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コロナ対策で生まれた新型オフィス「6 Feet Office」 社員の感染リスクを減らすための工夫とは

記事作成日:[May 06, 2020]
/ 記事更新日:[May 11, 2020]
BY Stefanie Saki Kinjo

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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、企業のテレワーク(リモートワーク)化や在宅勤務制度の導入が進む。4月16日には緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大され、5月3日には緊急事態宣言の延期が発表されたことにより感染対策の長期化がほぼ確定的な状況となった。

しかし、感染拡大防止の中で私たちの働く生活は続く。いつかはオフィスに出勤し、デスクに向かって仕事をする日は戻ってくる。その“いつか”に備えて、企業は新しい「日常の働き方」「日常のオフィス」を再構築していく必要がある。

「コロナ前の社会には戻れない」とメディアでは取り立てられ、多くの企業がウィズコロナやアフターコロナにおけるオフィスのあり方を模索する中、アメリカ・シカゴに本社を構える不動産企業、Cushman & Wakefield(以下C&W)は「6 Feet Office(シックス・フィート・オフィス)」と呼ばれる、従業員の健康維持やウイルス拡大防止を重視したオフィスのプロトタイプ開発に動いている。

“6 Feet Office”とは?

シックス・フィート・オフィスの最大の特徴は、社会的距離(ソーシャルディスタンス)の基準とされる6フィート(約2メートル)を従業員が自然に保てるデザインや運用方法にある。「会社側が効率よく、経費をかけすぎずに、従業員の安全を守る」というコンセプトをもとに、社会的距離以外にも清潔さを保つ取り組みに配慮されて設計されている。

このオフィスプロジェクトを担当するC&Wのアムステルダムオフィス、ジェローン・ロカース (Jeroen Lokerse) 氏は「(同プロジェクトに対し)世界をより安全に、人々が仕事にすぐ戻れるようにという希望を込めています。安全かつ健全な職場を造り出すことが私たちの次の仕事だと思っています」と、プロジェクト始動に至った思いを語っている。

中国での実績が大きな注目を集めるきっかけに

シックス・フィート・オフィスが世界的な注目を急速に集める背景には、同プロジェクトの中国での実績がある。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けながら、いち早く経済活動を再開をした中国で、C&WはWHOや感染病専門医の意見を参考に新型コロナ対策のガイドラインを独自に作成し、そのガイドラインに沿って約10,000もの組織を再稼働へ導いた。その際に得たアイデアがシックス・フィート・オフィスのデザインに大きく反映されている。

C&Wは約70カ国400拠点に51,000人の従業員をもつ、世界有数の不動産サービス会社だが、すでにこのシックス・フィート・オフィスは開発元である同社のアムステルダムオフィスでプロトタイプとしてテスト使用され、社員たちから好評を得ている。また同社は続けてワシントンDCオフィスでの採用も予定しているという。さらに同社が本社を構えるアメリカ国内でもアフターコロナ後の働き方改革として注目され、CNBCニュースやWTOPニュースでも取り上げられている。

6 Feet Officeを始めるための6つの鍵

C&Wによると、シックス・フィート・オフィスは次の6つの要素で構成されるという。

① 6 Feet Quick Scan(シックス・フィート・オフィスを始めるための初期分析)

シックス・フィート・オフィスを始める上でまず重要なのは、今あるオフィスの現状分析を行い、ウイルス拡大防止や安全性維持の観点から改善が必要な箇所を洗い出すこと。経営陣やマネージメント層が簡単にでも良いので会社全体に目を通し、問題点を把握した上で、従業員の健康を守るためにどのようなルールを新たに制定することが必要かを検討する必要がある。

② 6 Feet Rules(2メートルの距離感を保つためのガイドライン制定)

現状分析から改善点を洗い出したあとは、それを実行する上で、従業員の安全や・感染拡大防止を第一に考慮した、分かりやすく、効果のあるガイドラインを設定すること。例えば、社内では人と人の距離を約2メートル以上あける、といったルールがここで挙がる。特に多くの人が利用するエレベーターやトイレ、カフェテリアなどの共有スペースには標識やマークを用意し、視覚から社員が安全な行動が取れるように誘導することをC&Wのアムステルダムオフィスでは実践している。このような標識やマークはオフィスでの日常業務の中で従業員にガイドライン順守の注意喚起を行えるため便利だ。

エレベーター内には”セーフティーゾーン”として社員の立ち位置を表すマークがある。このマークで人と人の距離をなるべく離れるように誘導する。

③ 6 Feet Routing(2メートルを保つためのオフィス内動線)

社会的距離を保つためのガイドラインを制定する上で、オフィス内の動線は最も配慮すべき要素の1つ。オフィスにおける従業員の動線を整理することで、ウイルス感染防止を意識したオフィス運用が可能だ。

時計回りで移動

C&Wでは、従業員は常に時計回りに社内を移動することで、不用意なすれ違いを防ぎ、一定の距離を置けるようにしている。

オフィス内は原則時計回りで移動

狭い空間では一方通行

また会議室など人と人の距離が近くなってしまう狭い空間では、室内を一方通行の動線に従って歩くことを定めている。細かい取り組みではあるが、動線を定めることで社員はお互いに一定の距離を保つことができる。

会議室の外に貼られたポスターには会議室内で使用する座席、入退室の流れが点線で描かれているため一目で利用者は利用方法が分かる。

会議室での入退室の方法を示したポスター

ここでも標識やマークは非常に便利。社員がガイドラインと異なる方向で逆走してしまったり、以前の感覚で会議室を自由に出入りしてしまわぬように明確なマークを床につけることで、動線が分かりやすくなる。

他社員とのすれ違いが起きないよう「一時停止」を意味するライン

正しい進行方向を示す「一方通行」を意味する矢印

次ページ:感染リスクを減らすデスク環境の工夫

④ 6 Feet Workstation(ウイルス感染リスクを減らすためのデスク環境)

動線と合わせて最も重要なのが、社員が一番多くの時間を使うデスク。シックス・フィート・オフィスでは各自のデスクにも社員が安心して働けるような工夫を凝らしている。C&Wでは社員の個人エリアとなる空間で安全性を保つためは以下の取り組みを行っている。

半径2mの円を描く

デスクの周りに半径2mの円を描き、視覚で2mの距離感を認識できるようにすることで、社員はお互いに一定の距離を保つことができる。

できる限り円の中に入らないようにし、またそのまわりを時計回りに移動することで社員同士の不要な密接を防ぐ

デスクパッドを利用

さらに、社員たちは毎朝出勤時に1枚のデスクパッド用紙を受け取り、自分が利用するデスクにその紙を敷いて仕事をする。退勤時にその紙を捨てるのをルーティンとして繰り返すことで常に清潔なデスクを保つ。

使い捨てのデスクパッド用紙を使うことでデスク表面にウイルスを残すリスクを減らす

透明アクリル板、透明パーテーションを利用

オープンなプラン空間にある仕切りのないデスクの間には透明のパーテーションを取り入れることで、飛沫感染を防止。意図的に広々とつくられた空間を視覚的に区切ることなく、他の社員とのコミュニケーションの取りやすさを維持したまま、感染リスクを下げることができる。

モニター裏に付けられた透明アクリル板

⑤ 6 Feet Facility(シックス・フィート・オフィスを全社的に使いこなすためのロールモデル「推進係」の存在)

ルールやガイドラインや社内環境を整えることはもちろんだが、社員自身の意識を高めることも重要である。そこで、マネージメント層ではなく社員の中から先陣切って社内環境を守るリーダー・インフルエンサー的存在として「推進係」を設置することを推奨する。この推進係の役割としては、社内のルールを理解し、安全で最適な職場環境を維持するとともに、より良い社内環境づくりのために他社員にアドバイスをしたり、健康意識の向上を促したりする役割が含まれる。

また安全係のような中間の立場がいることで、経営陣やマネージメント層では気づかなかった現場ならではの問題点や、拾い切れなかった従業員の声が全社に届きやすくなる。

⑥ 6 Feet Certificate(安心して働ける職場環境の証明と活動の継続)

シックス・フィート・オフィスではいかに従業員が安心して職場に出勤し、快適な空間で再び働くことができるかを重要視している。そのためには、先に挙げたいくつもの取り組みを企業側が実践し、社員の健康や安全に配慮したオフィスを構築していること、またその取り組みを続けることを証明することが重要だ。この証明によって従業員は物理的だけではなく精神的にも安全であることや会社から歓迎されていることを実感するのである。

余談ではあるが、おそらくC&Wは今後自社や他社でのプロトタイプ成功例を重ねた上で、この証明を行うための『シックス・フィート・オフィス認定証』を創設・発行するだろう。認定を受ける企業は、オフィスで働く社員や社外からの来訪者も含めた全員が安心安全と感じる空間づくりを行っているというブランディングを行うことができる。また、会社側が社員を配慮しているという取り組みから社員のロイヤルティ向上、さらには働く社員の満足度向上・離職率減少にもつながると考えられる。

従業員用にまとめた6つのルール

上記の6つの鍵は、シックス・フィート・オフィスを構築する上で企業の経営層や総務といったオフィス担当部署など、企業側に必要とされる取り組みをまとめたもの。C&Wでは、実際のユーザーとなる従業員向けに、6つのルールを整理した上で以下のように社内で発信している。このルールをオフィスにいる誰もがすぐに確認できるようにポスターとして壁等に掲示している。

  1. オフィスでは責任ある行動をすること
  2. ガイドラインを重視し、標識やマークに従うこと
  3. 他社員との距離をお互いに約2mあけること
  4. 社内ではいつどこでも時計回りで歩くこと
  5. 会議室は各会議室に掲示されている指示書通りにで入退室すること
  6. デスクパッドを毎日取り替え、清潔なデスクを保つこと

最後に

冒頭でも触れた「アフターコロナ」や「ウィズコロナ」などの言葉が最近使われ、新型コロナウイルスとどのように歩んでいくか、新型コロナウイルスからからどのような社会的変化が起きるかという方向に多くの人のマインドが動き始めている。現時点ではテレワーク導入や在宅勤務制度の導入をいかにうまく利用できるかということに重点が置かれやすいが、それだけではなく第3の選択肢としてオフィス自体を新型コロナ対策を配慮した環境にすることも考慮できるだろう。

C&Wのロカース氏が「シックス・フィート・オフィスは費用対効果の良い対策だ」と語っているが、この取り組みは大胆な働き方改革や大規模なテクノロジー導入施策ではなく、あくまで従業員が働く場所を安心できる環境にするための無理のない施策である。このシックス・フィート・オフィスが今後どのように展開されていくか、注目していきたい。

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この記事の執筆者

Stefanie Saki Kinjo Walt Disney Worldでインターンシップののち大手外資系ホテルに入社。自らの経験から日本とアメリカの働き方の違いに強く関心を持ち、主に海外ニュースを中心に最新のオフィス環境やワークスタイルを発信する。

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