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リモートワークで母親たちが働ける社会に – スタートアップ企業PowerToFlyの取り組み

[November 07, 2018] BY Kazumasa Ikoma

「女性をもっと積極的に採用したい」「子育てしながら正社員として働きたい」そう思う企業と子を持つ母親たちを結ぶサービスが今アメリカで人気を集めている。今回はその支援を行うニューヨーク発のスタートアップ企業、PowerToFlyを取り上げる。

PowerToFlyとは?

PowerToFlyは女性人材のオンラインリクルーティングプラットフォームを提供する、2014年8月創業のスタートアップ。女性のキャリアチェンジや育児からの職場復帰を含めた就職活動の支援、またそれを通じて人材多様性を体現する企業のブランド力向上が企業ミッションとなっている。当初はテクノロジー業界に焦点を置いていたが、今では編集やマーケティング・PR、営業、オペレーションまで幅広い業界の求人を掲載。他のプラットフォームとの差別化ポイントとして、従来のポジションの他にリモートワークできるポジションも掲載しているのが特徴だ。

ユーザーとなる女性はサイト上に無料で自身のプロフィールを作成することができ、企業も自由に人材候補を探すことができる。ユーザーの就職が無事に決まったところで初めてPowerToPayへの支払いが行われる、といった流れだ。その支払いや従業員との契約書作成は企業側が対応するようになっている。

powertofly hp

創業時から人気に

PowerToFlyは創業時から急成長を見せてきた。2014年7月のシードラウンドでは1Mドル、2015年1月のシリーズAでは6.5Mドルの資金調達に成功。2018年10月時点で164ヵ国から計70,000近くの人材プロフィールが登録されているが、これは最初の資金調達時と比べて2300%の成長率だ。また企業からも過去12ヶ月で44ヵ国から1500以上の雇用主登録があり、こちらも370%の成長となっている。クライアントにはUber、Goldman Sachs、Deloitte、MetLifeといった様々な業界の企業が名を連ね、RebelMouseやBuzzFeed、Hearstはそれぞれ20人以上の女性従業員との雇用契約をすでに結んでいる。

実際に同プラットフォームで女性が就いた職も様々だ。フロントエンド・バックエンドエンジニアからQAエンジニア、ウェブデザイナー、プロダクトマネージャー、マーケティング・PRといった業種が挙がる。

このプラットフォームを通じて劇的なキャリアチェンジを行った女性も出始めている。つい先日ソフトウェアエンジニアになったRachel Cohen氏は異色の経歴の持ち主。彼女は16年以上のリポーター職からプログラマーとしての夢を追い、一念発起でコーディングを学べるブートキャンプに参加。その後PowerToFlyのイベントを通じて、前職の経験を活かせるメディア業界のDow Jonesにソフトウェアエンジニアとして就職した。PowerToFlyはイベントやウェビナー、メンターセッションの提供やコーディング・ブートキャンプの紹介を行い、このような女性の新天地での活躍を支援している。

また、同社はこのDow Jonesのように人材多様性を実現し企業ブランドを高めたい大手企業と提携数を増やし、記事や本の執筆、ライブイベントの共同開催等オフラインでの活動も積極的に行っている。

power to fly partnersPowerToFlyと提携して人材獲得を行う企業の一例

創業の裏話:ときに女性からも理解されにくい「母親業と仕事の両立」の難しさ

PowerToFlyの創業者2人はそれぞれ別の会社で女性キャリアとしての成功を収めてきた人物。その2人がPowerToFly創業に動いたのは、彼女たちがそれぞれの会社で重要ポジションの立場から「母親として働くことの現実」を目にしたからだった。

創業者の1人、Milena Berry氏は3人の子を持つ母で、長女が10ヶ月の時に国際的な社会活動を支援するNGO組織AvaazでCTO(Chief Technology Officer)に就任。その仕事柄、周りも男性ばかりの環境ではあったが、子を持つ母として20人いるリモートチームをまとめてきた。その中で「子を持つ女性でも活躍できる環境は実現できる、これを他の企業でも実践していきたい」と考えていたようだ。PowerToFlyが最初にテクノロジー業界に焦点を当てたのも彼女が強みとしていた分野だったからだ。

一方、もう1人の創業者であるKatharine Zaleski氏はThe Huffington PostやThe Washington Postでマネージャーを務めた経験を持つ。彼女も女性としてメディア業界で力強く働いてきたが子はおらず、Berry氏とは真逆の考えを持っていた。その当時母親業も兼任する女性社員に対して冷ややかな目線を持っていたとFortuneで語っている。彼女は自身の態度について謝罪しながら、次のように当時を振り返った。

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20代半ば、The Huffington PostそしてThe Washington Postでマネージャーとして、私は母親業を兼任する女性社員に対して数多くの悪態をついてきましたし、また私と同じ態度をとる人たちを咎めるようなこともしませんでした。

– 当日決まる社内の飲み会に参加できない母親たちに、私は密かに目を丸くしました。次の日自分や2日酔いの同僚よりも2時間早く会社に来て仕事をしていたのもかかわらず、彼女の「コミットメント」に私は疑念を抱いていました。

– 「あの女性社員が妊娠する前にとっとと解雇してしまおう」と発言する別の女性編集者を私は否定しませんでした。

– 私が同席した面接で、男性の上司が3人の子供を持つ女性を厳しく問い詰めました。「3人の子の面倒を見ながらこの仕事をこなすなんて一体どうやってできるのか」私は励ましの目線を送ることもしませんでした。そのとき、当時ケーブル局のトッププロデューサーだった女性が彼を見て答えました。「信じられないかもしれませんが、私は平日に子供の世話から解放されるのが好きなんです…あなたみたいにね」

– 私はいつも1日の最後のミーティングを4:30に設定していました。親が保育所に子供を迎えに行くことなんてまったく頭にありませんでした。彼らが8:30には出社していた中で自分は10:30まで仕事を始めなかったにもかかわらず、私は会社に遅くまでいることで自分の会社に対するコミットメントを見せようとすることに取り憑かれていました。

自分が今までやってきたことがどんなにひどいことだったか、その5年後に自分の娘を産むまでまったく気づきませんでした。彼女が生まれて1週目、私は「自分のキャリアは終わった」という気持ちでいっぱいになりました。それはまるで過去の自分が私に「もうあなたに価値はない」と言っているかのようでした。私はもうオフィスに10時間いることはできないから。そしては私は突然決まる飲み会には行けることはもうないのだから。

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Berry氏からPowerToFly起業の声を掛けられた時、Zaleski氏は子供を置いて1日10時間働く元の職場に戻るべきか悩んでいたという。結局のところ共同創業の決め手となったのは、Zaleski氏がこれまで常に出世を狙いリーダー職で人生をかけて働いてきたにも関わらず、今や親になる前の働き方にもどれる方法が一切ないと感じたからだった。「ただ女性を採用すれば良いというものではない、女性のための環境を作り出す必要がある。」過去の彼女が働く母親に対して持っていた偏見や考えを世間でも変える必要があると強く感じたからだった。

powertofly founders創業者のKatharine Zaleski氏(左)とMilena Berry氏(右)※画像はTaryn Roseより

まったく別の目線を持っていた2人だが、近年のリモートワークの普及に合わせて、スキル・経験を持つ母親たちがまた活躍できる社会を作っていこうと始めたのがPowerToFLyだった。

母親たちが働きやすい環境で企業の人材多様性の向上へ

そのような背景のPowerToFlyだが、彼らが社会から受け入れられているのは、「人材多様性」と「自由な働き方」という2つの社会的課題に取り組んでいる姿勢だ。「まだ見ぬ優秀なテック人材が欲しい」「人材多様性を高めたい」企業の課題と「テクノロジー関連職に挑戦したい」「家族を大切にしながらリモートワークで働きたい」という女性のニーズのマッチングを実現するプラットフォームが高評価を受けている。企業と女性の「次世代の働き方」を実現していく姿が市場に受け入れられている点だ。

経験を積み仕事で一番力を発揮できる30代は多くの女性が家族を持ち始める歳でもある。彼女たちがキャリアとライフを両立していく中で「女性人材の評価をオフィスにいる時間だけで行うべきじゃない」というのが、PowerToFlyが企業に広めている考え方だ。

創業者の2人は「次の10年間でリモートワークが企業と女性の関係性をさらに変えていく存在になると証明していく」と意気込む。「ダイバーシティ&インクルージョン」が今日より注目されていく中で、企業が経験や技術のある女性の採用を通じて多様性を実現したいと考えたときに同社プラットフォームを真っ先に思い浮かべられるように、最大の女性のプロフェッショナルネットワークを構築していくとBerry氏はMicrosoftのインタビューで強く語った。

最後に:「スキル重視の採用の結果、男性社員ばかり」は変わるのか

「スキルに基づいて採用を行った結果、多くの男性社員が職場にいる」こういった発言をよく耳にする。しかし、PowerToFlyでも同じようにスキルに基づいて社内の採用を行ってきた結果58人いる社員のうち55人は女性だという。これまで企業が人材の採用にスキルを重視してきたのは確かだろうが、そこには同時に人の「コネクション」も関係していると創業者の2人は言う。

PowerToFlyが提供するのは企業の採用担当者が持っていない、非常に高いスキルを持った女性たちのコネクションだと2人は語る。「今テック業界で女性の採用を熟知している企業を1つでもあげてみてください。女性の人材採用にはプレイブック(戦略)を必要としますが、まだ存在していません。」プレイブックを持たない企業にリモートワーカーの可能性を伝え、新たな採用の道を切り開く支援を行うのがPowerToFlyの存在意義なのだ。

近年リモートワークが増えつつある中でそれを取りやめる企業の話も一時期聞かれるようになった。しかしそれでもリモートワークを戦略的に取り入れていくのは、やはり人材採用や作業効率の観点から避けられない話のように感じる。今働き方が変わりつつある中で企業と女性の人材の関係性にどのような変化が生まれるのか。PowerToFlyの今後の動向が楽しみだ。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikoma オフィス業界における最新情報をリサーチ。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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