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アフターコロナで本格化する「オフィス × テレワーク」 5年のノウハウを蓄積する株式会社ニットの事例

記事作成日:[June 09, 2020]
BY Kazumasa Ikoma

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外出自粛の流れでテレワーク実施が進む中、アフターコロナを見据えてテレワークとオフィスワークを併用する働き方について考える企業が増えている。コロナ禍で生活様式が変わると言われる中、同じく仕事の様式も大きな変化を遂げようとしている。

どこでも働けるアフターコロナ時代、オフィスや働き方はどのように構築されていくのか。その最新事例の1つとして、今回は新型コロナウイルス感染拡大前から自社オフィスを持ちつつ従業員のフルリモートも認めている株式会社ニットの働き方に注目。従業員がオフィスとテレワークの両方を使いこなす働き方の実態と、その組織づくりの判断を下した同社代表の秋沢崇夫さんの考え方に迫る。

オフィスを持ちながらも働く場所を限らない柔軟なワークスタイル

株式会社ニットは2015年からオンラインアウトソーシング事業を中心としたビジネスを展開するスタートアップで、11名の社員が在籍する。同社が展開するサービス『HELP YOU』では、400人以上のフリーランスのテレワーカーがオンライン上で顧客企業の業務を支援。またそのテレワーカーの管理や運営業務を、同社11名の社員が同じくテレワークで行っている。事業に関わるほぼ全員がテレワークでつながっている構図だ。

11名いる社員のうち半分は東京、もう半分は鳥取、奈良、長野などの地方に点在し、中には海外のイスラエルにいる社員もいるという。東京組もオフィスにとどまらずカフェや自宅で仕事をしていたり、さらに近年注目を集めるアドレスホッパーとして地方や海外にあるコワーキングスペースを転々としながら旅に近い形で仕事を行ったりするメンバーもいる。創業当時からテレワークをベースとした働き方を進めていたため、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛がある中で大きな働き方の変化はなかったという。

社員が集まれるオフィスは会社として用意はしているが、出社を義務とする規則や業務は特にないと秋沢さんは話す。社員の自主性に任せているが、オフィスとの相性が良い業務としてホワイトボードを使ったブレストなどアイデア出しを行う会議はオフィスで行われることが多いという。

東京・西五反田にあるオフィスは、バーカウンターから脚を伸ばしてリラックスして働ける空間まで自由に働ける環境が揃う。社員同士が対面で話し合える場所を持つことはテレワークができる組織でも重要だと秋沢さんは話す。

「テレワークでもオフィスでも社員が働けるようにしたい。TPOに分けてそれぞれの良さがあると思っている。」個人作業に集中したいときはオフィスよりも自宅やカフェを好む人もいるし、またメンバーと協働してサービスを立ち上げたり、集中的なトラブル対応を行ったりする場合にはどこかに集まってコミュニケーションを密にして進めたほうが生産性も高くなる。仕事の種類や自分のワークスタイルなどをベースに、その時々によって働き方の選択が常にできるようにしたいというのが秋沢さんの考えだ。

次ページ:テレワークでもコミュニケーション量を減らさないための取り組み

テレワークで大事なのは気軽なコミュニケーションを取れる機会を維持すること

一般的にテレワークを始めると、オフィスにいるときよりも社員間のコミュニケーション量が減少する傾向にある。業務上のコミュニケーションはまだ比較的維持されつつも、強く影響を受けるのはちょっとした雑談などのカジュアルなコミュニケーションだ。このカジュアルな会話の有無がテレワーク環境における仕事の効率性が大きく左右することは海外含め多くの企業で示唆されている。

それはニットでも例外ではなく、その対策として同社は積極的にオンライン飲み会やオンライン雑談の機会を設けている。秋沢さんが必要と考える理由は以下の2つだ。

オンライン飲み会・雑談を取り入れる理由①:孤独さを解消

秋沢さん曰く、在宅勤務を始めて最初に突き当たる壁は寂しさを感じること。秋沢さん自身も自社サービスのHELP YOUで働く人を含め、多くの人が孤独感を感じる場面を見てきたという。4月下旬に株式会社あしたのチームが公表した調査結果で「テレワークを始めて管理職の3割が寂しいと感じている」という実態も明らかになり話題を呼んだが、組織である以上、孤独さというネガティブ要素を解消して従業員が前向きに仕事に取り込めるように仕組みづくりを行うことは大切であるようだ。

オンライン飲み会・雑談を取り入れる理由②:テレワークでテキストのみのやりとりでも、相手の「本当に伝えたいこと」が読み取れるように

カジュアルな雑談から社内メンバーと信頼関係を築けるか否かでテレワークにおける仕事の質は大きく変わる。テレワークは一般的に、個人作業を行う上で高い集中力を維持しやすく生産性の高い仕事をする上で効果的。しかし、チームメンバーとコミュニケーションを取る場面では、相手がどのような背景や文脈で会話しているのかテキストだけで把握する必要があり、通常のオフィスワークより高度な会話スキルが求められる。その時に相手の好きなことや趣味、休日の過ごし方など、何気ない会話から相手の性格や話すときの癖、ひいては為人を知っておくと、テキストからでも相手が伝えたい内容を読めるようになる。メッセージだけの会話による不必要なすれ違いを防止する上でオンライン飲み会や雑談は効果的だという。

忘年会では社員とHELP YOUアシスタント合わせて100名以上が参加。

オンラインでの勉強会も定期的に行っている。

人が集まれるオフィスという場を設けておきながら、オンライン上でも気軽に話す機会を積極的につくるのは、人と人の間に物理的な距離が開く現代の働き方の中でも従業員が上手な人間関係を構築できるようにするためだ。

年に2回の合宿は、オフラインでの交流の機会

テレワークができる環境下で積極的にオンラインでの会話を促すのと同じく、対面での会話も重要視するニットでは全社員が参加する1泊2日の合宿を半年に1度開催している。オフィスワークよりもテレワークの比重が大きいニットの社員にとっては他の社員全員と顔を合わせる貴重な機会だ。

この合宿のポイントは、普段はオンラインだけでしかコミュニケーションをとらないことが多い社員同士が1泊2日でオフラインでのコミュニケーションで関係性を深めることにある。準備を進める社員たちはビデオ会議で話し合い、合宿当日にはオフラインで直接会って様々な議論を交わすことで、組織のビジョン・ミッションやバリューを改めて共有する。また仕事とは関係がない話をこの合宿でし合うことでお互いのより深く知ることができ、その後のコミュニケーションも円滑に進めやすくなる。

企画を任される社員も合宿の準備を始める段階から合宿実施までのプロセスでオンライン・オフライン共にあらゆるコミュニケーションを取りながら成長する。今後社員数が増えてカルチャーの醸成が課題となる時も、この合宿は大切な取り組みになると秋沢さんは考えている。

2019年に行った合宿の様子。

オフィス / テレワークの実現は代表自らの考えがあったから

企業がオフィスとテレワークの併用を始めるきっかけはコロナ対策や働き方改革の一環など様々だが、ニットの場合は代表である秋沢さんの思いがベースとなっている。

新卒から勤めてきたベンチャー企業を32歳で退職した秋沢さんは自身の今後の人生プランを考えるために1年間の”夏休み”を取って海外を回り、フリーランスとしてテレワークをしながら生活した。その経験が日本でサラリーマンとして働いていた時期を振り返るきっかけになったという。当時は仕事中心の生活で、有給を取るのも大変、海の近くに住みたいという理想も通勤を考えると難しく、「働くことに縛られた人生だった」と秋沢さんは語る。その縛りから解放され自分がしたい働き方を自由に選択できるようにしたいという気持ちが会社立ち上げの原動力となった。

実際にHELP YOUや自社での人材募集を進める中で、これまで積み上げたキャリアを維持したい一方、配偶者の転勤や子育てなどの事情で自分に合ったキャリアステップや働き方が見つからないという悩みを抱える人が多くいることがわかった。改めて働き方は人生の中で重要なファクターだと再認識した秋沢さんは、人が抱える「自分はこういう人生を選択したい」という気持ちをサポートすることでより多くの人の働き方の支援を行いたいという。そのように各々が働き方の選択肢をもてる社会を創っていきたいと力強く語る。

次ページ:「サボる」を前提としない組織のつくり方

「サボる」を前提としない組織に必要な社員の自主性

新型コロナウイルスの影響によるテレワークの導入で、多くの人が働き方を自由に選べることに少しずつ興味を持ち始める一方で、会社側にとって無視できないのは社員の生産性だ。

11名の社員を管理しつつHELP YOUにいる400人のテレワーカーを見てきた秋沢さん曰く、テレワークのある環境下で生産性やパフォーマンスを左右するのは、オンライン上で仕事ができる環境の整備や社員のスキルよりも前に、彼らが自律的・主体的に仕事していけるかという意識の部分だという。その自主性を軸に仕事に対する当事者意識や自由な働き方に対する責任を社員に持ってもらうというマネジメントスタイルを会社として取っているようだ。

この考え方は日本ではまだ多く見られないかもしれない。日本の働く環境はときに「監視社会」と揶揄されるほど、社員がサボっていないかを会社や社員同士が見張る傾向が残る。しかし、実際にオフィスにいてもパソコンの画面を覗いて社員が何をしているか常に見れるわけでもなく、在宅勤務でもそれは同じ。監視ログを入れて厳密に測ったとしても社員のパフォーマンスが上がるわけではない。性悪説に基づいた管理では組織として発揮するパフォーマンスのボトムラインを一定レベルに維持することはできるかもしれないが、向上させることは難しい。

それに対し、ニットでは「何に対して成果を求めるか」という目標設定において社員個人と合意を取るプロセスを取り、「納得したからには達成に向けて動く」という性善説に基づいたマネジメントを行っている。テレワーク実施を決めた時点で「サボらず真面目に取り組んでいる」「夜遅くまで頑張っている」という漠然とした努力の姿を評価することは難しく、必然的に成果そのものやそれに直結する取り組みが行われていたかを重視することになる。自由な働き方を認める中で社員をフェアに評価するという意味でも、このように合意を取るマネジメントスタイルは鍵となるようだ。

メンバーが自主性を持つためには、自分で選択することが大切だと秋沢さんは考えている。

ニットの企業ビジョン「未来を自分で選択できる社会をつくる」

ニットの企業ミッション「『あなたがいてよかった』をすべての人に」

秋沢さんがニットを立ち上げた経緯は先述したが、ここに挙げたビジョンやミッションはどちらも自主性にも関連している。ビジョンである「未来を自分で選択できる社会をつくる」にあるように社員も自分自身の「やりたい」という気持ちに向き合って、自分の未来を選択し意思決定をする。自分で選んだことだからこそ、誰かのせいにせず責任をもって自主的に取り組むことができる。そしてその行動を通してミッションにある「あなたがいてよかった」を実感できる。このサイクルができることで、メンバーは自主性をもって働くことができると秋沢さんは考える。

自主的に動く社員に、管理しすぎない組織。お互いの状況は社員自ら発信する

社員が主体的に動く姿勢を促すことはテレワークで生まれるデメリットを解決するのにも鍵となる要素だ。例えばテレワークでは、社員同士が遠隔で作業する場面が増えるため「お互いの状況がわからない」という問題が起きる。オフィスでは気づけていた社員が体調が優れず仕事しづらい状況や働きすぎといったサインはテレワーク環境下だと見つけ出すことが難しく、管理者側としては心配になるところだ。その対策として、ニットでは社員1人1人が自身の状況をできる限り自ら発信できるようにし、そのためのマネジメントを会社側が行うという考え方で進めている。

その取り組みとして実施されているのが、月に1回の1on1ミーティングだ。一般的な個人面談と異なる特徴として、業務連絡や成果報告のみで終わるものではなく、仕事やミッションに対する進捗度合いのほかに本人のコンディションやモチベーションといった気持ちや体調、そして所属する部署やチームの状態まで本人の視点から共有してもらうという。仕事と私生活の境界線がなくなりつつある今日の働き方の中で、仕事以外の部分も管理者側がケアしていく事が必要とされているのだ。

今後のビジョン

今は少数精鋭のメンバーでオフィスワークとテレワークを併用するニットだが、今後社員数が増える上でこのカルチャーをどのようにしていけるかは経営課題の1つだと秋沢さんは語る。人数が増えるほど、会社としての一体感や企業の文化を共有する上でお互いに顔を合わす合宿のような取り組みや、オフィスの存在はさらに高まるだろう。

新型コロナウイルスの影響で、テレワークでできること、在宅勤務でできること、そして個人でできることは何かを見直す人は読者の中でも増えたはず。さらにSTAY HOMEの取り組みで通勤を見直したり、自分の生活にもっと見向きしたりする時間ができたことで、働くことに対する考え方を見直したという人もいるはずだ。そうした時に、HELP YOUで400人以上のテレワーカーの管理を行いながら社内でテレワークのノウハウ蓄積し実践するニットの取り組みはきっと参考になるだろう。さらに今後どのような取り組みを進めていくのか引き続き注目必至だ。

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この記事の執筆者

Kazumasa Ikoma オフィス業界における最新情報をリサーチ。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

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