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【Primo Orpillaインタビュー#1】Studio O+AのPrincipalに聞く、西海岸流オフィスデザインの原点とは

Uber、Yelp、Facebookといった企業のオフィスをデザインし、Cooper-Hewitt Nation Design Awardを受賞したStudio O+Aの創業者にオフィスデザインの原点について話を聞いた。

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「社員は直感的に働きたい場所をわかっています。オフィスデザインはその直感をサポートできるような空間を提供することなのです。」

サンフランシスコ・ベイエリアで数々のスタートアップに取り入れられ、今では世界的に有名となった西海岸流オフィスデザイン。それを牽引するのがStudio O+Aである。彼らはこれまでFacebook、Microsoft、Nike、Cisco、Yelp、Uberといった企業のオフィスデザインを担当、昨年には全米で最も大きな影響を与えたデザインに贈られるCooper-Hewitt Nation Design Awardのインテリアデザイン部門を受賞した。

今回はそのStudio O+AのPrincipalであり、オフィスはもちろんプロダクトデザインも手掛けるPrimo Orpillaへインタビューを実施。彼の作品の一つである、移動型ミーティングルームバンの中で彼が語った西海岸スタイルへの想いを3回に分けてご紹介したい。

第1作目となるこの記事では、西海岸流のオフィスがどのようにして多様な働き方を推奨するような場になったのか、Primoがオフィスデザイナーになるまでの経緯と共にお伝えする。

 

西海岸の文化とオフィスデザインの発展

ここ、ベイエリアはオフィスデザインの発展にとって非常に特別な地域です。シリコンバレーからサンフランシスコまではたったの50マイルしか離れておらず、小さくコンパクトにまとまっています。そこにお互いに似たような気質を持った若い起業家たちが世界中から多く集まり、会社の成長と共に試行錯誤を繰り返して、働く環境を整えていく姿をこの目で見てきました。

このような環境の中でベイエリアという地域にとって「何が良いデザインなのか」「人々により大きな影響力を与えるデザインとは何なのか」という点について、様々な企業を通して記録していきながら少しずつ明確にしていきました。O+Aがインスパイアされてきたもののほとんどは企業カルチャーや企業概念をどのようにオフィスで表現しているか、という各企業の努力です。

2012年制作のYelpオフィス。「雑貨屋(General Store)」をテーマに、デザインの一部としてキャンディ等を売り物のように陳列し、遊び心を演出している。

ヒエラルキーを取り除くことで「集合的な脳」を生み出す

私が25年前にこの会社を立ち上げて以来、オフィスデザインに起きた変化と言えば、今まで存在していた社内でのヒエラルキーが取っ払われたことだと思います。分厚い壁で覆われた、プライベートオフィスに閉じこもっていた役員は、オープンプランに設計されたオフィス内の様々な場所で仕事をするようになりました。オフィスはより人の動きがでる集合的な空間になり、それとともにイノベーティブな発想がどこにでも起きるようになっていきました。

ヒエラルキーが深く根付き、役職やチームによって部屋が別れている組織では、アイディアが生まれるスピードは遅くなる傾向にあります。マネージャー、ディレクターなどを逐一通さなければならないと考えると、それは必然であるように思います。

新しいアイディアを歓迎するベイエリアの企業がそれをやめたことは理にかなっています。より多くの人がブレインストーミングに参加することによって、一つの集合的な脳(Collective Brain)が生まれることに繋がるのです。つまり、上司一人が考えるのではなく、70の頭脳が集まればより多くのアイディアが生まれる、というわけです。より多くの世代がコラボレートするという意味でも、これは非常に大切なことなのです。

Yelpオフィスでは様々な場所で会話が生まれている。

アイディアを共有しやすいオフィスが会社を活性化させる

「学ぶにはまず失敗しろ(”Fail first to learn”)」という言葉にもあるように、社員にアイディアを試しやすい環境を提供することは私たちが大切にしている概念です。もし失敗するようなアイディアが出てきても「よくぞこういうアイディアを出してくれた」と尊重することで、社員をより元気づけることができます。これは非常にベイエリアらしいことです。

他の多くの企業では、未だに社員のアイディアは上司によってコントロールされ、役員と共有する機会を設けることは容易ではありません。しかしベイエリアではまったくの逆で、役員や上司は社員により積極的にアイディアを共有してほしいと常に期待しています。そうすることで、問題がどこかで滞ることもなく、社員自身もより会社への貢献度を感じるようになります。

私たちO+Aができることは、このような環境を整えることであり、「コミュニティシンキング」と呼べる、集団的な脳を養う環境を作り上げることなのです。

オフィスは仕事をするためだけの場所ではない

私がオフィスデザイナーになろうと思ったのは、それまで深く考えられずにデザインされたオフィスをあまりにも多く見てきたことがきっかけでした。それに対して私は常々、責任を感じてきました。

我々アメリカ人も日本人と同じように長時間、上司・部下の関係がはっきりとしたヒエラルキーの中で働いてきました。しかしこのような職場の仕組みはすべて環境が生み出すものなのです。そのような場所で職場外でも交流のある友人を作ったり、食事をしたり、起きている時間のほとんどを使うことになります。そこで思ったのが、「ここを最高の場所にしよう」ということです。

仕事以外にも生活のほとんどが行われる場所であるからこそ、そこにいたい、と思うような場所を目指して環境を整えることは当然のことだと思います。「もう5時になったからオフィスを出よう」と時計を気にするような環境づくりはしたくありません。

2012年に担当した、Evernoteのオフィス。レセプションエリアはコーヒーとドーナッツが楽しめる意心地の良い空間にもなっている。

オフィスとは「人間らしさ」を取り戻す場所

私たちの生活は今日テクノロジーで溢れていますが、これが必ずしも快適な環境作りに繋がるとは限りません。実際に、テクノロジーが浸透しすぎているあまりに私たちは誰とも話さなくなっています。誰かに連絡を取るにしても、メールで済まし、電話をしようともしません。人と人との交流は少しずつ減っているように思います。

以前ロサンゼルスにあるコリアンタウンで、多くの若者が友人との時間を楽しもうと一緒に外食に来ているにもかかわらず、彼らのほとんどがスマートフォンを見続けているという光景を目にしました。本来、友人との食事は他人との交流を楽しむ場面、いわゆるソーシャルアクティビティであるべきです。それにもかかわらず、スマートフォンに夢中になって離れられない人々がいることを目の当たりにしました。

ここでさらに注意すべきなのは、これは若者層に限ったことではなく、全ての世代で起こっていることだということです。そしてこれはロサンゼルスに限った話ではありません。

今日のオフィスデザインでできることは働く人々を「人間らしく」させることだと思います。ワークプレイスでは古き良き昔の空間、テクノロジーがまるでなかったアナログ時代のスペースを作り出すことが可能です。スマホをしばらく置いて人と話すことで、一緒に働いている同僚についてもっと知ることができます。彼らが単に仕事で何をしているかだけでなく、それ以上のことも含めてです。

テクノロジーが今やあまりにも生産性を向上させるが故に、私たちはテクノロジーに身を任せてしまい、自分自身に時間を使うことがなくなっています。オフィスとはその時間を取り戻す場所なのです。

理想とすべきオフィスは学校と似ている

私たちは、テクノロジーと上手に距離を置く生活を実際に学生生活の中で自然に送っています。授業を受け、終わったあとは教科書やノートを置いて友人とカフェに行ったり、ビールやカクテルを飲みにバーに行ったりすることもあります。そうしてバイトや勉強を忘れて時を楽しむのです。

私たちがオフィスをデザインするときも、オフィスにおける生活の様々なヒントを学生生活から得ています。オフィスを学校のキャンパスと同じように捉えていると言ってもいいぐらいです。これからビジネスを支えるミレニアル世代の若者は皆このような学生生活から卒業したばかりなので、このような空間を作ってあげることでより快適に感じ、スマートフォンを始めとしたテクノロジーがなくてもリラックスできるようになります。結果として、彼らには非常に魅力的な空間として映るのです。

2011年デザインのワシントン州レッドモンドにあるMicrosoft Building 4。キャンパスにある図書館のように個人のワークスペース、ミーティングスペース、レクリエーションスペースになる空間が用意されている。

このように自分自身が学生時代、一学生として使っていた多種多様なスペースは、ワークプレイスでも実に実用的なスペースとなります。なぜならこういったスペースではどこでも仕事ができるからです。少し人が集まるような場所にいたければカフェ、それでなおかつ静かな場所がよければ図書館に行くし、自然の中で一人がいいときには広場や公園にいく。今挙げたものはすべて異なるスペースですが、私たちは今自分がベストなパフォーマンスを出せる環境を直感的にわかっているものです。

このように、一人ひとりが直感に応じて選ぶ場所をいくつも持っていることを、私は「スペースの分布範囲(the spectrum of space)」と呼んでいますが、ワークプレイスはこのように直感をサポートできるように準備された空間であるべきなのです。

思い出してみてください。あなたは教室や自分の部屋だけでなくキャンパス内の至る所で勉強して、しかもそれはすべて異なる理由であったはずです。理由ははっきりとはわからないけれども、友達と一緒に勉強したいときもあれば、一人で静かに集中したいとき、あるいはカフェテリアのように人がたくさんいて活発な会話が起きている中で一人で勉強したいときもあったはずです。ただ人がいる場所にいたい、なんてこともよくあることです。

ニューヨークにあるAce Hotel。ホテルのロビーであるにもかかわらず、多くの若者が個人作業をしに訪れる。

ニューヨークやロンドンにあるAce Hotelが若者に人気なのはそこに理由があります。ロビーには長いテーブルに大きなライトがあり、若者はそこにノートパソコンと共に現れますが、彼らは誰とも話をしません。ただ誰か人が集まる場所にいたいのです。そこで飲み物を頼み、自分の作業に没頭します。だから内気な人も社交的な人も同じスペースにいることになります。

私たちの周りには様々な好みのワークスタイルを持つ人がいます。そして彼らの好みも状況に応じて変わることが往々にしてあります。だから私たちはそういう人たちのためにもスペースを作っていく必要があるのです。

第二部に続く)

この記事を書いた人:Kazumasa Ikoma

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