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ハイブリッド・ワークは続く? 2022年以降のワークプレイスの行方 ー WORKTECHレポート

記事作成日:[October 26, 2021]
/ 記事更新日:[October 25, 2021]
BY Worker's Resort Editorial Team

ハイブリッド・ワークは今後も継続

ここ数年、ワークプレイスに関する規範や行動様式が劇的に変化するなか、私たちは調整や適応を求められてきた。パンデミック後の社会をナビゲートするうえで明確に言えるのは、「ハイブリッド・ワークはこれからも続いていく」ということだ。

Microsoft Work Trend Indexのレポートによると、73%の人が「フレキシブルな働き方を続けたい」とし、67%の人が「チームで対面の仕事をする時間を増やしたい」と回答している。このことから、人々が「在宅ワーク」と「ときどき出社して同僚と対面する働き方」の両方の良い点を得たいと考えていることがわかる。

そんななか、2021年9月22日にバーチャルカンファレンス「WORKTECH21 APAC」が開催された。「仕事の未来」のほか、「不動産」「テクノロジー」「イノベーション」に関心のある人々に向けたオンラインイベントだ。各界からオピニオンリーダーが集い、成功事例や新しいイノベーション、研究結果を共有し、今後の展開を考察した。

カンファレンスでは、次の3つが重要なテーマとしてあげられた。

・リーダーシップ(リーダーの変化と職場への影響)
・人中心でフレキシブルな職場の重要性
・ハイブリッド・ワークにおけるテクノロジーの必要性

本記事では、各テーマを分析しながらカンファレンスの概要を紹介する。

リーダーによる新しい働き方の創出

企業のリーダーは、未来の働き方に大きな影響を与える存在だ。企業が優秀な人材を惹き付け、確保しつづけるためには、「リーダーが新しい働き方をどのように受け入れ、対応していくか」が鍵となる。

WORKTECHアカデミーのディレクターであるJeremy Myerson氏は、雇用者と従業員のあいだに認識のズレがあると指摘する。IBM Institute for Business Valueの調査では、雇用主の74%が「従業員の新しいスキル習得を支援している」と回答した一方、「適切な支援を受けている」と回答した従業員はわずか38%であった。

(画像はIBM Institute for Business Valueより)

雇用主と従業員の認識のズレをなくすために、実行したいことがある。Veldhoen + Company社のBusiness Growth and Senior Consultant、Hardeep Matharu氏は、リーダーに対し、プラクティスの実践に注力するよう勧めている。「信頼」「明確性」「成果重視(日々の進捗にこだわらず、全体的な成果を重視する)」といった3つの文化的特性を向上させるためだ。

これを実現するには、「明確で具体的な目標を持つ」「従業員への情報伝達のため、よりオープンなコミュニケーションを持つ」「チームに対して、役割と責任を明確にする権限を与える」「チームが物理的につながる」といったプラクティスの実践が求められる。企業のさらなる大きなビジョンの達成に向けて、リーダーはチームに権限を移譲する必要がある。リーダーが変化を具体的に実践すれば、従業員もそれに続くだろう。

Grab社でGrabber Engagementの責任者を務めるNatasha Wahap氏は、この点をさらに強調する。Wahap氏は、「従業員に対して、経営者やリーダーが考える以上に、多くの気遣いやコミュニケーションを行うことが重要だ」と主張する。これを実現するには、単なるEメールのやりとりを超える必要がある。例えば、説明にインフォグラフィックを活用する、社内のラジオ番組を始めるなど。肝心なのは、魅力的かつ刺激的な方法で行うことだ。

リーダーはチームに対し、チームが望む以上の権限を与えるべきだ。チームには責任と承認権を与え、チームの同僚に対しては、ほかのメンバーのコーチやメンター役を依頼してほしい。また、声にならないニーズを把握するのもリーダーの役目だ。例えば、Zoomに疲れたり、孤独や困惑を感じたりしているメンバーがいるかもしれない。こうした隠れた問題を解決するには、「水曜日は会議なし!」というようにリーダーが解決策を提案し、取り組む必要がある。

また、リーダーは、自宅でも同僚らが良い仕事をできる環境にあるかどうかを確認するべきだ。座り心地のいい椅子、机、照明、ときには食事のデリバリーやインテリアのアート作品にいたるまで、すべてが適切に整っていることが包括的なメンタルヘルスにとって重要だ。

フレキシブルで、人中心のワークプレイス

オフィスが人中心へと移行すると、未来の働き方では「フレキシビリティ」が鍵になるだろう。一連の調査結果によると、パンデミック後も大多数の人がリモートワークの継続を希望している。さらに、別の調査でも、英国労働者の90%が自宅勤務を希望しているという結果になった。

もはや「何が有効なのか」は、経営者やオフィスではなく、各個人に向けて考える必要がある。ただ、リモートワークとフレキシブルな働き方については、新たな課題も生じている。多くの企業が直面するのは、「チームのつながりの維持」「有意義なコラボレーション」「タイムリーな意思決定」「意図的な知識の共有」といった課題だ。前述のように、こうした問題にしっかりと対処できるかどうかは企業の経営陣にかかっている。

「フレキシビリティ」を必要とするのは、働く場所だけではない。Myerson氏は「未来のワークスペースは包括的で、デジタルで、健康的であるべきだ」と指摘する。つまり、あらゆる年齢、能力、信念、背景に対応可能な人中心のデザインが求められているのだ。

フレキシブルなデジタル空間とは、物理的領域とバーチャル領域のあいだでシームレスな体験を生み出す。オフィスは健康的な空間であるべきで、身体的にも精神的にも安全で快適な環境づくりが求められる。例えば、「良質な空気と換気」「健康的な食事ができる選択肢」「定期的なウイルス検査」などが必要だ。

そして、オフィスのワークスペース自体も変化している。パンデミックを機に、多くの企業が不動産ポートフォリオの合理化とコスト削減を行っている。Myerson氏は、「オフィススペースを完全に廃止するのではなく、再利用している企業もある」と指摘する。

ザイマックス不動産研究所が東京の1000のオフィスを調査したレポートによると、オフィススペースを縮小予定の企業は、拡大予定の企業を大きく上回っている。また、レポートには、「オフィスが縮小傾向にあるのは明らかだが、単なるオフィスコストの削減に向けた消極的なものではなく、ワークプレイス全体の戦略的再構築に向けた動きである可能性が高い」と添えてある。

従来型の「本社」が、今後もワークプレイスの重要な要素であることに変わりはない。一方で、「コワーキング」「ローカルサテライト」「モバイル」「スペシャリスト(R&Dラボ、ニュースルームなど)」といった、別形態のオフィスを開設する企業が増えている。

Mapiq社のCEOであるSander Schutte氏は、最終的には全員に自主性が与えられるべきだと考える。「全員が集まって、企業文化を感じる場所があることは重要だが、どこでどのように働きたいかは個人の自由であるべきだ。経営陣は従業員の能力開発を最大限にサポートする必要があり、これには彼らの決断を信頼することも含まれる。それが、優秀な人材を惹き付け、維持することにつながるのだ」

テクノロジーの活用で、ハイブリッド・ワークを長期的なソリューションに

テクノロジーは、ハイブリッド・ワークプレイスを実現し、持続するための鍵となる。Myerson氏は、多くの企業がテクノロジーに対し、多額の投資を始めていると指摘する。これは、パンデミックがもたらしたポジティブな結果であり、実際、オフィスでもVRやARのような新しいテクノロジーへの投資が加速した。例えば、PwC社では英国の従業員にVRヘッドセットを支給し、Fidelity社ではVRオーディトリアムでの実験を行っている。

しかし、なぜ近年、世界中でテクノロジーが容易に採用されるようになったのだろうか。Logitech社のB2B ANZ部門責任者であるSean Byrne氏は、その理由の一つに「ブランド認知度」があると考える。多くの人が特定のブランドに慣れ親しめば、より簡単にテクノロジーに適応できるようになるのだ。業務でもよく使われるZoomはその好例かもしれない。

Smarten Spaces社のCEOであるDinesh Malkani氏は、ハイブリッド・ワークをより容易にするものとして、AIのようなテクノロジーの活用を提唱している。テクノロジーを活用すれば、「出社に最適な日や予約可能なデスクを教えてもらう」「チームメイトのスケジュールを一目で確認する」といったことが可能になる。

このほか、テクノロジーの活用により、駐車場やロッカーを予約してシームレスに入庫したり、職場や自宅で必要なアイテムをリクエストしたり、自分の好みに合わせて食事を事前に注文したりすることも可能だ。 

さらには、コラボレーションの向上にも利用できる。従業員は、「物理的または仮想的に誰が会議に参加しているのかを確認する」「カレンダーを統合する」「ニュースや情報を同僚と共有する」「ミーティングスペースを予約する」といったことが可能になるのだ。 

UnWork & Cordless ConsultantsのCEO兼創設者であるPhilip Ross氏が提案する、ワークプレイスの改善に向けたテクノロジーの活用法も紹介しておきたい。それは、ワーカーが出社前に「搭乗券」を受け取ることで、容易にスキャンしてオフィスへ入場できるというものだ。事実、鍵やパスのような伝統的な方法ではなく、生体認証によるエントリーを採用するオフィスが増えている。 

また、オフィスをゲームデザイン化することで、ユーザーが自分の経験に基づいてオフィスの様々な場所を「評価」することもできる。さらに、AIは、静かに仕事をしたいときにはどこに行けばいいかを提案したり、その日に出社している人を表示したり、スケジュール管理をサポートしたりすることも可能だ。

ワークプレイスのデジタル化に向けてもう一つ重要なのが、「デジタルの平等」だ。リモートで仕事をする人は、物理的なオフィスで会議をする人に比べて、どうしても「経験数」や「体験の質」が劣ってしまう。ハイブリッド・ワークが機能するためには、どのような場所から会議に参加しても、誰もが同じようにすばらしい体験ができるというデジタルの平等が不可欠だ。 

その点で、Google社は特に優れた取り組みを行っている。Google社では、「キャンプファイヤー」と呼ばれる半円状の会議室に、部屋の中にいる人と同じ高さ・角度でスクリーンを設置。リモートで参加する人も、その場で参加する人も、同じものを見て体験できる設計だ。物理的リアリティとバーチャルリアリティのあいだにシームレスな流れが実現されている。

ワークプレイスの乱立

人々の働き方やワークプレイスに対する考え方は確実に変化している。ワークプレイスの考え方に混乱が生じているという人もいる。私たちが新しいトレンド、信念、慣習についてナビゲートするには、新しい知見や情報を常に把握することが重要だ。 

「リーダーは未来のワークプレイスの形成に大きな役割を担うこと」「フレキシビリティが必要であること」「テクノロジーはこうした新しい働き方を推進するエンジンであること」を忘れないでほしい。これら3つのポイントは、パンデミック後の新しいビジネスの世界をナビゲートするうえで役立つはずだ。 

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