【イベントレポート】オフィスを運営するのは総務?それとも人事? 半歩先のコミュニケーション・マネジメント術
2025年11月、株式会社フロンティアコンサルティングの東京本社にて、「オフィスを運営するのは総務?それとも人事? 半歩先のコミュニケーション・マネジメント術」と題したイベントが開催されました。
イベントには、武田薬品工業株式会社の藤田陽子さんとフリー株式会社の豊村麻美さんが登壇。オフィスをマネジメントする立場からさまざまな工夫を凝らし、活発な社内コミュニケーションを実現しているお二人に、「Worker’s Resort」を運営するフロンティアコンサルティングの稲田晋司を交え、これからの時代における理想的なオフィスのあり方について議論が交わされました。
Facility, Culture
登壇者 ※五十音順
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稲田 晋司/いねだ しんじ
株式会社フロンティアコンサルティング 執行役員/デザイン部部長、一級建築士。フロンティアコンサルティングには設立時より参画し、デザイン部門の責任者を務める。2020年に同社でR&Dチームを立ち上げ、企業のオフィス構築に関するリサーチ業務に携わる傍ら、2023年5月より地元・伊豆大島に「都市と地方の共存社会を、多様な働き方から描く」ことをパーパスとした、コワーキングラボ「WELAGO」の運営をスタート。
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豊村 麻美/とよむら あさみ
フリー株式会社 人事基盤事業部 Work Assist部 Nest Developmentチーム マネージャー。ブライダル事業会社に新卒入社し、プランナーを経て店舗開発部門にて施設管理や新規出店プロジェクトに従事。その後、ゲーム関連企業への転職を機に総務職へキャリアを転換。2023年、フリー株式会社に入社。総務チームのマネージャーとして組織運営を担う傍ら、ファシリティマネジメントおよび秘書業務の実務も兼務している。
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藤田 陽子/ふじた ようこ
武田薬品工業株式会社 グローバルファイナンス グローバルリアルエステート&ファシリティズ 東京ハブサイトファシリティズ リード。日本の電機メーカー、外資通信会社、外資製薬でプロキュアメントおよびファシリティの経験を経て、2016年に武田薬品に入社。プロキュアメントにてプロジェクトマネージャーを経験したのち、現在はグローバル本社のファシリティ管理を担う。
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(モデレーター)大前 敬文/おおまえ たかふみ
株式会社フロンティアコンサルティング/Worker’s Resort編集部。フロンティアコンサルティングのR&Dチームに所属。「Worker’s Resort」では、オフィスマネージャー向けの情報発信とコミュニティ形成に取り組んでいる。
大前(モデレーター) 株式会社フロンティアコンサルティング(以下、フロンティアコンサルティング)の大前と申します。本日はモデレーターを務めさせていただきます。
近年、オフィスは単に業務上の作業を行う場にとどまらず、従業員同士のコミュニケーションの促進や、企業のカルチャー・価値観を共有するうえでも極めて重要な拠点となっています。しかし、自発的な交流が生まれず、コミュニケーションの活性化に課題意識を持つ企業も少なくないようです。
そこで本日は、コミュニケーションをつくりだす視点から、オフィスのあり方について議論を深めていきたいと思います。

早速ですが、武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)とフリー株式会社(以下、freee)のオフィスのコンセプトや取り組みをお聞かせください。
【武田薬品工業】対面交流価値の最大化を目指した大規模リノベーション

藤田(武田薬品) 武田薬品の藤田です。弊社は2023年に、日本橋のグローバル本社オフィスの大規模なリノベーションを行いました。以前から常日頃、「より良い働き方を推進するためにはどうしたらいいのか?」を議論してきましたので、オフィスに関しても、リノベーションありきではなく「武田薬品にとって、理想的な働き方を実現するためのオフィスとは?」という視点から、その役割を問い直しました。
取り組みの中で実施したアンケートから、同僚との交流や連携が不足気味であることが浮かび上がったため、オフィス変革の目的の1つに「対面交流の価値の最大化」を掲げました。「コミュニティーフロア」を「執務フロア」で挟み込むサンドイッチ型にしたことで、フロア内で生じる横の動きに、1階動くだけでコミュニティーフロアに行ける縦の動きが加わり、部門を横断した交流が起こりやすくなりましたね。加えて、構想の過程で発生したコロナ禍により、それまで以上にリモートワークが浸透し、働き方や働き方に対する価値観が大きく変わったこともリノベーションに反映しています。
また、フリーアドレスは導入していますが、近年話題になっている「ABW(Activity Based Working)*」は、あえて取り入れていません。選択や工夫の余地が自律性やエンゲージメントの向上につながるという考えのもと、「この空間は執務向け、ここは共創向け、ここは休憩向け」といったような用途の指定はせず、空間の使い方をチームや個人に委ねています。
* ABWの導入においては、一般的に、単にフリーアドレスにするだけでなく、目的や集中度に応じたさまざまな空間を用意する。
【freee】出社したくなる「たのしさダイバーシティ」オフィス

大前(モデレーター) 続いて、freeeの豊村さんからお願いいたします。
豊村(freee) freeeの豊村です。私たちfreeeの従業員数は、2025年6月時点で約1,900名です。完全リモートワークを余儀なくされたコロナ禍の2年ほどで約2倍となった従業員の急増に対応すべく、2022年に現在の大崎オフィスへと移転しました。
移転前は、コロナ禍の影響でリモートワークを導入していましたが、コミュニケーションの質と業務のスピードに課題感がありました。また、freeeはもともと「業務はツールで効率化できても、コミュニケーションは効率化できない」という考えのもと、オフィスでの対面コミュニケーションを大切にしていました。そういった背景も踏まえ、2024年1月から原則出社へ転換しました。ただし、たとえば、集中的な作業が求められるエンジニア組織は、チームごとに出社日数を設定できるように配慮していますし、育児や介護など家庭の事情に応じてリモート勤務も可能といった柔軟性も確保しています。
オフィス移転にあたり、「出社したくなる楽しいオフィス」の実現を目指し、「たのしさダイバーシティ」をコンセプトに掲げています。ただ、「楽しい」の基準は人によって異なりますから、全社を対象とした大喜利形式で、楽しいオフィスに関するアイデアを幅広く集めました。
その中から、コミュニケーション創出につながりそうなものをピックアップしてオフィスづくりに反映しています。駄菓子屋やゲーム、キッチンなどをコンセプトにした会議室で、一見すると統一性がないように見えますが、「多様であることもfreeeらしさだよね」という考えのもと、いろいろな要素を詰め込んだオフィスにしているんです。

また、オフィスの総面積は約2倍に拡張しましたが、フロア数は移転前の8から4に減少させました。多くの従業員が同じフロアで働くことになり、部門を横断したコミュニケーションの活発化を後押ししています。
【フロンティアコンサルティング】ルールづくりよりもマインドセットの醸成を優先

大前(モデレーター) 続けて、弊社の事例も稲田から紹介させてください。
稲田(フロンティアコンサルティング) 私たちフロンティアコンサルティングは、2022年にオフィスをここ「OTEMACHI KORTO」(東京・大手町)に移転しました。オフィスのコンセプト「PURPOSE DRIVEN WORKPLACE」には、企業と従業員がそれぞれの目的の実現を目指せるオフィスにしたいという想いが込められています。
また、ルールづくりよりマインドセットを醸成することが重要だと考えています。その取り組みの1つに弊社が開発した「ハタラキカルテ」があります。ハタラキカルテは、従業員一人ひとりの働き方に対する意識やニーズを可視化し、相互理解を深めようというものです。たとえば、出社については、コミュニケーションを理由に出社を希望する人もいれば、家にいると光熱費がかかるから出社したいという人もいましたね。

さらに、部門を横断した働き方改革プロジェクト「Fit」では、コミュニケーションの活性化にも取り組んでいます。今年(2025年)で立ち上げから9年になり、業務に応用できるノウハウや共通の趣味を軸にした交流会・オンライントークなど、部門を横断したコミュニケーション企画が活発に行われています。
最後に、都市部のオフィスとは別に伊豆大島で運営しているコワーキングラボ「WELAGO」を紹介します。この施設は、研修など社内向けだけでなく、どなたにでもワークスペースとして無料で開放していて、オフィスを地方に置くことの価値を社会実験的に問う試みです。同時に、社内だけでなく社外とのつながりにも力を入れていくための取り組みでもあります。

自発的なアクションを促す仕掛けとは?
大前(モデレーター) みなさんのお話や事例を伺っていて、「自律性」が重要だと思いました。自発的なコミュニケーションなどを促すために、どのような工夫をされているのかお聞かせください。

藤田(武田薬品) 先ほど申しましたように、空間の使い方をあえて指定しなかったため、クリエイティブな使い方をどう促すかを試行錯誤し、そこで始めた企画が2つあります。
1つは「オフィスの活用達人」という、従業員の一日に密着し、どの空間をどう活用しているかを発信する取り組みです。もう1つは、空間にフォーカスして定点観測し、誰が何をしているかを発信するものです。こちらは、目につきやすいところにあるデジタルサイネージで常に発信しているのがポイントです。仮に同じ映像をポータルサイトにアップしても誰も見てくれないんですよね(笑)。
たとえば、VRデバイスを装着した遠隔ミーティングの様子や、自主的なエクササイズイベントの様子といった発信を続けていると、「この空間はこういう使い方ができるんだ!」という気づきが起きるし、「自由にできる」という雰囲気が次第に醸成されていきます。

大前(モデレーター) 人と空間のクロス発信は、発信側も想定していなかった新しい発見がありそうですね。豊村さんはいかがでしょうか?
豊村(freee) 私たちのオフィスには、実際に料理ができるキッチン会議室や、ゲームに適した空間になっているゲーム会議室などのコンセプト会議室があり、そこを使った部活動(オフカツ)に会社から補助金を出して推進しています。
オフィス移転後に、新たに誕生したオフカツは約55。現在は80ほどがアクティブに活動しています。活動の写真を社内のSlackに投稿してもらうようにしていて、かなり活発に発信されていますね。なかなか予約が取れない人気のコンセプト会議室も出てきています。
大前(モデレーター) 「あえて、共有する」というfreeeのカルチャーとの相乗効果も期待できそうです。そうした部活動を活発にしたい会社は多いと思うのですが、アクティブな活動や発信を促すために、特に工夫したことはありますか?
豊村(freee) 当初は会議室の使い方マニュアルをつくったのですが、あまり読まれないんです(笑)。そこで、AIチャットボットにマニュアルを学習させて、社内のSlackで尋ねるとマニュアルにもとづいた回答が返ってくるようにしました。今では従業員の約9割がこのボットを使っています。即時の返答のため、会議室など社内施設の利用ハードルを下げるのに貢献していると思います。
稲田(フロンティアコンサルテイング) 社内活動のハードルを下げるのは大切ですよね。さらに、自己表現と貢献実感も自律性を上げるために重要だと考えています。
私たちのオフィス内のライブラリーには、自己表現の場として、自分自身のパーソナリティ形成に影響のあった本を紹介する「ひと箱本棚」というコーナーがあります。従業員同士の相互理解にもつながるので一石二鳥ですね。また、企業版ふるさと納税の寄付先を募って、思い入れのある地域への貢献を実感してもらえる機会もつくっています。仕事を通して地域貢献が行え、感謝の声が返ってくるとやっぱりうれしいものです。
新しい試みとルール遵守のバランスを取るには?

大前(モデレーター) 従業員のクリエイティブで自律的な活動を促す取り組みと、ルールをつくったりリスクヘッジを念頭に置いたりする「管理」とのバランスは、どのようにしているのでしょうか?
藤田(武田薬品) 武田薬品は、各部門に権限がある程度委ねられていて、ルールは最小限に抑える方針です。最初からルールをきつくすると、創意工夫をする余白が減ってしまうため、まずは最小限の制約の中で試してもらい、リスクや実害が見込まれるときには都度検討するようにしています。管理ではなく、従業員を主役にする環境をクリエイトするのが、私たちファシリティ管理の仕事だと認識しています。
大前(モデレーター) 豊村さんはいかがでしょうか。部活がたくさんあるといろいろイレギュラーなことも起きませんか?
豊村(freee) 年末のようなイベントごとが増える時期になると、ルール通りの運用にならないこともあります。定期的に啓発の発信をしているのですが、「ルールを守ってね」というアナウンスはどうしてもテンションを下げてしまいがちなので、伝え方を工夫しています。

たとえば、私たちの代わりに設備の使い方を指摘してくれるキャラクターをSlack内に仕込んでいて、「ここにゴミを置いたのはどこのどいつだ〜い?!」などと、コミカルに伝えています。管理部門からの指摘が続くと空気が悪くなったり角が立ったりすることもあるので、ポジティブにルールを守ってもらえる仕掛けを考えています。
藤田(武田薬品) キャラクターが指摘してくれるのはかわいくてとてもいいですね。うちでも真似したいと思いました!
大前(モデレーター) 登壇者のみなさんから、従業員の皆さんの主体的な活動や部門横断的な交流を促すための具体的な工夫を幅広くお聞きできました。オフィスを単なる作業の場ではなく、活発なコミュニケーションやコラボレーションを生む場にするための実践的なヒントになったのではないでしょうか。
参加者からの質疑応答(抜粋):拠点間に格差が生まれないよう目配りを

大前(モデレーター) それでは最後に、イベントにご参加されているみなさんからご質問を伺いたいと思います。
イベント参加者 何か新しいことにチャレンジする際、上長や経営層とのコミュニケーションで意識していることはありますか?
藤田(武田薬品) 前提として「ルールがないことは承認を取りに行かない」と考えています。「承認を得なくてはいけない」となると、消極的になることが多いと思いますし、上司側も安易な承認はできないのでスピードが落ちます。ですから、新しいことをするうえで、ルールで禁止されていなければどんどん試していくようにしています。そのために、社内ルールは徹底的に熟知しています。
イベント参加者 全国に拠点がある場合、拠点間の格差をどう埋めているのでしょうか?
豊村(freee) 10名くらいの小さい拠点と本社では、どうしても設備面に差が出てしまいますから、福利厚生面には不平等が出ないようにしています。また、可能な限りすべての拠点を回って、対応可能な範囲で改善するアクションを起こしています。小さい拠点であっても、「管理部門が気にかけている」と認識してもらうのが大切ではないでしょうか。
大前(モデレーター) そろそろ時間になります。そのほかのご質問は、是非この後の懇親会でお伺いできればと思います。本日お話を伺って、総務やファシリティ管理の役割において、クリエイティビティを発揮できる余地がたくさんあると思いました。私たちフロンティアコンサルティングも、引き続き、オフィスに関わるみなさんに並走していきます。ありがとうございました。

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