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昼寝を促す環境は健康経営の証 – 昼寝専用チェア「エナジーポッド」CEO取材

[August 06, 2019] BY Kazumasa Ikoma

働く環境における昼寝文化が今日本でも注目されつつある。

昼寝と作業生産性の関係性が周知されるようになり、昼寝部屋を導入する企業オフィスの事例を目にする機会は増えた。また10〜20分程度のパワーナップに、摂取から20分後に効果を発揮するというカフェインの特徴を利用した「コーヒーナップ」も新しい常識になろうとしている。昼寝を促す環境は次世代のオフィスづくりに求められる要素の1つといって間違いない。

今回、「眠らない街」と名高いニューヨークで2004年からパワーナップ専用のイス『エナジーポッド(Energy Pod)』の開発に取り組んでいるMetroNaps社の共同創業者兼CEOのクリストファー・リンドホースト(Christopher Lindholst)氏に取材を実施。彼は先日の「増える『昼寝推奨』企業、アメリカ事例から現状を探る」記事にて紹介した「今や企業は『昼寝制度を社内で採用するか・しないか』という議論ではなく、『それを取り入れるスペースと予算があるか・ないか』という議論の段階にある」という言葉を放った張本人でもある。

この記事では、過去にいくつものメディアに取り上げられてきた同社製品の紹介はあえて簡単に、彼がこの15年間世界中で見てきたオフィスの昼寝文化に対する企業の認識の移り変わりを深掘りする。

パワーナップ専用に開発されたイス

『エナジーポッド』が初耳だという読者のために簡単に紹介したい。エナジーポッドは「ワークプレイスでの昼寝用にデザインされた世界初のイス」とMetroNaps社が掲げている製品。2004年の創業以降メディアには定期的に取り上げられていたが、より注目されるきっかけとなったのは2012年のGoogleへの導入だろう。現在ではNikeやP&G、PwCといった世界的企業やNASA等の機関、また大学等多くの教育機関にも導入されている。

「ワークプレイスでの昼寝」特化のイスには具体的にどのような工夫が施されているのか。以下がエナジーポッドが持つ4つの特徴である。

①人間工学に基づいた形状
製品の第一の特徴は、人間工学に基づいた座席の形状だ。リクライニングの角度はNASAの研究に基づき、体重を均等に分散し血液循環を安定させる「無重力状態」の姿勢になるよう、人間の足とひざが適度な高さに上がるように設計されている。

②入眠、覚醒に効果的なプログラム設計
2つ目は半球状のバイザー内の音響演出。MetroNaps社は快眠アプリを提供するPrizzと2016年に提携し、心理音響学を使ったスムーズな入眠を促すプログラムを導入している。また20分を大幅に超える「仮眠しすぎ」からの疲労感をユーザーに感じさせないよう、一定の時間が経てばバイザー内が明るくなる仕組みになっており、①の特徴と合わせて昼寝の効果を最大限に引き出す。

③最小限に抑えたサイズ
縦212cm、横122cmのサイズは「オフィススペースをできるだけ使わず、どこにでも置ける」ようにリンドホースト氏がこだわった設計。バイザーで視覚的なプライバシーの保護と聴覚的に入眠しやすい音響演出を行うため、昼寝専用の部屋を確保しなくても昼寝環境を用意することができる。

④簡単なメンテナンス
昼寝環境を検討する企業のオフィス担当者から時折挙がるのが「ベッドだと衛生面が心配」という懸念の声。エナジーポッドはあくまで『チェア』であるため、メンテナンスも比較的簡単で、清潔感も維持しやすい。

オフィスへの導入のしやすさ、そして昼寝効果の最大化を目的に創業時から改良が重ねられたエナジーポッド。現在ではアメリカを飛び出し、デンマーク・コペンハーゲンやイギリスにもオフィスを構えヨーロッパでの展開を進めるほか、シンガポール、香港、オーストラリアにも進出。そして日本でも今年1月から代理店・アースエンジニアリング株式会社を通じて、同製品の展開を始めている。世界的なオフィスの昼寝トレンドを見てきたリンドホースト氏は今の流れをどのように見ているのか。

創業から15年、ついに昼寝が受け入れられるように

「15年前にオフィスでの昼寝を提案した時、数社は驚きを見せたがどこも相手にはしてくれなかった。」筆者の最初の質問に対し、リンドホースト氏はこのように始めた。

人は仕事が忙しくなると、睡眠を犠牲にすることが多い。一方、世界中の企業の人事担当者は健康経営を実践する上で、栄養素の高い食事やジム・フィットネスのようなウェルネスプログラムに注意を向けるが、なぜか睡眠には目を向けてこなかった。本来、睡眠は食事や運動と並ぶ「健康における3本目の柱」であり、この認識をこれからの企業は持つべきだと彼は語る。

企業の反応がここ数年で劇的に変わったのは、従業員の健康と生産性の関係を早い段階から着目していたテクノロジー企業の存在が大きいという。人材獲得において激しい競争を強いられるテクノロジー企業では、昼寝専用の環境も他業界に比べ早い段階から積極的に取り入れられた。働く場のあり方を再考するきっかけを作ったGoogleや「高い顧客満足度を実現するためには、まず社員の満足度を上げることが大切」と謳うZapposのような企業がオフィスで昼寝環境を充実させたことは、のちにオフィスでの昼寝文化に対する世間の理解を後押しした。

テクノロジー業界での浸透後、金融や病院、出版業界など、伝統的なオフィス環境で長時間勤務が根強く残る業界にもエナジーポッドは導入された。勤務時間の長さは業界の性質上簡単に変えられないが、その中で健康状態を少しでも改善し高い生産性を維持するには昼寝文化を認めるべき、という方向に舵を切る企業が増えたのだろう。また昼寝を効果的に取り入れる癖を身に着けている多くのミレニアル世代の人材が労働人口の多くを占めるようになったことも関係している、とリンドホースト氏は見る。

「昼寝文化の浸透はアメリカでかつて見られた禁煙文化の動きと似ている」とリンドホースト氏。かつてアメリカでもオフィス室内喫煙はワーカーたちの当然の光景であったが、数十年の意識改革の末に、今では誰もそれがあったことを信じようとしない。それと同じような意識改革の現代版が、昼寝習慣なのである。

広告業界の会議室の様子(1970年代)

今や昼寝は「サボる」社員ではなく、「デキる」社員がすること

もとは睡眠用オフィスチェアの小売企業として始まったMetroNapsだが、今では昼寝をどのように企業のワークカルチャーに組み入れるかアドバイスを行う「睡眠コンサルタント」としての役回りがメインだという。彼曰く、企業の「認識は高まっているがまだ十分ではない」らしく、他人の睡眠に対しネガティブな偏見を持つ社員の存在もまだ少なからずあるようだ。

彼が同社を起業するきっかけとなったのは、職場での昼寝についてヒアリングを行った際、誰も仕事中に寝ている姿を見られたくないという声が最も多く挙がったことだった。人によってはトイレの個室や車、もしくは使われてない会議室でこっそりと休憩を取ることもあれば、カフェインで体内時計を無理やりコントロールするという人もいた。「昼寝をする」行為そのものがサボりに見られかねないというワーカーの不安感を取り除き、どのように昼寝推奨の文化を築けるかがMetroNaps社の最大の使命の1つとなった。

昼寝推奨の環境を検討する企業はその時点である程度の柔軟性を持っていると言えるが、昼寝文化が基本となるまでは職場の人混みから少し離れた場所に昼寝スペースを設ける必要があるとリンドホースト氏。人のエネルギーレベルが下がる午後1時から4時の間に昼寝を促すことで、ワーカーがオフィスでの仮眠に慣れるよう昼寝教育を少しずつ実践していくという。

MetroNapsが2016年から開始した「コネクテッドポッド」プロジェクトはその昼寝教育をさらに効果的に進める上で期待が寄せられている。ポッド同士をつなげることで、どのポッドが一番利用されているか、またオフィスのどこに設置するのが一番効果的か、企業側がデータのトラッキングを行うことが可能になる。また「ワークプレイスにおける睡眠」という分野で深掘りするために、病院やテクノロジー企業、金融企業など業界や働く文化による昼寝パターンの違いの発見にも役立つと注目が高まる。

これまでは人材獲得施策という目的で導入されることが多かった昼寝環境。しかし今では、世界的な人材を育て上げる上で欠かせない「働く習慣」の1つと捉える企業が業界を限らず増えたとリンドホースト氏は話す。高い生産性を発揮する社員ほど昼寝を効果的に利用する、このポジティブな事実を広めたいと彼は強く語る。

エナジーポッド導入増で昼寝はさらに身近に?

次の5年、10年の動向をリンドホースト氏に聞いたところ、エナジーポッドのワークプレイスにおける需要と積極的導入は今後も加速し、それと同時に他のショートレストのソリューションも次々と生まれるだろうと彼の予測を語ってくれた。特に昨今ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)に人気が集中する中で、オフィス環境には「人が集まって仕事をする」というコラボレーション的要素が重要視され、集団での高い生産性を求められる環境でこそショートレスト製品の効果は発揮されると見ている。

先ほども触れたが、エナジーポッドはワークプレイス以外にも大学等の教育機関にも導入が進んでおり、さらに今では空港ラウンジやフィットネスジムといった場所でも取り入れられている。さらにリンドホースト氏はコワーキングスペースへの導入やコーヒーナップを狙ったカフェとの提携も視野に入れており、ユーザーである私たちの方が昼寝を積極的に活用する癖を早く身につけなければならなくなりそうだ。

ちなみに日本参入を果たした彼は日本のカプセルホテルを見て、国としての睡眠に対する前向きな意識に高い評価を示していた。しかしその一方で、必要な睡眠がしっかりと取られていない現状も見逃していない。実際に日本のエナジーポッドの導入事例はごくわずかの日本の大手企業に限られており、日本における働く人と睡眠の関係性はこれから改善の余地が多くありそうである。

取材を終えて

エナジーポッドはその形状や世界的な大手テクノロジー企業への導入実績から、数年前まで近未来的なオフィス家具の1つとしての注目を集めることが多かった。しかし、継続的な取り組みや昼寝に対する社会の反応の変化もあり、今では昼寝の重要性を本質的に考える企業の数もかなり増えている。効果的な人材活用を行う企業ほど、睡眠を上手に社員に促進する環境を整えており、今後健康経営の重要な指標の1つになりそうである。

リンドホースト氏は、インタビューの最後に彼のお気に入りの引用を教えてくれた。「エネルギーを管理することは時間の管理よりも重要である(”Managing your energy is more important than managing time.”)」タイムマネジメントは働く人にとって必要なスキルだが、それよりもエネルギーマネジメントが今後さらに求められるスキルになるかもしれない。世界的なトレンドとなりつつある「オフィスでの昼寝」が日本でも浸透するのか、その動向を見届けたい。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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