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オフィスマネジメントに「主体性」を。『「主体性」はなぜ伝わらないのか』の著者が語る、総務がもっと面白くなる第一歩

今、多くの企業が従業員に求める「主体性」。しかし、そもそも主体性とは、どのような能力や言動を指すものなのでしょうか。若手社員と管理職の間で、主体性の認識にギャップはないのでしょうか。

民間企業でキャリアを積んだのちに、大学院で主体性の研究に取り組み、この言葉の持つ曖昧さと意味に向き合ってきた、早稲田大学 大学総合研究センター 次席研究員の武藤浩子さんにインタビュー。立場や環境の違いによって生じる主体性への認識のズレを解き明かすとともに、オフィスマネージャーがより主体的に働くためのヒントを探ります。

  • 武藤 浩子/むとう ひろこ

    武藤 浩子/むとう ひろこ

    早稲田大学 大学総合研究センター 次席研究員(研究院講師)。早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。IT企業で長年勤務したのちに大学院に進学。東京大学高大接続研究開発センター特任助教等を経て、現職。著書に『「主体性」はなぜ伝わらないのか』(ちくま新書、2025年)、『企業が求める〈主体性〉とは何か―教育と労働をつなぐ〈主体性〉言説の分析』(東信堂、2023年)、共著に『〈学ぶ学生〉の実像――大学教育の条件は何か』(勁草書房、2024年)などがある。

上司が答えを持てなくなった時代の「主体性」

──今や、採用や人材育成の現場で当たり前のように耳にする「主体性」。その言葉が、日本経済団体連合会(以下、経団連)のアンケートに登場したのは2011年と伺いました。そこには、どのような背景があったのでしょうか。

武藤 主体性という言葉が登場した背景には、学生採用時に重視する資質・能力などをめぐる当時の日本企業の切実な状況があったと思われます。1990年代初めごろまでの企業は、受験学力が高い学生を採用し、社内で人材育成を行うという仕組みを機能させていました。しかし、バブル経済崩壊や2008年のリーマン・ショックの打撃を受けた企業は、社内の教育コストを抑えるために、企業が必要とする資質・能力の育成を大学などに求めるようになったと考えられます。

その一環として、企業は大学や学生に向けて「主体性のある人材を求めている」というメッセージが打ち出していったのでしょう。それから現在に至るまで、経団連の発信などでこの主体性という言葉が繰り返し登場しています。

──一口に主体性といっても、「主体性という言葉は、何を意味しているのか?」という論点もありますよね。

武藤 はい。共起ネットワーク分析という手法を使って、主体性と関連性の高い言葉を分析することで、主体性の意味が変わっていることが明らかになりました。2000年ごろは「行動力」との関連性が高かったのですが、2020年ごろになると「思考力」「協調性」との結びつきが強くなりました。つまり、2020年ごろには、主体性は「考えること」「他者と協調すること」を内包するようになったと推察されます。

──そのような変化はなぜ生じたのでしょうか。

武藤 1990年代から2000年ごろの企業では、「これをやれば勝てる」「こうすれば売り上げが上がる」という成功の方程式が明らかでした。企業のトップや部門のリーダーが確固とした目標を示し、皆がそれに従って行動すれば、それなりに勝てた時代でした。

ところが、2010年代に入ると、変化が激しく将来を見通しにくい時代が訪れます。「これをやれば勝てる」という方程式がなくなり、リーダーも「答え」を持てなくなりました。「個々人が知恵を絞り、互いに相談しながら進むしかない」という状況になったわけです。そのような時代の変化に伴って、求められる主体性の意味も変わってきたと思われます。

「自分なりに考え、発信し、仕事に関して協働する」。企業が求める主体性とは

──時代の変化とともに、主体性の意味も変わってきたのですね。主体性の捉え方は立場によっても違うのでしょうか。

武藤 たとえば、2010年の経済産業省の調査では、学生は「自分には主体性がある」と思っているのに、企業は「学生には主体性がない」と捉えているというギャップが見えます。これは、学生と企業の社員では「主体性の意味が異なる」証拠とみることができます。

私が実施した企業の管理職へのインタビューからは、管理職が考える主体性は、まずは「自分なりに考える」ことだとわかりました。さらに、多く聞かれたのが「発信する」という言葉です。仕事となれば、考えるだけでは不十分で、発信も必要になりますよね。そして、発信しても仕事に結びつけなければ意味がありませんから、「仕事に関して協働する」ことまでが企業における主体性だと考えることができます。それを表したのが、下記のモデル図です。

主体性のモデル図

武藤 一方、学生や教育界の方々は、教育現場における主体性は、「考える」だけであっても、「考えて、発信する」までであっても、どちらも「(主体性が)ある」と考えているようです。

たとえば、授業中に子どもが黙って真剣に聞いていたなら、教員は「自分なりに考えているな。主体的に学んでいるな」と思うかもしれません。さらに手を挙げて発言すれば、その子は「主体性がある」と褒められることもあります。大学でも同じですね。発言をしさえすれば、「主体的だ」と評価されることが少なくないのです。

しかしながら、企業においては、「仕事に関して協働する」ところまでもっていかないと主体性があるとは認められません。ですから、さまざまな社員に主体性を求める前に、「主体性とは何か」を社内で言語化して、共有し、社員の間に潜む「主体性のギャップ」を埋めることが必要になるでしょう。

主体的に働くカギ、「面白さ」

──主体性の発揮という前に、社内で主体性の意味を共有することが必要なのですね。そのほかには、どのようなことが必要なのでしょうか。

武藤 インタビューに応じてくれた管理職の多くが、「仕事の面白さ」に気づくことで、主体的になったと語りました。そして、「仕事の面白さ」や「自分にとって何が面白いのか」に気づいた人たちは、仕事を自分が面白いと思う方法でやってみたり、面白いと思う方向に進めていったりしていたのです。

これは、私にも思い当たることがあります。企業にいた頃、ふと「あと何十年も働くんだな」と思い、そして、「長く働くための方策をとった方がよさそうだな」と考えたのです。そこで、与えられた裁量を生かしながら、自分が面白いと思うほうへと仕事を進めました。

多くの仕事現場では、立場に応じてある程度の仕事裁量が与えられていると思います。その裁量のなかで、仕事を自分が面白いと思う方法でやってみたり、面白いと思う方向に進めたりすることは、「働く人の生存戦略」と言えるでしょう。

主体性発揮の構造

武藤 そもそも、自分なりに考え、発信し、誰かと協働するといったアクションは、面白くないとなかなか身が入りません。仕事を自身が面白いと思うからこそ思考は深まり、アウトプットの質も高まります。

それは結果として、企業の利益や存続にも結びつくはずです。単に数字への貢献だけでなく、たとえば、人材育成においてもメリットがあります。主体性に欠ける社員には、上司が時間と手間をかけて指示したり導いたりしなければなりませんが、主体的に動く社員には最小限のアドバイスで済みます。

──では、「何が面白いのか」を知るために、具体的にはどうしたらいいのでしょうか。

武藤 まずは、ある程度の仕事経験は必要です。そのうえで「メタ認知」が大事だと思います。メタ認知というのは、俯瞰して物事をみたり、考えたりすることです。自分の経験を振り返って俯瞰してみると、確認や修正がしやすいですよね。その過程で「これは好きだな。これはちょっと苦手だな」と気づければ、仕事を面白い方向へ進めるヒントにもなるはずです。

たとえば、私の授業では学生に、必ず毎回「今日の授業で何を学んだのか」を振り返って書いてもらっています。振り返りの時間をとって、それをアウトプットする作業を繰り返すことで、メタ認知はしやすくなると思います。

オフィスマネジメントを面白くするためには?

──より職種を絞ってお聞きしたいと思います。企業などの総務もしくは管理部門の主体性の発揮についてはどうお考えですか。

武藤 それらの職種での主体性には、大きく2つの側面があると思います。1つは、自分たちの仕事を主体的に行うこと。これについては、先に述べた「仕事を面白くする」方向で考えられますね。

もう1つが、他部門の社員への働きかけです。他部門の社員に主体性を持ってもらうために、社内の環境を使ったり、整えたりして、どのような働きかけができるのかということです。これは総務や管理部門ならではの重要なミッションと言えるかもしれません。

私は、このミッションのキーワードは「仕切りをなくす」ことだと考えます。オフィスにおける物理的な仕切りをなくしている企業は多いと思いますが、さらに、社員の心の中にある仕切りをなくすという取り組みも必要なのではないでしょうか。

──心の中にある仕切りとは、どういうことでしょうか。

武藤 社員の間に潜む「主体性のギャップ」のように、同じ言葉を使っていたとしても、若手、中堅、管理職の間には、認識の違いや仕切りのようなものがあって、わかり合えない状況があるかもしれません。そのような目に見えない「仕切りをなくす」ということです。

──そのためには、具体的にどのようなことが考えられますか。

武藤 さきほど少し触れたように、社員に曖昧な「主体性」を求める前に、「主体性とは何か」を社内で言語化して、共有することも、仕切りをなくす一つの取り組みになります。社内で言語化した内容を日常的に社員と共有する手段として、デジタルサイネージなどを活用したり、社内に「交流できるオープンスペース」を設けて、社員が互いの考えを言語化し共有できるようなワークショップなどを企画してもいいでしょう。

ただ、もし総務や管理部門の方々が、ワークショップなどの企画・運営に面白みを感じていないならば、無理をしてはいけません。さきほどお話ししたように、自分が面白いと思うことでなければ、主体的に取り組むのは難しいものです。その場合は、外注も視野に入れましょう。社内で企画・運営するメンバーを募って、インセンティブを提供しながら進めてもらうのも、一つの手です。

そうした取り組みと並行して、会社として「主体的に働く=仕事を面白くする」という価値観を、はっきりと示してもいいと思います。これは決して「好きなことだけやればいい」という話ではありません。自分たちの手で主体性の土壌をつくるということです。そのためにも、中堅社員や管理職の人たちが「仕事を面白くしていいんだ」というメッセージを社内に広げ、自ら体現していくことが有効ではないでしょうか。

Text: Kotori Sato
Photo: Takuya Ikawa

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