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ベルリンの2大コミュニティから学ぶ「コミュニティ作り」のヒントとは

[September 10, 2019] BY Kazumasa Ikoma

前後編でお送りしている、ドイツ・ベルリンの起業家たちを支えるコミュニティ作りの秘訣。前編では、政府を完全には頼らず自分たちで行動を起こす強い自立心と、アイデアの発想力よりもそれを実行に移す行動力を重要視するベルリン市民の背景について説明した。

後編では、現地でも特に高い人気を誇る2つのコワーキングコミュニティへの取材をもとに、「どのようなコミュニティ形成がメンバーの学びや刺激を促すのか」という今回の記事テーマの答えを探りに行く。日本でも近年イノベーションをテーマとしたコワーキング施設や社内の共創空間・コミュニティが増える今だからこそ、ベルリンが持つノウハウから学べることを共有したい。

ベルリンでコミュニティ作りに成功している2つの施設

今回取材したコワーキングコミュニティというのが次の2つだ。

ファクトリー(Factory Berlin)

ファクトリーは、2011年オープンの地元ベースから始まったコワーキングコミュニティである。創業から1〜2年ほどはコワーキングスペースの運営を行っていたが、「コワーキングは死んだ(COWORKING IS DEAD)」の広告と共に、単なるコワーキング空間の提供者ではなく「コミュニティ」であることを強調。ミッテ地区とゲルリッツァー公園にある2つのロケーション計25,000㎡のスペースを活用し、ワークショップなどのイベント開催やメンバーのオンライン上でのコラボレーションも促すアプリ提供を通じて、彼らに必要なインスピレーション・教育の総合プラットフォームを運営している。

彼らの特徴の1つとしてよく挙がるのが、入居希望者に対して審査時に聞かれる「コミュニティにどのような貢献ができるか?」という質問だ。ファクトリーは「多くの異分野から成る、学び合うコミュニティ」として、入居を希望する企業に対して厳密なスクリーニングを行うことで有名。その審査を通過した、業界や企業規模、国籍において多様性に富む70カ国3000人に及ぶメンバーが現在コミュニティを形成している。

今年5月にはアートやテクノロジー、ビジネスの複数分野をまたがって新たなクリエイティビティにつなげるプログラム『Creative Code』を開始。これまでもメンバーの多角度的な視点を養いイノベーティブマインドを育んできたファクトリーだが、さらに多分野を通じたイノベーションの実現に力を入れる。

ファクトリーからは、チーフ・イノベーション・オフィサーを務めるマーティン・アイラー(Martin Eyerer)氏に話を聞いた。

シリコン・アリー(Silicon Allee)

シリコン・アリーも2011年にスタートしたコミュニティだが、ファクトリーと出自は異なる。創業者の2人、スカイラー・ディアマン(Schuyler Deerman)氏とトラビス・トッド(Travis Todd)氏は共にアメリカ出身。スタートアップの本場サンフランシスコ・ベイエリアのエコシステムに自ら身を置いていた経験があり、それをもとにベルリン版のエコシステム構築のためにコミュニティベースで立ち上げたのがシリコン・アリーだ。

実際に同コミュニティのシンボルとも言える物理的スペース「キャンパス」ができたのは、コミュニティ創設から5年後の2016年。ファクトリーのプロデュースを受け、コワーキングスペースやカフェ、コリビング環境を整えたアパートメントも含んだ、起業家たちが衣・食・住・働を通じてコミュニティを育む約8,000㎡ 6階建ての空間をベルリンの中心地に構えた。

現在はコワーキングスペースの運営や定期的なイベント開催はもちろんのこと、ベルリンのスタートアップ最新情報をまとめた雑誌も刊行している。ファクトリーと同じく国際色豊かで活発なスタートアップコミュニティに定評がある。

シリコン・アリーからは創設者の1人、トラビス・トッド氏に話を聞いた。

マーティン・アイラー氏(左)とトラビス・トッド氏(右)

「共創空間→コミュニティ」にシフトチェンジしたファクトリーと、先に作り上げたコミュニティをベースに共生空間を付け加えたシリコン・アリー。2つの対照的なコミュニティから学ぶ、自発的にイノベーションを実現するコミュニティを生むための極意とは何なのか。彼らの話を聞く中で、いくつかのヒントが浮かび上がった。

物理的なスペースはやはり欠かせない

まず、オンラインで人とつながり仕事ができる今日に物理的なスペースの必要性はあるのか聞いたところ、2人の意見は「コミュニティ作りにおいてスペースは大事な要素」というで点で重なった。

「デジタルコミュニケーションは人の対面での交流に取って代わることはない」そう語るのはファクトリーのアイラー氏。特にコミュニティを構築する上で、物理的な交流やキャンパスの存在力を信じているという。自分たちが働く場所そのものに突き動かされることはないが、一緒に働く環境自体は結果的に創造性やイノベーションにとって重要な要素の1つであるようだ。トッド氏も「何万年もデジタルを使わずにコミュニティを形成してきた人間にとって、リアルな交流が一番重要だ」とアイラー氏の意見を支持する。

「同じ空間にいる」以外に大切なこと:コミュニティマナー

共働空間はコミュニティのシンボルとして貴重、しかしそれだけではある特定の興味や目的を持った人間の集まる場所にしか過ぎない。物理的なスペースを持つことに加え、他に何が必要になるのか。

ファクトリーの場合、入居企業として求められる行動規範、もしくは「マナー」の徹底がコミュニティの鍵となっているようだ。アイラー氏曰く、「ファクトリーにおいてコミュニティの一員になることは、一般的なコワーキングスペースが入居者または企業に推奨するような『他のユーザーと積極的に出会おう』というものよりも、『入居企業への貢献する姿勢』という拘束力の高いマナーに基づいた上で一緒に働くこと」を意味するという。

ファクトリーでは徹底した「シェアアンドギブ」の姿勢、コミュニティに何を提供できるのか、何を還元できるのかという姿勢がメンバーの共通マナーであることを明確にしている。それを貫く姿勢を見受けられるかが入居企業間の相互信頼を構築する上での鍵となり、価値あるコミュニティの形成につながるのだという。

ファクトリーがここまで「貢献」の姿勢にこだわるのは、コミュニティとして追い求めるイノベーションが「物事の見方を変える」ことで生まれるという考えに端を発しているからだ。ファクトリーでは、ワークショップやマスタークラスなど年間600ものイベントを開催しているが、互いに違う見方を提案し固定概念を崩すという貢献の姿勢があることで、「課題を別の視点から考え直して創造する」文化を醸成している。統制された「シェアアンドギブ」の精神がイベントの価値を上げ、メンバーが新たな気付きを得るという結果につなげているのだ。

その気付きの質を大きく変えるのが、コミュニティを構成するメンバーの多様性において正しい塩梅を見つけること。実際にコミュニティ構築における1番の苦労は、メンバー選別のために興味深い企業でも入居拒否せざるを得ないときだとアイラー氏は語る。最近では入居企業の選別項目を調整し、アーティストやミュージシャンもコミュニティに加えることにしたため、直近で拒否せざるを得なかった入居希望者も現在は迎え入れているようだ。

「入居企業の選別は排他的になるということではなく、正しい人々を選び引き合わせること。」ファクトリーのコミュニティが他のコワーキングスペースのコミュニティと一線を画すのは、こうした入居企業の選別を経て、異なる視点を持った他業種の人間が「貢献」マナーのもとに目に見える形でコラボレーションを促しているからだ。

コミュニティの強さは共通する興味の数に比例する

コミュニティの結束力をマナーや姿勢で強めるファクトリーに比べ、シリコン・アリーのトッド氏は共通の興味や課題の数がコミュニティの強さを象徴すると語る。

シリコン・アリーにおけるコミュニティとは、興味や課題の対象を揃えさせ、いかに多くのメンバーと共有できるかである、とのこと。メンバーが生まれた国は違えど、母国語でビジネスする方法や就労ビザの問題、またホームシックなど国際的な人材が共通とする課題は多く存在する。その数の多さがコミュニティの強さに直結するというのがトッド氏の考えだ。

ともなると、トッド氏が実践するコミュニティ作りは、世界的な共通課題に取り組むシリコンバレー・コミュニティの手法をそのままベルリンに持ってきているということなのか。そうトッド氏に率直に尋ねたところ、そうではないとの返答が返ってきた。

彼曰く、どの都市も独特な文化的価値を抱えており、ベルリンもそれは同じだという。確かに前編で語ったベルリン市民の独立性はアメリカよりも強く、さらに平和主義的な発想が近いベルリンでシリコンバレーの資本主義的考え方はフィットしない。実際にトッド氏は前編のバウムハウスを運営していたスコットと同様に、同じ課題に向かってより多くのコミュニティメンバーが一緒になるべきという姿勢を何よりも重要視していた。「誰かの考えを優先しなければ」という支配パラダイムが起きないようにすることも、活動力のあるコミュニティにとって大切なことなのである。

自発的コミュニティが生まれた時のサイン

「イノベーションを起こそうとするのであれば、やはり仕組みだけではうまくいかない」アイラー氏はそう付け加える。多角的視野を持つことにしろ、共通課題を持つことにしろ、結局は単に「コラボレーションしましょう」だけでは人の混ざり合いに限界がある。せっかく物理的なスペースを持つのであれば、コラボレーションを確実に起こさせることは重要、そのためにはメンバーの自発的な姿勢は必要不可欠であり、それを触発する仕掛けが必要になる。徹底したコミュニティマナーの追求と、それを行動に移せるメンバーの存在で、コミュニティは初めて機能する、という強いメッセージを2人のコミュニティオーナーから感じる。

実際にファクトリーでは、メンバーの自発的な「貢献」の姿勢から、メンバー間でクラブやサークルが生まれるようになったという。例えばIoT分野に興味のあるメンバー同士で集まり語るようなことが多くのテーマで行われているようだ。コミュニティオーナーとしての本来の役割は、このような自発的に生まれたコミュニティを影で支える程度になるまで、コミュニティを育て上げること。ここまでのコミュニティを作り上げるには何年もかかるだろうが、もしメンバー同士での自発的な活動が見られればそれは良いコミュニティ活動の成功指標の1つとして見て良さそうだ。

取材を終えて

2人への取材を終えて、コミュニティを運営する際にはメンバーに対し「コミュニティメンバーとして持つべき姿勢」的なものを明確に求めて良いのだとわかった。ある特定の共通課題や興味を持った人が集まればそれはコミュニティと呼べるだろうが、メンバーにとって入ることに価値あるコミュニティにはさらに独自の仕掛けが必要なのである。

ドイツの新たなサイドを見せてくれたアイラー氏とトッド氏。次にまたコミュニティのあり方について2人に聞いた時、どんな返答が返ってくるのだろうか。時代の前を行く2人の意見をこれからも確認していきたい。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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