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人生100年時代のキャリアパス。「リカレント教育」で働く自分をアップデート

[July 26, 2022] BY Hiromasa Uematsu

人生100年時代を迎え、長くなる“現役期間”

2016年に出版された『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著、池村千秋訳、東洋経済新報社)が描いた未来予想図は、驚きをもって日本社会に受け入れられた。書籍のなかでは、日本で2007年に生まれた子どもについて、107歳まで生きる確率が50%以上もあるという研究が紹介されている。まさに人生100年時代の到来だ。

厚生労働省の発表によると、令和2年時点の日本人の平均寿命は男性で81.64歳、女性で87.74歳だという。将来的に平均寿命が100歳を超えるとすれば、単純に私たちの人生は20年ほど長くなる。それに伴い、引退年齢は現在の60〜65歳から70〜80歳ほどに延び、私たちの働く期間、すなわち“現役期間”も10〜15年ほど長くなる可能性が高い。

人生は「3ステージ」から「マルチステージ」へ

現在の私たちの人生は、10〜20代前半の「教育ステージ」、20〜50代の「仕事ステージ」、60代以降の「引退ステージ」の大きく3つに分類される。学生時代に学んだ知識や若手時代に得た経験・ノウハウを、40〜50代の働き盛りに活かし、60代になって後進に道を譲る。これが典型的なキャリアの形と言えるだろう。

しかし、人生100年時代になるとこの常識は覆される。仮に20歳で社会に出て80歳で引退するとすれば、現役期間は60年に及ぶことになる。

この間にビジネスのトレンドは変化し、若手時代に培った経験は陳腐化してしまう。フォースタートアップス株式会社が2022年1月に発表した「2022年世界時価総額ランキング。世界経済における日本のプレゼンスは?」を見てみると、TOP10企業のうち8社は60年前には存在すらしていなかった。今後は、20代の頃に所属していた業界自体が消滅してしまう可能性もあるだろう。

そこで必要になってくるのが、キャリアの途中で改めて新たな教育期間を設けたり、副業やボランティアを行うなどして、バラエティに富んだ経験や知識を習得しつづけること。つまり、複数のステージを行き来する、マルチステージのキャリアプランだ。特に重要となるのが学び直し、いわゆる「リカレント教育」である。

「学ぶ社会人」と「学ばない社会人」では年収にも差が生まれる

リカレント教育について、2021年8月の政府広報オンラインでは以下のように表現している。

「リカレント(recurrent)」とは、「繰り返す」「循環する」という意味で、リカレント教育とは、学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことです。
政府広報オンラインより引用)

キーワードは「繰り返し」だ。学び直しと言っても、教育の期間を1回追加すればよいわけではなく、自身や社会の情勢に応じて、その都度、学びを経験するような柔軟性が求められる。つまり、リカレント教育とは単なる社会人学習ではなく、「時代の変化に対応するための行動」とも言えそうだ。

よく似た言葉に「生涯学習」がある。生涯学習が仕事以外にも趣味や生きがいなど広い意味での学びを包含しているのに対し、リカレント教育はあくまでも仕事に活かすための知識やスキルの学びである点に違いがある。

リカレント教育の短期的な効果についても考えてみよう。内閣府の「平成30年度 年次経済財政報告」では、社会人の学習が仕事や収入にどう影響するかが示されている。

(画像は内閣府「平成30年度 年次経済財政報告」より)

この報告によると、30代以上の社会人を対象とした調査では、自己啓発を行っている群は行っていない群に比べ、就業確率が10〜14%上がっている。また、3年後には、年収が約16万円高くなっていることがわかる。

時代に対応するためにも、目の前の労働環境や経済状況を改善するためにも、社会人学習は欠かせない行動と言えるだろう。では、私たちは自分にふさわしいリカレント教育を、どのように探し、選べばよいのだろうか。

そこで参考にしたいのが、社会人のリカレント教育を支援するWebサイト「マナパス」だ。文部科学省から事業委託を受け、丸善雄松堂株式会社が運営している。マナパスでは、全国の大学や専門学校などで提供されている社会人向け講座がデータベース化されており、地域や費用、学びたい分野などの条件で検索することができる。

また、どのような講座や学習分野がよいかを判断するために、特集記事や先輩学習者の経験談、ランキングなども掲載されている。最初の一歩を踏み出したい方は、チェックしてみるとよいだろう。

このほか、専門のコンサルタントに自身のキャリアや今後の能力開発に関する相談を行う「キャリアコンサルティング」もおすすめだ。特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会が提供している「キャリコンサーチ」では、国のキャリアコンサルタント名簿に登録しているキャリアコンサルタントを検索することができる。また、厚生労働省の委託事業「キャリア形成サポートセンター」では、就業していれば無料でキャリアコンサルティングを受けられる。

活用したい4つの公的支援制度

厚生労働省の平成28年度「能力開発基本調査」によると、正社員が自己啓発を行ううえでの問題点として、「忙しさ」に次いで「費用負担の高さ」があげられている。そこで活用したいのが、各種の支援・給付制度だ。ここでは一般的な制度を紹介する。

①教育訓練給付金

対象講座を受講・修了した場合、受講費用の20〜70%の支給が受けられる制度。対象となる講座は約1万4000講座もあり、専用の検索システムで探すことができる。オンライン受講や夜間・土日受講ができる講座もあるため、自分に合った講座を見つけやすい。受講できる講座は介護・IT・士業などの資格取得を目標とするものが多いようだ。

②高等職業訓練促進給付金

一人で子育てをする母子・父子家庭の親を支援する制度。資格取得を目指して訓練を受ける間の生活費を支援するもので、月額10万円が支給される。看護師、保育士、調理師、製菓衛生師などの国家資格や、シスコシステムズ認定資格、LPI認定資格のようなデジタル分野など民間資格の取得訓練が対象となっており、シングルマザーやシングルファザーのキャリアチェンジ・アップを後押しする。申し込みは、居住する都道府県や市区町村の窓口で受け付けている。

③ハロートレーニング(公的職業訓練)

希望する仕事に就くために必要なスキルや知識を習得できる制度。ハローワークの求職者の場合、テキスト代などを除いて無料で受けられる。また、在職者を対象にした有料の訓練も準備。厚生労働省の資料によると、訓練受講者の約8割が就職に成功しており、なんらかの理由でキャリアがストップしてしまった人も、この制度を利用することでキャリアの再始動を目指すことができる。受講できる訓練については、ハローワークのデータベースで検索が可能。

④DX等成長分野を中心とした就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業

新型コロナウイルス感染症の影響を受けた、就業者・失業者・非正規雇用労働者などを対象に、就職・転職支援に向けた教育プログラムを提供する文部科学省の事業。デジタルトランスフォーメーション(DX)などの成長分野を中心としたプログラムを、大学や専門学校、高等専門学校などが労働局や企業、業界団体などと連携して実施するものだ。

2022年度は、48機関57プログラムが採択された。本事業ではさらに、受講生に対してキャリアコンサルティングを行うとともに、労働局やハローワークと連携して就職支援も行う予定。厚生労働省の職業訓練受講給付金と連携し、対象者は無料で受けられるプログラムもある。2022年7月より出願が開始される。

企業も後押しする、社員のリカレント教育

ここまで、国や自治体、大学などが推進する学習支援や講座を紹介してきた。現在、社会人のリカレント教育は、民間企業においても重要なテーマとなっている。

事業の存続・成長のためには、企業自身も変化を続けねばならず、そのためには社員の変化が必要となる。また、学習・成長する環境を用意することで、人材流出を防ぐ目的もあるようだ。続いて、国内企業を中心に、社員のリカレント教育を支援している企業の事例を紹介する。

事例①ソニーグループ

ソニーグループでは、2015年から「フレキシブルキャリア休職制度」を導入している。本制度では、仕事に活かせるスキルの向上を目的に私費就学する際に最長2年、配偶者の海外赴任や留学に同行して知見や語学の向上を図る際に最長5年の休職が認められる。

CHANTO WEBによると、本制度を利用した休職中に給与は出ないが、社会保険料は支給されるという。また、私費就学の場合、最大50万円までを会社が負担する。配偶者の海外赴任や留学への同行も含めている点がユニークだが、これは「異文化生活を通じた知見の拡大や、語学・コミュニケーション能力の向上は、復帰後の日々の業務に生きてくるものと期待」したものだ。

事例②サントリーグループ

サントリーグループでは、2015年に人材育成プログラム「サントリー大学」を開校。各種の自己啓発プログラムを社内で準備・提供している。社内プログラムとすることで、自社の精神や方針に基づいた学びを提供する狙いがあるようだ。

ハーバード大学と提携した1週間の集合研修「サントリー・ハーバードプログラム」や、ケンブリッジ大学とパートナーシップを組んだ約半年間にわたる「Global Leadership Development Program(GLDP)」では、グローバルな経営マインドやリーダーシップのあり方を習得できる。

また、自己啓発支援プログラム「SDP(Suntory Self-Development Program)」として様々な研修や講座を用意。キャリア形成の実現に必要なビジネススキルの修得を主眼とした約40種の研修コースのほか、英語力強化のプログラムやeラーニングも整備している。本人の意思で参加するものであり、基本的には有料だが、研修費用の一部を会社が負担している。

事例③キヤノングループ

キヤノングループでは、「キヤノンプロダクショントレーニー制度」として、3年にわたって主に工場で勤務し、キヤノンの生産管理や工場経理などを学べる機会を提供している。対象となるのは本来、工場勤務とは縁の薄い新卒の事務系や経営工学系の社員だ。キヤノンのものづくりの根幹である工場業務を知ることで、現場感覚を持ったオールラウンドプレイヤーを育てることを目的としている。

グローバル企業であるキヤノンらしい制度としては、「アジアトレーニー制度」や「欧米トレーニー制度」がある。海外現地法人で1年〜1年半にわたって実務研修を行い、国際的なビジネススキルやマインドを醸成する。技術者の場合には、海外の大学の大学院修士課程への留学を支援する「技術者海外留学制度」を用意している。

学べる環境選びが人生を左右する

現役期間が長くなれば、一つの会社で勤め上げる可能性は低くなる。そうなれば、次のキャリアへとつながる知識やスキルの習得がより必要性を増していく。

これまで、私たちが職場を選ぶ際には、仕事内容・給与・福利厚生などの条件が主な基準となっていた。しかし、これからは、その職場で働くことで「どのような学びが得られるか」がより重要になってくるだろう。

社内教育制度の有無で勤め先の魅力が変化するだろうし、リカレント教育を受けられる教育機関があるかどうかで居住地の候補は変わるだろう。学べる環境があるかどうかが、あなたの人生を変えると言っても過言ではないのだ。

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この記事を書いた人

Hiromasa Uematsu 編集者/インキュベーションマネージャー。観光系Webメディアの編集長を勤め、企業・自治体のPRコンテンツを作成。約3年でメディア規模を10倍に成長させる。現在は「Aomori Startup Center」の相談員として起業家・経営者を支援しつつ、これからの地方の働き方を発信している。



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