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【Seth Hanleyインタビュー#1】小さな事務所の大きな影響力ーDesign Blitzのデザインに密着

サンフランシスコに拠点を置くデザイン事務所、Design Blitzのデザイナー、Seth Hanley氏に彼の手掛けたプロジェクトについて話を聞いた。

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サンフランシスコ・フィナンシャル地区に拠点を置く建築兼インテリアデザイン事務所、Design Blitz。地区の中でも比較的静かな通りに佇むこのデザインスタジオは、これまで世界中の企業に大きな影響を与えてきた。

Microsoftサンフランシスコオフィスを始め、Autodesk, バンダイナムコ、Dropbox、Instacart、Skype、Slack, Spotify等、名だたるテクノロジー企業から、カリフォルニア大学バークレー校のアカデミックイノベーションスタジオ等の教育施設まで、様々な建物が彼らの作品の一つとなっている。

今回、同社代表兼クリエイティブディレクターのSeth Hanley氏にインタビューを実施。彼が手掛けてきたプロジェクトの話を聞いた。

着実に評価を得てきたBlitzのデザイン

私たちはこれまでアメリカ国外を含む様々な地域でのテック企業のオフィスデザインを担当してきました。最初はそれこそサンフランシスコ市内のプロジェクトが中心でしたが、幸運にも私たちのデザインは好評で、いつの間にか少しずつその輪を広げていきました。今でもこのスタジオから歩ける距離でいくつものオフィスが私たちのデザインであることを思うととても誇らしい気持ちです。

サンフランシスコ・ベイエリア周辺で手掛けたオフィスの一つに、全米でも指折りのオフィス家具の販売企業である、One Workplaceのオフィスがあります。大きな倉庫内にある広々としたオープンスペースを持ったオフィスの中央に、特徴的なシンボルとなるS字のスペースを取り入れました。

同社は世界でも有数のオフィス家具メーカー、Steelcaseの製品を取り扱っている、サンフランシスコ・ベイエリア唯一の代理店ということもあり、そのS字の上部に開放的に見渡せるミーティングルームを置くことで、同社社員が実際に使っているSteelcase製品をショールームのような体験で顧客に見てもらえる工夫が施してあります。初めはインテリアデザインだけという話でしたが、このデザインが高く評価され、外観を担当することにもなりました。

社員の世代間の違いに着目する

1925年に創業したこのOne Workplaceを含め、これまでの伝統的な企業の間で今トレンドとなっているのは、上に積み上げるような高層階の建築デザインよりも、大きな敷地を確保し、縦よりも横に広がりを見せることができるフラットなデザインです。以前よりも働き方の違いが大きく異なる世代が同じワークスペースで共に働いていますが、多くの企業がそのような社員の交流を促すというところに一つの課題を感じている段階です。こういった問題がある中で、そのような多くの世代をいくつもの階に分けてしまうより1つの広い階に置いたほうが、普段話すことがあまりない社員同士に顔を合わせる機会を与えることができます。結果として世代間における活発な交流が期待できるのです。

上の世代に行くほど、新しくデザインされたオフィスに抵抗感を持つ人は少なくありません。そういった人たちに私たちがよく訴えかけるのは、デザイナーの仕事は今まであった何かを取り上げるのではなく、さらに何かを付け足していく、ということです。そのオフィスで働く人にとって自分好みの働き方を実現できるとなれば、前よりもずっと良い体験ができるというのは説明に難くないと思います。

チームとしてまとまって働けるような環境を作る、これはもちろんオフィスに必要なことですが、同時に1人になれるような空間や2、3人で気軽に集まれる部屋を用意してあげることも重要です。サンフランシスコ・ベリエリアでオフィスデザインが注目されているのは、そういった多くのワークスタイルオプションを社員に提示し、オフィスにいる全員が満足にいられるような多彩な空間を提供しているからなのです。

サンフランシスコにあるSquaretradeのオフィス

“Serious, Creative, and Fun”

働く、ということに真剣な人ほどオフィスデザインに興味を持ってもらいたいと思っています。2016年に完成したバンダイナムコのプロジェクトは特に良い例です。

このプロジェクトは「真剣であること」そして「遊び心のある楽しいものであること」の2つのバランスを取ることに努力を費やしました。まず1つ目の「真剣であること」というのは、同社で重要な仕事に取り組む真剣な社員に貢献できるように、私たち自身も真剣に向き合ってデザインしたところです。人が窮屈に感じたり逆に他の人との繋がりを失うように感じたりしないようにしながら、数多くのミーティングルームを用意して企業の働き方に合った空間を提供しました。

そしてもう1つは楽しむ要素を取り入れている点です。同社の代表的なゲームであるパックマンからインスパイアを受け、オフィスに細めの通路をいくつも張り巡らし、遊び心とブランドの世界を演出しました。こういった細部にわたる工夫をいくつも取り入れて楽しい世界を作り、クリエイティブかつ楽しい空間を作って、人が集まるようなオフィスを作ることは私たちデザイナーにとっても心地の良いことです。

この2つの要素をデザインに取り入れることは非常に難しい課題でしたが、真剣さと楽しさの共存、そこに企業の文化を表現していく要素を織り混ぜるということを考えると、非常に面白いプロジェクトでもありました。

訪問者に企業のブランド力と国の文化の両方を感じさせるオフィス

オーストラリア・メルボルンにあるZendeskオフィスは私たちが特に記憶しているプロジェクトです。クライアントも素晴らしく、建築デザインとしての下地が良かったこともあって、私たちのインテリアデザインは非常に高いスタート地点から動き出しました。

このオフィスのメインユーザーは主に同社のエンジニアチームであったため、静かな集中スペースとコラボレーションのためのオープンスペースの両方を用意しました。電話ブースやパソコン作業用のバーテーブルエリア、プライバシーを保護できるミーティングルームや気軽に集まれるラウンジスペース、さらに高さを調節できるデスクスペースを導入して、どこでも作業ができるようになっています。

オフィスの中央に置かれたコラボレーティブスペース。オフィスの全体の景観を壊さないようなデザインが心掛けられた。

Zendesk本社であるサンフランシスコオフィスも強く記憶に残っているプロジェクトです。こちらも歴史的な建物で建築物としての素材も素晴らしく、そこに近代的なデザインを組み込むという非常に難しいプロジェクトでもありました。その素材を美しく見せるために、何かを付け足すということよりも、何を取り払えるか、何か不必要なものはないか、という点に注力しました。写真で見えるレンガ壁はヤスリで擦り、よりレンガが印象強く見えるようにしています。このように素材を活かす方法を考えてから、仕事環境に適合した空間を整えていく、という手順をとりました。

Zendeskオフィスのプロジェクトは4カ国、計5つの都市で行いました。その5つのプロジェクトを通して、企業の一貫した文化を反映させながら、その国の特徴を表現していくことは非常に面白い試みでした。人がそのオフィスに入った時にどのような会社にいるのかわかってもらうことは大切ですが、それと同時にどの国、どの場所にいるのかを感じてもらえるようにすることも大事なポイントだったのです。

Zendeskのアイルランド・ダブリンオフィス
Zendeskイギリス・ロンドンオフィス
Zendesk アメリカ・ウィスコンシン州マディソンオフィス。Zendeskの核となるブランドイメージは「空気感、謙虚さ、可愛らしさ、率直さ(airy, humble, charming, and uncomplicated)」。全オフィスを通して、余計なものはなるべく置かないミニマリスト的な空間を目指し、木を用いてオーガニック感を表現、白い壁で自然な色合いを強調した。

アメリカ国外でのプロジェクトはこれ以外にもたくさんありましたが、どれも楽しい経験ばかりです。その国でかっこいいとされるデザインに触れ、何がかっこいいとされているか、そのイメージを掴むのです。そして私たちが学べるものは何か、私たちが持っている知識とどのように融合できるか、を考えていきます。

また、私たちのデザインに対してその国の人々がどのようにアプローチし、反応するかを見ることもできます。デザインの意味というのは国によって変わり、デザインに求められることもおのずと変わります。そういった自分にとって新しい考えに刺激を受けて自分のデザイン技術をリフレッシュさせていきます。多くの学びをそれぞれの国のデザインから得て、その理解を表現したものが私たちのデザインとなるのです。

第2部に続く)

この記事を書いた人:Kazumasa Ikoma

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