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社内コミュニケーションを促す「社内制度」と「オフィスづくり」のアイデア

ハイブリッドワークの普及により、社内コミュニケーションの不足に課題を感じる企業が増えている。ユニークな施策を行っている企業事例を取り上げ、社内制度やオフィスづくりのヒントを紹介する。

働き方の多様化で求められる「社内コミュニケーション」

ここ数年で働き方が多様化し、オフィスが担う役割や価値が変化している。ハイブリッドワークの導入により、デスクでできる作業は在宅で行い、オフィスを「コミュニケーションの場」と再定義した企業も多いのではないだろうか。

フレキシブルオフィスを展開するWeWork Japan合同会社が、2022年10月に公表した「コロナ禍長期化における働き方意識調査2022」によると、働く場所について一般従業員に尋ねた質問で、「本社オフィス」が「コミュニケーションが生まれやすい場所(82.1%)」、「集中して作業ができる場所(55.9%)」、「仕事上のアイデアが浮かびやすい場所(48.2%)」の3項目で「自宅(在宅勤務)」を上回り1位に選ばれた。

Web会議システムやビジネスチャットなどのデジタルツールは確かに、遠隔でのコミュニケーションを可能にし、柔軟な働き方に貢献した。一方で、そのことにより失われた対面でのミーティングやちょっとした雑談といった、オフィスならではの「社内コミュニケーション」の価値が今、見直されている。

そこで本記事では、ユニークな施策で社内コミュニケーションを促している企業の事例を取り上げ、「社内制度」と「オフィスづくり」の観点から各社のアイデアをみていきたい。

社内コミュニケーションを促す「制度」を導入した企業事例

1. サイボウズ株式会社「仕事Bar」、「ザツダン」

サイボウズが福利厚生の一環で行う「仕事Bar」は、リラックスした雰囲気で仕事の話ができる場(Bar)の開催を支援する制度。飲食を活用して業務上のコミュニケーションの質と量を高めることを目的としており、5人以上の会を開催する際に一人当たり1500円の補助が受けられる。会議室とは異なる「ゆるい雰囲気」で「仕事の話をする」というのがポイントだ。

同社は他に「ザツダン」という制度も導入している。これは、上司と1対1で定期的に行う30分の面談の場だが、一般的な1on1と異なるのはその名の通り「雑談」でよい点だ。仕事の話でもプライベートの話でも、とにかく何でも話してよいとされ、実施するかどうかは部下の自由。業務時間中に行うことが原則だ。また、「成長を促す必要はない」とされているため、1on1に特別なスキルがいるのではないかと負担に感じている上司でも気楽に行える。

現在は、Web会議システムを用いて行われており、ほとんどの従業員が実施しているという。少しの時間でも定期的なコミュニケーションを続けることで、上司・部下ともに些細なことも溜めこまず、「あの時に話そう」と思うようになる。チームのコミュニケーションを活性化するには、こうした雑談を業務にする仕組みを導入するのもいいかもしれない。

2. 株式会社バスクリン「バスクリン銭湯部」

バスクリンでは、2015年に20代の社員の提案により、社内交流や福利厚生を目的とした社内部活動「バスクリン銭湯部」を発足した。活動目的は、銭湯やスパ施設を活用し、社員の交流や健康増進を図り、入浴の知識・教養を高めること。

さらにバスクリン銭湯部では、入浴剤が広まることになった原点ともいえる銭湯の廃業が相次いでいることを受け、「銭湯の活気を取り戻したい」との思いから、銭湯に足を運ぶ人を増やすための活動も行っている。

こうした活動を通じて、実際に社員の部署間を超えたコミュニケーションが生まれ、ベテランから若手社員への知見の伝承の場にもつながっているという。社内部活制度を導入し、会社の事業内容と個人の趣味を掛け合わせた部活動を発足すれば、従業員同士で親睦を深められるだけでなく、企業の広報活動になる可能性もありそうだ。

3. Sansan株式会社「見つカッチ」

名刺管理サービスを提供するSansanには、「見つカッチ」という社内制度がある。これは、同社の行動指針である「Values」を体現している従業員に対して、従業員同士で称賛の言葉を贈り合うというもの。

「見つカッチ」では、ピアボーナスツールの「Unipos」を活用。従業員には毎週日曜日に400pt(1pt=1円)のチップがまず付与される。そこから任意のチップ数を、称賛する相手に対してコメントと共に送るという仕組みだ。送る際には、例えば「#変化を恐れず、挑戦していく」のように、該当するValuesのハッシュタグをつけることも可能。溜まったポイントは給与に上乗せして支給される。

画像はUnipos株式会社のWebサイトより

同社では、「見つカッチ」の導入により、Valuesの浸透はもちろん、称賛をきっかけにコミュニケーションが生まれるなど、一体感が増したそうだ。「見つカッチ」推進担当の佐藤琴美氏は、「個々のやり取りがオープン化されたことで、全社の動きやメンバーの頑張りが見て取れるようになり、組織が急成長する中でも、メンバー1人ひとりや各部門を近くに感じられます」と語っている

ユニークな「オフィスづくり」でコミュニケーションを促進する企業事例

1. freee株式会社「キッチン付き会議室」、「駄菓子屋風会議室」

バックオフィス系のクラウドサービスを開発・提供するfreeeは、オフィスに社内コミュニケーションを促す仕掛けを施している。同社は2022年8月に東京本社オフィスを拡大移転し、新オフィスに「キッチン付き会議室」や「駄菓子屋風会議室」を新設した

画像はfreee株式会社のWebサイトより

「キッチン付き会議室」には、本格的なオーブンや食洗器が揃っており、従業員が手料理をふるまうこともできる。一方の「駄菓子屋風会議室」には、昭和の駄菓子屋をイメージした内装が施され、駄菓子が所狭しと並んでいる。童心に返って斬新なアイデアが生まれそうな雰囲気だ。

画像はfreee株式会社のWebサイトより

freeeはコロナ禍でも従業員数が約2倍、顧客数も約2倍に急成長しており、会議室の不足といったハード面と、コミュニケーション機会の減少といったソフト面の両面で課題を抱えていた。そのため新オフィスでは、偶発的な出会いが生まれる設計を意識。さらに、社内SNSを活用して社員から新オフィスに置いてほしい設備やワクワクする会議室のアイデアを募り、ここで紹介した会議室の他に、テントやハンモックのあるキャンプスペースなども設けている。

業務に必要な会議室や執務席に付加価値をつけることで、新たな社内コミュニケーションの場として生まれ変わらせることができると示す好事例だ。

2. 凸版印刷株式会社「社長のおごり自販機」

凸版印刷では、リモートワークの増加により何気ないコミュニケーションが減少したことに課題を感じ、「ZATSUDAN倍増プロジェクト」を始動。その施策のひとつとしてサントリーホールディングス株式会社が提供する「社長のおごり自販機」を導入した。

「社長のおごり自販機」は、2枚の社員証を同時にタッチするとそれぞれ1本ずつ飲み物が無料で出てくる自動販売機だ。誘い合って自動販売機に飲み物をもらいに行くことで、挨拶以上・食事未満のちょうどよい雑談タイムが生まれることが期待できる。

画像はサントリーホールディングス株式会社のWebサイトより

同社では導入後、他部署や年齢・役職を超えた人達との関わりが増えたという。DXデザイン事業部総務部の瀧野誠氏は、「少人数の偶発的なコミュニケーションを促進できる」点が同自動販売機の魅力であり、「コロナ禍で実施できなくなった様々な懇親行事に比べ、低コストでコミュニケーションを活性化できる」とコメントしている。

社内コミュニケーションが活発な企業は採用活動も有利に

株式会社グローバルプロデュースが2022年2月に行ったZ世代を対象とした意識調査によると、Z世代の約9割が「社内コミュニケーションが活発な企業に勤めたい」と回答していた。コロナ禍に入社した若手社員は、大学の授業や入社後の研修がリモートワークだったという人も多く、人とのつながりにこそ大きな価値を感じているのかもしれない。つまり、社内コミュニケーションを活性化させることは、既存の従業員だけでなく、人材の獲得にも大きく貢献することが考えられる。ハイブリッドワークの定着とともに、社内のコミュニケーション不足を感じている企業は、新たなコミュニケーション施策の導入を検討してみてはいかがだろうか。

この記事を書いた人:Yuichi Ota