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ハイブリッド・ワークに最適なワークプレイスと未来の働き方 ー WORKTECHレポート

記事作成日:[January 31, 2023]
/ 記事更新日:[January 27, 2023]
BY Worker's Resort Editorial Team

働き方とワークプレイスについての議論は新たな局面へ

パンデミックはハイブリッド・ワークへの急激な移行を余儀なくした。そして感染状況が収束しつつある今、最適な働き方を求める動きは新たな局面を迎えている。

2022年9月22日に開催されたWORKTECH22 New Yorkでは、Accenture、Sanofi、Adobe、MetLifeなどの世界的ブランドやニューヨーク大学などに所属する30名以上の専門家が、これからの働き方について意見を交わした。なかでも登壇者の話の主軸となったのが、「ワークプレイスの最適化」「テクノロジーの活用」「つながりの強化」の3つだ。

模索が続く、ワークプレイスの最適化

カンファレンスの冒頭で講演したCordless Group & UNWORK のPhilip Ross氏は、ワークプレイスの焦点が効率からコミュニティ、静止から流動、分割からオープン、四角から丸へと変化している流れを振り返った。そして、自著のタイトルでもある「アンワーキング」、つまり、「これまでの働き方に関する概念を一度全て消し去り、まっさらな状態から考え直す」というコンセプトを紹介している。

働き方の柔軟性は保ちつつ、リモートワークに慣れ親しんだ従業員を呼び戻し、良い人材を獲得するためにも、魅力的なオフィスは不可欠だ。限られた空間でワークスペースを最適化し、エネルギー効率を改善すれば、高騰し続ける不動産コストやエネルギーコストの削減にもつながる。

香水やコスメ、スキンケアを扱うCoty社のDrew Brennan氏は、パンデミック中に半減したオフィススペースに戻ってくるリモートワーカーを受け入れるにあたり、場当たり的ではなく、ワークスペース改善の明確な戦略が不可欠だと述べた。

ワークプレイスに関する各社の戦略的な取り組みは、登壇者のタイトルにも垣間見ることができる。MetLife社のGlobal Workplace and Portfolio Strategy(グローバル・ワークプレイス&ポートフォリオ戦略課)、 Adobe社のWorkplace Design(ワークプレイス・デザイン課)、Mapiq社のStrategic Workplace Advisory(戦略的ワークプレイス・アドバイザリー)は、その一例だ。彼らは、ワークプレイスの改善のため試行錯誤中だと語っている。

「仕事+交流の場」がオフィスの最適解とは限らない

ビデオや音声技術で新たな働き方をサポートする企業・Poly社のChris Moss氏は、オフィス勤務と在宅勤務の従業員の割合は、49:51(2012年)から24:76(パンデミック後)へとシフトしたと語った。そのうち10%は常にオフィス勤務を、16%は常に在宅勤務を希望しているという。リモートワーカーは、パンデミック中に自宅の勤務環境を整えたため、オフィスまで足を運ぶには何らかの目的を求める傾向がある。社内でのアクティビティや仕事上のコラボレーションのほか、仕事以外のつながりを求めて出社するケースも少なくないと語った。

そのような状況から、オフィスは「仕事をする場所」から「仕事+交流する場所」へと変化しつつある。Ross氏によると、トイメーカーのLEGO社ではフロア面積の70%を占めていたデスクスペースをパンデミック後には30%まで減らし、70%をコラボレーションや交流のしやすいソーシャルスペースにあてた。敷地内には、ホテルやレストラン、カラオケスペースも設けたという。

LEGO社の新しい本社は70%がソーシャルスペースに充てられている。
(画像はC.F. Møller ArchitectsのWebサイトより)

こうした動きは、研究・製造分野のように、通勤必須の特殊施設をワークプレイスとする分野にも及んでいる。製薬会社Sanofi社のマサチューセッツ州ケンブリッジの新たなキャンパスでは、ラボとパントリーや食堂を階段でつなぎ、交流が生まれる空間づくりを行った。さらに、フロアにホスピタリティ担当者を置き、コミュニティやカルチャーの形成、ウェルネスのサポートを促している。

その一方で、コラボレーションがしやすいオープンスペースを誰もが望んでいるわけではないことにも留意が必要だ。コンサルティング企業のPwC社では、パンデミック後に交流を求める従業員が増えると予想し、オープンスペースを床面積の85%まで拡張したオフィスを設けたという。しかし意外にも、大多数の従業員が壁で囲まれたプライベートな勤務空間を選択したのだ。彼らの8割は個々で行う業務が中心のため、集中でき、Web会議なども行えるプライバシー環境を求めていた。最適なワークプレイス作りは試行錯誤の繰り返しだという良い例だろう。

テクノロジーの活用

テクノロジーの進歩により、物理的に同じ場所にいなくても仕事ができるようになった。今後は、デジタルトランスフォメーションにより、オフィスとリモートが半々の完全ハイブリッドワークを目指すMetLife社のような企業もさらに増えてくるだろう。

カンファレンスでは、ワークプレイスの稼働率や使用状況、空気環境や室温などの環境数値などをデータ化し、定量的データに基づいた解析から改善方法を探る取り組みについても多く紹介された。

例えば、PwC社では総床面積600万平米にわたるワークプレイスの8割で、IoTセンサーを導入。以前は従業員の40〜45%がハイブリッドワークだったのに対し、パンデミック後はオフィスに出勤する従業員は10〜12%となり、食事の提供を行う日のみオフィスの稼働率が高くなったなどのデータを蓄積している。

こうしたデータは、効率的なスペース設計など、ワークプレイスを最適化する際の指標として活用される。PwC社ではオープンスペースとプライベートスペースの稼働率をモニタリングし、予想に反してオープンスペースの稼働率が低いことがわかったためプライベートスペースへと切り変えたという。

データを活用して、ワークプレイス運営のコストを削減することも可能だ。Accenture社のMichael Przytula氏は、One Manhattan Westオフィスの曜日や時間帯による稼働率の変動をモニタリングし、稼働率が低い時間帯には一部エリアを閉鎖することで、エネルギーコストを1日に2000~9000ドルほど節約できると語った。

カンファレンス会場となったAccentureのOne Manhattan Westでは、メタバースやロボット犬の導入などの実験的な取り組みも展開している。
(画像はAccenture社のWebサイトより)

さらに、ワークスペースで収集したデータをリアルタイムでフィードバックすることで、従業員にも利点が生まれる。会議室の使用状況やオフィス内の空気環境・室温がわかれば必要なスペースや環境を容易に見つけられ、職場でのストレス軽減にもつながるだろう。

ワークプレイスでのデータの収集・活用における注意点

PwC社のSteve Adams氏やAccenture社のMichael Przytula氏は、ワークプレイスの数値化を進めるにはいくつかの注意点があると指摘している。

まず、有効なデータを収集・抽出・解析し、効果的に活用できる人材は不可欠だ。さらに、収集するデータの特性上、プライバシーに関する従業員の懸念をできるかぎり解消する必要がある。データ収集の目的や手法、利点について、従業員と明確なコミュニケーションをとり、プロセスの透明性を保つことが求められるのだ。

加えて、ワークプレイスの多様化とインクルージョンについて、ニューヨーク大学のMark Norman氏は、決定権を持つ人物の多様化が必須だと呼びかけた。例えば、室温設定のような小さなことでも、大柄な男性と小柄な女性では視点が違ってくる。これは、ワークプレイスにおけるデータの収集や活用方針にも関わってくる課題だろう。

業務におけるテクノロジーの活用に関しては、Accenture社のH.James Wilson氏が人間とAIがそれぞれの長所を生かしたコラボレーションをすることで、今後さらに仕事の生産性や精密度が上がると説いた。

つながりを持つことの意義

柔軟な勤務形態が可能になる一方で、つながりの希薄化が課題となっている。Philip Ross氏は、講演のなかで、5つの異なる部署に所属する5人の従業員のやりとりを記録したMicrosoft 365のデータを紹介した。パンデミック前後を並べたマッピングでは、以前は全員がまんべんなくやり取りをしていたが、パンデミック後は部署をまたぐやりとりが減り、分断している様子が示された。

Ross氏はさらに、Philips社のR&D Labが全社員に向けてオープンクエスチョンを投げかけ、誰が最適な回答をするのかを観察した実験についても言及。最適な回答が、質問者の知らない人から得られる確率が高いことを紹介し、多くの人とつながりを持つことで生産性が高まることを示唆した。

効果的な「つながり」を促すシステムづくり

従業員同士の交流やつながりを生み出すための方法として、前出のワークプレイスの空間設計に加え、バーチャルを含むイベントの開催が紹介された。

Adobe社のNoelle Borda氏は、同社では全従業員の3割以上にあたる1万1000人がパンデミック中に雇用されたと話した。彼らは、雇用も勤務も最初からバーチャルであり、アメリカ国内の従業員のうち、4割は上司が遠隔地にいる環境だという。こうした環境下で従業員たちが同社の一員であると感じられるよう、Adobe社では、フィジカルとバーチャルの両方で料理教室などのイベントを開催してきたという。

その中で、「ゲームチェンジャーだった」とBorda氏が語ったのが、オフサイトイベントだった。世界各国のオフィスから従業員が1カ所に集まり、数日間をともに過ごしたことで、互いへの理解とつながりが格段に深まったという。現在はオフィスを会場として活用しているが、今後は別の施設での開催も検討していく予定だ。

クラウドコンピューティング・サービス企業Salesforce社の所有するTrailblazer Ranchのように、オフサイト用の施設を持つ企業もあるが、こうした動きはさらに増えていくのかもしれない。

コミュニケーションと共感の重要性が増す

最適な働き方に向けた試行錯誤が繰り返されるなか、今後はさらにコミュニケーションが重要になってくるだろう。コミュニケーションを深めるにはユーモアの活用が効果的だと、Peppercomm社のSteve Cody氏とDavid Horning氏は呼びかけた。指摘しにくい問題点や失敗について議論しやすくなるだけでなく、セールストークの最後にユーモアを盛り込むことで売り上げが18%上がったというデータもあるという。

ニューヨーク大学のAnna Tavis教授はカンファレンスの最後に、「これまでの仕事は筋肉任せだった。今はブレインが重視されるが、これからの仕事はハートが重要になる」とする経済学者 Minouche Shafikの言葉を紹介し、共感の大切さを説いた。

ワークプレイスのデザインでは、見た目や数値だけでなく共感性を考慮することでチェンジマネジメントが必要なくなる。そして、テクノロジーのヒューマン化を通じて、共感を得ることの重要性を見直すことになるだろう、とTavis教授はまとめた。今後は機械に勝とうとするのではなく、より人間的な働き方を目指すことが求められていくにちがいない。

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