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ディズニー流人材育成プログラムで経験した、個の学びとは

[September 29, 2020] BY Stefanie Saki Kinjo

近年、日本経団連や政府の後押しで1つの会社に依存しない働き方が意識されるようになり、副業や兼業をする従業員やオンラインセミナーの受講などを通じてスキルアップを目指す従業員が増えている。その風潮はコロナによって加速している。

日本経済新聞の記事によると、ビジネススクールなどを運営する「グロービス」(東京・千代田)は9月1日時点で動画学習サービスを受講する会員数が14万人を超え、5万9千人だった2月から倍以上の増加となった。20代の利用者が増えたほか、従来多かった営業に加えて労務や販売など幅広い職種の会社員が受講しはじめている。

また海外をみても、個人のスキルアップは以前から重要視されている。もともと一括新卒採用という考え方がなく転職が活発に行われるアメリカでは、採用には常にプロフェッショナルとしてのスキルと経験が重視されるため、それに合わせて個の学びを得られる場所や機会も多くある。例えば、マサチューセッツ工科大学とハーバード大学の名門校によって創設されたオンライン上のオープンな学習プラットフォームedXでは社会人になってからでも名門校の講義がほぼ無償で視聴可能だ。

またHolberton Schoolというプログラミングスクールでは、有名IT企業のエンジニアが講師として実際に現場であった課題に生徒として取り組むことができる。同校では、授業料の支払いは入学前や在学中には一切発生せず、代わりに就職後3年間給料の17%を学費として収める仕組みを取ることで、良い企業へのキャリアアップが学校と生徒の間でWin-Winとなる制度を実現している。

「個の学び」が今まで以上に大事とされる時代。資格の取得やセミナーの受講など様々な形の学びがある中で、まわりの社会人はどのような方法で自己研磨に励むのか。Worker’s Resortでは、そのリアルな様子をお伝えする。第1回となる本稿では、筆者が現在カスタマーエンゲージメント分野におけるキャリアの基礎を築くきっかけとなった、ウォルトディズニーワールドでのインターンとして単身渡米した際に参加したスキルアッププログラム『ディズニーユニバーシティ』の経験について触れる。

ホスピタリティのへの道を決めた理由

筆者がホスピタリティ業界へのキャリアパスを選択したのは、自分が育った環境から直感的につながりを感じたのが主な理由だ。

筆者の祖父母は飲食店経営、父は美容室経営を行っていた関係で自然と接客業に触れて育ったためホスピタリティには幼い頃から興味があった。その気持ちがさらに強まったのが東京ディズニーのダンサーとの出会いだった。ステージ上での彼らのホスピタリティの高さとお客様へのエンターテイメントを届けたいという気持ちに刺激され、ホスピタリティ業界へのキャリアパスを歩むための第一歩としてウォルトディズニーワールドのインターンシップ参加を決意した。周りの友人を見ても自身の進めべきキャリアについて悩む人が多い中、人との出会いを通じて自分が早い段階から追いかけたいキャリアを決断できたことは幸運だったと感じている。

具体的なインターンシップに関して調べる過程で、ディズニーのインターンシップでは実際にテーマパークでの仕事を通じてホスピタリティを学ぶだけではなく、ユニバーシティの教室でも基礎からホスピタリティ業界を勉強できる良い機会だと思い受講を申し込んだ。

ディズニー・ユニバーシティとは

画像はQuora(Tom Niklの投稿)より

日本ではいくつものメディアですでに取り上げられているためご存知の方もいると思うが、ディズニーユニバーシティとはディズニー社が50年以上にわたり続けている人材育成プログラムだ。地球上でいちばんハッピーな場所で「幸福を創造できる」従業員を育成するため、ディズニーの歴史・文化・価値観を理解する場を提供することが目的として創設された。いわば、「いかにお客様を幸せに導けるか」というホスピタリティをとことん追求して学べる場だ。

東京ディズニーランドの社員教育部門設立に携わったタグ・リップの著書「Disney U」によると、世界で最初のディズニーパークであるディズニーランドは1955年にアメリカ・カリフォルニア州で開業し、7年間で数百万人が来場し、大成功を収めていたが、一方で従業員の質の低下が問題となっていた。背景として、オリエンテーションプログラムへの不満や、指導者の現場経験の不足による従業員とのすれ違いなどが挙げられた。そこでオリエンテーションプログラムを一新するためにディズニーユニバーシティが誕生した。

研修のコアとなる部分は、高品質の顧客対応を提供するために、まず従業員が楽しむことである。従業員が仕事を楽しみ、その仕事を誇りに思えばおのずとお客様にもホスピタリティを提供できるという考え方だ。そのため研修では従業員が一番興味のある自分の持ち場、スケジュール、衣装、給料などから率直に伝えられる。その次に仕事に誇りをもってもらうためにディズニーの歴史や伝統を伝えてブランドの重要性を理解してもらうという流れだ。

またディズニーでは上記のホスピタリティ概念から高品質な従業員はビジネスの根幹だと考え、従業員のエンゲージメントとブランドに対する誇りを下げないように必ず研修と学びの場はどのような経営状況下でも提供し、経営難を理由に人材開発・育成の予算を削ってはいけないという文化が現在も根付いている。そのためコロナの影響で多くの従業員を一時解雇する選択しをとらざる負えない状況であったが、現在も研修や学びの場は変わらず提供されている。

筆者は3カ月かけてスキー施設経営の企画を経験

ディズニーユニバーシティでは、大学のカリキュラムのように自分が受講したい講義を選び、教室にいくというスタイルが取られている。講義にはディズニービジネスの歴史や文化、クリエイティビティの向上、ビジネスリーダーシップ、経営分析など幅広い分野でクラスが用意されている。

その中で、筆者は自営業を営む祖父母と父の影響もあり、ホスピタリティ業界の経営を学べるホスピタリティマネジメント講義を約3カ月間受講した。講義内容としては、受講者同士でランダムにチームを組み、架空のスキー施設経営を企画をするというものだ。

そこで私は様々なことを学んだが、特に印象的だったのが、ブランディング、企画、ホスピタリティの3つだ。

ディズニー流のブランディング

まずはじめに学んだのは、ブランドについてだ。

企画書を作る時にまずはブランドワード、ロゴ、フォント、コーポレートカラーを決めることから求められる。ブランドワードとはディズニーでいう「マジック(魔法)」「キングダム」「ファンタシー」といった、一言でブランドを表し企業の製品やサービスを想起させる言葉だ。何を始めるにも、何かを企画するにあたっても、ディズニーでは企画の内容よりも前にまずブランドを軸に展開することが高度なホスピタリティを提供する基盤となっていることが大きな気づきだった。

ブランディングはそれだけなく、そのほかのブランドに関するルールを守る必要があり、ディズニーの徹底ぶりをこの身で実感した。ブランドを大事にする企業ほど「ブランドガイドライン」というものが存在する。これはブランドに一貫性を持たせるため、広告や社内資料、社内外のプレゼンテーションに利用するコーポレートフォントやコーポレートカラーをはじめ、フォントや色、デザインなどのルールが細かく記された資料だ。ディズニーにももちろんこのブランドガイドラインがあるが、数百ページにわたる資料にまとめられたブランドを理解し、使いこなすのは簡単なことではない。

講師はブランド設定を最初に作らせた理由として、会社の軸となる考え方を理解させる目的があると話していた。自分たちがどこまでブランドを理解しているか。企画書の内容を進めていく間でチーム同士で意見の衝突や迷いが起きてもブランドに沿っているかどうか、イメージに合っているかどうか、ターゲットからずれていないかの基準となるのだ。

実際に筆者も仕事で顧客向けにオリエンテーションやウェブセミナーを行うための資料を作成するときにブランドガイドラインを徹底して意識するのも、この経験が軸となっている。

ディズニー流の企画

実際に企画を行う上で、リサーチと情報分析は欠かせない。これはマーケティングを学んでいる人にとっては基礎的なスキルだが、それを持ち合わせてなかった著者にとってはこの経験がさらにホスピタリティ業界を学ぶきっかけとなった。

スキー場の企画では、そのスキー場がルイジアナ州内であると設定とされており、調べなければいけない項目もすでに決められてていた。例えば言語、人口、競合となりうる施設など基本情報に加えて、3大都市、ショッピングモールの数、大学の数、求人状況等を徹底的に調査した。

調査を行った後は、各項目がスキー場経営を行っていく中でどのようなメリットとデメリットをもたらすか分析していく。例えば人が多く集まるショッピングモールは宣伝ポスターやパンフレット配布で最適な場所であり、また提携を組むことでキャンペーン時に関連商品の販売やスキー場のチケットを見せることでクーポン代わりに使えるなどの企画も共同で行える。

さらに大学の数を調べるのはテーマパークやアウトドアレジャーの利用者の大半を大学生が占めているためであり、大学数が多いほどスキー場への需要が高まることが期待できるのだ。

どんなに魅力的な施設や高品質のゲストサービスを提供しても、その土地の需要、環境、経済状況を理解していないと意味がない。きっとテーマパークの仕事だけでは気づけない、ホスピタリティマネジメントを受講したからこそ知り得たマーケティングスキルであった。

ディズニー流ホスピタリティ

ディズニーのホスピタリティに関してはネットや本でもよく書かれているのでいかに従業員教育が徹底されているか知っている読者も多いだろう。

ディズニーのホスピタリティは行動規範という軸から成り立っている。行動規範とはアメリカでは従業員自身の行動の判断軸、業務で迷った時のよりどころとして扱われている

ディズニーの行動規範の特徴として各行動規範には順位付けがされている。これは従業員全員が顧客対応に同じ指針で動けるように、咄嗟の判断が必要な際に迷わないようにという理念のもと構成されている。さらにばらつきのない顧客対応を提供するためにこの行動規範研修が徹底されており、既存従業員であっても3-4ヵ月に1度、職種や立場関係なく現場スタッフに対して抜き打ちチェックが行われる。他にも従業員同士で行動規範に沿った行動ができているか評価カードなどが用意されている。

今回の講義でも、自身が経営するスキー場の従業員に行動規範を落とし込むために新人研修設定を緻密に計画するよう指示された。行動規範はできるだけ簡潔に誰にでもわかりやすいように書き、新人を配属するる前に一度現場で彼らに既存の従業員の動きを見せることなどが挙げられた。例えば、筆者も研修で覆面調査として行動規範チェックリストを片手に現場従業員を観察した。言葉だけではどうしても企業理念や行動規範は難しく聞こえてしまうが、実際に現場を見ることで自分自身で行動の判断軸を理解し実践しやすくなる気づきがあった。

一般的に多くの企業ではミッションとバリューは常に意識するようにと言われるが、なかなか従業員が理解ができておらず曖昧にしている部分も多く、従業員によって解釈が異なることもある。従業員同士で行動規範が同じ認識で理解されているか確認することは、顧客対応をする上で一貫したサービスを提供するために重要だ。

振り返ってみて:「学ぶこと」を楽しめるかどうかが鍵

インターンシップから何年も経った今、当時を振り返ってみると多くの学びがあったと気づく。社会人になって数年経つが、仕事が忙しいからとつい個の学びの時間を後回しにしがちな今と、ディズニーインターンシップで週5勤務の中で講義の企画書作成と宿題をこなしていた自分を比べると、インターンシップ時の自分の方がより知識も意欲もあったのではないかと感じる。そして何より学ぶことを楽しんでいた。

冒頭でも話したが、社会人の個の学びを考えると資格を取ったり、プログラミングを学んだりと仕事で生かせるものばかり考えてしまって、自分がやりたいこと・面白そうと感じることとマッチしていないことが個の学びの時間を後回しにしてしまう。これが学びに動き出せない理由の1つではないかと個人的に思う。

必ずしもすぐに仕事に生かせなくとも、ニュース記事を同僚や友人と共有して話す時間を作ってみたり、読み終えてない本を一冊読み終えてみたり、ためになるか分からないけど面白そうと感じたウェブセミナーを申し込んでみたり、無理なく楽しめることから初めてみるのも大事な学びの時間だと筆者は考える。

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この記事を書いた人

Stefanie Saki KinjoWalt Disney Worldでインターンシップののち大手外資系ホテルに入社。自らの経験から日本とアメリカの働き方の違いに強く関心を持ち、主に海外ニュースを中心に最新のオフィス環境やワークスタイルを発信する。

    
    
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