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「一生働く」女性学生を採用するために企業が知っておきたい彼女たちの観点

女性活用がなかなか進まない中、これから社会に出る女性学生の仕事観をインタビュー。「一生働く」つもりの彼女たちが企業を選ぶ観点を通して女性活用のヒントを探る。

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2018年12月に世界経済フォーラムによって発表された「ジェンダー・ギャップ指数」では、日本の順位は149ヵ国中110位となった。ちなみに他のG7参加国のランキングを見るとフランスが12位、ドイツが14位、イギリスが15位、カナダが16位、アメリカが51位、そしてイタリアが70位となっており、日本の順位が飛びぬけて低いことがわかる。項目別に見ると「経済活動への参加・機会の平等」が117位と総合順位よりも更に順位を下げており、企業における女性の活用度の低さが浮き彫りになった。

とはいえ、実際に社会で働いている女性としては確実に変化を感じている部分もある。たとえば筆者が2社目に勤め始めた2007年当時、産休・育休は正社員のみで契約社員は実質対象外だったのが、筆者が在籍している間に多くの契約社員が産休・育休を取れるようになったし、当時珍しかった「子供のいる女性管理職」も今ではよく見るようになった。しかしこのような実感も、上記のランキングを見ると本当にごく一部の世界での話だったようだ。

このような状況のなか、これから社会に出る女性学生たちは「働く」ことに対してどう考え、どういう選択をしていく予定なのだろうか。今回の記事では女性学生4名に行ったインタビューを基に、彼女たちの仕事観を通して企業が本当に女性を活用するためのヒントを探りたい。

今回話を聞いた人

Aさん:私立大学4年生。コンサルティング企業に就職内定
Bさん:私立大学4年生 9月より海外留学予定。インターン経験あり
Cさん:国立大学大学院博士前期(修士)課程1年生。就職活動準備中
Dさん:私立大学4年生。就職活動中

そもそも「出産で退職」の選択肢はない

今回話を聞いた女性たちは全員「一生仕事をし続ける」というスタンスだ。しかしその度合いは人によって異なる。まず取り上げたいのはキャリアとライフプランが人によって様々であるということだ。以前なら「子供を持たない」というのは少数派だったが、今回のインタビューでは「子供が欲しい」人と「子供を考えていない」人は2名ずつの半々だった。また、「子供が欲しい」と答えた2名が実現したい働き方もそれぞれ違っている。「女性は出産したら退職あるいは仕事をセーブする」という前提はもはや当たり前ではなくなりつつあるようだ。

たとえば子供を3人ぐらい欲しいというAさんは、子育て中でも「難易度の高い仕事に挑戦し続けたい」という。先日公開した『若手社員が入社後感じた「こんなはずでは…」働き方』では子供ができたら女性社員は第一線の現場から運営系部署に配置転換されるという企業があったが、彼女からするとそれは「大きなお世話」であり、子供がいるからと言って負担の少ない仕事をしたいとは思わないという考えだ。将来的にはリーダーの仕事に就き、マネジメントする立場にもなりたいという。

一方Cさんは子供ができたら子育てを優先したい派だ。その期間のパフォーマンスは落ちるが、そのために評価が下がってもそれでいいようだ。逆に、パフォーマンスが落ちているのに子育て中ということを考慮して評価されるのは嫌だという。評価はあくまでもパフォーマンスに対して受けたいため、「女性だから登用されるとか、子育て中だから考慮されるとか、そういうのは不公平だと思う」と語る。

working woman with a baby

また、子供を持つことを当然と思っているわけではない人もいる。Bさんは「いい人に出会ったタイミングで考える。たとえばそれが子供を持つことが難しい年齢だったら子供は持たないことになると思う」と、子供を持たない可能性も視野に入れている。

Dさんも現時点では子供を持ちたいと思わないという。子供を持つことよりも、「仕事を通じて自分のやりたいことを実現する」ことを優先したいそうだ。ここで疑問になるのが「子供を持つこと」と「仕事を通した自己実現」が両立しないのかということである。なぜなら男性の場合は「子供を持つこと」と「自己実現」の両立が問題になるケースが少ないように見えるからだ。

話を聞くと、彼女が「二者択一」の考えになっている背景には「夫婦で家事育児を分担するケースを見てこなかったから」という理由があるようだ。「前提が違ってくるとまた考えが変わるかもしれない」と彼女は話す。

ロールモデルが居る企業を選ぶ

先日、筆者の友人の若手女性が印象的なことを言っていた。普段アメリカで働く彼女が日本で開催されたテック系カンファレンスに出席した際、60人の登壇者全員が男性だったのを見て「日本で働くのは無理だと思った」というのだ。そのカンファレンスにおいて女性登壇者がいなかったのは「たまたま」で特に意図はなかったのかもしれないが、それは「女性が活躍できない場」だと受け取られ、選択肢から外される。

この受け取り方は学生にとっても同じようで、一生仕事をするつもりの彼女たちが最初の職場選びにおいて重視するのは「ロールモデルの存在」だ。自分の将来を具体的にイメージするうえで、自分の考えに近い女性社員の働き方を知ることは彼女たちの選択に大きな影響を与える。そのためインターンシップや選考過程でロールモデルとなる社員を見つけられないと、その企業を候補から外してしまうのだ。

Aさんは中国に留学していた時代、日本企業の現地法人でインターンをしていたが、インターンシップ終了後にその企業を就職先候補から外した。なぜなら駐在している社員の中に女性はいなかったからだ。女性社員を紹介してほしいと頼んでみても、「そもそも女性で駐在するケースが稀であるため紹介できる人がいない」という返事。もともと大学では日中関係を専門にしており、中国語も話せることから将来は中国に駐在して働きたいと考えていたが、現実を知って方向転換した。

Bさんもインターン終了後にその企業を候補から外した1人だ。その企業は女性が多く活躍するが、たまたまインターンをしたチームには男性しかおらず、ロールモデルを見つけることができなかったという。もともとその企業に興味はあったし、インターンシップを通じて学ぶものもたくさんあったが、自分がそこで働くイメージは描けなかったようだ。

women's role model

現在就職活動準備中のCさんは「企業名+女性の働きやすさ」で検索し、就職先候補企業の女性の働き方についてリサーチ中だ。「育休を取ってそのまま辞める社員が多い企業は候補先から外す。自分が産休・育休を取るつもりなので、その経験がある女性社員に居て欲しい」。

一方Dさんは「ロールモデルに性別は問わない」という。今志望している企業は男女の活用にほとんど差がなく、子供のいる女性管理職も多い。そのため、「女性だから」といった働き方に目を向ける必要がないようで、ロールモデルには仕事のやり方やスキルのみを求めているという。このようにロールモデルに対して性別を意識しないでいられることが本来理想の姿だろう。

多様な働き方を認める企業を選ぶ

ともすれば「女性の働き方」と一言で括られがちだが、その中身は多様な個人の集まりだ。家庭内の状況、たとえばパートナーの有無、パートナーの仕事の状況や家事育児能力(あるいはその意欲)、子供の数やその健康状態、介護・介助対象者の有無など、彼女たちの働き方を決定する要素はいくつもあり、働き方が1パターンになることはありえない。もちろん男性もそうなのだが、家庭の影響を受けがちなのはまだ女性の側が多いことを彼女たちは悟っている。

Cさんは「そんな多様な働き方を前提に、選択肢が多い企業を選びたい」という。働く時間と場所の自由はもちろん、個人の事情に応じてフルタイムとパートタイムを切り替えたり、フルで働けないときにはパフォーマンスと給与を下げることを選べるようにしたりするなど、柔軟な制度のある企業を選びたいそうだ。また、その制度が実際に活用されるためには、多様な働き方を社員同士で認めるカルチャーも欠かせないという。

Aさんが現在内定してる企業では仕事内容のほかに、働く時間がフレキシブルであること、また事情があってフルで働けないときには自分でその年の収入と働く範囲を決められる制度などがあるという。業務内容も重要だが、これらの制度も決め手になった。

また、家庭の状況に関係なく、フレキシブルな働き方の方がパフォーマンスを発揮しやすいという人もいる。BさんとDさんは「ワークライフバランス」よりも「ワークライフインテグレーション」派だ。オフィスに居ても集中できないときには別のことをしたいし、オフィスに居なくても仕事はしたい。このような働き方が実現する企業を二人とも望んでいる。

終わりに

今回話を聞いて印象的だったのは、「女性活用=女性優遇」ではないという意見だ。たとえばCさんは「女性管理職比率」の目標を設定していること自体が男性に対して不公平だと言うし、Dさんは「男性の育休取得実態から、女性と平等に男性が権利を行使しやすいかどうか見る」と言う。彼女たちは本当の意味で「パフォーマンスにおける男女平等の評価」を望んでいるのである。

彼女たちは自分のキャリアやライフプランにおいて何が必要かをきちんと考え、それが実現できるかどうかをはかるために非常に鋭い視点で企業を見ている。インターンシップ、説明会、企業ウェブサイト、面接など、企業とのあらゆる接点において「公平性」をジャッジし、その企業で働くイメージを描けるかどうか考えているのだ。

もし企業側に「女性はこう」というステレオタイプがあったり、学生を含む社外の人と接する際の社員のジェンダーバランスに鈍感であったり、あるいは女性活用を女性優遇と履き違えたりしていると、今回話を聞いたような優秀な女性学生たちの選択肢からはこぼれ落ちることになるかもしれない。

この記事を書いた人:Yuna Park

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