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スタートアップは残業をしまくるのか?ーサンフランシスコ・ベイエリアのワーク・ライフ・バランス事情

[September 22, 2017] BY Kazumasa Ikoma

最新テクノロジー導入により仕事の効率化は進む一方、いつでも仕事に取り組める環境は社員に対して常にストレスを与えることに繋がりかねない。そういったテクノロジーが生活に浸透しているサンフランシスコ・ベイエリアだが、仕事とプライベートのバランスに対してはどう考えられているのか。

今回、ここでのワーク・ライフ・バランスに対する考え方を起業者・経営者側と社員側から掘り下げてみたところ、充実した生活を送るには「テクノロジーと離れて自分の時間を持つ」ことが鍵になりそうだと見えてきた。

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仕事とプライベートの一体化は今も進む

西海岸を中心にリモートワークや自由な就労時間というのが認められている職場は多い。反面、仕事とプライベートを切り離すのは難しくなっているのも事実である。「仕事とプライベートに優先順位をつけるべきではなく、2つとも充実させるべき」というワーク・ライフ・インテグレーションという考え方は、テクノロジーが日常生活にある今では社員にも一般的になっている。

今年7月に一時的ながらビル・ゲイツの総資産を抜いたAmazonのCEO、ジェフ・ベゾスも仕事とプライベートの調和について語る1人。先日のForbesの記事にて「ワーク・ライフ・ハーモニー」という言葉を用い、「いつも終業時刻ばかりを気にしているような惨めな社員ばかりだったら、今の会社の雰囲気は醸成されなかった」と語っている。

プライベートと仕事を一緒に生活の中に取り入れ、半ば仕事を生きがいにする、経営者・起業家スタイルの生き方は一般社員にも求められていくようだ。ではベイエリアの起業家の生活における仕事とは一体どういったものだろうか。

起業家ライフに激務はつきもの?

ベイエリアの起業家の間には、そのビジネス成功秘話の影に、長時間労働が当然であるという考え方が浸透しているようだ。彼らがワーク・ライフ・バランスを追い求めることは理想的でありつつもやはり現実的には無理なのか。こういった議論は今も激しく行われている。

実際に今年5月、ベンチャーキャピタリストであるブレイク・ロビンスは「より大事なのはどれだけ長く働いたかではなく、どれだけスマートに仕事をこなすか」という旨をツイート。それに対し、Paypal創業当初の幹部でsquareの元COOの経験を持ち、現在は投資家のキース・ラボイスは「まったく違う」と返信。PayPalやFacebookの起業当時の話やプロアメフトチーム、ペイトリオッツのビル・ベリチック監督の1日20時間近くに及ぶ努力を引き合いに出し、「他にもいる才能ある人に対し、ただスマートさで勝てると思い込むのは傲慢だ」と付け加え、物議を醸した。

プロジェクト管理ツール「Basecamp」を開発したことで知られるプログラマーのディビッド・ハイネマイヤー・ハンソンも数日後に「これはラボイス氏だけでなく、VC達の間では広く共有されている信念である」とツイートしている。

現にスタートアップ起業家の逸話は数多く存在する。TeslaやSpaceXの創業者、イーロン・マスクは、自身のスタートアップ立ち上げ時にデスクの隣にビーンバッグを置き、テスラ製造ラインの近くには寝袋を置いていたという。また、TwitterやSquareのファウンダーであるジャック・ドーシーは10年前の自分にかけるアドバイスとして「運動や健康にもっと気を使った生活をすること」だと語るほど、創業時は仕事に没頭していたようだ。

ラボイスは後日WIREDの記事に「若い人たちに『一生懸命働かなくてもよい』とキャリアアドバイスを与えるのは誤りのように感じる」と答えている。彼にとって、「一生懸命働く=時間を気にせずに働く」ということのようだ。成功するために差し出す「何か」はもちろんあって当然だろうが、多くの起業家にとってそれは「労働時間」なのだろう。

「努力してこそ功を成す」考え方が根底にある

またプロテスタントのスタートアップ起業家たちにとって、激務は宗教的観点から宿命であるという考え方がある。ドイツ人社会学者のマックス・ウェーバーも自身の1920年の著書にて「プロテスタント・ワーク・エシック」と呼ばれる考え方に言及している。

要は資本主義の社会において懸命に働くことは信心深さの表れとともに宗教的義務であり、一生懸命なほどより信心深いクリスチャンという証で救われる可能性も高くなる、というのである。そういう意味で、長時間労働は「懸命に働く」ことの明確な表れなのだ。

できるだけ生産性の高い仕事ができるよう、オフィスデザインや柔軟な働き方制度の導入を通じて働く環境が整えられつつあるが、長時間労働という犠牲は今後もある程度社員に求められていきそうだ。

雇用者側に立つ起業家がこのような立場の中、果たして社員は起業家と同じ情熱を持って、仕事を半ば生きがいにして時間を気にせず働けるものなのだろうか。社員の仕事とプライベートのバランスに関する考え方について、Googleで行われた研究がある。

マックス・ウェーバー(左)と敬虔なクリスチャン夫婦を描いた絵として有名な作品「アメリカン・ゴシック」(右)

Google社内のワーク・ライフ・バランス研究、gDNA

このように働き方に対する見解が様々ある中、シリコンバレーにあるGoogle本社も「社員の仕事に対する経験」について知るべく、ワーク・ライフ・バランス研究「gDNAプロジェクト」を社内で始動。同社のPeople Operations部署にいるラスロー・ボックを筆頭に、博士号を持つ社員が研究員として4000人のGoogle社員を対象に長期研究を始めた。

ボック率いるチームは最初の数年で社員のワーク・ライフ・バランスに対する考え方に特徴があることを発見。それが次の2つであった。

セグメンテーター:仕事とプライベートをしっかり分けており、家にいるときはメールを確認しないという社員。研究対象となった社員のうち、31%がこのセグメンテーターであった。

インテグレーター:仕事とプライベートの境界線が曖昧で、常にメールを確認してしまう社員。残りの69%の社員がこのインテグレーターに当てはまる。

興味深いのは、この69%のインテグレーターのうち半数以上が仕事とプライベートをもっと分けたいと答えているということだ。仕事がいつどこでできるようになった今でも、やはり仕事に絶対にかかわらない時間の確保は多くの社員に必要なようである。

この結果を見たGoogleは、ダブリンオフィスで「Dublin Goes Dark」というプログラムを実施。社員が仕事を終えて家路につく前に、仕事に使うデバイスをオフィスのフロントデスクに置いていき、仕事から離れる生活を推奨したのである。

Googleのダブリンオフィス(写真はOffice Snapshotsより)

この施策の後、多くの社員がストレスの少ない、楽しい仕事後の時間を過ごしているという報告があったとボックは語る。就労時間外のメールは無視し、休みの時間をフルに活用してもらうことは長期的な視点から社員の健康面にとって良いことかもしれないと彼は期待している。

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gDNAプロジェクトは2012年から始まり現在も進行中だ。Googleは「仕事にかかわる社員の経験」を長期に亘って様々な角度から進めようとしている。しかし、実施数年で雇用者・起業家側と従業員の間で仕事に対する認識の違いがすでに明らかになりつつあるのだ。

まとめ

ワーク・ライフ・バランスやインテグレーションの実践がなかなか難しいのも、仕事に対する認識が起業家と一般社員の間で一致していないことが原因にあるように感じる。仕事こそ生きがいと捉える起業家と、あくまでも業務と捉える一般社員。ここに絶対的な温度差があるからこそ、ワーク・ライフ・バランスは未だに一般社員から強く求められ、ワーク・ライフ・インテグレーションは起業家の生活の根幹となっているのかもしれない。

こういった違いがあるからこそ、起業家・経営者側が社員に彼らと同じマインドで働くことを求めるために、オフィス環境などを整えていくのだろう。雇用側が社員の採用の際にカンパニーフィットを重視するのもそのためだ。

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一般社員に起業家と同じマインドを求めること自体は企業の成長にとって好ましいことだろう。一方で社員とその家族の健康や幸福度を重視することもまた社員の意欲を高め、企業の成長にとって必要なことだ。

現時点ではどちらがいいのか明確な答えはないが、ただ明らかなのは、すでに「いつでも」「どこでも」仕事ができてしまう環境になっているということだ。そんな環境のなかで時には自らテクノロジーと離れ、リラックスできる時間を確保するなど、社員がうまく自らに最適なバランスを見つけだすことがこれからは求められる。

本記事をきっかけにご自身のワークとライフのバランスあるいはインテグレーションの程度について、改めて考えてみてはいかがだろうか。

参考記事:

Google’s Scientific Approach to Work-Life Balance (and Much More)
The Best Companies For Work-Life Balance
The Gospel of Hard Work, According to Silicon Valley
Jeff Bezos To Donald Trump And Peter Thiel: Develop A Thick Skin
Q&A with Jack Dorsey
What it’s like to work for legendary NFL coach Bill Belichick, whose interview process takes days

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    
    
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