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【WELL認証を取るには?】ゴールド認定を受けたオフィス3事例

[August 14, 2018] BY Kazumasa Ikoma

5月31日にWELL認証第2版が発表され、ユーザーの健康に意識した建物づくりが世界でさらに広がりを見せている。今回の第2版では、評価項目の変更や審査の委託等を通じて、認定を取得しやすいようにアップデートを行ったようだ。

本記事執筆中の8月9日時点で、公式ウェブサイト上に掲載されている最高評価プラチナム認定を受けた建物はまだ世界で10ほど。厳しい査定をくぐり抜けられるのはまだほんの一握りの企業だけだが、一方でその次レベルのゴールド認定を受けるオフィスは少しずつ数を増やしている。実際に日本でも昨年12月に大林組技術研究所がゴールド認定を取得。まだ導入されて間もない中で、建築業界のオフィスが見本となれるように認証獲得に向けて動いているようだ。

今回は世界でWELL認証獲得数が最も多いアメリカでゴールド認定を受けた企業オフィスに焦点を当てる。どのようなオフィスが社員の健康を意識していると評価されたのか見ていきたい。

関連記事:健康的なオフィスの新基準、WELL Building Standardとは?

Arup Boston(マサチューセッツ州ボストン)

イギリス・ロンドンに本社を置く建築業界の総合エンジニアリング企業Arupはアメリカ・マサチューセッツ州ケンブリッジにあったオフィスをボストンに移転。2016年から施工を開始し約1年をかけて完成したオフィスは、2017年1月に世界で14番目にゴールド認定を取得したプロジェクトとなった。

もちろん数々の評価項目があるWELL認証を達成したわけだが、その中でもこのボストンオフィスで特に注意が払われた点は照明だった。

太陽光を含めた室内照明の改善

Arupが移った建物は1977年にSkidmore, Owings & Merrillによってデザインされた、38階建ての鉄とガラスの高層ビル。ボストンのダウンタウンを一望できる大きな窓を持った作りが特徴的な建物だが、年月と共に変化した窓ガラスの色合いの影響により室内に入り込む日光に制限があるという課題があった。本プロジェクトのデザインに携わった建築事務所Dyer Brownの建築家、Jennifer Taylor氏も「建物自体がいつもサングラスをかけているみたいという声があった」と語る。

この問題を解決するために、Arupのシニア照明デザイナーを務めるJake Wayne氏は当時まだ馴染みのなかったWELL認証のハンドブックを片手に、Taylor氏と共にプロジェクトを牽引。まず人々が集まる共有スペースやワークステーションを窓の近くに配置するようにした。また人の動線となる所にリニアペンダント照明を採用し、天井に光を反映させることで、十分な照明環境を室内で均一に提供するようにした。

またそれに加える形で室内にサーカディアン照明システムを導入。季節毎に異なる太陽の位置をシステムに反映させ、日光の代わりを果たすように室内の明るさや色温度の自動調整を行うようにした。例えば朝は3000Kの比較的黄色味の強い色から始まり、昼には5000Kの明るい白色に近づき、また夕方・夜にかけて3000Kにまで戻るという仕組みだ。

色温度の目安(画像はPanasonicの照明器具ページより)

このように外の自然光とテクノロジーを駆使した照明を掛け合わせることで、社員の生産性や健康に良い照明環境を整備したのである。

Retail Design Collaborative(カリフォルニア州ロングビーチ)

リテール向けの建築サービスを提供するRetail Design Collaborative (RDC)のオフィスは昨年10月にゴールド認定を獲得。アメリカ西海岸の建築事務所では初のゴールド認定となるプロジェクトだった。

徹底した健康プログラムの提供

彼らの本社オフィスである『Studio 111』の特筆すべき点は、彼らが提供するHealth and Wealth Programだ。 WELL認証の審査基準には社員の健康を気遣う評価項目の1つとして「Fitness(フィットネス)」「Comfort(快適性)」「Mind(心)」が設けられている。実際にStudio 111では、ヨガ・瞑想プログラムや筋トレだけでなく、複数種目の運動を取り入れて全身の筋肉に刺激を与える「クロストレーニング」や一緒にランニングを行う「ランニンググループ」、夏のビーチバレーに秋のソフトボールといったチームスポーツプログラムも社員に提供している。

また同時に、ロングビーチの立地や快適な気候を利用したサイクリングプログラムを提供。同社はロングビーチバイクシェアプログラムの年間メンバーシップを提供し、社員は1人あたり1日150分のシェアバイク利用が可能だ。オフィス周辺コミュニティとのつながりを考慮した健康プログラムにも力を入れているのである。

その他にも、社内で提供する食事には糖分を抑えたオプションを用意。デスク周りには社員の様々なニーズに対応できるよう、豊富な種類のワークステーションを提供している。現在社内で導入しているFluidStanceはその例の1つ。正しい姿勢で腰痛を抑制するスタンディングデスクの活用を促している。

このような取り組みを持続的に行っていくために、Studio 111では今回の本社拡張プロジェクトにおいて新たに社内の働き方リサーチ部門である『Living Lab』を設置。同社のサステイナビリティ部署がデータの収集・活用を通じて、空気や水質、快適性やオフィスの使用率のチェックや交通・通勤手段の代替案のリサーチを常に行っている。これによって蓄積されたデータは社内の理想的な労働環境の維持とそれによる優秀な人材獲得に繋げるためだけでなく、クライアントプロジェクトにも積極的に活用される予定。このリサーチ部署の存在は社内外問わず、社員の環境により良い効果を与えると期待されている。

関連記事:オフィスに使えるIoTとは

DPR Construction(バージニア州レストン)

2016年7月完成のDPR Constructionのオフィスは、新築ではなく、7年間もの間使用されていなかった約1860平米の建物のリノベーションを通じて建てられた。WELL認証のゴールド認定だけでなく、LEEDのプラチナム認定、さらに必要エネルギーを自前で作り出すことでエネルギー消費をゼロに抑えるNZE(Net-Zero Energy)認証の2019年の認定も予定しており、環境にもユーザーの健康にも考慮されたオフィスになっている。

データドリブンな判断とテクノロジーの駆使で達成された環境・健康への配慮

新オフィスには新たに大きなキッチンスペースやコミュニティダイニングエリア、ラウンジやジムを用意。「あらゆる働き方に対応できる柔軟さを求めたことで、意図せずとも社員がなんの気兼ねをすることもなく自然に振る舞えるオフィスになった」と、本プロジェクトの代表を務めたChris Gorthy氏は語る。

このようなオープンスペースの機能を高めるために、会議室予約システムにはEvoko、に、ワイヤレススピーカーのSonosに、ボタン1つで画面の共有が行えるBarco ClickShareといったテクノロジーが導入された。オフィスのどこにいても人とのインタラクションを得られる柔軟さを重視した結果である。

左からEvoko、Sonos、Barco ClickShare

このような工夫を通じて得られた結果はデータにも顕著に表れた。「ワークプレイスが社員や組織のパフォーマンスをどれくらい支えているか」を表す国際的な指標『Leesman Index』において、データベース内の上位4%に入る結果となった。0から100までの間で評価されるLeesman Index数値(LMI)だが、新オフィスはそれまでのオフィスよりも16ポイントも高い評価となったのだ。また、同指標を使った社内アンケートでは、社員のエンゲージメントが前オフィスに比べ29%向上したという。社員のコミュニティ意識や働き方の柔軟さがデータで見られたようだが、それはWELL認証でも高く評価された点だった。

他にも環境に配慮した上で社員の健康を向上させるオフィス作りには数々の難しい判断が必要だったようだが、そこでもデータが助けてくれたとGorthy氏は語る。その例の1つが、室内空気の質(IAQ: Indoor Air Quality)とエネルギー効率化のバランスだ。プロジェクトチームは、室内の空気の質を維持するために外気を100%利用したいと考えていたが、一方でNZEの観点からは難しい問題だったという。この問題に対し、チームはまずベースとなるデザインを作り上げた上で、コストと結果を分析し、エネルギー使用を解決できるアプローチの中で最も良いIAQを維持できるものを探したという。

似たような問題では、各部屋と温度調整とエネルギー抑制の問題もあった。社員の快適性を向上するためにそれぞれのスペース毎に快適な温度を設定する必要があったが、社員のスペース使用率に合わせて微妙な温度調整に対応できるようにする一方でエネルギー使用率を抑える取り組みにはとても苦労したと語っている。

まとめ

各企業が様々な工夫を通じてWELL認証獲得に向けて取り組んでいる姿勢が窺える。今後もWELL認証を獲得する企業は建築業界に留まらず、より多くの業界でも見られるようになるだろう。日本でもこれから獲得していく企業オフィスが出てくると思うと期待が膨らむ。これからも社員の健康に配慮するオフィスを積極的に取り上げていきたい。

<参考記事>
Architectural Lighting – Arup Boston’s New Office: A Lighting Laboratory
IWBI: RDC – Studio 111 Headquarters
DPR Reston Case Study
IWBI: DPR Construction Reston Office

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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