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世界では6割が実施。出張先で休暇をとる「ブレジャー」のメリットと注意点

ポスト・コロナの新たな出張スタイルとして注目されはじめている「ブレジャー(ブリージャー)」。メリットや日本での導入事例に加え、労災保険の適用範囲など注意点を紹介する。

ブレジャー(ブリージャー)とは

外出や移動の制限がなくなり、出張の機会が増えた企業も多いことだろう。そこで近年、注目されている新たな出張スタイル「ブレジャー(ブリージャー)」を紹介したい。

ブレジャー(Bleisure)は、「ビジネス(business)」と「レジャー(leisure)」を組み合わせた造語で、「出張休暇」とも訳される。出張の際に、その前後で休暇をとり、旅行を楽しむことを意味する。観光庁はブレジャーが旅行機会の創出につながり、旅行需要の分散化にも貢献するものと期待し、国内での普及に取り組んでいる

日本ではまだ耳慣れない言葉といえるブレジャーだが、海外では数年前より普及が進んでおり、すでに一般化しつつある。

アメリカのオンライン旅行会社・Expedia Groupが2017年に行った調査では、出張のうちブレジャーが占める割合は、アメリカ60%、イギリス56%、ドイツ65%、インド58%、中国62%となっている。2017年時点ですでに出張にあわせて休暇をとるワーカーが過半数を超えているのだ。

また、2014年にアメリカのBridge Street Global Hospitalityが、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジア太平洋地域の宿泊客640名を対象に行った、より詳細な調査「The Bleisure Report 2014」では、次のような回答が得られている。

・回答者の83%が、出張の際に街を探索している
・回答者の30%が、出張に2日の休暇を組み合わせてブレジャーを楽しんでいる
・半数近くの回答者が、出張のたびに個人的な旅行を組み合わせている
・回答者の78%は、ビジネス旅行に余暇を加えることで、仕事の価値を高められると考えている

こうしたブレジャーの世界的な広まりを受け、日本でも2020年初頭から観光庁主導で「ブレジャー促進連絡会」を開催している。これは、会議や展示会、研修などのために訪日する外国人に向け、出張の前後に余暇を組み合わせた国内旅行を推進するもので、日本での消費の増加をねらいとしている。

コロナ禍でブレジャー推進の動きは鈍化していたが、最近では水際対策の緩和により海外出張を解禁する企業も増加し、日本でもブレジャーが広がる機運が出てきた。

ブレジャーとワーケーションの違い

ブレジャーに類する言葉として、「ワーケーション」があげられる。ワーケーション(Workcation)は、「仕事(Work)」と「休暇(Vacation)」を合体させた造語で、テレワークを活用して観光地やリゾート地などで余暇を楽しみながら、仕事も行うワークスタイルを指す。

両者は似た意味合いで捉えられがちだが、決定的な違いがある。それは、利用者の働く環境だ。

ブレジャーは「出張先で仕事を終えた後に休暇を楽しむ」ものであり、出張がなければ利用は難しいが、出張があればどのような職種でも利用できる。一方で、ワーケーションは「休暇先でテレワークを活用して仕事をするスタイル」を主に指すため、テレワークのような遠隔地で仕事ができる制度が整っている企業で、なおかつそれが可能な職種に利用が限定される。

日本では、ワーケーションのほうが言葉としての浸透率は高いようだが、上記の違いから、職種による不均衡が起こらぬよう両者の導入を検討するのも一つの策であろう。

ブレジャーを導入するメリット

ブレジャーの導入は、従業員・企業・地域それぞれにメリットをもたらす。従業員にとってはストレス低減やリフレッシュにつながり、モチベーションや業務効率の向上も期待できる。その結果、帰属意識が高まり、企業においては生産性向上や離職率の抑制も見込めるだろう。滞在する地域の活性化にもつながり、自治体にとってはその土地の魅力を広く知ってもらう機会ともなる。

また、ブレジャーは出張をベースとしているため、滞在する地域への理解をビジネスに活かせることもメリットとなる。

例えば、観光する中でその地域に詳しくなり、現地のクライアントとの関係性が向上するというのもその一つだ。また、滞在を通して地域の事情を把握することで、顧客が抱えている課題をより深く理解できるようになる、新規取引先の開拓につながる、などの効果も得られるだろう。

日本国内での導入事例

日本国内でブレジャーを活用している企業はまだ少なく、2019年5月に制度を導入した日本航空(JAL)がその先駆けとなっている。同社は2017年にワーケーションを導入しており、休暇制度の多様化が進んでいる代表的な企業の一つだ。

また、JALでは、ブレジャーを促進する旅行パック「ブリージャーサポート」の販売も行っている。北米線片道分の運賃とハワイ線片道分の運賃を組み合わせて手配できるサービスで、北米出張の帰りにハワイでの休暇を楽しみたい出張者を対象としている。なお、北米からハワイまでのフライトは別途手配が必要となる。

休暇中にケガをしたときはどうなる? 導入時の注意点

JALのようにブレジャーを制度として導入している企業はまだ少ないが、同様の取り組みを水面下で許可している企業もあるかもしれない。あるいは、これから制度化を検討する企業もあるだろう。そこで、ブレジャーの導入や利用にあたって注意したい点を、以下に紹介しておく。

1. ブレジャーの費用負担は?

出張の経費として認められるのは業務に関わる範囲に限られ、余暇部分で必要になった交通費や宿泊費などは会社に請求できないのが一般的だ。どこまでを経費として負担するかは、それぞれの企業での判断となるが、認識に違いが生じないよう「出張旅費規程」で明確に示しておく必要があるだろう。

2. ブレジャー中のケガや事故は、労災保険給付の対象になる?

労災保険とは、業務上のケガや病気、障害などに対して保険給付を行う制度である。観光庁は労災保険給付について、出張中のケガや病気のほか、出張先での休暇後に通常の出張の帰路についた際に事故に遭った場合も、業務に関連する行動の範囲内と認められれば対象となるとしている。

就業形態によっては当てはまらないケースもあり、労災保険給付の対象になるか否かは個別案件ごとの判断となる。

一方で、出張に絡めた休暇中の事故によるケガや病気は、業務中に起こったものではないため、ブレジャー中であっても労災保険給付の対象外となる。出張先から休暇先まで移動した場合も、その移動については業務外とみなされ、給付の対象外となる点に注意したい。

就業形態によっては当てはまらないケースもあり、労災保険給付の対象になるか否かは個別案件ごとの判断となる。

このほか、緊急事態が起きたときに出張者の所在がわかるよう、企業側が全旅程を把握しておくこと、会社に不利益をもたらすような行動を慎むよう出張者に求めることなども、ブレジャーを導入する上で必要な対応と言える。トラブルが生じないように企業と出張者の双方が規定を正しく認識し、出張者はそのルールの範囲内で余暇を楽しむことがブレジャーの運用には求められる。

ブレジャーの制度化、自治体の取り組みに期待

ここ数年、旅行を控えていたワーカーにとって、出張に絡めて旅行が楽しめるブレジャーは貴重なリフレッシュの機会となるだろう。海外では家族を呼び寄せて一緒に休暇を楽しむケースも多いそうだ。

しかし日本では、名古屋商工会議所と愛知・名古屋 MICE 推進協議会が、名古屋市内の379 事業所を対象に2021年12月に行った「ブレジャー(BLEISURE)の手配に関する実態調査」において、ブレジャーを「禁止している」と答えた企業が78.9%を占めていた。

ブレジャーに肯定的な意見として「心身がリフレッシュできる」(66.1%)、「休暇の促進(働き方改革)につながる」(52.1%)がある一方で、否定的な意見としては「制度が整っていない」(70.2%)、「公私の切り分けが難しい」(64.8%)が多かった。

海外でブレジャーがもはや主流ともいえる出張スタイルとなっていることを考えると、今後、日本でもブレジャーの制度化を求める声が高まっていくものと思われる。

また、ブレジャーによる地域消費の拡大を狙い、ビジネス客に旅行を促すキャンペーンをスタートした自治体もある。熊本県熊本市は2022年12月、ブレジャーの提案として「シゴト終わりの熊本ガイド」の特集サイトをじゃらんnetに掲載。気軽な日帰りから熊本市外にも足を延ばした2泊までのモデルコースを紹介している。さらに、「シゴト終わりの熊本」のプランを対象とした1000円の宿泊クーポンの配布も行っている。

地方都市や観光地にとってブレジャー旅行者は、繁忙期以外に宿泊や飲食にお金を落としてくれる貴重な旅行客であり、消費拡大への期待は大きい。日本企業の動向とあわせて、こうした自治体の取り組みにも引き続き注目していきたい。

この記事を書いた人:Yumi Uedo