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ABWの創設者Veldhoen x イトーキが作り出す、日本流ABWのあり方

[December 12, 2018] BY Kazumasa Ikoma

2018年12月、日本有数の家具メーカーであるイトーキがこれまで都内に分散していた4つの拠点を集約する形で東京・日本橋に新本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」をオープンさせた。この新本社は同社プレスリリースにもあるように、イトーキが2018年10月から実践するABWを採用した新たな働き方「XORK Style(ゾーク・スタイル)」の核の1つとして実現させたもの。計850人にも及ぶ社員の自己裁量を最大化し、テーマには働き方の「Free(自由)」を掲げている。先日の記事で紹介した、ABW創設者であるVeldhoen + Company社との提携のもと、ABW戦略を本格的に導入した国内初のワークプレイスだ。

1つのオフィスでできる限りコラボレーションを活性化させたかったイトーキは、1フロアにできる限り社員を配置できるメガプレート(巨大面積)のビルを探し、社員が顔を合わせる機会を増やすことを目指したという。都内に建設されている複数のメガプレートビルを検討し、最終的に日本橋高島屋三井ビルディングを選んだ。アクセスの良さのみならず、フィットネスジムやコワーキング、ショッピング施設といった、「ワークライフ」のライフの部分をカバーしてくれる施設が多くあったことが決め手だったという。

「自由」な働き方、ワークライフの充実、そして日本初のVeldhoen社の知見を受けて本格的ABW導入を果たそうとするイトーキ新オフィス移転プロジェクトはどのように進められたのだろうか。今回、イトーキ東京本社移転プロジェクトリーダーを務めた藤田浩彰さんに話を聞いた。

これまでのオフィスは「社員の生産性に寄与していなかった」

そもそもこの新オフィス移転プロジェクトの背景には、2020年に創業130周年の節目を迎えるイトーキが打ち立てた「中期経営計画2020」がある。この中計では挑戦的な目標設定を掲げた一方、今の働き方と生産性で果たしてこの目標を達成できるのかという社内の議論を何度も繰り返してきた。多くの企業が人材獲得に苦しむ昨今、簡単に人を増やすことはできず、人員リソースの規模感の大幅な成長は期待できない。その状況下で1人あたりの生産性を向上していかなければいけないという結論から、イトーキの「働き方変革130」は生まれ、オフィス集約移転プロジェクトは本格的なスタートを切った。

企業成長のためにあらゆる側面での革新が必要とされる中、ファシリティ面の議論で注目されたのが、社内で行ったオフィスに対する意識調査だった。これまでもオフィス家具メーカーとして企業の手本となるオフィスを持ってきたイトーキだが、蓋を開けてみると社員からは以下のような衝撃的な問題点が挙がった。

  • 68%:仕事の生産性にオフィスが寄付していないと感じる
  • 37%:自分のデスクで集中して仕事ができないと感じる
  • 89%:オフィス内での場所の選択肢に満足していない
  • 21%:チーム内の仕事の関わり合い方に不満を感じる
  • 32%:部署間の仕事の関わり合い方に不満を感じる

本来社員のためにあるオフィスがその通りの機能を果たしていない。さらに社員の仕事の優先度を調べた別のアンケートでは、本来重要とされる共同で行う集中作業や創作的活動よりも、個人作業にフォーカスされていたことが判明。会社としては、これまでのオフィスが社員同士の交流を通じて今後役に立つかもしれない、不意に受けられる情報の収集を自然と行える環境を提供できていたと期待していたが、そうではない雰囲気が社員の間で流れていた現実を知り、社としてオフィスのあり方を変える方向に至ったという。

Veldhoenとの提携はイトーキの「ありたい姿」がABWと重なったから

ではそこでなぜVeldhoen + Companyにたどり着いたのか。プロジェクト開始時点では藤田さん含め誰もABWを強く意識していなかったが、社内で話し合ったイトーキのありたい姿が結果的にABWそのものだと気づいたからだという。「自立した多様な社員が、働く時間や場所、仕事の仕方そのものを自らデザインし、最大のパフォーマンスを発揮しながら、お客様の真の満足と発展に関わり続ける」働く場所や時間に縛られず、顧客の満足度と成功に最大限の貢献を行う働き方がABWのコンセプトと重なったわけだ。

今までの働き方とはまったく異なるABWを導入し社員に自己裁量の持ち方を学んでもらう、その変革を実行できるコンサルタント的キーパーソンを探していく上で行き着いたのがVeldhoen社だった。同社はもともとオランダの企業だが、中心拠点をほぼオーストラリアに移しており、イトーキのコアメンバーたちはそこで1週間ほどのマスタースクールを受講。その後Veldhoen社のコンサルタントが日本を訪れる際にはイトーキのオフィスに招き、複数のディスカッションを経て本格的なコンサルテーションを依頼する形になったという。

初めて目にするVeldhoen社の独自の手法

これまでも「明日の『働く』を、デザインする。」という企業コンセプトのもと、企業に革新的な働き方を提供してきたイトーキだが、そのイトーキから見てもVeldhoen社のアプローチは独特で斬新なものだったという。

Veldhoen社の提供サービスにはABWの本格的導入を目的に、企業上層部から社員までのリーダーシップトレーニングから、企業の目的に沿ったABW戦略の要件整理、物理的環境のコンサルティング、実際の導入、事後改善まで包括的な支援が含まれる。この中で特に藤田さんの目に新鮮に映ったのは、彼らが企業に最適化されたABWの働き方を実際にオフィスデザインに落とすプログラミング手法だった。

Veldhoen x イトーキ手法 #1:理想の働き方の明文化

まず先述の「働き方変革130」をイトーキ社内全社員に広めていくためには、企業が重要だと考えることを1文にシンプルにまとめる作業が必要とのこと。そう語るVeldhoen社のコンサルタントとともにイトーキ上層部はワークショップを実施した。そこで「イトーキが企業として考える理想の働き方」の重要項目として出したアウトプットが次の5つであった。

  • 生産性:従業員が積極的かつ協力的になり生産性が向上している
  • 市場に対するスピード:革新的な製品とサービスを市場へ迅速に提供し、顧客のニーズを満たしている
  • 自己裁量:従業員が会社を信頼し、イトーキで満足しながら働いている
  • 柔軟性:多様な従業員が柔軟な働き方に惹きつけられ、支援されている
  • 心身の健康:従業員が心身の健康と充実したワーク・ライフに関する総合的な支援を受けている

このようにそれぞれの要素を1文に明文化することで、社員850人を集約した新オフィスで行われる「働き方改革130」が会社としてどのような意味を社員に対し持っているのか、明確に伝えられるようにした。

上記のイトーキが持つ理想の働き方の5つの要素をサポートするオフィスづくりの工夫が各スペースで見受けられる

Veldhoen x イトーキ手法 #2:企業の理想像と社員の理想像の埋め合わせ

これと同時に社員たちが理想とする働き方がどういったものなのかを把握するワークショップも実施。会社側が思う理想の働き方との乖離が起きないための施策だ。Veldhoen社によると、新しい働き方を導入する対象者の5%〜10%の社員に話を聞けば、全社員の声を反映した結果として統計学的に十分だという。今回で言えばイトーキの全社員計850人の5%となる約40人の社員に話を聞いたところ、ABWの「自己裁量の向上」「いつでもどこでも働ける環境」に対して出た彼らの不安は次の項目だった。

  • そもそもABWとはどういったものなのか
  • ITインフラ・サポートの欠如
  • マネジメントに対する懸念、トレーニング不足は起きないか
  • 上司の受けたワークショップを自分たちも受講したい
  • コラボレーションとは具体的にどういうものなのか?

特にABWを導入した後のマネジメントに対する懸念は社員の声の中でも一番大きいものだったと藤田さんは語る。このように企業の理想とする姿とそれに向けて社員が感じる障壁との差を明らかにすると、ABW導入までの具体的な施策が見えてくる。この問題を1つずつ解消しながら企業と社員両方が思う「ありたい姿」を少しずつ実現していくのがVeldhoen社の手法を受けたイトーキのプロセスだった。

Veldhoen x イトーキ手法 #3:「デスクワーク」の細かい区別化とイトーキオフィスにおける「10のふるまい」

このようなワークショップを通じて一番重要になるのが、明らかになったイトーキの理想の働き方を具体的にどのようにABW型オフィスに落とし込んでいくかというところ。これまでに述べた「社員1人1人の生産性」や「社員のエンゲージメント」向上を目的に自己裁量を実現するオフィスを作る上で、イトーキは「組織としての働き方」、つまり組織として「特定の職種は特定の場所にまとまってずっといてもらう」という考え方をやめたのだ。むしろ個人の働き方に焦点を当てたのである。

個人の働き方に注目した時、これまでのイトーキ社員にはデスクワークと会議の2択しかなかった。そこでデスクワークを細かく定義していくプロセスをVeldhoen社と取ったという。デスクワークには厳密に言うと、同僚と確認を取りながら進める作業があれば、1人で集中して進める作業もある。そうすると同じデスクワークでも必要とするオフィス環境やスペースは微妙に変わってくるもの。このように働き方を細かく区別し、そこで必要なものをオフィスで準備していく、というプロセスでオフィス改革を進めたという。

現在のイトーキに存在するタスクを1つひとつ整理して、どのような職種の社員にも当てはまる仕事の仕方を精査した結果、最終的にイトーキ社員の働き方は次の10のふるまいにまとまった。

センターオフィスとなる今回の新オフィスは、この10の働き方が行えるスペースを提供している。そしてこのセンターオフィス以外でも、社員は自宅、カフェ、コワーキングといった場所で自由に働く場所を選べる。集中作業やWEB会議等のソロワークであれば基本的に自宅、1人のプロセス作業やペアワークの対話はカフェ、またアイデア出しや知識共有といったチームワーク作業はコワーキングスペースでも可能、といった具合だ。

それぞれの働き方に合わせたスペースが新オフィスに用意された

現在はまだ一部紙の業務が必要なところもあるため社員がまとまって作業する部署もあるが、それでも派遣社員も含めて社員全員にノートパソコンが支給され、場所や時間に縛られずに効率性を重視した働き方を徹底している。来たる2020年の中計達成に向けてどのような働き方が理想か、イトーキが持つ理想とVeldhoen社の知見との答え合せで生まれたのがこの10の振る舞いに対応した働き方とそのオフィスだった。

組織の働き方 vs. 個人の働き方:まったく異なるオフィスの作り

今回個人の働き方を優先させたオフィスだったが、これは組織としての働き方を実践する企業とはまったく異なるものだ。

以前の記事『スティーブ・ジョブズがピクサーオフィスに込めた想いとは』では、Pixarのメインオフィスであるスティーブ・ジョブズ・ビルディングオフィス内で中央スペースである「アトリウム」を挟んで、右側にはクリエイティブ系スタッフのオフィス、左側には技術系スタッフのオフィスがある構造を紹介した。社員は自分専用のオフィススペースを与えられ、自分流に部屋をデコレーションすることができる。このように職種や部署で社員を分け、組織論をオフィスに落とし込むことは今も多いが、今回のイトーキの例はそれとはまったく違う。異なる働き方を個人レベルにまで落とし込んだABW特化型オフィスは、社員個人に自分流のデスクを提供するのとは別の形で「組織を支える個人を尊重したオフィス」と捉えることができる。

作業の用途に合わせたスペースを探せるアクティビティマップが表示されている

今回新たに導入した働き方改革アプリ。社員は自分がどのスペースでどれほどの時間作業していたか確認することができる。(左)また他の社員と直接打ち合わせをしたい時は彼らが社内のどこにいるか検索をかけることもできる。(右)

社員の集中力回復:キッチンスペースやメディテーションルーム

このような革新的なオフィスには社員のリフレッシュ目的でよくゲーム機や卓球台といったものが置かれるが、カルチャーに合わないと感じたイトーキでは代わりのスペースを持つことにした。

1つはキッチンスペース。食は様々な社員をつなぐ共通項となるもので、イトーキのキッチンスペースでは社員同士が食の時間を通じてコミュニケーションを図れるように、食材キットや料理アプリが提供されている。またそのために3〜4時間の料理・食事時間を取れる制度も設けられている。

またイトーキのリチャージスペースとして象徴的なのが、瞑想を行うメディテーションルームだ。イトーキは日本で「マインドフィットネス」の商標登録をしており、社として日々心の鍛錬を行うことを推奨している。このメディテーションルームでは、禅に精通する講師を招いて全6回のマインドフィットネスのトライアルセッションをすでに実施。若い社員を中心に合計100名の社員が集まった。このスペースでは他にもGoogleで誕生したマインドフルネス研修であるSIY(Search Inside Yourself)やヨガ等も試しながら、社員に最も合ったクラスを今も模索中だ。

この新オフィスはWELL認証における予備認証ゴールドレベル獲得を達成しており、その背景にはこのマインドフィットネスの部屋がWELL認証の評価基準の1つである「Mind」の部分で認められたと藤田さんは見ている。社員の働き方改善のために徹底して作られたこのオフィスは、実際に国際基準で高評価を受ける世界的なオフィスの仲間入りを果たした。

まとめ:社員の働く場所の選択肢を優先するか、それとも人が集まるオフィスを目指すか

今回オフィスだけでなく周辺環境も活用した働き方改革を実行したイトーキ。最後に、人がオフィスから離れるかもしれなくなる改革の中で、新オフィスにこれほどの投資をするに至った背景を藤田さんに尋ねた。

記事冒頭でも触れたように、今多くの企業で人材獲得が難航する時代で、イトーキでも社員に残って欲しい気持ちがある。そして社員1人ひとりに最大限の価値を発揮してもらうべく、自己裁量を与えて、そこで個々人に最大限活躍して欲しいという企業の思いがある。人材問題を解決するためには新しいことをやっていかなければならないという企業のプレッシャーもまたそこにはある。

今回の働き方改革のテーマに「自由」を掲げ、社員がオフィスだけでなく自由な場所で仕事できる環境を作り上げたが、本音を言えば社員にはできる限りオフィスに集まって欲しいと藤田さんは語る。そのために、社員にとって最高の環境を提供している場所がこの新オフィスになるという。「社員は自分の意志でカフェやコワーキング等様々な場所を試したが、結局のところ自分が一番仕事しやすいと感じた場所はこの新オフィスだった」こうなることがこの新オフィスに秘められた思いである。現代の働き方先進企業が持つ、社員のためのオフィスであることを社員に感じ取ってもらいたいという「もどかしさ」が垣間見える話だ

イトーキは今回ABWのコンセプトを社内全体に導入するにあたり、日本で理解されやすい広め方として「自己裁量を高める」という表現を用いた。しかし、Veldhoen社は一般的に「社員への信頼を高める」という表現を使うという。「社員を信頼し、この新オフィスを中心にあらゆる拠点で彼らに活躍してもらう。」グローバルスタンダードのABW本格導入を果たしたイトーキが、社員とのより一層の信頼関係構築を通じて、どのように今後も日本企業の働き方の手本としてあり続けるか。彼らの姿は今後も注目必至だ。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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