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男性の育休取得率は上がる? 国内外の状況と取得率100%の企業事例

日本における男性の育休制度は手厚いと言われる一方、取得率は上がっていない。ここでは、育休制度を取り巻く国内外の状況について解説し、男性の取得率100%の企業事例から日本の未来を探る。 

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男性の育休取得が求められる理由

以前から、男性の育児休業(育休)取得について度々議論されてきた。育休を取るべきか否か、当事者として迷ったり、同僚から相談されたりした経験がある人もいるだろう。

なぜ今、男性の育休取得が強く求められているのだろうか。厚生労働省の「イクメンプロジェクト」では、その理由を「男女の『仕事と育児の両立』を支援するため」としている。また、「積極的に子育てをしたいという男性の希望を実現するとともに、パートナーである女性側に偏りがちな育児や家事の負担を夫婦で分かち合うことで、女性の出産意欲や継続就業の促進、企業全体の働き方改革にもつながる」と説明している。

核家族化により、両親や家族の助けを得られにくいことや、責任ある立場につく女性が増えたことも大きな要因と言えるだろう。世界的には、SDGs(持続可能な開発目標)の目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の達成に向け、議論が盛んになっている。今後、世界全体で男性の育休取得へ向けた取り組みも加速するものと思われる。

本記事では、男性の育休取得における国内外の状況と、2021年6月に成立した「改正育児・介護休業法」のポイントについて紹介する。また、積極的な取り組みを行う国内企業の事例を取り上げ、日本の未来を考察したい。

海外で進む男性の育休取得

まずは、日本より男性の育休取得が進んでいる国の状況を見ていこう。世界でも先進的な施策を行っているのが、福祉国家で知られる北欧だ。特にノルウェースウェーデンの取得率は9割に近く、短時間勤務制度や公的保育の充実など、子育てをしやすい環境の整備に力を入れている。なかでも、最も効果があったと言われているのが「パパ・クオータ制」の導入だ。

パパ・クオータ制とは、両親に割り当てられた育休日数のうち、男性しか利用できない期間を定めたもの。1993年にノルウェーが導入し、北欧を中心に広がった。

ノルウェーでは最長で54週間の育休を取得できるが、うち6週間は父親だけに割り当てられる。その6週間を母親に譲渡することはできず、利用しなければ権利は消滅する。パパ・クオータ制の導入により、ノルウェーでわずか4%だった取得率は、2003年には受給資格のある父親の9割が利用するまでになったという。

北欧のほかにも、例えばフランスでは、2021年7月より出産時における父親の有給の育休日数が、それまでの倍にあたる28日間に延長された。そのうち7日間は取得が義務付けられている。2002年の導入以降、取得率は約7割と比較的高い水準にあったが、義務化により男性の育休取得率は100%となる。

日本における男性の育休取得の実態は?

では、日本の実態はどうだろうか。実は、日本における男性の育休制度は手厚いと言われている。国連児童基金(ユニセフ)の報告書によると、日本は「父親に6カ月以上の(全額支給換算)有給育児休業期間を設けた制度を整備している唯一の国」であり、男性を対象とする育休の期間が41カ国中で最も長いという。

しかし、取得実績を見てみると、2020年の日本人男性の育休取得率はわずか12.65%にとどまっている(「『令和2年度雇用均等基本調査』結果」より)。男性の育児参加が十分とはとても言えない現状だ。

一方で、育休の取得意向については、男性新入社員の約8割が希望しているという調査結果がある。希望はあるのに、取得が進んでいない状況がうかがえる。

男性の育休取得における課題について、東京都内の713事業所とその従業員1353人を対象にしたアンケート調査では、以下のような項目が上位にあがっている。

・代替要員の確保が困難
・男性自身に育休を取る意識がない
・休業中の賃金補償
・前例(モデル)がない
・職場がそのような雰囲気ではない

職場環境によるものが多い一方で、「男性自身に育休を取る意識がない」という課題も見られた。新入社員時代には育休取得を希望しつつも、職場に慣れ、責任ある仕事を任されるにしたがって意識が変わってしまうのかもしれない。

「改正育児・介護休業法」で、男性の産休取得が可能に

今後、さらなる働き方改革を進め、SDGsでも求められているジェンダー平等を達成するためには、男性の育休取得を推し進める必要がある。そこで政府は、2020年に閣議決定された少子化社会対策大綱」で、男性の育休取得率を2025年に30%とする目標を掲げた。これを実現するため、2021年6月に「改正育児・介護休業法」が成立し、2022年4月より段階的に施行される予定となっている。

改正育児・介護休業法」の最大の柱は、先に紹介したフランスのような「男性版産前産後休業(産休)制度」の新設だ。母体にダメージが残る時期に、夫婦が協力して子育てに取り組むことを狙いとしている。改正の主なポイントを以下にあげる。

・男性版産休制度を新設
子どもが生まれてから8週間以内に、4週間の休業を2回に分けて取得できる。

・育休も分割取得が可能に
現行の育休制度では、子どもが1歳(最長2歳)になるまでに原則1回の取得だったが、2回に分けた分割取得が可能になった。新設の産休制度と合わせると、最大で4回に分けて休みを取得できる。

・休業中も一定量の就業が可能に
育休中は原則として就業不可だったが、労使協定を締結している場合は、労働者が合意した範囲内で休業中に就業できるようになった。

このほか、個別に産休・育休制度の取得意向を確認する措置が企業に義務付けられた。また、従業員1000人以上の企業では、育休取得の状況を公表することも義務化されている。

男性の育休取得率100%を実現した企業事例

国の施策に先駆けて、大企業を中心に男性の育休取得率を伸ばしている企業も見られる。ここでは、男性の育休取得率100%を達成した2社の事例を紹介したい。

1. 日本生命保険相互会社

従業員の約9割が女性という日本生命では、女性が活躍できる環境の整備とともに、男性も含めた全従業員の意識改革に力を入れてきた。

2013年には「男性育児休業取得100%」を目標に掲げ、経営層が積極的に発信することで、取得しやすい社内文化をつくっている。また、育休取得者の体験談を社内ホームページに掲載する、人事部門が環境づくりのために所属長をフォローするなどの取り組みを実施。その結果、取得しにくいと考えられてきた営業現場を含む、すべての男性従業員の育休取得100%を達成している。

同社では、男性の育休取得は社内コミュニケーションの円滑化や業務改善に役立っているという。さらに、保険プラン作成時の顧客との会話にも活かされるなど、プラスの影響が多面的に波及している。

2. 株式会社サカタ製作所

新潟県長岡市で、大型建築物の金属製屋根部品などを製造するサカタ製作所。従業員は150人ほどで、男性の育休取得率はゼロに近かった。2016年から取得率向上に向けた取り組みを行い、2年後の2018年には子どもが生まれた男性社員6人全員が3週間以上の育休を取得(「AERA dot.」より)。その後も100%の取得率をキープしている。

同社が「男性が育休を取得することに何の違和感もない組織」をめざして行ったのが、育休を利用しなかった男性従業員への聞き取りだ。「休めない理由」を解明したうえで「イクメン推進宣言」を行い、育休を取得した従業員や推進した管理職を高く評価すると発信。さらに、社長が「業績が落ちてもかまわない」と明言した。

社長の明確なメッセージにより休めない雰囲気が払しょくされ、安心して育休を取得できるようになったようだ。また、業務の属人化が解消され、生産性の向上にもつながっている。さらには、子育て環境を重視する学生の応募も増えたという。

男性の育休取得率向上は「選ばれる企業」の条件になり得る

育休取得率の向上は、男女平等社会の実現にも貢献する。実際に、取得率が高いノルウェーとスウェーデンは、各国の男女格差を測る「ジェンダーギャップ指数2021」でそれぞれ3位と5位にランクインしている。一方、日本は156カ国中120位だ。

日本における男性の育休は、制度としては充実している。課題は、育休を取得しにくい状況をどう改善するかにある。企業側が明確なメッセージを出すことで、取得率を100%にまで押し上げられることは、先に紹介した2社の事例が示している。

男女ともに働きやすい職場環境は、ワークライフバランスを重視する若手人材に魅力的にうつるに違いない。男性の育休取得率の向上は、今後、採用計画や人材育成に大きな影響を与える要素となるのではないだろうか。

この記事を書いた人:Yumi Uedo

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