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Salesforce Transit Centerが支えるサンフランシスコの働き方

サンフランシスコ市民の期待を長年背負ってきたSalesforce Transit Centerが8月12日に遂にオープン。サンフランシスコの通勤や働き方を支えるその存在意義を見ていく。

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8月12日、サンフランシスコ市内にある交通網をつなぐ巨大施設、Salesforce Transit Center(セールスフォース・トランジット・センター)がついにオープンした。先日の「長時間の通勤は社員の生産性に悪影響」記事でも紹介した建物だが、このテクノロジー都市サンフランシスコでの通勤や働き方にどのように影響し始めているかご紹介したい。

Salesforce Transit Centerとは?

Salesforce Transit Center(以下STC)は、サンフランシスコ・ベイエリアをつなぐ交通機関の結節点として、新築のSalesforce Towerの麓に建設された交通ターミナル拠点だ。

現在サンフランシスコの交通機関には街のシンボルでもあるケーブルカー以外に、市内を走るトラムやバス(Muni)、周辺地域や空港を結ぶ地下鉄のBART(Bay Area Rapid Transit)、サンフランシスコ・シリコンバレー間を南北に結ぶ通勤鉄道のCalTrainに、サンフランシスコとその東側の対岸にあるイーストベイを結ぶバスのAC Transitと多数存在する。UberやChariot等のシェアライドサービスに、Ford Go Bike等のシェアサイクルももちろん交通手段として積極的に活用されている。それらの交通拠点を集約し、乗り換え利便性をあげることが最大の目的の1つにある。

これらに加え、アメリカ他都市に移動できる長距離バスのGreyhoundや鉄道のAmtrak、さらに2026年に開通予定のサンフランシスコ・ロサンゼルス間を結ぶカリフォルニア高速鉄道も考慮すると、むしろこれまでこれらの交通網をつなぐ中心拠点がなかったこと自体が不思議なぐらいだ。サンフランシスコで働く人々も様々な通勤手段のオプションがありつつ、上手く活用仕切れていなかった。この問題を解消しようとするのがSTCの存在意義なのである。

交通機関の乗り入れ利便性向上は世界中にある都市の課題

名古屋市都市センターによる2016年3月のレポートによると、環境やエネルギー効率への配慮の観点から、世界中の都市では共通して公共交通機関の利用を人々に促す取り組みが近年進められているという。各都市は、メトロやトラムの新線建設や既設線延伸、新車両投入等を通じて公共交通の充実を図ったり、主要駅の結節点機能の整備を行ったりと様々な都市計画施策を進めているとのこと。このSalesforce Transit Centerはそのような世界中にある都市の中でも、上記に挙げたあらゆる交通機関をつなぐ参考例の1つとして注目されてきたようだ。

そのような期待もあって、STCは約20年に及ぶ都市計画の中の巨大プロジェクトの1つとしてスタートし、10年近い建設期間を経て、$2.26B(約2500億円)の費用をかけて建設された。すでに交通機関が充実している日本から見るとそこまで話題性の高くないトピックかもしれない。しかし、働き方同様、通勤手段にも多様性があるサンフランシスコの特徴はこのSTCに凝縮されているのだ。

AC Transitバス
Ford Go Bike
地下の鉄道部分は今後完成予定

屋上にあるSalesforce Parkは多くの企業オフィスのオアシス的存在に

このトランジットセンターが注目を集める理由の1つに、屋上に建設された公園がある。

STCが建てられた場所は市内でも特にスタートアップ企業が多く集まるSoMa(South of Market)地区。この地域は比較的緑や公園が少なく、環境や自然を重要視する都市としてサンフランシスコ市は何らかの対策を必要としていたが、このSalesforce Parkがその問題を解決することになった。

コーポレートキャンパスの一部としての緑とWiFi

この公園の存在は周りの企業にも温かく迎えられている。これまでコーポレートキャンパス記事で触れてきたように、大きな成長を遂げるスタートアップは都市や郊外といった場所にかかわらず緑豊かなスペースを社員に提供し、従来のオフィスとは一味違った空間を追求してきた。企業はCity Leafといったオフィス向けに植物の提供を行うサービス等を活用して、オフィス内に植物を独自に確保していたが、ついに市内でも広々としたオアシス空間が提供されたのである。

このSalesforce Parkには、世界中から290種の植物が揃う。カリフォルニアと同じ地中海性気候で育つ貴重な植物を、同気候のヨーロッパ地中海地域や北アフリカ、チリ中央部、南アフリカ、西オーストラリアから集め、訪問者はその多様性をここで見ることができる。筆者が訪れた時は、この中で園内で提供されるWi-Fiを利用しながら仕事をしている人々を複数見かけた。

ちなみに環境に配慮した工夫は、単に植物を揃えただけではない。公園の屋上建設は地上で作るのに比べ植物や土の下の断層部分も屋上に設計しなければいけないという課題があったが、それを利用し、降った雨水が植物を潤すだけでなく、ろ過され、トイレを流す際に利用されるという仕組みを作った。この水の再利用で年間約5千万リットルの節約に貢献しているという。

他企業社員との「交流の場」

公園から周りを見渡すと、数々の有名企業のオフィスがすぐそこにあることがわかる。Salesforce Parkはオフィス外での作業場としてうってつけであり、近くのスタートアップ企業の社員やコワーキング施設利用者が近くのカフェでちょっとした作業をするかのように気軽に訪れることができる。園内ではヨガや太極拳のレッスンが定期的に行われることから、リフレッシュ目的にも利用可能だ。

Slackオフィスから見える”Hi There!”。Slackは自社オフィスをこのSTCの隣に移転したばかり。
公園に行けば常に何かしらのレッスン情報を得られる。

STCはその建物の美しさから、ニューヨーク最大の鉄道ターミナルであるグランドセントラル駅を引用して「西海岸のグランドセントラル駅」と呼ばれているが、この緑生い茂る公園の存在もニューヨークのセントラルパークと被るところがあるからだろう。

最後に:Salesforceの名が残る意味

読者の皆さんはすでに気になっているかもしれないが、「この公共施設がなぜSalesforceの名をつけているか」というのは現地サンフランシスコでもよく聞かれる質問である。このSTCは元々は施設の建設や運営を担当するTransbay Joint Powers Authorityにより”Transbay Transit Center”と名付けられていたが、高額になる運営費用を捻出するために命名権をSalesforceへ売却した。

未だに公共公園に企業名がつくことに否定的な意見が多いが、Salesforceが25年間で$110M、日本円にして約120億円を支払うことで話はついている。同社は園内でのイベント内容等に決定権はないが、年次イベントであるDreamforceのメイン会場の1つとして利用する予定だ。

Salesforceが命名権を買収した目的にはこの街における彼らの存在感を強めたい意図があるが、注目すべきポイントはまずサンフランシスコにあるテクノロジー企業の力がやはり強力であること、そしてこの施設の公共交通機関としての機能や公園の存在意義に企業が大きな敬意を払っていることである。テクノロジー企業が社員の働き方や通勤まで生活に関わる部分までをサポートしようとする姿勢がここに表れているように感じる。

もしサンフランシスコに行かれる方はぜひこのような観点でこのSTCを訪れてみると面白いだろう。

この記事を書いた人:Kazumasa Ikoma

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