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テレワーク時代の課題「出社組の満足度アップ」を実現する具体策とは

日本国内でテレワークが定着しつつある中、在宅組に対して不満を抱える出社組は少なくない。そこで、両者の溝を埋めるべく出社組の満足度向上につながる具体策を提案する。

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くすぶり続ける出社組の疑念や不満

公益財団法人日本生産性本部が2020年10月に実施した「第3回働く人の意識調査」によると、5月以降に見られたオフィス回帰の傾向は一旦落ち着き、テレワークの割合は2割程度で横ばいの状態を示している。このように国内でテレワークが定着しつつある中、「在宅組」と「出社組」との間で溝が生じているという。

パーソル総合研究所が2020年6月に公表した「テレワークに関する不安感や孤独感に関する調査結果」では、在宅組に対して一つでも疑念や不満を持つ出社組の割合が58.1%と半数を超える結果となった。その理由として、「さぼっているのではないか(34.7%)」「相談しにくい(32.3%)」といった項目が上位にあがった。

一方で、在宅組がなんらかの不安を抱えている割合も64.3%と高く、「非対面で相手の気持ちを察しにくい(39.5%)」「仕事をさぼっていると思われないか(38.4%)」といった項目を理由とする人が多く見られた。つまり、出社組と在宅組の双方で、業務の進捗が見えないことやコミュニケーションの難しさに課題を感じる人が多い様子が見て取れる。

「勤務形態を選べない」不公平感も出社組の不満を呼ぶ

こうした課題と併せて出社組の不満となりやすいのが、在宅と出社を柔軟に切り替えられる在宅組とは異なり、自分には在宅勤務の選択肢がない点だ。接客業や製造業など出勤しなければ仕事にならない業種や自ら出社を望むケースは別として、電話対応や郵便物の受け取りなど、すぐの実現は難しくとも環境を整えればテレワークが可能と思われる場合は特に不満が募りやすい。

在宅組と出社組に分かれる状態は、「まだら出社(まだらテレワーク)」と呼ばれている。前述のパーソル総合研究所の調査では、在宅組の比率が高くなると出社者の疑念や不満が増すことも報告されている。「在宅組と違って自分には出社以外の選択肢がない」という不公平感を抱えた状況が長く続くと、出社組のモチベーションやチーム意識が下がり、パフォーマンスにも影響しかねない。

そこで、出社組の満足度アップを図るために取り入れたいのが、出社組が抱える「不満の解消」、テレワークを可能にする「環境の整備」、そして出社したくなる「オフィスづくり」という3つのアプローチだ。以下で詳しく見ていこう。

1. 進捗の可視化を進め、気軽に話せる場を設ける

まずは、出社組が抱える現状の不満を解消する方法について。調査結果でも上位にあがった、業務の進捗とコミュニケーションにおける課題への対策を考えたい。

(1) 業務の進捗を可視化する

同じオフィス内で仕事をする場合とは異なり、テレワークの場合はさぼっているかどうかも含めて業務の進捗が見えにくい。そのため、誰が今何を担当しているかがわかるガントチャートを作成し、日報などで進捗を常に共有する体制を整えたい。「Trello(トレロ)」などのタスク管理ツールを活用するのもおすすめだ。

(2) 定期的にコミュニケーションをとる時間を設ける

出社組会議

まだら出社の場合、出社組と在宅組との間のコミュニケーションが受け身になりがちで、目的のない気軽な会話をする機会が減りやすい。そんな時、例えばオンラインでの朝会や定例ミーティング、ランチ会などがあれば、わざわざ連絡するほどでもない質問や相談をついでに行うことができ、雑談の中で関係性を深めることもできるだろう。

ミーティングだと用件のみで終わってしまう、ほかの話をしにくいといった場合は、自由に出入りできるオンライン上のオープンルームを定期的に設けるのも有効。また、NTTコミュニケーションズ株式会社の「NeWork(ニュワーク)」は、立ち話感覚で相談や雑談ができるようにデザインされており、こうしたツールの利用もコミュニケーションの活性化に役立つ。

2. 出社しなければ困る状況をなくす

次に考えたいのが、テレワークを可能にする環境づくりだ。特に問題となるのが、「電話、FAX、郵便物への対応」「稟議書、契約書などへの押印」「情報セキュリティ」の3つ。こうした制約への対策を以下に紹介する。

(1) 電話・FAX・郵便物への対応

・電話
ネックになるのが代表番号への対応。真っ先に浮かぶのは「電話転送サービス」だろう。転送料金はかかるものの、かかってきた電話に社外でも対応できる。その反面、折り返す場合は発信元として個人の携帯番号が表示されてしまうのが気になるところだ。

そこで注目されているのが、クラウドテレコム株式会社が提供する「モバビジ」のようなサービスである。オフィスに設置されていたPBX(Private Branch Exchange)、いわゆる電話交換機をクラウド化したもので、外線機能や内線機能をスマートフォンで利用できる。このほか、「電話代行サービス」も選択肢の一つにあげられる。

・FAX
注文書や作業指示書などを、メールベースではなく、FAXベースでやりとりすることが慣習となっている業界もある。だが、「インターネットFAX」のサービスに加入すれば、社内にいなくても個人のPC・スマートフォンでFAXを送受信することが可能になる。

・郵便物
誰かが出社して受け取るしかないかと思いきや、こちらも便利なサービスが存在する。例えば、2020年5月にリリースされた、郵便物をクラウド管理できるサービス「atena(アテナ)」。郵便物の受け取りを代行し、その写真をクラウド上にアップすることで、利用者が閲覧・スキャン・破棄・転送などを指示できる。総務部宛の荷物は総務部のフォルダへ、営業部宛の荷物は営業部のフォルダへというように自動振り分けされるのも便利だ。

このように、電話・FAX・郵便物のいずれについても、ニーズに合ったサービスに加入することで出社の必要性はなくなる。利用料は発生するが、検討してみる価値はあるのではないだろうか。

(2) 稟議書、契約書などへの押印

いわゆる「ハンコ出社」の問題だ。日本特有の商習慣であるハンコの是非を巡り、河野規制改革担当大臣が脱ハンコを宣言したことも大きな話題となった。現在、行政手続きにおける押印廃止が急ピッチで進み、GMOインターネット株式会社株式会社メルカリ・株式会社メルペイなど、ペーパーレスに移行する企業も見られる。

とはいえ、社内文書はスムーズに切り替えられても、対外的なペーパーレス化はまだ難しいのが現状かもしれない。ただ、今後「DocuSign(ドキュサイン)」などの電子署名サービスの普及がさらに進むことで、脱ハンコ化への道筋は見えてくるだろう。

(3) 情報セキュリティ

情報セキュリティがネックになり、テレワークへと移行できないケースもあるだろう。テレワークにおける情報セキュリティ対策をどのように進めるかは、総務省の『テレワークセキュリティガイドライン(第4版)』が参考になる。なお、このガイドラインは2020年度内を目途に改定が行われる予定だ。2020年9月には中小企業向けの『中小企業等担当者向けテレワークセキュリティの手引き(チェックリスト)(初版)』も公表されており、こちらも近々改定を予定している。

また、2020年度の総務省委託事業として、株式会社ラックがテレワークのセキュリティ対策に関する無料相談窓口を設けている。導入前でも導入後でも相談できるため、必要に合わせて活用してみてはいかがだろうか。

3. 「出社したくなるオフィス」を実現する

出社組メリット

不公平感の根っこには、「在宅>オフィス」という序列が存在する。オフィスは「できれば行きたくない場所」という前提があるのだ。それならば、オフィスが「自発的に行きたい場所」へと変われば、多くの出社組の中にある不公平感は薄まるはず。以下に、「自発的に行きたくなる」をコンセプトにしたオフィスの事例を紹介する。

冒険社プラコレ

「オフィスにいなくても仕事はできるけど、オフィスに来たい」と思ってもらえる環境を目指す、冒険社プラコレのオフィス。「Webが本社」と謳うだけあって、7割がリモートワークを選択している。同社オフィスの最大の特徴は、リラックスルームやウェルカムスペース、天井にドライフラワーを装飾するなど、社員の意見を反映した手づくり感のある空間だ。社員参加型のオフィス見直しは、「我が家」に対して抱くような愛着を生むに違いない。

東急不動産株式会社

東急不動産のオフィスは「いつでもどこでも誰とでも働ける時代に、あえて行きたくなるオフィス」をコンセプトに設計されている。コロナ禍の濃厚接触者追跡のため一時的に中止しているものの、自由に席を選べるフリーアドレス制を採用。リラックススペースや、作業に集中するための場所も設置されている。グループ社員全員が利用できる交流スペースもあり、出社のメリットを活かした工夫が取り入れられている。

出社組の環境改善は、従業員全体の満足度アップにもつながる

サービスやツールの導入によりすぐに解決できそうな問題もあれば、セキュリティ対策やペーパーレス化など長期的な取り組みが必要となる課題もある。まずは、現状の出社組の不満を解消することから着手し、出社組のテレワークを可能とする環境づくりに取り組むのも一つの手だ。

在宅組の中には、介護や育児、健康上の問題などでやむを得ずテレワークを選択する人もいると考えられる。また、出社組の環境改善は、在宅組の不安解消にもつながる施策とも言える。すぐには実現が難しくとも、双方がお互いの立場を思いやって解決策を模索することが、まだら出社における不満や不公平感の解消、ひいては従業員全体の満足度向上を後押しするのではないだろうか。

この記事を書いた人:Wataru Ito

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