に作業できる環境を整えることは、ハイブリッド化に不可欠なステップだと言える。

また、ワークフローを管理するために、ServiceNowのようなクラウド・コンピューティング・プラットフォームを利用する企業も増えてくるだろう。エンジニア、営業担当、顧客のワークフローを最適化しようとする際、オンボーディングやその他のプロセスはますますバーチャルになっていく。また、リモートワーカーの割合が多い組織では、サイバーセキュリティとデータ保護がますます重要になっていくはずだ。

ハイブリッドワークを実現するオフィス向けテクノロジー

一方、オフィスには、一人で集中して作業をするためのデスクエリアや、プレゼンテーションなどのソーシャルタスクのためのエリアも必要になるだろう。コラボレーションスペースのように、チームの交流を促進する場所のニーズも出てくるはずだ。デジタルコラボレーション用のオーディオビジュアルスペースのほか、Microsoft SurfaceGoogle Jamboardのような会議用のスマートスクリーンの使用も増加傾向にある。

だからと言って、必ずしも新しいタイプのオフィスが増えていくわけではない。より多くのコラボレーションを可能にするため、フロアスペースを再配分するかたちで再設計されていくのではないだろうか。まさに、こうした傾向にどう対応するか、企業としての創造力が試されていると言える。

また、ワークプレイス・センサーとワークスペース・ブッキング・アプリケーションの開発も、ハイブリッドワークが生み出した賜物だ。このテクノロジーにより、従業員はチームのコラボレーションに利用するスペースを予約する前に、その場所のノイズレベル(騒音や雑音の大きさ)、密集度(人の多さ)などをリアルタイムで確認できる。これにより、ワーカーは自分のワークスペース選びに能動的に関わることができ、生産性の向上にもつながる。

さらに、ヒューマン・セントリック(人間中心)を意識したテクノロジーも大きな進化を見せる。その代表的なプロダクトが、Qualtrics XMMillionYou.comだ。投票機能や職場のコンセプトを検証するセッション機能などを用いて、多様な従業員グループの定量的かつ定性的な会話の分析を可能にする。従業員が、今何を考えているのか――。この技術は「ハイブリッドな働き方において、生産性を高めるために必要なインサイトは何か」、そのヒントとなるデータを収集するのに役立てられている。

ワークプレイスの転換を示す4つのA

今回のWORKTECHでは、以下にあげる4つの「A」が、ワークプレイスの転換点を示すものとして紹介された。

・Available(手に入れやすいこと)
・Affordable(価格が手頃であること)
・Adopted(採用しやすいこと)
・Adapted(適応しやすいこと)

以上は、ハイブリッド・ワークプレイスを最適化するデジタルテクノロジーが手頃な料金で導入できるようになり、すでに多くの組織で採用されていることを表現している。

パンデミック以降、社員は自らのスケジュールを自分で決めることが当たり前になりつつある。これは、健康だけではなく、生産性や創造性にもプラスの影響を与える。すなわち、ワーカーの「自律」は、企業にとっても非常にポジティブなことだと言える。

ワーカーとデバイスの接続、テクノロジーによって促される人と人とのつながり、情報の透明性、分散化……。パンデミック後も、これらはワークプレイスを考える上でのキーコンセプトであり続けるだろう。組織がオフィスというハードからテクノロジーというソフトへの投資に切り替える決断は、こうした目標を捉えて行われていくに違いない。

いずれにせよ、ハイブリッド・ワークプレイスとは、組織を完全にデジタル化するということではない。実用的なソリューションを活用して自宅でうまく働く力を身に付け、従来の働き方をアップデートすることを意味しているのではないだろうか。

この記事を書いた人:Worker's Resort Editorial Team