ログイン

ログイン

ペット連れ出社OKのオフィスのつくり方。アメリカのオフィスに学ぶデザインや運用の工夫

アメリカでは多くの企業がペット連れ出社にメリットを感じ、「ペットフレンドリーな職場」を打ち出している。アメリカ企業の事例を通して、オフィスデザインや運用の工夫を紹介する。

ペット連れ出社にはどんなメリットがある?

テレワークやハイブリッドワークが浸透し、オフィスに出社することの意義が問われるようになっている。そんななか、「ペット連れ出社OK」を付加価値のある出社スタイルのひとつとして打ち出す企業が増加している。特にアメリカの大手テック企業では、もはや従業員が犬を連れて出社することは一般的な文化になりつつあるという。

アメリカで人間と動物との関係についての研究を収集している非営利組織・HABRI(Human Animal Bond Research Institute)が行った調査では、ペットと一緒に働くことは、ワーカーのみならず、企業側にも大きなメリットがあることが示されている。

同調査では、ペット連れ出社を許可する職場や、ペット保険などのペットに優しい福利厚生を提供する職場を「ペットフレンドリー」と定義。ペットフレンドリーな企業とそうでない企業とを比較している。その結果、ペットフレンドリーな企業で働く従業員では91%が仕事にやりがいを感じていたのに対し、そうでない企業で働く従業員では65%であった。

また、ペットフレンドリーな企業で働く従業員の52%が上司と、53%が同僚と良好な関係が築けていると回答しているのに対し、そうでない企業で働く従業員では上司が14%、同僚が19%に留まった。そのほか、ペットフレンドリーな企業で働く従業員の88%が自分の職場を他の人に勧めると回答したのに対し、そうでない企業で働く従業員は51%であったこともわかっている。

ペットと一緒に過ごすことにリラックス効果があることはよく言われているが、この調査結果から、コミュニケーション促進により職場の人間関係にもよい影響を与えることがわかる。また、ペットフレンドリーを打ち出すことで、企業としての魅力が向上し、ワーカーのエンゲージメントや定着率の向上にも期待がもてる。

本記事では、ペット連れ出社を可能としているアメリカの企業を取り上げ、オフィスデザインの工夫や運用の実際について紹介する。

オフィスデザイン面で考慮すべきポイント

ペット連れ出社には、先述の通り多くのメリットがあるが、実施にあたっては、人と動物の健康、安全面、物的損害のリスク、仕事への影響、宗教上の禁忌などについて配慮する必要がある。

ここでは、ペット連れ出社で最もニーズの高い犬を連れての出社を可能にするために、オフィスデザイン面で考慮すべきポイントについて紹介したい。

①素材選び

床や家具には、ペットの爪や歯に優しく、かつ傷つきにくい素材を選ぶことが重要である。具体的には、床材にはフローリングやクッションフロア、タイルなど、壁紙にはビニール壁紙、クロスなどが好ましく、さらに抗菌・防臭効果があるとよい。また、ペットは口に入った繊維を吐き出すことがあるため、カーペットを敷く場合には、ペット用カーペットや、ペットの毛がつきにくいカーペットを選ぶと衛生的だ。

②エリアの分け方

すべての人と動物が心地よく過ごせるよう、ペットと人が一緒に過ごせるエリアと、ペット禁止エリアを明確に分けることが欠かせない。例えば、フリースペース、休憩スペース、会議室を前者のエリアにして、食堂、キッチン、トイレなどは後者にするなどである。

③ペットに配慮した環境設備

ペットが過ごすためには、トイレや水飲み場、フードボウルなどの設備が必要になる。そのため、先に伝えた「ペットと人が一緒に過ごせるエリア」には、これらの設備を用意できることが条件になる。また、ペットは暑さや寒さにも敏感なため、オフィスの温度や湿度を調節できる環境を整えることも大切だ。

オフィスデザイン以外の観点として、ペット連れ出社を導入する際は、事前にワーカーへの周知と説明を十分に行い、理解を得ることが重要になる。ペットの鳴き声や臭いなどで、ペット連れでないワーカーに迷惑をかけないよう、マナーやルールを決めておくことでトラブル防止につながる。

ペット連れ出社OKの海外企業の事例

ペット連れ出社が企業文化として根付き始めているアメリカでは、どのようにオフィスを構築し、運用しているのだろうか。ここでは「ペットフレンドリー」を掲げるアメリカ企業の事例を紹介する。

1. ドッグランを設けて、積極的にペット同伴を推進する「Amazon.com」(アメリカ/ワシントン)

Amazon.comは創業以来、ドッグフレンドリーな企業として知られている。これは創業初期にある夫婦のメンバーが愛犬・ルーファスを職場に連れてきて、それがオフィスで好意的に受け止められたことに端を発するという。

そんな企業文化が受け継がれ、今では米国とオーストラリアの100以上のAmazon.comオフィスには1万頭以上の犬がメンバーとして登録されている。同社には、安全な方法で犬をオフィスに連れて来られるように、「Dogs at Work」というサポートプログラムが用意されている。

犬と出社したい従業員がこのプログラムに登録すると、その犬に割り当てられた建物へのアクセス権を表したバッジが与えられる。特典として、犬に優しいイベントやペット保険の割引、無料のおやつなども提供される。

またシアトル本社には、犬が自由に走り回れるドッグパークまで用意されている(ドッグパークの様子はYouTubeで見ることができる)。

画像はAmazon.comのWebサイトより

人と犬との共有スペースのみならず、愛犬がのびのび過ごせるドッグパークを別途設けているAmazon.comの事例からは、同社がペット連れ出社に高い価値を置いていることがうかがえる。飼い主の幸福度や生産性を上げるという意味で、愛犬たちも“一緒に仕事をする仲間”ととらえているのだろう。

2. 2段ベッドのような空間で、ペットと寛ぎながら作業できる「BARK」(アメリカ/オハイオ)

ペット向けフードや玩具のサブスクリプションサービスを提供するBARKは、自社を「世界で最も犬中心の企業」と表現しており、オフィスづくりにもそれを体現している。ペットの出社はもはや当然のこととして、ペットの足の汚れや予期せぬ事故にも耐えられるオフィスを設計し、人とペットの双方が楽しくリラックスできる環境をつくり出しているのだ。

人とペットがつながり、遊び、快適に仕事ができるように、いたるところに「アメニティバー」を配置した。アメニティバーには、子犬といないいないばぁ遊びができる場所や、ドッグリード付きの長椅子、水入れを備えた場所などがある。

画像はオフィスデザインを担当したNBBJのWebサイトより

なかでも注目したいのが、ペットとワーカーとの共有スペースになっている、オフィス空間を仕切る2段ベッドのような什器だ。この空間があることにより、音や視線が遮られ、ワーカーの集中力の維持と、犬たちの興奮抑制に役立っている。

設置されている布ばりのクッションは拭き取り可能な素材で、ペットの汚れにも対応しやすい。ペットと人が共存する環境として、楽しさと機能性を両立している先端的な事例といえよう。

3. 環境への配慮とペットフレンドリーを両立した「Etsy」(アメリカ/ニューヨーク)

ペットフレンドリーなカフェやホテルが多いアメリカ・ニューヨーク。そんななかで、ハンドメイド商品のオンラインマーケット事業を行うEtsyは、2005年の設立当初からワーカーに愛犬の同伴を許可している。

画像はデザイン設計を手掛けたGenslerのWebサイトより

同社がニューヨークのブルックリンに移転した、20万平方フィートの本社オフィスを紹介する動画では、犬が当たり前のように自然にオフィスで過ごしている様子が見られる。

同オフィスは、世界で最も厳格な持続可能性基準といわれる「Living Building Challenge(LBC)認証」を取得。地元産の木材などを多用しているが、その一方で、犬と共有しているオープンワークスペースの床面にはコンクリート仕上げが採用されている。

持続可能性への高い配慮とあわせて、人と犬との絆の構築に継続的に取り組む姿勢からは、暮らしや心を豊かにする商品を取り扱う同社の企業アイデンティティが感じられる。こうしたカルチャーに惹かれて応募する求職者も少なくないだろう。

国内でも広がり始めたペット連れ出社

今回はアメリカの事例を紹介したが、国内でもペットフレンドリーなオフィスづくりを行う企業が出てきている。

富士通株式会社は、従業員の健康と生産性を向上させる手段として、犬同伴で勤務できる「Dog Office」を神奈川県の川崎オフィスに設置した。ビルの25階にありながらゆったりとした空間が設けられ、従業員の愛犬たちが楽しそうに走り回っている。

画像は富士通グループのWebサイトより

日本経済新聞2022年9月3日付けの記事によると、Dog Officeはケージ付きの3つの個室と共用スペースを備え、事前予約制。利用者は1日3人までの運用となっているという。

ペットフレンドリーなオフィスづくりは、犬関連用品や犬も入店可能なカフェ事業を手がける企業の協力を得て行った。また、同社から提供を受けたフードや食器、トイレシートを用意している。床は犬が汚してもふき取りやすい素材を採用。オフィスビル内では犬の動線を制限し、犬と遭遇したくない従業員にも配慮するなど、ペットフレンドリーなオフィスづくりのポイントを網羅している。

日本ではDog Officeのような事例はまだ珍しいが、ペット業界の知見がある外部のコンサルタントの支援を受けたり、一部のオフィスで試験的に導入したりしながら、ペット連れ出社の効能を試してみてから本格実施を検討するのも一案だ。

育児や介護に並び、ペット支援が重要な福利厚生に

コロナ禍で在宅時間が増えたことにより、ペットとの時間を重視する人が増加している。
従業員の育児や介護などを支援する動きと並んで、ワーカーの大切なペットに対する企業の支援がこれから増えていくのかもしれない。

この記事を書いた人:Rui Minamoto