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テレワークだからこそ。今、企業に「ほめる文化」「感謝する文化」が必要な理由

感謝や称賛を表す「サンクスカード」や「社内ポイント」をオンラインで活用する企業が増えている。こうした社内交流はテレワークで有効とされるが、それはなぜなのか。事例とともに解説する。

テレワークで求められる、新しいコミュニケーション機会の創出

コロナ禍が長引き、テレワークによる社内のコミュニケーション不足が深刻化している。孤独感の広がりやエンゲージメントの低下、管理・評価体制への不満など様々な問題が明らかになり、新たなコミュニケーション機会の創出を模索する企業も多いのではないだろうか。そんななか、有効な対策として注目されているのが、「感謝」や「称賛」を軸とした組織の活性化だ。

具体例としては、ありがとうの気持ちを伝え、相手の行動をほめる「サンクスカード」や、感謝・称賛を“チップ”として贈る「社内ポイント/社内通貨」などの施策があげられる。いずれもオンラインで運用できるため、テレワークとも相性がいい。

本記事では、感謝・称賛の文化を育むオンラインサービスに注目し、なぜテレワークの諸問題に有効なのか、事例とともに解説する。

オンライン化でさらに広がる、感謝・称賛のコミュニケーション

「ほめる文化」「感謝する文化」を企業戦略の一つとして仕組み化する企業が増えている。その代表例が、行動指針を実践した事例を表彰する「ANA’s Way Awards」を設けているANAグループだ。同グループでは、従業員同士で互いの仕事や行動を認め合うことを重視しており、それがモチベーションや自主性を引き出すことにつながると考えている。そうした思いを形にする手段の一つが、2001年より続けている「Good Job Card」だ。

同僚や部下、上司のよいところを見つけたら、カードに記入して本人に渡す。渡した人、受け取った人双方にポイントが付与され、たまったポイントに合わせてバッチが配布されるほか、メッセージ1通につき1円が社会貢献活動に寄付される仕組みだ。同グループでは働き方改革の一環で、「出社を原則とした働き方」から「お客様・現場に根ざした、場所に捉われない働き方」への移行を図っているが、手書きのカードだけでなくグループ内のネットシステムを通してメッセージを送ることもできるため、活用がさらに広がっている。

手書きのカードでは、日常的に近くにいる相手とのやり取りにとどまりがちだが、オンラインなら勤務地が離れていてもメッセージを送れるというメリットがある。ANAグループのように複数の企業・拠点がある場合や、テレワークが導入されている場合、オンラインのほうがより浸透しやすいだろう。

テレワークにこそ感謝・称賛が必要な4つの理由

感謝と称賛を伝え合う取り組みは、テレワークにまつわる様々な課題に対して有効とされる。その理由として、以下の4つがあげられる。

1. 温かな交流が生まれやすい

コロナ禍以前のオフィスでは、声かけや雑談が頻繁に行われていた。対面では、相手の表情や雰囲気から非言語情報を得られるため、心身の状態を慮ることもできた。一方、テレワークでは業務上必要なやり取りに終始してしまいがちだ。対面ならではの、相手のコンディションに合わせた温かな交流が生まれにくい。

その点、感謝や称賛は一歩踏み込んで、ポジティブな感情を届ける行為であり、テレワークで失われやすいインフォーマルなコミュニケーションにつながる。それをきっかけに仲間との助け合いや、周囲への相談もしやすくなり、テレワークで問題視されている「孤独感」を和らげる効果も期待できる。

2. 見えない貢献を可視化できる

以前から、数字に表れない組織への貢献は埋もれやすかったが、テレワークにおいてより顕著になっている。一方、「サンクスカード」や「社内ポイント」には、“隠れたファインプレー”や“影の功労者”に光を当てる側面がある。

それまで報われないと感じていた人も、きちんと評価されてそれが広く共有されれば、またがんばろうという気持ちになるもの。前述のANAグループでも、「がんばる→ほめる→がんばる」のサイクルを機能させるうえで、「Good Job Card」が効果的に作用しているようだ。

3. 多角的な人事評価ができる

テレワークを導入する企業では、人事評価もしばしば課題としてあげられる。従業員の普段の行動が見えにくくなり、プロセスの評価が難しくなるためだ。限られた情報をもとに上司が評価を行うと、属人的になり、不公平感も生じやすい。その点、周囲からの感謝や称賛は、客観的かつ公正な評価をするうえで貴重な判断材料となり得る。

4. 理念・バリューの浸透に利用できる

テレワークだと個人の裁量で働く割合が高くなり、会社の価値観をうまく共有できず、従業員が別々の方向を向いてしまうのではないか。そんな不安を抱く経営者も少なくないだろう。感謝や称賛を形にするオンラインサービスのなかには、企業の理念やバリューと関連付けて運用できるものもあり、その浸透に一役買っている。

具体例としてあげられるのが、UI/UXデザインなどを手掛けるデザインカンパニー株式会社グッドパッチの取り組みだ。同社はコロナ禍の2021年1月に、感謝・称賛のメッセージとともに従業員間で少額の報酬(ピアボーナス)を送り合えるオンラインサービス「Unipos」を導入した(サービスの詳細は後述)。自社の5つのバリューに紐付けて運用したところ、バリューに関連する感謝や称賛が多く交わされるようになったという。

取り組みの形骸化を防ぐ、オンラインサービス事例

いざ制度として取り入れても、組織の文化に根付かなければ思うような効果は得られない。普段使っているビジネス用のチャットツールなどを利用して感謝や称賛のメッセージを送るのも一つの手だが、仕組み化しないままでは習慣付けは難しく、形骸化しやすい。そこで、スムーズな運用をサポートするオンラインサービスを以下に紹介する。

1. Unipos

UniposはUnipos株式会社(旧:Fringe81株式会社)が提供するサービス。感謝・称賛のメッセージとともにポイントを送り合い、そのポイントを報酬(ピアボーナス)として受け取れる。送ったポイントや称賛のコメントはすべてタイムラインで共有され、タイムラインを見た第三者は、「拍手」をクリックして称賛の意思を表明できるシステムだ。

また、前述のグッドパッチの例にもあるように、行動指針やバリューなど定着させたい言葉をハッシュタグに登録できる機能もある。ハッシュタグをクリックすることで、そこに紐付く具体的な行動をまとめて確認できるため、企業理念の浸透に役立つという。2017年のリリース以来、実効性の高いサービスとして高い支持を得ており、コロナ禍でも継続率99%をキープ。2021年4月時点での累計導入企業数は、500社を超えている。

2. GRATICA

株式会社オウケイウェイヴが提供するGRATICAは、感謝の気持ちをオンラインで伝えられるクラウドサンクスカードだ。同社は、サンクスカードにおいて15年以上の運用実績を持っている。感謝の内容を質的・量的に可視化することで、従業員満足度向上にも貢献できるという。

送信先を指定し、デザインを選んでメッセージを記入するだけと、操作方法がシンプルで気軽に導入できるのも特長の一つ。使い勝手のよさが、社内での浸透を後押ししている。同サービスを活用する損害保険ジャパン株式会社の保険金サービス部門では、以前はアナログなサンクスカードを作成していたが、GRATICAの導入により「やらされている感」なしに楽しみながら運用できているとのこと。従業員が主体的に取り組める手軽さも、根付かせる際のポイントとなりそうだ。

3. RECOG

RECOGは株式会社シンクスマイルが提供するチームワークアプリ。ほめるコミュニケーションを仕組み化することで、組織が抱える課題の解決をめざす。お互いの活躍をほめ合う「レター機能」では、レターのやり取りがシェアされるため、第三者も拍手するなどしてアクションを起こすことができ、社内コミュニケーションが活性化される。

また、オプションで、自社のバリューをバッジにして贈り合う「バリュー浸透プログラム」や、レターのやり取りで発生したポイントを商品に交換できる「称賛給プログラム」も選ぶことができ、目的に合わせたカスタマイズが可能。同社の調査によると、サービスの導入によりモチベーションが上がったと感じる人は83%、人間関係がよくなったと感じる人の割合は75%と、多くの人がポジティブな変化を実感しているという。

「よい行動」の可視化が信頼関係を育む

最後に、業務の可視化と監視の問題について触れておきたい。

テレワークでは、一人ひとりの働きぶりが見えにくい。会社としては、従業員がきちんと働いているかが気がかりでもあり、何を判断材料に評価すべきかわからないという戸惑いもある。そこで持ち上がるテーマが「業務の可視化」である。

何時に業務を開始し、何時に休憩し、何時に業務を終了したのか。事細かに記録し、さらにはパソコン画面までモニタリングする。そんなITツールの導入を検討する企業もあるだろう。しかし、従業員からは、「監視されているようでいい気持ちがしない」「さぼっていると疑われることにストレスを感じる」といった反発も根強い。

この業務可視化と監視をめぐる議論において、「感謝・称賛の文化を築く」という選択肢は、一見すると無関係のように思える。しかし、従業員の小さな貢献や、よい行動を見つけることも、実は働きぶりの可視化につながっているのだ。

さぼらないように目を光らせるか、よい行動を称えるか。同じ「可視化」でも、ベクトルは正反対である。会社と従業員が信頼関係で結ばれるのは、後者の感謝・称賛の文化を築くことではないだろうか。

この記事を書いた人:Wataru Ito