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従業員ニーズの理解が次世代のオフィスづくりのヒントに – WORKTECH LA・NYCレポート

アメリカ2大都市、ニューヨークとロサンゼルスで開催されたWORKTECHの内容の一部をレポート。働き方のパイオニアたちが見据える未来について触れる。

Culture

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春から初夏へと移り変わる4月末から6月、アメリカでは働き方関連のイベントが多く開催される時期である。

働き方・ワークプレイスにおける世界的なイベント「WORKTECH(ワークテック)」は4月末から5月頭にかけてロサンゼルスとニューヨークの2都市で開催。そして6月にはインテリア家具の世界的な見本市として有名なNeoCon(ネオコン)があり、こちらは最先端のオフィス家具を見にシカゴの会場へ日本から足を運ぶ参加者が多くいるのではないだろうか。オフィス環境の世界的トレンドについて議論が西から東までアメリカの幅広いエリアで繰り広げられる。

この記事では、2都市で開かれたWORKTECHの内容の一部をご紹介する。ロサンゼルスは「シリコンビーチ」と呼ばれ、アメリカ第3のスタートアップ都市として注目を集めているが、ついにこの都市で初のWORKTECH開催となった。そしてニューヨークでの開催は10年目を迎え、今年は同イベントのにとって節目の年であった。働き方というテーマにおいて、現地に集まったパイオニア達は何を語ったのだろうか。

worktech LA

変わりゆく社員・企業のニーズとステークホルダーたちの関係性

今回のイベントでまず語られたのは、人材売り手市場の中で従業員の声が重視されるようになった結果、従来の従業員・企業・ビルオーナーの関係性まで大きく変化している、というものだった。

2都市でのイベント開催場所として会場を提供したConveneのCEO、クリス・ケリー(Chris Kelly)氏曰く、人材獲得競争の激化で雇用主は従業員からより良い待遇を求められるようになり、それに応じてビルオーナー側も従業員の目線を意識した高度なサービスをテナントである企業から強く求められる連鎖反応が起きているという。不動産業界全体で大きな変革が訪れている中、ケリー氏はハイエンドなコワーキングサービスを提供する自社を「不動産業界に居合わせたホスピタリティ企業」と表現した。従来のメインユーザーであったスタートアップに取って代わるように現在大企業による利用も増えていく中、Conveneがどこまで躍進できるかはこのトレンドの流れを読むのに重要な指標となりそうである。

世界的な不動産企業Savillsでワークプレイス戦略を担当するシャノン・ウッドコック(Shannon Woodcock)氏も従業員の企業に対するニーズの変遷を時系列で紹介した。以下は彼女がプレゼンで語った内容をまとめたもの。労働における最低条件が定められた1800年代後半から徐々に働き方やワークプレイスは整備されていき、それに合わせ従業員のニーズも強まっているようだ。

このように見てみると、昔に比べ今では従業員の声が企業に届くような社会になっていることがわかる。中でも特に印象的なのは「社会的な問題に対する姿勢」や「社会的正義」といったキーワードだ。昨年にWeWorkが社員の食肉を含む食事経費の払い戻しやイベントでの肉メニューの提供を取りやめることを表明し、CEOの減量主義(食肉を避けることで地球環境の保護に寄与しようという考え方)の姿勢を見せて話題を呼んだが、これも企業の社会的問題に対する姿勢を表した例の1つだろう。

またUX(ユーザー体験)の重要性は、Huluのオフィス環境分析を行うイェスター・サボンジャン(Yester Sabondzhyan)氏と建築コンサルティング会社Woods Bagot North Americaでワークプレイス戦略を担うケイト・ドッド(Kate Dodd)氏のパネルセッションでも語られていた。単純にワークプレイスのデザインだけでなく、仕事で使用するアプリに至るまであらゆるもののユーザビリティが鍵になるという。彼女たちは2025年までに労働人口の75%がミレニアル世代になること、特にテック企業の従業員の年齢中央値は約30であることに触れ、この世代に合わせたワークプレイス環境を整えることの重要性を伝えていた。

いかに社員の声に耳を傾けられるか、そして彼らをケアできるか。従業員に対する企業のコミットメントの強さはミレニアル世代以降の人材獲得成功の鍵となっているようだ。今は「?」となっている10年後、20年後の従業員ニーズがまたどのようなものになるのか注意深く観察する必要がある。

新たに認識されつつある「ワーク・ライフ・ジェンガ」のコンセプト

ミレニアル世代・Z世代を分析したサボンジャン氏とドッド氏は、仕事とプライベートの時間をより隣り合わせで捉える人が今増えていることにも触れた。これまでは、仕事とプライベートを程よいバランスを保ちながら分けるワーク・ライフ・バランスの考え方が支持されていたが、仕事も生活の一部であるというワーク・ライフ・インテグレーションが現在では支持されるようになっているという。そのインテグレーションの側面をさらに強めた「ワーク・ライフ・ジェンガ」という考え方も最近では認知され始めているようだ。

ワーク・ライフ・ジェンガとは、仕事とプライベートのピースが組み合わさって1つの人生が積み上がるという考え方。仕事のピースが欠けても人生は完成されない、という意味では、ワーク・ライフ・インテグレーションよりも人生における仕事の存在が重要であることを表した言葉であると筆者は感じた。

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この考え方は実は日本の若者の間でも浸透していると思われる。後日公開する記事『ポジティブ派? ネガティブ派? 学生たちの「ワーク・ライフ・バランス」論争』では、学生たちにワークライフバランスに対するイメージについて取材しているが、彼らにとって仕事とは「人の役に立ちたい」「自己実現」「社会的な承認欲求を満たすもの」といった自らの人生を精神的に支えるものであった。仕事に対して生きがいを感じる人、または仕事をすることで自分が存在する、と考える人ほど、このワーク・ライフ・ジェンガの考え方は当てはまるだろう。

企業のニーズはあくまでコラボレーション・オープン性の高さ

働き方に対する従業員側の考え方やニーズが常に変わっていく一方、企業側のワークプレイスに対する狙いはここ10数年の間変わらず「コラボレーション」や「オープンネス」に集中している。

コーポレートキャンパスの代表作であるGoogleplexをデザインしたClive Wilkinson Architectsのクリーブ・ウィルキンソン(Clive Wilkinson)氏、そしてUberやMicrosoft、Slack、McDonald’sなどのオフィスを手がけたStudio O+Aのプリモ・オーピラ(Primo Orpilla)氏は、企業からの要望としてコラボレーションを育むスペース、クリエイティブなスペースのデザインを求められることが変わらず続いていると口を揃えた。しかし、今のオフィススペースが1つの目的でなく、複数の使用用途を前提としてデザインされていると説明。彼らがデザインしたコラボレーションスペースは、一人で作業する社員とグループ作業を行う社員が共存し、その自由度の高さがコラボレーションを産む鍵になるのだという。

オーピラ氏が代表を務めるStudio O+AがデザインしたMicrosoftのオフィス

ウィルキンソン氏が手がけたIntuitのオフィス。Microsoftのオフィスと同様、個人作業をする社員やグループ作業をする社員が常に隣り合わせで作業できるような空間を生み出し、さらにセミナールームにも利用することができるデザインが今のトレンドだ。

このようなオフィスでは、よく社内の透明性(Transparency)を上げる一方で社員のプライバシースペースが欠如するのでは、という問題に直面することが多い。これに関して「基本的に顧客のための共創スペースづくりにはオープンさ重視で問題ない」と2人は語る。しかし、今日のワークプレイスには異なる5世代が共存しそれぞれ異なる働き方をすることを理解した上で、可能な限り彼らが求めるプライバシーを確保できるスペースも用意し、ファシリティが彼らの自由な働き方を叶えるつくりであることが重要だと加えた。

企業がオフィスに対して抱えるジレンマ

ほかにも企業がオフィスに対して抱える問題は複雑化している。特に最近多くの企業で共通して見受けられるのは、企業がテレワーク・リモートワークやABWの推進で社員がオフィスから離れて仕事をすることを認める一方、オフィスに社員を集めてコラボレーションを促したいという葛藤を抱えることが増えていることだ。人材獲得のために自由な働き方を認める一方、オフィスにこれまで以上に多額な投資を行うというダブルスタンダードが起きているのである。

ここで1つ整理しておきたいのは、現状のテレワーク・リモート環境はあくまで個人作業を行える程度の場所であるということだ。効果的なグループ作業やミーティングを行うスペースはオフィスの外にも存在しつつもまだ十分には機能しておらず、それも行えることこそが企業オフィスの価値となっている。人が出会い、ミーティングを開くフィジカルスペースはまだ必要とされているのである。

冒頭で触れたConveneのケリー氏も似た問題について触れていた。変化が非常に早い社会において、企業は人材雇用のリスクを減らすために業務のアウトソーシングを進める一方で、人材獲得競争に勝つための武器としてオフィス・不動産への投資を積極的に行っているという矛盾が起きている、と彼は話した。オフィスの価値が企業によって揺れ動く中で、どのように再定義できるかが今求められていることのようだ。

人材の成長にはワークプレイスだけでなく、社員自身の意識変革が不可欠

このような葛藤やジレンマを抱えながらも社員のために働く環境を整えようと、企業は必死に動いている。しかし、それにあぐらをかく社員が最近増えていると、Root Inc.のシニア・バイス・プレジデントであるロビン・ウッダール・クライン(Robin Wooddall Klein)氏は指摘した。

彼女は、近年の人材は積極的に学び成長し続けようとする社員が多くいることを讃えた一方で、積極的に突出しようとせず「キャリアは人事が握っているもの」という受け身の姿勢を持っている社員も一定数いることを指摘。企業としては、社員の生産性や効率性を高めるためにはただ充実したワークプレイス環境を用意するだけでなく、彼らの意識の改善も行い彼らの能力や価値をしっかりと引き出すことが必要だと力強く語った。

働く環境がある程度整いつつあり、あとは新しいテクノロジーが次々と導入され人間が担当する作業のほとんどは高度なものばかりとなったときに、人材に求められるのは「学習能力」「コラボレーション能力」「他人への共感」だと、Accentureのシニア・マネージング・ディレクターのキャサリン・オライリー(Kathleen O’Reilly)氏は語った。豊かな働き方が実現されやすい今の時代にこそ、人間的素質において自分の秀でているところを貪欲に探そうとする姿勢があらためて求められているようだ。

オフィステクノロジーの開発は加速

ワークプレイス・働き方のトレンドを語る上で欠かせないテクノロジー分野に関して最後に触れておきたい。ワークプレイスやワークスタイルの調査を行うUngroupのCEO兼ファウンダーであるフィリップ・ロス(Phillip Ross)氏は、オフィスであらゆる場所に設置されるカメラやセンサーをもとに、最新のワークプレイスでは誰がオフィスにいるのか、各従業員が何をしているか、照明の明るさや机の高さ、室温などどのような好みがあるのか、彼らが次にどこに行き何の作業をしようとしているかなど、あらゆることが把握・予測可能であることを事例とともに説明。このようにあらゆるものを”感じ取り自動的に反応する”オフィスを「感覚を持つワークプレイス(Sentient Workplace)」という言葉で表現した。

関連記事:【ビッグデータとオフィス】データの収集・活用を自動で行う「コグニティブビルディング」の実現に向けて

さらにIoT照明を展開するSignifyでシニア・プロダクト・マーケティング・マネージャーを務めるラウール・シーラ(Rahul Shira)氏は、照明1つをとってもテクノロジーの大きな進化が見られると語った。世界で最もスマートなビルディングと言われている「The Edge」でも使用されている同社の照明システムは、人がいない時には自動的に照明を消して節電を行うほか、従業員のサーカディアンリズムに基づいて明るさや色を調節したり、また複数の利用シーン(昼は個人の作業スペース、夜はセミナースペースなど)を想定して作られたスペースでは照明の色や明るさを自動で変えることで適切な働く空間の演出を行ったりすることができるという。スマート・ライティングはIoT化による効果が特に感じられやすいテクノロジーという理由で、今導入が進んでいる。

ワークプレイス環境のデータベース「Leesman」に集められた、職場における満足度と重要度に影響する什器の指標。照明はデスクとイスに次いで従業員の満足度に大きく影響する。

まとめ

今回紹介したのはロサンゼルスとニューヨークで議論された内容の一部であったが、これだけでも日本では耳にすることのない情報が多くあった。一般的にビジネスにおける変化が非常に早いと言われている中で、ワークプレイスや働き方もその影響を受けており、だからこそこれまでの歴史的変遷を整理しようとする動きがあると実感した。特に近年のオフィスは企業オーナーのニーズよりも従業員の声をベースに作られるようになっていることから、彼らのニーズを理解するために業界全体が力を挙げているようだった。

企業側が社員に対して働き方を指定するという従来の構図が逆転し、従業員が求める働く環境を企業側が整えるようになるという大きなシフトチェンジを考えると、企業がジレンマを抱えることも想像に難くない。この環境の中で、企業が従業員に主導権を握らせることなく、どのようにオフィスの価値を上げながら彼らの働き方を先導していけるのか。新たに注目すべきポイントが見えたように思う。

ワークプレイスに導入されるテクノロジーも徐々に高度になり、細かなニーズや課題に対処するようなものが増えてきた。今後のワークプレイスはミクロな視点でのアップデートが行われるのでは、と予想しながら、これからもトレンドを注意深く見ていきたい。

この記事を書いた人:Kazumasa Ikoma

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