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アフタヌーンスランプを回避!パワーナップの効果的な方法と昼寝スペースの導入事例

午後の眠気や集中力の低下を英語圏では「アフタヌーンスランプ」と呼び、その回避方法としてパワーナップ(昼寝)を取り入れる企業が増えている。効果的なパワーナップの方法と企業のパワーナップスペースを紹介する。

8割のワーカーが午後の集中力低下を実感

ランチタイムの後、主に午後1時から3時までの時間帯は従業員がエネルギーとモチベーションの一部を失いやすい。英語圏ではこれを「アフタヌーンスランプ」または「アフタヌーンクラッシュ」と呼んでいる。

アメリカのPaychex社では、このアフタヌーンスランプについて、1000人を対象にした調査を行っている。その調査によると、従業員の10人中8人がアフタヌーンスランプを経験しており、その頻度が週平均3.2日にのぼることが判明した。週の労働時間の半分以上で午後の集中力が低下しているというのだ。

また、調査対象となった従業員は、最も生産性の高い時間帯を「午前8時から午後2時の間」と回答。その時間帯に複雑なタスクをスケジューリングし、複雑な思考が必要ない単純なタスクを遅い時間帯に回す傾向があったという。

しかし、集中力が低下する午後の時間帯に重要なタスクをこなす必要のある日も出てくるだろう。また、昼食後も生産性を下げることなく保てれば、労働時間を短縮することも可能になる。本記事では、アフタヌーンスランプを上手く乗り切る方法を紹介したい。

アフタヌーンスランプを回避するには?

睡眠医学の専門家であるマイケル・ブルース博士は、このアフタヌーンスランプの原因をいくつか指摘している。まず、サーカディアンリズム(概日リズム)により、真夜中と午後に睡眠の合図が身体から出されること。そのほか、ストレスや睡眠不足、座りっぱなしの生活、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害、不健康な食生活などがアフタヌーンスランプを引き起こしている可能性があるという。

睡眠障害には適切な治療が必要となるが、個人で行えるアフタヌーンスランプの回避方法としてブルース博士は、以下の5つを挙げている。

1. 健康的な食事や軽食をとる
2. 休憩をとる
3. 水をたくさん飲む
4. 軽いエクササイズをする
5. 短い昼寝をする

ここで注目したいのは、5番目の「短い昼寝をする」だ。欧米のビジネスシーンでは勤務時間中に短い昼寝をとることを「パワーナップ(Powernap)」と表現し、従業員の生産性向上を目的に推奨している企業もある。

パワーナップは一般的に20~30分以下の短い睡眠を指し、その程度の短い睡眠でも記憶力を向上させる効果があるという研究結果が出されている。そのほかにも、昼寝がイライラや衝動性を抑制し、困難な課題をやり抜く力を高めるとの報告もある。

単に午後の眠気を解消するだけではなく、記憶力を高めたり、困難なタスクに前向きに対処できるようになるのなら、パワーナップを利用しない手はないだろう。

パワーナップの効果的な方法

パワーナップがアフタヌーンスランプの回避に有用だといっても、やみくもに昼寝をすることは逆効果になりかねない。パワーナップを効果的に行うにはいくつかのコツがある。

①睡眠の長さ
パワーナップは20分程度が最適だといわれている。長すぎる昼寝は深い睡眠モードに陥り、目覚めた後に眠気が持続する状態になってしまう。生産性を上げるために行った昼寝が、かえって集中力の低下を招いてしまいかねない。パワーナップに入る前には、20分程度のタイマーをセットするとよいだろう。

②実施するタイミング
パワーナップのタイミングとして、朝の起床時間からおよそ8~9時間後が最適とされる。午前6時に起床しているなら、午後2時~3時頃にあたる。ただし、就寝時​​間に近すぎるタイミングでの昼寝は推奨されない。夜の就寝前4~5時間未満で昼寝をすると、夜の睡眠に影響し、睡眠不足を引き起こす可能性があるからだ。

③実施前のコーヒー
カフェインに覚醒効果があることは広く知られているが、その効果が出るのは摂取から20分程度後だといわれている。その時間差を利用し、パワーナップ前にコーヒーを飲むとスッキリと目覚められる可能性がある。前述のマイケル・ブルース博士は、これをナップ・ア・ラテと表現している。

パワーナップスペースを導入した企業の事例

勤務中の昼寝というと、日本ではどうしても「サボっている」というイメージをもたれがちだ。しかし海外には、パワーナップのための専用スペースを設置し、昼寝を推奨している企業もある。以下に、オーストラリア、ドイツ、カナダの事例を紹介する。

1. Google Sydney office(オーストラリア/シドニー)

アメリカのGoogle本社がパワーナップ専用のイス「エナジーポッド(Energy Pod)」を導入していることは過去の記事でも紹介しているが、オーストラリア・シドニーのGoogleオフィスには蜂の巣のような可愛らしいパワーナップスペースが備え付けられている。

画像はGoogleのブログより

デザインを手がけたInfracraftは、Googleの「常識にとらわれないイノベーター」としての評判をデザインに反映したという。こんな独創的な空間でひと眠りした後は、発想力も高まりそうだ。

2. SoundCloud(ドイツ/ベルリン)

ドイツのベルリンに拠点をおき、音声ファイル共有サービスを手がけるSoundCloudは、オフィスのそこかしこにパワーナップ向きの空間を設けている。

画像はデザインを担当したKINZOのWebサイトより

こちらの画像のクローゼットのような空間も隠れ家のような趣があるが、横になれるクッションのあるライブラリースペースや、カーテンでパーソナルな空間がつくれるソファスペースなどが用意されており、気分によって選ぶことができる。

3. HOOTSUITE MEDIA(カナダ/バンクーバー)

カナダのバンクーバーでSNS管理プラットフォームを提供するHOOTSUITE MEDIAのオフィスは、ログハウスをイメージしてデザインされている。壁面やテーブルに天然木を使用した執務スペースやミーティングゾーンのほか、パワーナップルームとして「CABIN」と呼ばれる個室が設けられている。

画像はデザインを担当したSSDGのWebサイトより

ウッド素材に囲まれた空間は、良質な睡眠をもたらしてくれるに違いない。短時間の睡眠でもスッキリとよい目覚めが得られそうだ。

これからパワーナップスペースを設けるには

パワーナップスペースを導入するにしても、そのためだけに個室を開放するというのはハードルが高いかもしれない。そのような場合には、今ある余剰スペースの片隅に設置すると良いだろう。

これは、インドネシアのジャカルタに拠点をおき、ストリーミングプラットフォームを提供するVidioのオフィス内のパワーナップスペースだ。同じくジャカルタにあるインテリアデザイン会社Liquid Indonesiaがデザインを手がけている。

インテリアに同化したスタイリッシュなパワーナップスペース(画像はLiquid IndonesiaのFacebookより)

スチールシェルフで支えるようにコクーン状のリラックスブースが組み込まれている。こういったデザインなら既存のオフィスにも後から導入することができるだろう。

また、カプセル型のパワーナップポッドを導入する方法もある。Podtime Ultraは、スライド式ドアを閉じれば、外部からの視線をさえぎることができるパワーナップポッドだ。シンプルなデザインのため、さまざまなオフィスのインテリアにフィットしそうだ。

オフィスにも自宅にもなじむシンプルなデザイン(画像はPodtimeのWebサイトより)

姉妹品のPodtime Originalは、2段まで積み重ねて設置することが可能であり、まとまった台数が必要な大企業向きだ。FacebookやNestleといった有名企業をはじめ、イギリスの多くの病院で医療者の疲労軽減のために採用されている。

大きさは高さ・幅がともに120cm、長さが220cm(画像はPodtimeのWebサイトより)

パワーナップはウェルビーイング経営の一環にも

アフタヌーンスランプは多くのワーカーに生じる日々の問題だ。昼の休憩時間の後にさらにパワーナップの時間をとることは、いっけん従業員の稼働時間を減らすように思われるが、むしろ午後のパフォーマンスが上がることで、生産性の向上が期待できる取り組みである。また、従業員の健康や睡眠への意識を高めることにつながり、ウェルビーイング経営の一環ともなる。会社と従業員の双方にメリットの大きなパワーナップの導入を検討してみてはいかがだろうか。

 

この記事を書いた人:Naoko Kurata