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【Primo Orpillaインタビュー#2】良いオフィスデザインの鍵はユーザーにある

Studio O+AのPrincipal、Primo Orpillaのインタビュー第二作目となる本記事では、O+Aのユーザーとのインタラクション方法について見ていく。

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「時間をかけて社員と向き合った結果が私たちのデザインになるのです」

Studio O+AのPrincipal、Primoのインタビュー続編となる本記事では、人とオフィスデザインが相互にその価値を高める方法に焦点を置き、オフィスデザインが果たす役割と逆にそのデザインを活用するために社員に求められることを見ていく。デザイナー視点から見るオフィスと社員のあるべき関係性とは何なのか、Primoに話を聞いた。

社員に必要なのはまず率先して様々な空間を利用すること

オフィスデザインにできることといえば、会社が何を大切にしているかを表現できる点です。当然ですが、社員は会社の歯車の一部になりたくありません。会社がどれくらい社員のことを気にかけているか、自分の考えをちゃんと共有できる会社なのか。それらはオフィスをみて一目でわかります。

逆にオフィスデザインの弱点をあげるとすれば、社員がそのデザインのコンセプトを理解してスペースを使おうとしない限りその真価が発揮されないところでしょう。多くの人はデザインを取り入れるだけでコラボレーションをもたらしたり、コミュニティ形成ができると思い込んでいますが、そんな単純な話ではありません。

私たちのデザインを活かすには2つのリーダーシップが必要です。一つは率先してスペースを利用するようなリーダーシップを発揮する人の存在です。ここでは主に管理職やプロジェクトのリーダーに着く社員のことを指します。彼らが他の社員にもっと様々なスペースを使うように促し、自らも率先して使う姿勢を見せることで、オフィスの価値はさらに高まります。

逆に様々なワークスタイルを提供できるスペースを私たちがデザインしても、上司が「指定した席にいつもいるように」と指示しては全く意味がありません。結局デザインを無駄にすることになります。社員が気晴らしにボードゲームをしたい時でも気兼ねなく席を離れられるような雰囲気作りをしていくことが求められます。


2015年デザインのUberサンフランシスコオフィス。卓球やテーブルサッカーが置かれた部屋も積極的に使われている。

社員自身が「疑問に思う」姿勢を尊重

もう一つのリーダーシップは、社員一人ひとりが新しくデザインされたオフィスで働いてみて、そこで改善点を見つけ出していくような積極的な姿勢のことを指します。デザインをする側もそれを取り入れたスペースの使用を促す上司の側も、社員に「より良い使い方はないか」と疑う隙を与えてあげないといけません。

デザインを押し付けることを私たちは絶対にしません。むしろ社員にデザイン案を考えるプロセスに積極的に参加してもらうことを大切にしています。そのプロセスに携わっていた方がその後変化を加える時もスムーズにできるからです。

これは普段のビジネスと似たようなことです。コンサルティング会社が突然来て、「こことここを変えなさい」と言われてもその変化や改良をありがたいと思わなくなるし、その価値を見出そうともしません。社員自身が「疑問に思う」ことを私たちは尊重しています。

デザインを行う上で一番力を入れるのは企業文化の理解

オフィスデザイナーの仕事はデザインだけでなく、むしろ企業理解をするために徹底したリサーチを行うことの方が重要になります。なので私たちがデザインを行う上で、企業を「観察」することを特に大切にしてきましたし、今ではそれが私たちの得意とする部分にもなっています。私たちに仕事を依頼する顧客がオフィスをどのようなものにしたいか、彼らのカルチャーをどのように見せていきたいか、なんとなくの理想は持っていますが、その理解は顧客自身も100%ではありません。

なので私たちは通常2週間かけて実際にオフィスを見て回り、ユーザーとなる社員に意見を聞いて回ったり、リサーチを通して分析を行ったりします。そしてさらに2週間を費やしてより具体的なリサーチや分析を行い、企業の問題点を明らかにしていきます。

時には「会社の気に入らないところはどこか」「オフィスが原因で自分の生産性が下がっていることはあるか」等の厳しい質問も社員に投げかけます。企業によっては言いすぎると社員自身がクビになってしまうこともありますけどね(笑)だから私たちはあくまでも会社を良くすることを目的として、社員にオープンに話す機会を与えているのです。

2014年に自社でリモデルを行ったO+Aオフィス。リモデル前はデザインスケッチがデスクの上に溜まり、スペースを取るだけでなく、良いデザインが他の社員にも共有されないことが問題であった。そこでデスクのサイズを小さくすることでデザイン案を別の場所で保管するようになり、結果としてデスク上で使えるスペースがより広くなった。さらに社員の意見もあり、デザイン案を壁に貼ったことにより、良いデザインを皆が共有できるようにもなった。

私たちがすべきことは、とにかくできる限りの声を拾って社員が共存できるオフィスを作ってくことです。すべての社員同士の反りが合うことは難しいかもしれませんが、デザインを通して社員の不満の種を取り除くことはできます。社員への質問を重ねていく中で、「大きな声でしゃべっているのが気になる」とか「同僚の弁当の匂いで集中できない」等、小さい問題もたくさんでてきます。

このような問題にも対応できるように、オフィスを通してコミュニケーションを取りやすい雰囲気づくりを社員と一緒に行い、社員同士で解決できるような環境を作らなければいけません。また、社員が一人で気分を落ち着けることができるような別の空間や場所を提供し、社員自身が場合に応じてそうしたスペースも選択できるような環境を用意してあげることも大切です。

オフィスデザイナーの仕事とは、そういったことも含めた、社員のオフィスにおける包括的な経験を豊かにするものであり、社員に成長を促す機会を提供することでもあるのです。私たちがデザインをオフィスに落とし込んだ後も社員の変化に気を配り続けるのはそのためです。

2016年に担当した、San JoseにあるCiscoのオフィス。

文句なんて本当は私たちは聞きたくありません。ただそういった声を聞く耳があるということは彼らにとって非常に大切なことなのです。このように社員の本音を引き出し、企業の問題点を洗いだすのは、時間をかけて社員との信頼を構築し、じっくりと企業を「観察」してこそ初めてできることだと思っています。その改善点を反映させたものが私たちのデザインです。だから企業文化を知る時間を十分に与えてくれず、デザインだけを求める会社とは、私たちは仕事をしないようにしています。

オフィスデザインは会社と社員の意思疎通の場

日本ではどうかわかりませんが、私たちがベイエリアの社員に質問して回るとき、ミレニアル世代の社員は本当に多くのことを共有してくれますし、また同時に多くのリクエストも出してきます。それでもし改善が見られなければ他の会社で働く。サンフランシスコの人的流動性が高く、オフィスデザインへの注目がさらに高まったのもそのためです。彼らは自分の10年後、20年後のことまで考えていません。一つのところに留まらず、色々な企業を渡り歩いて、自分が本当にいるべき家族、集団、企業というものを探して行くのです。

だから企業の努力が見られなければ今の社員はすぐに離れていきます。今まで以上に優秀な社員を引き止めるのが困難になっているのです。彼らは企業が「聞く耳」を持っているかどうかを非常に気にします。そして企業はただの変化ではなく、彼らにとって「意味のある」変化をもたらさなければなりません。さもなければ答えは一つ、彼らはただ去るのです。

このような背景から、今では企業もオフィスデザインを通して、企業のカルチャーを鮮明に表現し、優秀かつそれに合う社員をより厳しく選別しています。オフィスデザインは会社と社員の意思疎通の場になっているのです。

新たな世代に向けたオフィスデザイン

ミレニアル世代のみならず、今後も新たな世代が出てくることでしょう。彼らがどんな行動をとり、どんなことに興味を持つか観察していこうと思っています。

今日のオフィスではすでに5つの異なる世代が共存しています。1946年以前に生まれ、社内でヒエラルキー制度を構築してきたトラディショナリスト、1946年から1964年にかけて生まれ、ワーカホリックという言葉が生まれるほど特に仕事熱心なベビー・ブーマー世代、1965年から1976年の間に生まれ、地位よりも経験やパフォーマンスを重視する世代であるジェネレーションX、1977年から1997年生まれでワークライフバランスを大切にするミレニアル世代、そして1997年以降生まれでソーシャルメディアでのコミュニケーションやリモートワークに強い興味を持つZ世代です。今後のオフィスはこういったより多くの世代が共存するため、さらに複雑になりながらもより重要な場所になると考えています。

職場は今や生活のより多くの部分を担う空間で、人と人が共に働いてより多くの時間を過ごし、そこで何かしらのサービスや製品をそれぞれの企業の方法で作り上げる集合体のための場所です。だからこそ私たちはもっと人同士の動きが活発になるように社会的相互作用(ソーシャルインタラクション)を増やすようにしています。

私たちはデザインを通してもっと社員の声が聞き入れられる場所や機会を増やそうとしているのです。これは社員がどのようなサービスや製品づくりに取り組んでいるかにかかわらず、良い職場を作る上でとても基本的なことだと思っています。良い職場で働くことで、社員はライフワークをやっているように自信を持ち、今自分にとって大切なことに努力していると感じるようになるのです。

(第3部に続く)

この記事を書いた人:Kazumasa Ikoma

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