障害のあるワーカーのためのより良いテレワーク 必要な6つのサポートとは
記事作成日:[July 07, 2020]
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記事更新日:[August 27, 2020]
BY Stefanie Saki Kinjo
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Worker’s Resortではこれまでスタートアップから大手企業まで規模の異なる企業の従業員や、LGBTQなど、あらゆるワーカーに焦点を置いて働き方を取り上げてきた。今回は障がいのある社員の働き方に着目したい。
新型コロナに伴うテレワーク導入で数多くのワーカーの働き方に大きな変化が起きているが、もちろん障がいのあるワーカーも例外ではない。むしろテレワーク環境で働くにはまた特殊なサポートを必要とする彼らにケアが十分行き届いていない企業では、他の社員との間に「テレワーク格差」が生まれてしまうケースもある。そこで、障がいのある従業員がテレワーク環境下で抱える課題を解決するために、会社が実践すべき6つのポイントを紹介する。
障がいのある従業員といっても障がいの種類や程度は人それぞれだが、この記事では特定の障がいに絞ることなく、共通して配慮が必要とされる取り組みについて触れる。
テレワークは障がいのある従業員にとって働きやすい
まず在宅勤務・テレワークの導入は障がいのある社員にとって前向きな変化だという。彼らにとってオフィスに行くまでの通勤が身体的や精神的に大きな負担となることは多く、また出社してもオフィス環境が細部にいたるまで障がい者の生活を考慮して設計されているところは多くない。自宅で仕事ができることは多くの困難やストレスの回避につながるのである。
実際に発達障害を中心とした障がいのある人の就職支援を行う株式会社エンカレッジの代表取締役・窪貴志さんはコロナ問題が障害者雇用に与える影響として、同様の理由を挙げながら「会社全体としてリモートワークが当たり前になれば、障害者雇用においてもリモートワークが一気に進む可能性があります」と、従業員がより活躍できる機会が増えることに対する期待を自社メディアで述べている。
しかしその一方で、テレワーク環境下で配慮しなければならない問題も少なからず存在する。テレワーク導入時の具体的な問題点を挙げながら、その対策・改善方法を紹介していこう。
1. 1日のタスク・仕事スケジュールの作成
障がいのある人の中には新しい環境に困惑したり、決まったルーティンでないと不安を感じたりする人が多い。働く場所がオフィスから家へ、会社の人に囲まれた職場環境から1人の個人作業がメインの在宅環境に、口頭で確認できた内容もチャットやメールを通じた確認に移行、など在宅勤務制度の導入に伴う働き方の変化は激しく、さらに時短などを取り入れている会社では勤務時間さえも異なる。
この不安を取り除くには、会社に出勤し仕事するときと同じように、テレワーク環境下の新しいルーティンを持てるようにサポートすることが大切だ。そのために、1日のタスクや仕事スケジュールを細かく指示する必要がある。
このスケジュール表は筆者が作成した例だが、このように具体的なスケジュールを事前に組めることが理想的だ。ポイントは毎日のスケジュールの中で特定の業務や休憩の時間を固定している点。テレワーク勤務でもルーティン化を図るために朝礼の時間と1日業務報告時間を毎日同じ時間に設定したり、ランチ休憩はオフィス出勤時と同じ時間で取るようにしたりすると良い。
また新たな会議や業務が発生した場合は可能な限り前日までにスケジュールの変更の旨を伝えて、急な対応による混乱を避けるようにする。1日のスケジュール全体が変更になる場合は口頭で伝えるとともに、事前に作成したスケジュールも新しいスケジュール内容に変更して共有し直すことも重要である。
2. 分かりやすい業務依頼
テレワークを始めてから業務が効率よく進まなくなったという悩みを抱えるマネージャー層もいるかもしれない。実はその原因の1つとして業務依頼の仕方に問題があるケースが多い。もしそのような悩みがある方は「分かりやすい業務依頼」を意識してその伝え方を見直して欲しい。
例えば「この顧客ファイルをまとめて本日の終業前までに提出してください」と簡単に説明を済ましたり、または業務の内容を箇条書きで伝えたりしてはいないだろうか?その依頼方法だと不足している情報が多く、相手に業務内容の汲み取りを任せてしまっており、「結局のところ具体的に何をすればいいかわからない」と悩んでしまう従業員もいるのである。
誰に、どのようなファイルを、どのような形でまとめて、何時までに、どのような方法で提出するか説明することを意識する。先ほどの文章を言い換えると「新しい顧客名とアドレスをエクセルでまとめて、本日の18時までに担当者の〇〇さんにまでメールで提出すること」と詳細を含めた業務依頼をすることで従業員自身が行うべき業務を理解し、安心して行動に移すことができる。これにより業務を依頼した側もより正確なファイルを受け取ることができ、仕事の効率化にも繋がるのである。
3. 密なコミュニケーション
テレワークや在宅勤務の長期化で個人で作業する時間が多くなり、寂しさや自社への帰属意識が薄まるという問題が顕著になったが、障がいのあるワーカーはその不安を人一倍抱える傾向が強い。テレワーク業務を行うことに対して、閑職や単純作業に追いやり自主退職を促す行為としてテレワークを指示されたのではないかと排他的な感覚を感じやすいのである。
ここで重要とされるのが他の社員や上司との密なコミュニケーションだ。もともとオフィスで行われる口頭コミュニケーションは、障がいのある従業員にとって会話のスピードが早く、読唇が追いつかないなどの理由で輪に入りにくいと感じることが多かった。テレワーク環境下ではその不安をさらに煽ることにつながりかねないが、逆にこれを機にメールやチャットツールを活用した会話の見える化を実現できれば話は変わる。
特に日常の会話ができるように意識する場合は、メールではなくチャットツールを活用すると良い。口頭で行われていたコミュニケーションや何気ない会話はメールよりもチャットツールの方が移行しやすく、オフィスで働く社員・在宅する社員両方にとって参加しやすい。このようなカジュアルな会話は他の業務的な連絡と一緒に記録に残るため、障がいのある社員が話についていけない状況を減らすことができ、従業員同士のコミュニケーション活性化が図れるのだ。
またメンターをつけるのも1つの手だ。オフィスに居れば周りの従業員からの声がけや資料読み上げ、業務内容の丁寧な説明などのサポートが得られるが、テレワークではすぐに頼れる同僚が近くにいない。メンターはそんな環境でも頼れる役割を果たし、業務内容や会議での不明な点をすぐに相談できる存在となる。さらに人によっては体調や気分の波が大きく毎日の体調管理が必要となる障がいを持っている場合もあるが、メンター制度を取ることで会社側が従業員の小さな体調の変化にも気付くことが可能だ。
4. オンライン会議は15分前から準備時間を設ける
オンライン会議は障がいのある社員の多くにとって、テレワーク環境下で最も対策が必要な課題の1つ。その問題点として挙げられているのは、視覚や聴覚に障がいがある社員が利用する読み上げ機能(音声文字変換)のソフトや点字ディスプレイが、オンライン会議のツールによって正しく起動・反応しないことだ。
他にも画質の悪さや映像と口の動きのズレで読唇が行えなかったり、音質の悪さや音の途切れで内容が理解できなかったりと、会議への参加が難しくなってしまう課題が数多く存在する。このような状況をできるだけ回避するために事前に準備時間を設けることを推奨する。
会議参加者たちのネットワーク環境に問題はないか、音声に問題はないか、また特別な機械やソフトを使用する場合は正しく反応しているかを確認する。可能であれば読み上げソフトや点字ディスプレイに対応しているオンライン会議ツールを固定化してしまうことで接続トラブルは減らせるだろう。また、オンライン会議ツールの中には誰が話しているかを分かりやすくするために話手の枠に色が付いたり、点滅する機能があったりするのでその機能もぜひオンライン会議ツールを決める際に参考にしてほしい。
さらにこの15分間を利用して、会議の概要、参加人数、可能であれば参加者の名前や使用するスライドなどを併せて確認しておくと、スムーズにオンライン会議に入りやすくなる。
5. オンライン会議のルールの制定
障がいのある社員と他の社員がともにスムーズに会議を進めるためには、会議開始15分前の準備以外にも社内共通ルールを制定することをお勧めする。
(例)
・事前に会議の概要をメールでシェア、資料などもあればそれもシェア
・1度に複数の人数が話さない
・司会進行役をつける
・議事録をつけて、会議後に内容を共有
・質問は発言制だけでなくチャットに書き込む形も取り入れる
上記のルール例は筆者が作成したものだが、意識したポイントは下記の3つ。障がいのある社員がオンライン会議でよく直面する問題点から特に重要なものを厳選している。
①発言者を絞る
聴覚障がいなどを持つ社員が読み上げ機能(音声文字変換機能)を使用している場合、会議で複数人が同時に話すと画面に表示される文章が混ざってしまう。また知的障がいのある社員は複数人で会話が行われると誰の話に耳を傾ければいいか分からなくなり、話の内容が理解しにくくなる。発言者を絞るために、1度に複数人話さないことを義務付け、司会進行役を付けることでオンライン会議の会話が複雑化しないようにする。
②障がいのある社員が発言できる機会を作る
障がいのある社員の中にはオンライン会議の内容についていくことに集中し発言する余裕がない、また発言したいが十分な声量が出せず発言しても埋もれてしまうなどの悩みを抱えている社員も少なくない。
Microsoft Teamsの最新機能として追加された挙手ボタン
そのような状況下でも発言の機会を作るために質問は直接ではなくチャットに入力する形式やオンラインツールによっては挙手ボタンがあるものを使用することで工夫が可能だ。
③議事録を取る
毎回の会議で議事録担当者などを事前に決めておき、会議後に参加者全員に内容を共有する。そうすることで会議の内容が上手く聞こえなかったときや途中理解できない箇所があったとしてもあとで議事録で確認することが出来る。またリアルタイム議事録としてチャットに議論の内容を打ち込み、「会議を見える化」することで、その場での内容理解度を高めることもできる。
6. スライド作成・説明のポイントを押さえておく
実はスライドの作り方と説明にも障がいの種類によっては改善・工夫できる点がいくつかある。
スライド作成
例えば、発達障がいのある従業員を考慮したスライド作成で意識すべき点は、文字数を減らすこと。文字が多いスライドや資料だと情報量が多すぎて内容を理解するまでに時間を費やし混乱してしまうケースが多い。端的に箇条書きや2・3行で文章をまとめることを意識するとよい。文字数を減らすために画像や図を積極的に取り入れる方法もある。またグラフも効果的ではあるが情報量やグラフが複雑化すると意図が伝わりにくくなるので、伝えたい情報が一目で分かるように目盛線や単位などの細かい情報は極力省略する。
他の例として視覚障がいは等級によってスライド作成の工夫する点が変わってくるが、今回は読みにくさ・理解しづらさを回避するポイントを世界盲人連合(WBU)のアクセシブルなパワーポイントのガイドラインよりいくつか抜粋して紹介する。
【フォント】
・ひげ飾りのついたフォントを利用しない。(Helvetica、Arial、Verdanaを推奨)
・1枚のスライドに2種類以上のフォントを使用しない
・イタリック体は避ける
【色】
・テキストには明るい色を使用(白の背景に黒い文字が一番良い組み合わせ)
・赤と緑は重ならないようにする(赤の背景に緑の文字、緑の背景に赤文字は避ける)
・赤は極力使わない
【口頭説明】
・会議が始まる前に質問を受けるタイミングを先に伝える
・スライドで紹介されているテキストは省略せず読み上げる
・スライドのどの部分を話しているのかを説明
余談だが、マイクロソフトもOfficeサポートとして視覚障がい・読書障がい・色覚障がいがある人をメインとしたパワーポイントの作成方法を紹介している(障碍のある方のためにアクセシビリティの高い PowerPoint プレゼンテーション)。ここではスライド作成時に修正すべきポイントとアクセスビリティを向上させる効果的なパワーポイント機能を学ぶことができる。
スライド説明
障がいのある従業員がオンライン会議に参加する場合、言葉の表現方法や言い換えが必要となる。例えば、視覚障がいのある従業員が参加するオンライン会議ではスライドを説明する際に抽象的な言葉や「あれ」「これ」「それ」などの指示語を避けることが必要不可欠だ。先述のWBUは、スライドを利用した話し方のコツとして、話し手は自らをラジオパーソナリティと意識して話してみると分かりやすいと紹介している。例えば、「この図でも表しているように」ではなく、「スライド5枚目の前年度と今年度売上高の比較の図で表しているように」とより具体的に何枚目にどのような内容の図を利用しているかと説明できることが理想だ。
最後に
障がいのある従業員とのリモートワークを円滑に進めるために6つのポイントを紹介したがすべてを必ず行う必要があるわけでない。ただどれか1つ取り入れてみる、社員同士で意識してみることで彼らにとってはリモートワーク環境下でより仕事がしやすくなる。もしくはこの記事をきっかけに障がいのある従業員とどういう環境が必要なのか、どのような工夫が必要なのか話してもらえたら嬉しい。
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この記事の執筆者
Stefanie Saki Kinjo Walt Disney Worldでインターンシップののち大手外資系ホテルに入社。自らの経験から日本とアメリカの働き方の違いに強く関心を持ち、主に海外ニュースを中心に最新のオフィス環境やワークスタイルを発信する。