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ドイツ・ベルリンから学ぶ、イノベーティブコミュニティの作り方

[August 27, 2019] BY Kazumasa Ikoma

最近のオフィスやコワーキングスペースでは、働く人のコラボレーションを活性化させ、新しいサービス・製品を作り出す「イノベーティブコミュニティ」を育成しようと取り組むところが増えている。しかし、そのようなコミュニティの育成も簡単にできるわけではない。今回は筆者が取材先で訪れたドイツ・ベルリンから、イノベーションを生み出すコミュニティ形成について取り上げる。

今ベルリンは、世界的なスタートアップ都市として活気づいている。EUの中でもパリやロンドンと肩を並べるほどの起業カルチャーを持ち、街中にはあらゆるコワーキング環境も見受けられる。なぜ今起業の舞台がベルリンになりつつあるのか。今回この都市を取り上げたのも、ベルリンが「行動に移すコミュニティ作り」に長けていることが見えてきたからだ。

今回は「どのようなコミュニティ形成がメンバーの学びや刺激を促すのか」をテーマに、ベルリンで取材した内容を前後編の2記事に分けてお送りする。前編では、2つのコミュニティの話を理解する上で欠かすことのできないベルリンの文化的背景について触れる。

ベルリンでコミュニティが育つ背景

コミュニティ形成のノウハウがベルリンに集まる背景を、現地のスタートアップとコワーキング事情を交えて簡単に説明する。

スタートアップ都市としてのベルリンは、EUにおいてロンドン、パリに次いで3番目に大きい。ヨーロッパのテックコミュニティをまとめた2019年のGlobal Startup Ecosystem Report (GSER)では、スタートアップエコシステムの街として過去5年間で毎年10位以内にランクイン。イノベーションをテーマにしたEU最大級のテックカンファレンス『Tech Open Air』の開催都市としても機能し、ヨーロッパ・中東の勢いあるスタートアップを毎年ベルリンに集めている。その成長ぶりに加え、EU一を誇るロンドンのスタートアップエコシステムがBREXITで揺れる現状から、本場シリコンバレーからも大きな関心を集めている。

ベルリンがここまでのスタートアップ都市となった背景は歴史と大きく関係する。第二次世界大戦後も1989年のベルリンの壁崩壊まで長期にわたる混乱期を経験。好調なドイツ経済を支える金融都市フランクフルト、自動車産業に強いミュンヘン、飛行機・船の製造で運輸に長けるハンブルグといった他都市に比べ、ベルリンは「貧しい」都市となっていた。

物価が安く空きの建物が多かった街にはドイツ国内外から多くのアーティストが移り住み、アートや音楽の分野に長けた独自の文化を形成。アナーキーな雰囲気を残しながらも、2017年には71万人以上の外国人が住む(*1)ほどの高い国際性を誇り、英語も通用するベルリンは、気づけば世界中の多くの起業家にとって魅力的な街となっていた。ここで生まれた代表的なスタートアップに音声ファイル共有サービスで有名なSoundCloudが挙がるのも象徴的である。

*1 ベルリン・ブランデンブルク統計機関の資料より

スタートアップのエコシステムが育つ街では、必然的にコワーキングスペース市場も活性化する。今ではドイツのコワーキング業界で老舗とされるザンクト・オーバホルツ(Sankt Oberholz)が国内初のスペースをオープンした2005年以降、ベルリン市内ミッテ地区を中心にカフェ感の強い「コワーキングカフェ」が多く見かけられるようになった。

今では規模や国籍に関わらず多くの企業のワーカーが利用しており、ビジネスコミュニティの形成場所となっている。特に最近では、従来のコワーキングスペースよりもさらにコミュニティ感の強い「コリビング」の要素を含んだ、住・働一体型のコミュニティが人気を集め、ドイツにおけるスタートアップ文化の特徴の1つとなっている。

Sankt Oberholz

Unicorn Berlin

市民たちによる独自コミュニティの事例:ホルツマルクトとバウムハウス

さらに、行政には頼らず市民が協力し合って持続可能な独自の文化を形成するコミュニティが複数存在しているのも、ベルリン市民のコミュニティ意識の強さを象徴している。ホルツマルクト(Holzmarkt)やバウムハウス(Baumhaus)といった「ギブ・ファースト」精神で平和主義をビジネスに活用するコミュニティが多いのもベルリンならではの光景だろう。アメリカのスタートアップ業界で働いていた人がベルリンに魅了されて移り住むことも多くあるという。

ホルツマルクト (Holzmarkt)

その施設のほとんどがDIYによって作られたホルツマルクト。オフィス・コワーキング空間や音楽スタジオ、公園、農園、保育園、ベーカリーなどが揃い、独自の文化を形成している。

もともとは、2009年の閉店まで熱狂的な人気を誇ったクラブ『Bar25』がベルリン市の都市開発で立ち退きを余儀なくされたことから始まる。市はこの地区に大型商業施設「メディアシュプレー」の建設を進めようとしていたが、文化の街としての雰囲気や水辺の景観を優先したい地域住民が近代的なビルの建設に反対の姿勢を見せた。経済効果よりも、市民の生活と直結した文化を育むコミュニティの大切さを示すため、Bar25の元メンバーたちがスイスの年金機構ファンドの協力を得て土地を契約し、ホルツマルクトのコミュニティを構築していった。

投資家たちの協力もあり、わずかながらに資金はあったが、土地をどのように活用するかわからないまま土地代を払わなければいけない状態だった。そのため、まず一時的にレストランやクラブを作り、週末には2000人ほど集めていたという。リサイクル材料で作ったビーチバーや、レコードスタジオを始め、少しずつ収入を得ながら持続可能なコミュニティを築き上げた。建物の建築や運営には、写真家や建築士、パーティオーガナイザーやシェフ、ハッカーなどあらゆるバックグラウンドを持った人から協力を得ることができたようだ。

運営が回り始めた後も、創立メンバーたちは変わらずお金ではなく自分たちの文化を形成する姿勢を貫いた。飲食店の売り上げ’、特にパーティの開催でよく売れるビールの売り上げやレコードスタジオの貸し出し、オフィスの賃貸料等で得られる利益は保育園や音楽スタジオに再投資された。筆者が訪れた2019年7月にはすでに80ものビジネスがこのオフィスに入居し、幼稚園には33人の子供達が通うほどのコミュニティにまで成長していた。

現在も行政側との対峙が続いており、最近も今後の施設の建築許可について更新を認めない可能性を示唆されるなど、緊迫した状態が続く。

ホルツマルクトの風景

バウムハウス (Baumhaus)

アメリカ・ニューヨーク出身のエンジニア兼デザイナーのスコットとドイツ出身のカレンによって立ち上げられたバウムハウス。地域住民が自ら達成したいあらゆることを共有し、そのために必要な知識や経験、リソースをメンバー同士で出し合う。それを象徴するかのように、この建物の内装すべては実際にメンバーの手によって作られている。

スコットによると、現代は他人よりも上に立つことが求められる「支配パラダイム(Domination Paradigm)」が浸透しているが、常に勝者と敗者を作り出す社会はアンバランス感を生み出す。それから脱却し、一部の勝者だけを作り出すようなことはない、バランスの取れた環境「バランスパラダイム(Balance Paradigm)」の社会を築き上げることがこのコミュニティとミッションだという。彼がニューヨークからベルリンへ居を移したのも、アメリカのあまりにも強い資本主義の考え方に疲弊したからかもしれない。

この場所では多くの人の知識を共有し。彼らが持つ課題の解決に向けてワークショップなどを実施している。しかし、デザインシンキングのセッションはやらないという。というのも、ここはメソッドを学ぶのではなく、あくまで人間の本物の課題を解決するためにあるからとカレンは語る。デザインシンキングのようなセッションは問題解決方法のアイデア出しに長けているが、実際に実行フェーズまでは含まれていない。バウムハウスに集まる価値として、社会を変えるという結果を残すことにフォーカスしたいと彼女は語った。

バウムハウスの収入源は、スペースのレンタルやトークセッションの実施、またスコットの工業デザイナーのコンサルティング業務などが主である。それぞれのサービスに決まった価格はなく、別々の価格帯を用意して顧客が選べるようににしている。顧客の気持ちによって運営資金が支えられる仕組みも、「ギブ」の精神がコミュニティの中心であることを象徴している。ちなみに予算のないグループには無料でサポートを行い、徹底した助け合いの姿勢を貫いている。

スコット(左)とバウムハウス内に掲示されているメンバーからのニーズが集まるボード(右)

これらの例にあるように、ベルリンでは平和主義を中心とした、メンバーがコミュニティに対して自分の知識や経験を還元する姿勢がすでに基盤となっている。

ベルリン市民の根幹にあるマインド

ベルリン市民がもはや頑固とも言えるほどまでに自らの意志を貫き、独自のコミュニティを築いてカルチャーを構成しようとするのは、ベルリンの歴史がかなり影響している。

歴史的に政情に振り回されることが多かった彼らは「政府を完全に信用してはならない」「少数派とされる意見でも自分が正しいと思えば貫くべき」という考え方を共通認識として持っている。そのため、行政に対してこれほどまでに積極的な行動を起こせるのだという。つまり、既存のものに疑問を抱く姿勢を持った人たちが自ら集まり、イノベーションにつなげるまでの環境が整っているのである。

このように高い実行力のあるベルリンのイノベーティブコミュニティ。それでは実際に大切にする行動指針や他の秘訣は何なのか。ベルリンの中でもコミュニティ力に定評のある2つのコワーキング施設への取材から得た考察を後編記事でお伝えする。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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