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コミュニケーションの再考 / Frontier Session #2

tonariの後尾氏、東海大学現代教養センターの田中氏、筑波大学大学院人間総合科学研究科の酒井氏を迎え、コミュニケーションの価値や今後のあり方について話をうかがった。

コロナ禍で変化するコミュニケーションのあり方

本カンファレンスは、株式会社フロンティアコンサルティングが「Frontier Session」と銘打ち、2018年より社員教育を目的に開催しているイベントです。

今回は、コロナ禍で働き方が変化する中で、今後のワークプレイス構築の要素として度々議論されるコミュニケーションに着目し、「コミュニケーションの再考」をテーマに選定。一般社団法人 tonari/tonari 株式会社の後尾志郎氏、東海大学現代教養センター教授の田中彰吾氏、筑波大学大学院人間総合科学研究科の酒井智弘氏をお招きし、コミュニケーションの重要性と価値、そしてこれからのコミュニケーションのあり方についてお話をうかがいました。

セッション情報

開催日:2021年2月4日
会場:株式会社フロンティアコンサルティング
(登壇者は対面でのセッション、聴講者はZoomにて視聴)
テーマ内容:『コミュニケーションの再考』

スピーカー

(五十音順)

後尾 志郎(ごのお しろう)
一般社団法人 tonari/tonari 株式会社
2009年に大学卒業後、起業。大手通信会社やアパレルSPAをクライアントとしてモバイルアプリやキャンペーンサイトを開発する傍ら、プロダクトマネージャーとして自社サービスの開発に従事する。2014年から東南アジア市場向けアパレル小売のスタートアップを設立し、COOとして資金調達・現地店舗およびECの店舗開発・マーケティングなど幅広く担当する。tonariでは事業開発・ファイナンス・オペレーションなどを担当。


酒井 智弘(さかい ともひろ)
筑波大学大学院 人間総合科学研究科
1992年奈良県出身。筑波大学大学院で2021年3月に博士号(心理学)を取得。専門は社会心理学。大学院では、ソーシャルスキルという概念を用い、人づきあいについて研究。また、非常勤講師としてコミュニケーション・スキルや心理学統計法の授業を担当するほか,HR業界を中心に企業との共同研究に従事。現所属は、株式会社KDDI総合研究所。研究者情報はこちら


田中 彰吾(たなか しょうご)
東海大学 現代教養センター教授
2003年、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。博士(学術)。東海大学現代教養センター教授。身体性にもとづく人間科学を創造することを目標に研究を続ける。対人コミュニケーション分野では、非言語行動の同調や同期が他者理解に及ぼす影響を調査している。主著に『生きられた〈私〉をもとめて――身体・意識・他者』(北大路書房、2017年)など。
WEBサイト:https://shogo-tanaka.jp/

モデレーター


稲田 晋司(いねだ しんじ)
株式会社フロンティアコンサルティング執行役員 ( 管轄:ワークデザイン研究開発部)
1980年生まれ、東京都出身。建築設計事務所で住宅設計に4年半従事した後、オフィスデザイン業界へ。2007年のフロンティアコンサルティング創業時よりデザイナーとして参画し、2009年に一級建築士を取得。国内外約70名のデザイナーを抱える設計デザイン部門統括責任者を経て、2020年にワークデザイン研究開発部を設立。ウェブメディアや実証実験プラットフォームの運営を通してリサーチ活動を行う傍ら、概念設計やコンセプトデザイン領域でクライアント企業のオフィス構築プロジェクトを支援する。


コミュニケーション手段の基礎知識:言語的・非言語的コミュニケーション

稲田晋司(以下、稲田) コロナ禍以前からテレワークを導入してきた企業も一部ありますが、日本ではこれまで、毎日決められた時間にオフィスに出社して仕事をするという画一的な働き方が浸透してきました。現に、Worker’s Resort編集部で昨年12月末に実施したアンケート調査(社会人300名と学生200名が対象)でも、社会人の96%がパンデミック前はほぼオフィスに通勤していたと答えています。

また、アンケートの実施時点でほぼ毎日オフィスに通っている人は69%程度でした。残りの31%は、毎日オフィスに通うことはなく、自宅や個別の場所で仕事をしているようです。それに付随した意識調査では、約36%がコロナ終息後もオフィスではない場所で仕事をしたいと考えていることもわかりました。こうした状況を踏まえ、今後のワークプレイス構築におけるコミュニケーションの再定義が必要になっていると感じています。

今回のセッションでは、「コミュニケーションの再考」をテーマとして、対面コミュニケーションの重要性と価値について様々な意見交換ができればと思っています。まず、コミュニケーション手段の基礎知識について、田中先生お願いします。

田中彰吾氏(以下、田中) コミュニケーションは基本的に、言語を中心に情報が伝達される「言語的コミュニケーション」と、言語以外の身振り・手振りや表情、声のトーンなどの非言語的な要素を中心に伝達される「非言語的コミュニケーション」に分けられます。オンラインとオフラインでは、言語的・非言語的なコミュニケーションの配分が変わってきますし、それが今回のテーマのポイントになるかと思います。

非言語については様々な研究がありますが、例えば近年着目されているものに「ポリヴェーガル理論」というのがあります。もともと爬虫類と哺乳類の脳の比較研究からきた話で、哺乳類は爬虫類にはない自律神経系の働きを発達させていることがわかってきています。単独行動が多い爬虫類に比べて集団行動が多い哺乳類で発達した機能で、それは、ほかの個体がいるときに鋭敏に反応する神経系の作用、言わば他者とのつながりを促す機能です。

最近の研究では、その神経系において、表情と声の情報がかなり大きな比重を占めているのではないかと言われています。私たち哺乳類の感性と強い結び付きを持つようです。

また、人と人との身体間の距離についての研究も、非言語コミュニケーションに関わってきます。例えば、男性と女性におけるパーソナルスペースの差異に関する研究がよく知られています。女性のパーソナルスペースの形は円形に近いのに対し、男性の形は縦長で、わりと視覚の影響を受けやすいんです。様々なシミュレーションから、この差異において男女間で誤解が起こりやすいパターンも見えてきています。

さらに、パーソナルスペースの広さは性格とも関係しています。社交性が強いタイプの方はパーソナルスペースが狭く、周りと距離をつめて話す傾向にあります。逆に、内向性の強い方は、一人でいることが好きであまり干渉されたくないので、広めのパーソナルスペースを保つ傾向があります。

稲田 ありがとうございます。海外の方はパーソナルスペースがわりと狭い印象ですが、後尾さんの会社は外国人の方が多いですよね。違いを感じることはありますか?

後尾 志郎(以下、後尾) コロナ前にはなりますが、めちゃめちゃハグしてました(笑)

(一同笑)

後尾 弊社では四半期に1回、オフサイトミーティングを行っています。泊まりがけでディスカッションをしながら、チームカルチャーを強化したり、ロングタームのコミュニケーションを形成したりするんですが、そのときに距離の近さを改めて感じることはありますね。

もともと、周りに外国人の友人がいたことも影響しているかもしれません。そうした文化による影響と、先ほど田中先生がおっしゃっていた哺乳類が持つ自律神経の働きからくるものと、その違いは何だろうと思いますし、興味深いですね。

稲田 コミュニケーション手段という点で、酒井さんはいかがですか?

酒井 智弘(以下、酒井) 私が研究で扱っている「ソーシャルスキル」の価値からお話ししようと思います。田中先生のお話にあった言語的・非言語的なコミュニケーションですが、その組み合わせには技術的な部分が関わってくるとよく言われています。感謝を表す「ありがとう」という言葉一つとっても、非言語情報である笑顔や申し訳なさそうな表情がついてきますよね。

オンラインでのコミュニケーションになると、例えばZoomで授業をするときは、画面に僕の表情は写っていて学生さんは音声だけなんです。こちらから伝える情報としては表情・言葉・音声があり、相手から受け取る情報は音声のみ。このように、コミュニケーションのパネルが限られる場合は、伝え方や表情、言葉の合わせ方など、言語と非言語をどう組み合わせるかがかなり重要になると感じています。

非対面コミュニケーションでは伝わりにくいもの

稲田 次に、テレワークの広がりなど、非対面の状況で伝わりにくくなっているものについてお話しできればと思います。

後尾 弊社では、離れた空間を等身大の大画面でつなげる「tonari」というオンラインコミュニケーションサービスを提供しています。導入にあたっては、まずお客様のコミュニケーション課題を明確にした上で、tonariを通じてその課題を解決できるかを判断することがとても重要で、そのプロセスにかなりの時間をかけています。

tonariの導入事例(画像はフロンティアコンサルティングのWEBサイトより)

お客様のニーズは様々ですが、既存のウェブ会議システムだけでは社内コミュニケーションをとるのが難しいというご相談が多いですね。例えば、今まで対面でリアクションを見ながら行っていたOJT(On the Job Training:実務を通した教育)が機能していないといったお話も耳にします。

また、バーチャル社長室をつくりたいというご相談もありました。本社の社長室に簡単に行けない現状があるけれど、社長としてはレポートを承認する際、その人の目や声からどれだけリアリティがあるかを判断しているから困っていると。また、逆に会社から社員にメッセージを伝えたいときにも、どうも熱がこもらない、リアリティを出しにくいというお悩みもあるようです。

非対面の状況だと、既存のツールだけではいろんな情報がこぼれ落ちてしまい、非言語的コミュニケーションが伝わりにくくなっている印象があります。そうした状況が物理的な距離によって生まれているのであれば、技術的なアプローチで解決できるといいですよね。自分がいたい場所にいて、つながりたい人たちといつでもつながることができて。そうやって生活や仕事を理想的に両立できる世界をつくり出すというのは、tonariの理念でもあります。

稲田 ありがとうございます。田中先生は、研究内容もそうですし、学生さんとの接点においても非対面のシチュエーションが多いと思いますが、いかがですか?

田中 オンライン授業に切り替わって強く感じるのは、視線の問題です。教室で対面授業をするときは、学生一人ひとりの表情を確認できますよね。温かく見守ったり、場合によっては厳しく睨みつけたり(笑)

言葉は交わさなくても、視線である種のコミュニケーションをとっています。逆に、私も学生に見られることで、自分がここにいると学生に察知してもらっていることがわかります。そうやって身体と身体が同じ空間に位置していることによって、つまり、手で触れる、目で見るという知覚的な交流を持つことで、相手の存在を確かめていると思うんです。そうしたお互いの存在を確認できる場があるかどうかが、全体としてコミュニケーションにおいて何が起きているかを見ることにつながる気がします。

稲田 そうですね。以前、田中先生にインタビューしたときに、オフィスは人材開発の場所というお話が出ましたよね。やはり上司からすると、同じ空間にいるから見えること、同じ場所にいるという安心感のようなものが生じているかもしれませんね。酒井さんは、研究分野のソーシャルスキルの視点も含め、何か感じていることはありますか?

酒井 スキルで技術的に解決できるという希望をお伝えしたいんですが、まだそれはわかっていません。ただ、僕はオフィスを、企業のカルチャーを伝えたり、他者と感情的な交流をしたりする場所と捉えています。ですので、そうしたことをスキルとして伝え合っていくと、チームの一体感が高まったり、現場の温度感が共有できたりするのかなと、お話を聞きながら考えていました。

稲田 今日の状況下で、会社への帰属意識や社員とのつながりが失われたという声も耳にしますよね。組織が一体となって仕事をしていくことを考えると、互いの存在を認識することには重要な意味がある気がします。

後尾 お客様からも、企業の一体感を高めたい、チームのカルチャーを統一したいといったお話をうかがいます。ここでもやはり、距離がすごく重要かなと。tonariのようなツールで空間をつなげて、より近くに感じることで、チームの一体感を生み出すことはできるのかなと考えています。

これから必要となるコミュニケーションスキルとは

稲田 テレワークのような働き方も広がる中、今後どのようなコミュニケーションスキルが求められるのでしょうか? 酒井さんからお願いします。

感謝を伝えることで孤独感を下げる

酒井 企業の方から、オフィスでのコミュニケーションが減り、テレワークで一人で仕事することが多くなって、孤立化している、孤独感が増しているという声をよくうかがうんですね。そうした「孤独感」は「感謝」で下げることができると考えていて、論文化しています。では、なぜ感謝すると孤独感が下がるのか、そのメカニズムをお話したいと思います。

「人間関係の中での感謝」に限定した話になりますが、感謝すると相手からのレスポンスがかなりあるんですね。例えば、感謝される側としては、好意的な意図を伝えてもらいたい、ありがとうって言ってほしいという思いがあります。

一方、感謝を伝える側のメリットとしては、伝えることで相手にしてもらった出来事を思い出し、他者の存在が頭の中に想起されます。それによって他者とのつながりに改めて気付き、孤独感が減るという論理です。こうした、行動によって孤独感を下げていくトレーニングが、オンラインのコミュニケーションでもできるのではないかと思っています。

また、音声やテキストを介したコミュニケーションの重要性も改めて感じています。例えば、「ありがとう」を伝えるとき、感謝した理由を添えるのか、お礼の約束をするのか。または、名前を付けて「◯◯さん、ありがとうございました」と言うのか。そうした一つひとつの伝え方を意識することが、他者の存在を意識することにつながり、孤独感が下がると考えています。

稲田 表情や身振り、手振りが伝わりにくい状況で、「ありがとう」だけではなく、そのほかの要素も足していくということですか?

酒井 そうですね。例えば、メール文でもただ「ありがとうございます」と書くのではなく、感謝した出来事を付け足していくんです。そうやって思い出を言葉にして伝えることで、相手と感情を共有することができます。

稲田 言葉に出すことでその事柄をより自己認識しやすくなる、というのはあるのかもしれませんね。

言葉の使い方のディテールを見直し、言語の技術を育てていく

田中 お話をうかがいながら、オンラインのポジティブな可能性を探せないかなと考えていました。授業のオンライン化が進んだこの一年を振り返ると、教育効果と同時にコミュニケーションスキルをあげる上で一番効果があったのは、大学院生の授業なんです。

というのも、大学院生の授業はディスカッションの時間が非常に長いんですね。教室に集まってディスカッションを行うと、その場の雰囲気に頼らないと発言できない学生が出てきます。

けれど、オンラインで順番に自分の意見を求められるという場面設定があると、「何を話すべきか」を頭の中で事前に組み立てた上で、ロジカルに意見を発することができるようになっていて。酒井さんのお話のように、これもソーシャルスキルで、訓練すればするほどうまくなっていきますね。

対面の場合は「言語:非言語=3:7」のイメージですが、オンラインだと逆転して「言語:非言語=7:3」のイメージに近くなってきます。学生の中で、その7割となる言語の部分をうまくつくり込む技術が育っていけば、オンラインコミュニケーションの中にも、今まで我々が経験したことのない可能性がたくさん埋め込まれているなと感じています。

先ほどの感謝の話ともつながってくるのですが、日本語の特徴的な表現の中に関係付けを想起させる助詞はたくさんあります。例えば、「◯◯ですね」、「◯◯ですよ」、というように語尾にくっついてくる「ね・さ・よ」は、相手によって大きく変わってきます。社長を相手に話をするときに、「◯◯でさ」は絶対言えないですよね(笑)

(一同笑)

このように、日本語の特性の一つとして、自分と相手との関係性によって語尾の選択が変わってくるということがあります。そういう意味では、オンラインコミュニケーションでもTPOを選んで言葉のトレーニングを積めば、相手との関係をもっと豊かにできる方法がありますし、日本の言葉遣いの中にはその機会がたくさん埋まっていると思います。言葉の使い方のディテールを見直すことで、孤独感の解消につなげられるのではないかなと、お話を聞きながら考えていました。

稲田 おもしろいですね。オンラインの状況をうまく活用して、ポジティブにコミュニケーションスキルを磨いていく。そうすることで、オフラインの対面コミュニケーションに戻ったときにも、もともと持っていた対面コミュニケーションよりも成長したスキルが習得できますよね。

非言語情報の明文化でチームの方向性をそろえる

稲田 後尾さんに質問ですが、英語は語彙がそれほど多くありませんよね。英語でコミュニケーションをとる中で、感じることや気付くことはありますか?

後尾 英語だとシンプルでダイレクトな伝え方になるので、誤解は少ないかなと思っています。言葉がストレートで、結論を最初に述べたり、主語・述語が明確に書かれたりしますし、ニュアンスの齟齬や内容の誤解が生じることはかなり少ない感覚です。

コミュニケーションスキルから少し視点がずれるかもしれませんが、弊社では非言語の情報を意識的に明文化することで、チームの方向性を調整するようにしています。現在、東京と神奈川の拠点に4~5人ずつ、社員がほぼ半数に分かれて仕事をしていますが、スタートアップでもあり、実際はわりとクリティカルに分断されているんですね。そこをtonariが補っている部分も大きいんですが、チームの中で文書作成にルールを設けて、何をやるのか、その背景はどうなのか、ゴールは何か、などを明文化しています。

これにより、オンラインコミュニケーションであっても、コンテクストやこれからつくろうとしているアウトプットの粒度、解像度、優先順位がかなり明確になります。リモートワークでなくなったとしても、こうした癖がついているとチーム内の方向性がそろいやすいので、ポジティブな効果が得られるのではないかと思っています。

稲田 ありがとうございます。2013年に、アメリカのヤフー社でテレワークを禁止する動きがありましたが、その背景にはテレワークで働くためのインフラがまだ十分に整備されていないという事情がありました。今は、デジタルコミュニケーションのツールも増えて、環境が整ってきています。我々もそうしたツールを駆使しながら、オンラインでもしっかりコミュニケーションをとっていけるスキルを身に付けていきたいですね。

この記事を書いた人:Chinami Ojiri