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エイベックスの構造改革にオフィスが重要である理由【加藤信介さんインタビュー#1】

[April 03, 2018] BY Kazumasa Ikoma

2017年12月、港区青山にエイベックス株式会社の新社屋がオープンした。その全貌は『エイベックス 新社屋のすべて』にあるように、「社内外のコラボレーションを促すオフィス」というコンセプトを元にデザイン、設計が施されている。

全17階からなるオフィスはそのコンセプト通り、人の流動性を促すオフィスになっている。2階には社員と外部の人々のシナジー創出を目的としたコワーキングスペース『avex EYE』、4階には選ばれたレッスン生が利用できるレッスンスタジオを用意。6階から15階までの社員の執務フロアはすべてフリーアドレス制を導入。デザインは階ごとに異なり、階によっては集中エリアやセミナーが出来るエリアを設けたフロアも。そして最上階となる17階には青山から東京の景色を一望できる、開放感溢れるカフェテリアがある。

この新社屋の建設にあたり「エイベックスが目指すべきビジョンを反映させた」と語るのは、今回インタビューにご協力いただいた、同社のグループ執行役員・グループ戦略室長を務める加藤信介さん。加藤さんは2016年から社長室部長として同社松浦勝人社長と共に社の構造改革に参画。その取り組みの中で、デザイン案見直しのためにこの新社屋プロジェクトにも携わった。

西海岸流のオフィスも参考にしながら直輸入はしなかったと語る加藤さんが、松浦社長と定義した「エイベックスが見据えるコラボレーション」とは何なのか。エンタテインメント業界でも異端児としてあり続ける企業がイノベーション創出のために作ったオフィスを前後編にわたって掘り下げる。

前編では、エイベックスが考える「コラボレーション」の定義、そして企業トップが構造改革を行う上でオフィスに注力した背景を見ていく。

企業の新タグライン『Really! Mad+Pure』が新社屋の基盤に

この新社屋を語る上でまず最も重要なのが、エイベックスが昨年2017年に新しく掲げた『Really! Mad+Pure』というタグラインである。「今は非常識で他人から「おかしいんじゃないの?(Mad)」って思われることも真摯に追い求め(Pure)、世の中に新しい「マジで!?(Really!)」を届け続ける」という意味が込められている。企業のトップ達が合宿を行い、世界的なデザイン集団『TOMATO』のジョン・ワーウィッカー氏も入って作られたこのタグラインは、新社屋のいたるところで目に入るようになっている。

「『Really! Mad+Pure』というのは新しく創り出したものではなくて、昔からエイベックスが大事にしていたコアな部分」と加藤さんは語る。今は社員数が1,800人と増えたが、その数が増えるほど企業が目指すビジョンもわかりやすくしないと彼らの中で腹落ちしない。そこでこの構造改革を機に同社が大事にしてきたフィロソフィーを言語化したのだという。

そもそもこのタイミングで構造改革を行ったのにも理由がある。それは近年音楽・エンタテインメント業界内で起きている「所有価値から体験価値へ」という大きなトレンドの変化、そして「テクノロジーの進化」による外部環境の変化だ。この変化こそ、エイベックスにとってチャンスなのだという。今までにできなかった価値創出や国境をも越えた届け方ができる可能性に、Madなアイデアを広げる機会を今新たに見出しているところのようだ。

「社員1,800人がせっかく同じところに集まるのであれば、それぞれが叶えたいことや持っている才能を最大化してほしい。そしてその先にイノベーションが生まれると考えています。」この思想を基に、今多くの日本企業が求める「イノベーションの創出」をエイベックス流のアプローチで実現するために新社屋プロジェクトに動いたのである。

コンセプト「コラボレーション」は構造改革後の案件見直しで取り入れた

「コラボレーション」を重視した、他には見ない独特なこの新社屋。最初の建て直し計画は完成の5年ほど前に遡るが、当時は老朽化のための建て替えが目的だったために、社の構造改革を経て大幅なデザイン案の見直しを行ったのは完成の1年ほど前だった。

ここで新社屋完成までのタイムラインをまとめてみた。

2012年頃:最初の立て直し計画案
2015年11月:構造改革プロジェクト開始
2016年11月:組織のフレームが見え始める→新社屋要件の見直し
2017年4月:構造改革後の組織編成
2017年12月:新社屋オープン

ここにある写真はすべて現在の新社屋に内包されているものだが、もともとの設計案には入っていなかったものや、コンセプトを大幅に変更したものばかりだ。「構造改革前の各フロアの設計案を見てみて、今のエイベックスを取り巻く環境や目指すべきビジョンが反映されていたかというとそうではなく、現状のままでは違和感があった。5年前に設計した要件も当時は正解だったと思うが、一言で言うと割と普通のちゃんとしたオフィスビルとなっていた。」と加藤さんは当時を振り返った。構造改革の中心コンセプトであるコラボレーションが起きて、イノベーションに繋がるようなオフィスへの改革は必須だったのである。

エイベックスが目指すべき未来を実現するために軌道修正を行った加藤さん。上位概念にあるそのビジョンに伴うように、社員や業界の働き方にはどのような変化を期待するのだろうか。

エイベックスの社員だけが働くオフィスビルにしたくない

先述したように、今エンタテインメント業界はユーザーの価値変化やテクノロジーの進化と共に新たな価値提供が求められる変革期を迎えている。実際に『新社屋のすべて』において、松浦社長は「エンタテインメントと隣接するIT企業、突き詰めればAppleやGoogleのような企業がライバルになっていく」と語っている。

しかし加藤さんによると、エイベックスはテクノロジーの技術屋になるわけではなく、会社のコアコンピタンスはあくまでコンテンツホルダーというポジションにあるようだ。今後同社がエンタテインメントで実現したいことを叶えるためには、テクノロジー企業やスタートアップとコラボレーションが必要不可欠。彼らがもつ機能や技術を積極的に取り入れ、逆に彼らが持っていないコンテンツやプロデュース力をエイベックスが提供するという「掛け合わせ」が今後のコラボレーションに求める要素のようだ。

このようにエンタテインメント業界で外部とのコラボレーションが増える点において、業界の働き方や人の動きはプロジェクトベースになると加藤さんは見ている。プロジェクト毎に外部から人がどんどん流入して、プロジェクトが終わったら解散、という働き方も当たり前になる。一方企業視点で見てみると、副業容認の流れからもわかるように、会社が社員をホールドする力も良い意味で弱くなっていく。エイベックスではせっかく青山に自社ビルを1棟持っている利点を活かすためにも、ビル全体を通して社員と外部の人両方の流動性を活性化することで、働き方はさらにいい方向に変わってくると加藤さんは見ている。

「このビルをエイベックスの社員だけが働くビルにしたくない。」今は機能ごとにフロアを分けているが、最終的にはビル1棟全体を通して、エンタテインメントを共通項として引き寄せられた人たちがコミュニティを形成する場所にしたいと加藤さんは考えている。そのような「引力」を持つオフィスビルにすることこそ、彼が持つ新社屋ビルの理想だ。自社が見据える未来へのビジョンを実現していく上で、新しい働き方や新しいオフィスを、業界を超えて提案し続けたいと力強く語ってくれた。

これまで大きな成長を遂げてきたエイベックスにとって、これからは業界に還元・支援を行っていく番だと加藤さんは語る。同社も30年前はスタートアップだったが、様々な方に支援されて今の規模になった。これからも成長は必要である一方、彼らが今まで培ってきたナレッジや持っているものをうまく活用して成功を目指す人材や企業をサポートしていきたいのだという。新しくエンタテインメント業界で一旗あげたい、未来のエンタテインメント業界を担っていきたいという人材や会社と、エイベックスを中心としたエコシステムを構築していく。その中で互いに刺激を与えながら盛り上がりを作り、最終的にそれが業界全体の成長につながることこそ、このオフィスが見据えるコラボレーションの形なのだ。

エイベックスが考える3つのコラボレーション軸

このように社内外でこれまで以上にコラボレーションが必要となる現状を見て、自社で完結する時代は終わったと感じている、と語る加藤さん。外部とのコラボレーション・オープンイノベーションで新しいことを生みだすオフィスを作るとなった時に、全フロアで意識したコラボレーションの形は次の3つであった。

・社員 × 社員のコラボレーション:

1,800人の別々の才能やスキルを持った人がオフィスに集まるが故に、社員同士が混ざり合うようなフロアやオフィスのしつらえが必要

・社員 × アーティスト(とレッスン生)のコラボレーション:

コンテンツホルダーという立ち位置で、これからもヒットコンテンツやヒットアーティストを次々に生み出していくためには、彼らが会社の中核にいることが会社としての存在意義となる。新社屋にレッスンスタジオを内包することで、アーティストやその卵と社員間のコラボレーションが起きるようにしている

・社員 × 外部のオープンコラボレーション:

外部とのコラボレーションを増やすには一緒に何かを創り出す場として協業スペースが必要。17階のカフェテリアと2階のコワーキングスペースがそれに当たる。すでに既存の協業スペースの改善案を考え中。地域社会とのつながりを作るのもこのコラボレーションに入る

ではこの3つのコラボレーションを意識したオフィスは活用されているのか。その実用の様子や取り巻く課題も含めて後半記事で見ていく。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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