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コロナ禍で浮き彫りになったBCPの課題。見直しのポイントは?

コロナ禍でBCP(事業継続計画)を見直す企業が増えている。パンデミックによって明らかになったBCPの見直しのポイントを、オフィスにおける対策とあわせて解説する。

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コロナ禍で見直しを迫られるBCP(事業継続計画)

新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の危機に直面し、多くの企業がBCP(事業継続計画)の見直しを検討している。

みずほ情報総研株式会社が2020年7月、事業戦略やBCPの策定に関与する722名を対象に行った「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCPに関する調査」によると、BCP策定済みと回答した人のうち81.7%がBCPの見直しが必要だと考えていた。さらに、従業員数5001名以上の企業では36.6%が「すぐにでも見直す想定である」と回答しており、従業員数が多い企業ほど早急な見直しの必要性を感じている様子がうかがえる。

また、同調査では、コロナ禍で自社のBCPが効果的に機能したかについても尋ねている。その結果、「効果的に機能した」との回答は16.7%にとどまり、「あまり機能しなかった」「まったく機能しなかった」と答えた割合は27.6%に及んだ。機能しなかった理由として、「ウイルスの関係で緊急事態宣言などが発令される前提がなかった」「これほど大規模かつ長引くことを想定していなかったので、やや準備不足」などの声があがっている。

BCPが効果的に機能しなかった結果、次のような事態に陥った企業も少なくなかった。

・緊急事態宣言による外出・移動の自粛要請の際、テレワークへの移行に手間取った
・国内外のサプライチェーンが寸断され、生産が滞った
・生活者の消費行動変化に対応できず、売上が激減した

こうした状況は、パンデミックで発生した事象が、従来のBCPの「想定外」であったことを示している。東日本大震災から10年が経過し、さらにコロナ禍にある今は、BCPについて改めて考え、見直すまたとない機会と言えるだろう。

そこで本記事では、想定外の事態も考慮した、実効性のあるBCPの策定方法について考察する。あわせて、オフィスの立地戦略や入居ビルの選定、災害時における従業員の安全確保など、オフィス周りの対策にも触れていきたい。

パンデミックから得た3つの教訓

BCPとは、自然災害などの緊急事態が発生したときに、事業を継続あるいは早期復旧させるための計画を指す。ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源へのダメージが、事業にどのような影響を及ぼすかを想定し、事前に行動計画を立てておくのだ。これにより、有事の際にも迅速かつ的確に対応でき、事業への損害を最小限にとどめられるようになる。

しかし、前出の「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCPに関する調査」が示すように、今回のパンデミックでは多くの企業でBCPが十分に機能しなかった。既存のBCPには、一体どのような問題があったのだろうか。

その答えを探る上でヒントとなるのが、2021年2月に発表された日本経済団体連合会による提言「非常事態に対してレジリエントな経済社会の構築に向けて- 新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえて -」だ。これを参考に、今後、企業がBCPに取り入れたい考え方を3つのポイントに整理して紹介する。

1.オールハザード型BCPへの転換

これまで多くの企業は、BCPの策定にあたってパンデミックを想定してこなかった。株式会社NTT データ経営研究所が2020年6月~7月に実施した「企業の事業継続に係る意識調査(第6回)」でも、「BCPを 『地震や自然災害時の対応』と認識していたため、BCPの検討対象にはパンデミックは含まれないと思っていた」との回答が5割近くに及んでいる。

さらに、「BCPで地震や自然災害を想定していれば、他の様々なリスクにも幅広く対応できると考え、パンデミックにフォーカスし想定する必要性を感じていなかった」と回答した企業は約2割となった。従来のBCPにおけるリスク想定が、自然災害に偏重していたことがわかる調査結果である。

自然災害は局地的であり、かつ発災後は比較的短期間で復旧フェーズに移行できることが多い。それに対し、パンデミックは世界的に発生し、長期間にわたって事業に甚大なダメージを与え続ける可能性がある。

日本経済団体連合会の提言では、今後は「オールハザード型」、つまりパンデミックを含むあらゆる事態に耐えうるBCPを策定すべきとしている。その際に重要となるのが、「原因事象」ベースではなく、「結果事象」ベースで考えるアプローチだ。原因事象ベースのBCPとは、地震・風水害・感染症といった様々な非常事態ごとに、有効な行動計画を考える方法である。一方、結果事象ベースのBCPでは、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報など)の被害状況という結果事象に注目して行動計画を考える。

個別リスクごとに対応する原因事象ベースでは、想定を超える事象の発生時に対応しきれない可能性がある。しかし、結果事象ベースでオールハザード型のBCPを策定すれば、未知のリスクや複合リスクなどにも対応することが可能となる。

2.サプライチェーン寸断への備え

東日本大震災ではサプライチェーンの脆弱性がクローズアップされ、その失敗を繰り返さないようにBCPが見直されたはずだった。にもかかわらず、今回もまた脆弱性が指摘されている。つまり、サプライチェーン寸断への対策は、それほど困難なことだとも言える。

再び「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCPに関する調査」を見ると、パンデミックを受けて実施した対策として、「原材料・部材在庫・商品在庫の積み増し」が17.6%、「物流経路・方法の変更」が15.9%、「新規事業への参入」が13.4%、「海外生産拠点の切り替え」が13.3%にとどまっている。

一方で、こうした取り組みを実施した企業の7割以上が、自社の対応が効果的だったと回答していることは注目に値する。なぜなら、サプライチェーン寸断のリスクに対する抜本的な備えが、パンデミックにおいても効果的であることを示しているからだ。同調査でも、多くの企業において中長期的視点で取り組むべき課題であることを示唆している。

3.デジタルシフト・DXの推進

テレワークや、店舗販売からネット販売への切り替えなど、コロナ禍で一気にデジタルシフトが加速した。対面でのやり取りが制限される中、サービスの提供方法をオンライン化することが唯一の施策というケースも少なくなかった。そのため、デジタル化の進んでいない企業は軒並み苦戦を強いられた。

平時からデジタルシフトやデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することで、非常事態においても施策の幅を広げやすくなる。前述のように、コロナ禍で「新規事業への参入」を行ったとする回答が13.4%あったが、その際にもDXの推進が鍵になるだろう。

BCP対策でオフィスはどうあるべきか

BCPの見直しにおいては、ヒト・モノを中心とした経営資源に深く関わるオフィス周りの対策も重要となる。オフィスの被害を予防・軽減することは、早期復旧に向けた大きなアドバンテージとなるからだ。平時から発災時、復旧時へと、時間軸に沿って有効な対策を見ていこう。

1.バックアップ拠点の整備

都内に本社を構える会社であれば、同時被災の可能性が低い地方都市にバックアップ拠点を構えるなど、リスク分散を意識しておきたい。本社移転やサテライトオフィスの整備も有効だ。

2.建物被害の回避

自然災害による被害の大きさは、オフィスビルの立地や性能に左右される。津波や高潮、洪水、土砂災害などのリスクは国土交通省のハザードマップで確認できる。また、入居するビルが1981年以前の旧耐震基準で建てられたものであれば、耐震補強工事の有無も調べておく必要もある。無視できないリスクが見つかった場合は、オフィス移転も視野に入れたい。

3.発災直後の初動対応

災害発生時は人命を守ることが最優先となる。事前に家具の転倒防止策を施し、初期消火体制を構築するなどの対策とあわせて、避難計画を練っておきたい。平時における避難訓練の実施のほか、非常用電源や防災備蓄の準備も重要だ。パンデミックの場合は、従業員の安心・安全を確保するため、長期的に感染リスク対策を講じたい。

4.テレワークへの円滑な移行

大地震やパンデミック時には、オフィスへの出社そのものが制限を受けることもある。そうした際の代替手段として有効なのがテレワークだ。導入が難しいと言われるバックオフィス業務も含め、可能な限りテレワークで対応できる体制を築いておきたい。

経営戦略レベルでの見直しが鍵に

従来のBCPでは、非常事態は数日、長くても数カ月ほどで解消し、事業を復旧できるという大前提があった。しかし、今回のパンデミックでは、テレワークの導入をはじめ働き方の抜本的な見直しを迫られ、オフラインからオンラインへとサービス提供モデルを切り替えざるを得ないなど、ニューノーマルへの適応が求められた。「元通りに復旧」することは、必ずしもBCPのゴールにはならなかったのだ。

今後は、復旧を前提とした施策が機能しない場合も想定し、代替戦略を平時から準備しておくことが重要となる。新事業の創出やビジネスモデルの変革が、BCPの観点から議論される場面も増えていくかもしれない。経営戦略レベルでのBCPの策定が、よりいっそう求められるようになるだろう。

この記事を書いた人:Wataru Ito

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