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アメリカ西海岸のオフィスマネージャーが重視する「従業員エクスペリエンス」とは

[May 19, 2020] BY Yuna Park

「日本の働き方改革へ、西海岸で働くプロフェッショナルからの助言」シリーズの第2回(第1回記事はこちら)。今回は、西海岸でオフィスマネージャーとして10年以上のキャリアを積み、現在はサンフランシスコのバイオテクノロジースタートアップのオフィスマネージャーを務めるWilmer Balmocenaさんに話を聞いた。

今回焦点を当てたのは、日本ではまだ馴染みの薄い「従業員エクスペリエンス」という考え方だ。多様な背景を持つ従業員のエクスペリエンスを平等にする取り組みや、コロナ禍でオフィスが閉鎖するなか従業員同士のつながりを維持する方法、さらにオフィス再開後に予想される働き方の変化について語るWilmerさんの視点には、今後の日本のオフィス運営の参考になるヒントが詰まっている。

今回のプロフェッショナル:

Wilmer Balmocenaさん
カリフォルニアの大学を卒業後、PR会社、コンサルティングファーム、美容サロン、デザイン会社等のオペレーションマネージャー・オフィスマネージャーを経て、現在はサンフランシスコにあるバイオテックスタートアップのオフィスマネージャーを務める。

オフィスは「職場」から「つながりを強化する場」へ

これまで西海岸で10年以上オフィスマネージャーを務めてきたWilmerさんだが、その役割は働く人の意識とともに大きく変わってきたという。

「10年前、オフィスマネージャーの仕事は給与と福利厚生に関するものが中心でした。当時は就職や転職の際に給与と福利厚生が重視されていたからです。それが変わってきた背景には、テック系企業がどんどん増え、採用競争が激しくなってきたことがあります。企業はより良い人材を確保するために採用戦略を変え、『従業員の居心地の良さ』で差別化を図るようになりました。結果、ワーカーたちのなかにも従業員エクスペリエンスに対する意識が芽生え、むしろそれを重視するようになったんです。今では従業員エクスペリエンスが従業員のエンゲージメントとモチベーションを高めるための重要な要素の1つになっています」。

その結果、各企業のオフィスは「行きたくなる場所」へと変貌を遂げた。従業員を管理しやすいハコ型執務スペースは消え、オープンフロアや多目的スペースが登場。またオフィスで用意されるスナックやランチも従業員の好みや宗教・ライフスタイル上の制限だけでなく健康まで考慮したものが置かれるようになった。さらに従業員の生活にも目を向け始めたことで、無制限の有休休暇や在宅勤務制度、妊娠・出産・育児をサポートする制度を充実させたほか、オフィス内にジムなどリフレッシュのためのスペースなども設けられるようになり、現在よく見られるオフィスへと進化したのだ。

airbnb office2017年7月にオープンしたAirbnbオフィス

現在のオフィスマネージャーの役割は主にオフィスの運営、備品とオフィスカルチャーのマネジメント、オフィスにおける従業員エクスペリエンスの向上の3点だという。このなかでも特に彼が自分の役割として強く意識しているのが従業員エクスペリエンスの向上だ。

「狙いはコミュニティ意識の醸成です。チームビルディングのアクティビティやイベントを計画・実施するほか、ボランティアの機会を用意したり、メンバーの誕生日にはケーキを用意したり。テレワークが可能な今、オフィスに求められる役割はただ『仕事をする場』から『つながりを強化する場』に変わってきています」。

多様な従業員に平等なエクスペリエンスを

「従業員エクスペリエンス」という概念が発達するにつれ、その「従業員」の構成にも目が向けられるようになってきた。特にサンフランシスコは文化的背景や生活スタイル、ジェンダーや宗教などの多様性に富む地域で、Wilmerさんが今勤務するバイオテックスタートアップでも彼らに対する平等なエクスペリエンスの提供に取り組んでいる最中だという。「バイオテック企業という性質上、サイエンティストが多く、それゆえ男性が多い職場ではあります。一方文化的背景は本当に多様です」。

そんなチームを1つにまとめる糊となるのが企業のカルチャーだ。「エンゲージメントを高めるうえで欠かせないのが、『所属意識』です。従業員は企業のカルチャーにフィットすることで『ここが自分の居場所だ』と思うことができ、その居場所を良くしていこうとするからです」。実際に同社では、月次で行う全社ミーティングや目標達成を祝う場など事あるごとにメンバーに対して企業ミッションをリマインドしているという。

同社は制度でも、ダイバーシティ&インクルージョンを重視している。その1つに対象を限定しない産休・育休制度がある。これは、実際に出産をしないカップルでも産休・育休を取れるというものだ。養子を迎えるケースや代理母を利用する場合でも使える休暇ということで、出産をせずに子供を迎えるカップルに広く受け入れられているという。

「結局のところ、ダイバーシティ&インクルージョンというのもミッション達成に向けてチームが1つになるための方法にしか過ぎません。チームを1つにするために、さまざまな背景を持つ従業員を皆平等に扱い、平等なエクスペリエンスを提供するということです。やみくもにダイバーシティ&インクルージョンの実現を追うのではなく、大事なのは何のためにそれを実現したいのかを考えること。そうすれば自ずと従業員エクスペリエンス向上につながってくるのです」。

オフィス閉鎖時でも従業員同士のつながりを強化するには

現在、サンフランシスコ・シリコンバレーではほとんどの企業がオフィスを閉鎖している。以前より在宅勤務やビデオ会議は当たり前のように行われてきたため、日本と比べてテレワークへの移行はシステム的には問題がないが、完全にスムーズかというとそうではない。これまでの在宅勤務はあくまで「物理的に顔を合わせる日常のなかでたまに行うもの」であり、それはオフィスでできる「ちょっとしたこと」に支えられていたようだ。

「3月から全社で在宅勤務体制となり、オフィスを前提としない従業員エクスペリエンスを考える必要が出てきました。以前よりテレワークは認めていましたが、このような完全在宅体制は初めてだからです。全員がオンラインに移行したことで、自然発生的なコミュニーション、たとえば対面でのこまめなフィードバックや日常会話を行うことのハードルがオフィスにいるときよりも上がっています。しかし実はこのような何気ないコミュニケーションこそ、従業員エンゲージメントにとっては大事なのです」。

現在オフィス閉鎖が続くなか、Wilmerさんはそのような何気ないコミュニケーションを敢えて活発に行うよう推進している。たとえば以前オフィスで行っていた毎週恒例のハッピーアワーはそのままバーチャル開催に移行して続けているし、業務外のSlackチャンネルも以前よりもみんな活発に使うようになってきたという。

さらに今回新たに取り入れた施策が2つあるという。1つはAMA(Ask Me Anything:何でも聞いて)セッションで、経営層に自由に質問ができるという時間だ。このセッションは西海岸の企業で多く取り入れられているもので、経営層との距離を縮めてビジョンや会社の方向性を従業員に浸透させ、エンゲージメントを高めるのに役立っている。

もう1つは社内ニュースレターを毎週送ること。その内容はプロジェクトの進捗だけでなく、在宅期間中におすすめの本や番組、レシピなど、従業員の生活を充実させるような内容も含まれている。「すべてはコミュニティとしてのつながり強化のため」で、たとえ物理的に離れていても、同じコミュニティに属して同じミッションを実現する仲間だということを常に意識させるのが今この状況におけるオフィスマネージャーの大事な役割となっているようだ。

コロナ後にはオフィスのコミュニティ機能がますます重要に

完全テレワーク体制となった今、「オフィスを閉鎖しても何とかなる」と感じた人がいる一方、「人間同士のつながり」を築く場としてのオフィスの意義を見直した人も多いだろう。今後のオフィスの意義についてWilmerさんに聞いてみると、企業がオフィスを手放し完全在宅体制に移行する可能性についてはそう高くはなさそうだ。

「バーチャルオフィスだけの企業もありますが、カルチャー面をすべてオンラインで賄えるかというとそれは疑問です。同僚とジョークを言い合ったり、すれ違ったときに『元気?』と聞いたりといった自然に発生する人間的なやり取りが企業カルチャーやコミュニティ意識にとってやはり大事だからです。それには物理的なオフィスはやはり欠かせません。再開後のオフィスには『コミュニティ面での機能』がますます期待されるでしょう」。

一方、働き方については今後はすべてがオフィス前提でなくなると考えられる。実際、GoogleやFacebookでは7月からオフィスを再開するものの、希望者は年末まで在宅勤務ができるようにするし、Twitterでは無期限で在宅勤務を容認することを明らかにしており、今後は在宅勤務者とオフィス勤務者がこれまでよりも混在した状態となるだろう。そうすると「オフィス組」と「在宅組」でエクスペリエンスに差がつかないように、多くのものにおいて「リモート前提」がデフォルトになっていくと考えられる。働き方の幅が広がることは今後も歓迎される一方、コミュニティ意識や平等なエクスペリエンスの提供については多くの企業で引き続き模索していくことになりそうだ。

「日本の働き方改革へ、西海岸で働くプロフェッショナルからの助言」シリーズの第3回はサンフランシスコで働くベンチャーキャピタリストからの助言をお届けする予定。どうぞお楽しみに。

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この記事を書いた人

Yuna Park国内企業で編集・企画、サンフランシスコのUXデザイン会社にて社内外のコンテンツマーケティングの統括責任者を務めたのち独立し、現在はライター、エディター、マーケティングコンサルタントとして活動中。専門分野は働き方、ローカライゼーション、経営。

    
    
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