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WeWork電話ボックスのホルムアルデヒド問題から考えるオフィスの空気環境

[October 25, 2019] BY Shinji Ineda

コミュニケーションを重要視してオープンな空間計画がオフィスで採用される昨今、通話プライバシーの確保や、周囲への迷惑を防止できる電話ボックス(的な設備)も、様々なオフィスで見かけることが多くなった。日常的に顧客情報や機密事項を取り扱う企業からすると、それらの情報が漏洩することはあってはならず、とりわけ様々な企業や起業家が集まるコワーキングスペースではリスクも少なくない。そのため多くのコワーキングスペースで通話専用スペース(または部屋)がデフォルトで配置されるようにもなっている。

そこへ、コワーキングスペース最大手のWeWorkが、同社が提供するコワーキングスペースに設置された電話ボックス約1600台から基準値以上のホルムアルデヒドが検出されたと先日10月14日に発表した。ことの経緯についてはTechCrunchなどで詳しく取り上げているので、そちらをご覧頂きたい。

ニュースの舞台となっているのは米国とカナダであるが、今回対象となった化学物質ホルムアルデヒドへの規制は日本国内でも整備されていることから、本記事では改めて化学物質が従業員の健康に影響をもたらす影響と対策について確認していきたい。

関連記事:健康的なオフィスの新基準、WELL Building Standardとは?

日本国内における化学物質の規制

日本でシックハウス症候群という言葉とともに有害物質の危険性を広く耳にするようになったのは1990年代後半からのこと。住宅の高気密化が進むにつれて、建材などから発生する化学物質を起因とした室内空気汚染が人々の健康に影響を及ぼすことが問題視された。めまいや吐き気、喉や目の痛み、頭痛など人によって症状は様々で、それらがシックハウス症候群として大きく取り上げれるようになると、問題の深刻化を受けて2002年7月に建築基準法の改正が行われた。その時の改正ポイントの1つとして、居室の種類と換気の回数に応じてホルムアルデヒドを発散する内装仕上げ材の面積制限を行うことが定められた。

ホルムアルデヒドは化学物質の1つで、工事で使われる建材や接着剤に含まれている。無色透明であるが強い刺激臭がともなう。厚生労働省では室内空気汚染を防止するため、化学物質における室内濃度指針値を定めており、ホルムアルデヒドは100マイクログラム/立方メートル(0.08ppm)としている。

出典:許容濃度の暫定値(2007年度)の提案理由(日本産業衛生学会) 等

また服飾からも発散されていることから、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」で基準を超える製品の流通防止が図られている。

空気中の化学物質を巡る国際的な動き

ホルムアルデヒドの危険性は国際的にも認知されている。世界保健機構(WHO)の一機関である国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer)による発ガン性分類では、ホルムアルデヒドは「ヒトに対する発ガン性がある。」とするGroup1に属しており、毒性の強い化学物質であるとされている。

またオフィスにおける化学物質の危険性を気にするのも米国やカナダだけではない。中国最大の国際都市で日本人観光客も多く訪れる上海では、オフィス移転の際に従業員が最も気にするのが、デザインや施工品質ではなく化学物質による臭気だという。近年上海では身体に悪影響をもたらす化学物質にとても敏感になっており、工事完了後に国指定の第三者機関による空気汚染検査を実施することが一般的になりつつあるという。また従業員のなかには検査による合格通知書だけでは納得ができず、自ら検査キットを購入して独自に検査を行う人もいるということだ。

指針が定められていない家具からのホルムアルデヒド

日本では建物を建てたり大規模な改修工事を行ったりする際に必要となる確認申請時に、内装工事に使用する建築材料の一覧や換気計画を記した資料を提出することになっている。そのためビル自体については、有害な化学物質の心配はしなくてもよいと言える。またテナント入居時に行われる内装工事についても各メーカーが(建築基準法に対応するため)建材の改良を行っているので、一般的に使用される材料などについては必要要件を満たすものであると考えて良いだろう。しかし家具については話が変わる。

家具の多くには内装工事でも利用される合板が使われるが、家具に用いられる合板には建築の際に用いられる合板のような指針等が決められてはいないからだ。東京都福祉保健局が実施した調査によると、計8棹のタンスを対象に各タンスから5箇所ごと木片を切り出しホルムアルデヒドを測定したところ、居室の内装仕上げでは使用が禁止されている基準以上のものが40検体(タンス8棹×5箇所)中で18検体あったという。

オフィスで有効なホルムアルデヒド対策

ここまで危険性や健康に及ぼす影響について触れてきたが、ホルムアルデヒドは我々の生活に密接に関わっており、完全に除去することはできない。日常的に販売されている製品にも含まれていることから、室内の濃度を低く抑える工夫をしていくことが必要だ。

それでは、オフィスにおいて実行できる具体的な対策をいくつか挙げていこう。

・放出期間を設ける
オフィスは工事や家具の搬入後、すぐに使用されることが一般的だ。しかし施工や家具の設置が行われた直後は、一番ホルムアルデヒドの発散量も多い。日本塗料検査協会が実施した「塗膜からのホルムアルデヒド放射量測定」においても、養生期間1、3、7、21日後の放射量測定の結果、7日までは高濃度の値が検出されたが、21日後ではほとんど検出されなかったと述べている。もし可能であれば一定期間該当スペースを利用せずに、発散を促す期間を設けるといいだろう。

・換気を心掛ける
個人差はあるが、ホルムアルデヒドは通常0.05〜1.00ppmの濃度に達すると臭いを感じるといわれている。そのため利用シーンにおいて臭いが気になることがあれば、室内濃度を低減させるために換気を意識するとよいだろう。高層のオフィスビルでは窓の開閉が行えないため、備えつけの機械換気設備に頼ることとなるが、中低層のビルの場合は窓の開閉が可能なところも多い。

・空気を測定を行う
オフィスという多くの人が利用する場所において、臭いという感覚的な部分を頼りにするのは不安と考える方々には、空気を測定するツールの導入もお薦めしたい。ビル衛生管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)では、3,000m2以上のオフィスビルは空気測定(浮遊粉塵量、一酸化炭素、二酸化炭素、温度、相対湿度、気流)を2ヶ月以内に1回実施することが求められている。それに加え、ホルムアルデヒド測定も新築、大規模修繕、大規模模様替を行った後で測定時期が決められている。新築のビルであれば、測定値をビル管理会社に問い合わせてみるといいだろう。

また日常的な数値を確認したいという場合は、以前ご紹介したAwairなどのツールを利用して、自身で空気の見える化に取り組むとよいだろう。

・設計や施工を行う会社に事前につたえる
オフィスの利用を始めてから問題を抱えないよう、計画段階でオフィスの設計や施工を担当している会社に事前に伝えるということも重要だろう。造作家具についても建築と同様の指針に沿った材料を使ってもらう、輸入家具については証明書の有無を確認する、オフィス搬入前に一定期間化学物質の放出期間を設けてもらうなど、被害が発生する以前の予防ができる。

・NASAが証明した植物の効果
アメリカ航空宇宙局(NASA)では宇宙ステーション内の空気汚染対策について長年研究を行ってきた。そして1984年に「植物には密閉された実験空間のホルムアルデヒドを除去する効果がある」と公表した。効果があったのはセイヨウタマシダやインドゴムノキ、アレカヤシ、ベンジャミンなどで、我々が日頃みかける植物も多く挙げられている。このような観葉植物の利用も具体的な対策の1つだ。

今回はホルムアルデヒドを中心にお伝えしたが、シックハウス症候群は化学物質に加えて細菌やダニによるところもあるため、日常的な掃除なども防止策して挙げられる。

安全に働ける環境を目指して

近年のオフィスには託児所なども設置され、オフィスを利用するユーザー層は社員やその家族も含め現在広がっている。ここ数年で働く場所と生活の距離がより近づきつつあることから、ワークプレイスはそれを考慮した健康的な環境であることが大切だ。自分や家族の体は自ら守るという意識も大切だが、企業は責任をもって従業員が安全に働ける環境を作る努力が必要である。

知らず識らずのうちにシックハウスもといシックオフィス症候群によって社員の健康が蝕まれることのないよう、いま一度空気環境について考えてみてはいかがだろうか。

 

【参考ページ】

塗膜からのホルムアルデヒド放射量測定:https://www.jpia.or.jp/items/doc/vague/112/112test2.pdf

東京都福祉保健局 家具からのホルムアルデヒド放散(調査結果):http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/smph/kenkou/iyaku/anzen/horumarin.html

厚生労働省 建築物環境衛生管理基準について:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/

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この記事を書いた人

Shinji Inedaフロンティアコンサルティングにて設計デザイン部門の執行役員を務める。一方、アメリカ支社より西海岸を中心としたオフィス環境やワークスタイルなどの情報を、地域に合わせてローカライズ・ポピュラーライズして発信していく。



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