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ハイブリッドワーク時代の企業防災。分散した場所で働く従業員を守るには?

ハイブリッドワークが普及し、防災対策も新しい働き方に合わせて見直す必要が出てきた。見直しのポイントを解説し、安否確認システムや従業員の防災意識向上への取り組みを紹介する。

防災対策の見直しが必要に

東日本大震災から12年。日本では近い将来、高い確率で次の巨大地震が起こる危険性が指摘されている。しかし企業においては、新型コロナウイルス感染症への対応に追われ、他の災害への対策がおろそかになってはいないだろうか。

また、ハイブリッドワークの広がりを背景に、企業には柔軟な働き方に対応した防災対策が求められている。オフィスで働く従業員だけでなく、自宅やサテライトオフィスで仕事をする従業員を視野に入れると、災害時のコミュニケーション、防災ガイドライン、情報セキュリティなど、さまざまな対策を見直す必要がある。

本稿では、防災ガイドライン見直しのポイントを解説し、ハイブリッドワークにも対応した安否確認システムや従業員の防災意識向上への取り組みを紹介する。

BCP(事業継続計画)を策定する企業は増えているか

内閣府は2005年に「事業継続ガイドライン」を発行し、自然災害などの緊急事態が発生したときに、事業を継続あるいは早期復旧させるためのBCP(事業継続計画)を策定しておくことを推奨している。では、実際の普及状況はどうだろうか。

2022年3月に内閣府が公表した「令和3年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」では、BCPを「策定済み」あるいは「策定中」と回答した企業をあわせると、⼤企業で85.1%、中堅企業は51.9%であった。前回の令和元年度の調査結果が、大企業で83.4%、中堅企業で52.9%であったことから、中堅企業では2年前よりも下がっていることがわかる。

東京商工会議所が2022年3~4月に実施した「会員企業の防災対策に関するアンケート」では、BCP策定済みの企業は 32.2%であり、2021年の 31.8% から微増の横ばいに留まった。本アンケートの回答企業は約3割が大企業、約7割が中小企業である。

このように、BCPを策定する企業数は特に中小企業で伸びが鈍い状況にある。では、BCPの普及を阻んでいる要因は何だろうか? 前述した内閣府の調査では、「BCPの策定や推進にあたっての問題点や課題」についても尋ねている。その回答は大企業と中小企業で異なり、最も多かった答えが、大企業では「部署間の連携が難しい」で45.6%であるのに対し、中小企業では「BCPに対する現場の意識が低い」で38.6%となっている。中小企業では、現場の意識向上が喫緊の課題といえよう。

BCPの策定や推進にあたっての問題点や課題(企業規模別)(画像は内閣府の「令和3年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査(概要)」より)

防災ガイドライン見直しのポイントは?

新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、国内でもリモートワークが急拡大した。BCP策定済の企業も、自宅やサテライトオフィスを含む分散した場所で働く従業員の安全を守るために、新たに防災ガイドラインの策定・見直しを行う必要がある。見直しのポイントとしては、下記が挙げられる。

①災害時の安否確認・コミュニケーション手段の確保
②従業員の防災意識の向上(防災訓練、リモート環境の安全確認など)
③情報共有の徹底(防災備蓄品の管理・運用方法、外部との連携など)
④技術面での環境整備(セキュリティ強化、バックアップ対策など)

株式会社帝国データバンクが2020年5月に実施した調査によると、BCPを「策定意向あり」と回答した企業が、事業が中断するリスクに備えて実施あるいは検討している対策は「従業員の安否確認手段の整備」が 67.3% で最多となっている。

画像は株式会社帝国データバンクの「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年)」より

また、内閣府の調査では、実際に地震や水害などの自然災害により事業の継続に被害を受けた企業に対し、「被害後も実施している取り組み、および被害後に新たに実施した取り組み」について尋ねている。その回答の上位は、「備蓄品(水、食料、災害用品)の購入・買増し」「訓練(安否確認、帰宅、参集等)の開始・見直し」「安否確認や相互連絡のための電子システム(災害用アプリ等含む)導入」であった。

災害発生時の安否確認、防災意識の向上にどう取り組むか

ここでは、前節で挙げた防災ガイドライン見直しのポイントの中から、「①災害時の安否確認・コミュニケーション手段の確保」と「②従業員の防災意識の向上」を取り上げて考察したい。

1. 災害時の安否確認・コミュニケーション手段の確保

災害発生時の対応は初動が最も重要であり、その基礎となるのが従業員の安否確認だ。ハイブリッドワークを実施している企業ではメインオフィスだけでなく、自宅やサテライトオフィスで仕事をする従業員の安否の確認も迅速に行えることが望ましい。

そのために、安否確認システムを導入する企業も増えている。先に挙げた東京商工会議所のアンケートでは、従業員の安否確認手段は「メールやSNS」が59.5%で最多であったが、それに続く「有料の安否確認システム」が前回の27.1%から30.8%に増加していた。

安否確認システムとは、災害発生時に全従業員へ向け安否確認メールを自動で一斉送信してくれるサービスである。従業員からの回答の自動集計機能や、会社からの指示を伝える情報共有ツールなどを備えており、停電やアクセス集中により固定電話や携帯電話が使えない場合にも安否確認や待機指示が行える。

安否確認システムは決して新しいものではなく、例えば、綜合警備保障株式会社(ALSOK)が提供する「ALSOK安否確認サービス」は15年以上の歴史があり、東日本大震災や熊本地震でも安定的に継続稼働した実績をもつ。同サービスでは、震度5弱以上の地震発生時に安否確認メールが従業員に自動送信される。従業員からの回答は自動集計され、管理者はリアルタイムで確認することができるほか、社内情報共有のための掲示板機能も備えている。

画像は綜合警備保障株式会社のWebサイトより

災害発生時用のシステムは、日頃から稼働させ使い慣れておくことで、緊急時に有効に活用することができる。ICカードを使った入退管理システムに、オプション機能として安否確認システムを導入可能なNECプラットフォームズ株式会社の「SecureFrontia X」はその好例といえる。

画像はNECプラットフォームズ株式会社のWebサイトより

企業は従業員の安全配慮義務を負っているが、ハイブリッドワークの普及やフリーアドレス化により、従業員が出社しているのか、また誰がどこにいるかが把握しづらくなっている。その点、「SecureFrontia X」のオプション機能である安否確認システムを利用すれば、入退管理システムの在場データから、エリア内における安否確認の対象者をすぐに確認することができる。

また、災害の発生検知と安否確認を連動させているのが、株式会社JX通信社が提供する「FASTALERT(ファストアラート)」​​だ。SNSプラットフォーム各社や各地の定点カメラ、アプリ等のビッグデータをもとに、AIを用いて災害・事故・事件などのリスク情報を即時に検知して通知するサービスである。リスク検知と同時に、自社拠点や取引先拠点へ自動で連絡してくれる。その際にアンケートをとることもでき、回答内容は自動でダッシュボードに集計される。

画像はFASTALERTの公式Webサイトより

これらの他にも多数の安否確認システムが開発されている。今後は、AIを活用した予測機能なども搭載されていくであろう。

2. 従業員の防災意識の向上

BCPを策定するためにも、有効に活用するためにも、従業員の防災意識の向上が欠かせない。そのための具体的な施策としては、下記が挙げられる。

①情報の提供:避難情報の入手方法、緊急時の連絡手段など
②研修の実施:災害発生時に必要な行動や対応方法を学ぶ
③模擬訓練の定期的な実施:避難、安否確認、消火、応急救護など
④防災グッズの提供:非常食や防寒具、懐中電灯など

この中で最も効果が期待されるのは、「③模擬訓練の定期的な実施」であろう。神戸大学大学院自然科学研究科の朴 南權氏らは、2007年の新潟県中越沖地震の後に、同地域の商業施設の従業員295名を対象に調査を行っている。

その結果、各施設の防災センター職員から一般の従業員への防災知識の移転(相手の知識を行動として実行できるレベルまで内面化すること)に影響を与えるのは、施設の建物規模、建築年代、地震被害の程度ではなく、「従業員の勤務年数」と「防災訓練の参加頻度」であったことが示された。

これまで模擬訓練といえば、メインオフィスでの避難、安否確認、消火、応急救護という内容が中心であった。しかしハイブリッドワークでは、メインオフィス以外で働く従業員の訓練も必要となる。自宅やサテライトオフィスなどで被災した場合の避難や避難先での連絡、業務への復帰手順などの訓練も必要となるだろう。

近年は、防災の知識やスキルを楽しく学べるように、ゲームやアトラクションなどの形式で提供される防災訓練サービスも増えている。例えば、オンラインでも実施可能な「リモート型防災アトラクション®︎」は、リモートワーク中の従業員も参加できる。

画像は「リモート型防災アトラクション®︎」の公式Webサイトより

また、チームで取り組むタイプの「防災謎解き」などは、共助の意識を高め、平時の業務にも役立つことが期待される。

画像は「あそび防災プロジェクト」の公式Webサイトより

「④防災グッズの提供」については、フリーアドレス導入企業向けに、オフィスの椅子や個人ロッカーに備えられる「個人備蓄セット 」なども販売されている。

画像はコクヨ株式会社のWebサイトより

リモートワーカーには、「地震対策30点避難セット」などを配布することも考えられる。

画像は有限会社防災防犯ダイレクトのWebサイトより

備蓄した食品を定期的に消費し、食べた分だけ買い足すローリングストックを企業内で実施することで、防災意識を向上させることもできるだろう。家庭では日常的にローリングストックを行うことも可能だが、企業では長期保存水や長期間保存できる備蓄用食品を備えたうえで、定期的にローリングストックを実施することが現実的であろう。

働き方の変化に応じて防災対策もバージョンアップを

ハイブリッドワークの普及により、自宅やサテライトオフィスで仕事をする従業員が増えている。また、フルリモートで遠方の人材を採用したり、ワーケーションで地方に滞在する従業員がいたりと、遠方で従業員が被災する可能性も出てきた。働き方の変化に応じて、防災対策もバージョンアップしていくことが求められる。

また、自社の従業員だけでなく、来訪中に被災した関係者や近隣住民などのための対策も検討しておく必要がある。例えば東京都は、「東京都帰宅困難者対策条例」において、従業員の3日分の水・食糧などを備蓄することを努力義務として定めているほか、来社中の顧客・取引先など外部の帰宅困難者のために、10%程度の量を余分に備蓄することを推奨している。

自然災害以外にもサイバー攻撃など、企業にはさまざまなリスクが想定される時代である。リスクマネジメントの要ともいえる災害対策についてまずは万全の備えを行い、安心して仕事ができる環境を実現したいものである。

この記事を書いた人:Fusako Hirabayashi