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総務が知っておきたい、ファシリティマネジメントの目的や資格制度を解説!

より良いオフィス環境の実現とコストの最適化について模索が続く昨今、ファシリティマネジメントの重要性が高まっている。ファシリティマネジメントとは何か、取得可能な資格制度として何があるのかを解説する。

ファシリティマネジメントとは?

企業の総務を務めるうえで必須となる資格はない。しかし、日々の業務の効率化や将来的なキャリアアップを見据えて、新たな知識やスキルの習得をめざす人も少なくないだろう。本記事では、総務部門に関する資格のなかでも、近年、重要性が高まっている「ファシリティマネジメント」について紹介したい。

ファシリティマネジメントの定義について、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)は「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」としている。

もう少し具体的に言えば、ファシリティ(土地、建物、構築物、設備など)を経営にとって最適な状態、すなわちコスト最小・効果最大の状態で保有し、賃借し、使用し、運営し、維持するための総合的な経営活動(マネジメント)のことである。

JFMAはファシリティマネジメントを、経営組織において「人事」「情報通信技術(ICT)」「財務」ととともに、事業を支える経営基盤を構成する機能分野のひとつであるとしている。

画像は公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会のWebサイトより

特に、コロナ禍を経て働き方が多様化した今、より良い労働環境の実現とコストの最適化を担うファシリティマネジメントの役割はますます重要性を増しているといえるだろう。

ファシリティマネジメントはなぜ必要か

ファシリティに関わる費用は人件費に次いで大きく、しかもその大部分が固定費である。つまり、ファシリティが不経済な状態にあることは、経営を大きく圧迫し、経営効率を低下させることになる。

しかし日本では、経営改革としてリストラは進められてきたものの、施設関係費についてはあまり関心がもたれず、その対策が遅れていた。JFMAは、企業がファシリティマネジメントを導入し、ファシリティを有効活用することで得られるメリットとして、次の5つを挙げている。

①不要な施設、不足な施設、不適当な使われ方の施設が明らかになり、経営にとって最適な施設のあり方が示される
②施設の改革によって、経営の効率が最高度に向上する
③同時に施設に関わるコストを最小に抑えることができる
④顧客、従業員その他の施設利用者にとって快適・魅力的な施設を実現する
⑤省エネルギーを実現し、環境問題にとって効果的な解決手段となる

ファシリティマネジメントが従来の施設管理と異なるのは、ファシリティを経営的な視点から捉えて管理する点である。施設の維持や保全のみならず、「より良いあり方」を追求するところがポイントだ。

ファシリティマネジメントの実践について、JFMAは、ファシリティマネジメントを次の3つのレベルに分け、PDCAサイクルを回していく方法を提示している。

①【経営】経営にとって全ファシリティの最適なあり方を追求する「戦略・計画レベル」
②【管理】ファシリティが最適な状態となるよう改善を図る「業務管理レベル」
③【日常業務】日常の運営維持への合理化、計画化、定量化を図る「実務レベル」

PDCAサイクルとは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)のプロセスを循環させることである。ファシリティマネジメントにおいては、下図の通り、経営戦略に基づいて、「戦略・計画」→「プロジェクト管理/運営維持」→「これらの業務を評価」→「評価結果を受けて目標を改善」というサイクルで回し、経営目標に影響する重要な課題解決が必要な場合には、経営戦略にフィードバックすることが提案されている。

画像は公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会のWebサイトより

ファシリティマネジメントを推進する団体

ファシリティマネジメントは、アメリカ発祥の経営管理方式だ。アメリカでは1980年に国際ファシリティマネジメント協会(IFMA)が発足し、ファシリティマネジメントのプロフェッショナル育成や認定資格制度などにより、その普及・発展に貢献している。

日本でも1987年に先述のJFMAが創設され、以降、複数のファシリティマネジメント関連団体が発足し、人材育成や資格取得の推進・支援を行うほか、総務部のファシリティマネジメント担当者同士が情報を共有できる場の提供などを行っている。

ここでは、日本で運営されているファシリティマネジメント関連団体とその活動内容について紹介したい。

1. 公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)

日本におけるファシリティマネジメントの普及定着を図り、ファシリティマネジャーの育成を推進する機関であるJFMA。JFMAが行う事業は、ファシリティマネジメントに関する資格認定、教育研修、表彰、調査研究、広報活動など公共性の高い取り組みが並ぶ。

後述する一般社団法人ニューオフィス推進協会、公益社団法人ロングライフビル推進協会と共同で運営している「認定ファシリティマネジャー資格」では、資格試験、資格登録、資格更新を制度化して実施している。

また、ファシリティマネジメントをテーマにした年1回のイベント「ファシリティマネジメントフォーラム」を開催。事前の参加登録が必要だが、参加費は無料であり、2023年度はオンデマンド配信で約80本のファシリティマネジメントをテーマにした講演が視聴可能であった。

2. 一般社団法人ニューオフィス推進協会(NOPA)

NOPAは、経済産業省(旧通商産業省)の「ニューオフィス化推進についての提言」を受け、1987年に日本のニューオフィス化を推進する団体として設立された。その取り組みは、OA機器の進展を背景にした「ニューオフィス化」から、知識創造を誘発するオフィス環境の整備を目指す「クリエイティブ・オフィス運動」へと進展している。

具体的な活動として、オフィスの快適性や機能性をめぐる諸問題に関する調査研究、情報の収集・提供ならびに人材育成を行っているほか、有名な取り組みとして、日本経済新聞社との共催で毎年開催している「日経ニューオフィス賞」の顕彰事業がある。

3. 公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)

建築物のロングライフ化と良好な建築ストックの形成を事業目的として1989年に設立されたBELCA。同協会は、ビルのロングライフ化のための評価・評定事業や調査研究、情報提供などを行っている。人材育成にも力を入れており、建築仕上診断技術者や建築設備診断技術者の資格制度を運営するほか、NOPAと共同でファシリティマネジャー資格試験の対策講座を開催している。

4. Women’s Facility Management(WFM)

WFMは、「女性の意見をもっとオフィスづくりに反映していくべきでは?」という考えから、オフィスづくりに関わる女性たちがオフィスづくりに関して勉強する会として1997年に発足した。代表は、米・コーネル大学大学院でファシリティマネジメントを研究した後、多くの企業のオフィス移転などに関わってきた日本のファシリティマネジメントの第一人者である古阪幸代氏が務めている。

オフィスをかたちづくる「人」「スペース」「ワークスタイル」「マネジメント」などに関心をもつ人たちが、情報交換やネットワークづくりを行う機会を提供しており、現在は女性だけでなく男性の会員も増えている。

ファシリティマネジメント業務に役立つ資格

続いて、総務部門でファシリティマネジメントに関わる業務を行う際に、持っておくと役に立つ資格を紹介しよう。

1. 認定ファシリティマネジャー

先述の通り、JFMA、NOPA、BELCAの3団体が協力して実施している資格試験。ファシリティマネジメントに携わるすべての人を対象に、ファシリティマネジメントに必要な専門知識・能力が問われる。資格試験に合格し、登録を行うことで「認定ファシリティマネジャー」の称号が与えられる。

なお、登録申請を行うには、例えば4年生大学卒業の人は実務経験2年以上などというように、最終学歴に応じた実務経験が必要となる点に注意が必要だ。学科試験と論述試験があり、近年の合格率は44%ほど。取得は容易とはいえないが、合格すればファシリティマネジメント担当者としての適性の証左になるだろう。

2. 建築・設備総合管理士(ビルライフサイクルマネジャー)

BELCAでは、建築物のライフサイクルマネジメントを担う専門家として建築・設備総合管理士の資格制度を運営している。本資格は、BELCAが実施する「建築・設備総合管理士 資格取得講習」を受講し、その修了が認められ、かつ同領域に関する3年以上の実務経験を有する者が登録申請することで取得できる。

建築・設備総合管理士は、別名をビルライフサイクルマネジャーといい、「建築物の運営では、建築物の機能や資産価値を維持・向上させ、費用対効果の改善を図り、ひいては建築物のロングライフ化を図ることが重要」という考え方に基づいて創設された資格だ。ファシリティマネジメントの思想と重なる資格であり、試験が不要であるため、実務経験をもつ総務部員にはぜひ取得検討をおすすめしたい。

3. オフィスセキュリティコーディネータ

NOPAが運営する資格試験。オフィスセキュリティに関する幅広い知識と、オフィスセキュリティマーク認証の申請業務支援を行う能力を有するかどうかを判定するもの。選択式筆記試験と論述式筆記試験からなり、合格者には、手続き後に「オフィスセキュリティコーディネータ資格証」が発行される。

オフィスセキュリティマーク認証制度とは、NOPAが定めるオフィスセキュリティマーク認証基準に基づいて、企業の経営資産が適切に保護されているかどうかの適合性を審査し、基準を満たした組織に対して認証を付与するものだ。企業のセキュリティに対する意識は年々高まっており、オフィスにおけるセキュリティ対策の知識を体系的に習得しておけば、有用なスキルとなるだろう。

ファシリティマネジメントに精通し総務のプロフェッショナルに

日本で唯一の総務専門誌『月刊総務』が、総務担当者154名を対象に「2023年の総務についての調査」を実施している。その調査で、2023年に総務として力を入れたいテーマについて尋ねたところ、「社内コミュニケーション(54.5%)」に続いて多かったのが「オフィス環境(48.2%)」であった。

前年の2022年の結果をみても、「コロナ対策(62.3%)」に続く2位が「オフィス環境(55.2%)」となっており、近年の総務部門におけるオフィス環境への関心の高さがうかがえる。また同調査では、経営判断において「総務の影響力がある」と回答した人が77.2%にのぼった。

経営判断にも影響を与える総務部門のプロフェッショナルをめざすなら、ファシリティマネジメント関連の資格を取得し、オフィス環境の改善に力を発揮するのも一つの道だろう。

この記事を書いた人:Rui Minamoto