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子育てしながらしっかり稼ぐ。働くひとり親を支える制度と企業の取り組み

[October 04, 2022] BY Hiromasa Uematsu

増えるひとり親世帯。増える子どもの貧困

離婚・死別などを理由に、父母のいずれかひとりで子どもを育てる「ひとり親世帯」。厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によると、日本のひとり親世帯は全国で141.9万世帯に上る。平成5年時点でのひとり親世帯数は94.7万世帯(法制審議会家族法制部会第1回会議資料)であり、20年あまりの間に約1.5倍に増加している。

結婚した夫婦の3組に1組が離婚すると言われる時代。ひとり親世帯は今後さらに一般的な家族の形になるのかもしれない。しかし、そんな未来が訪れる前に解決すべきことがある。ひとり親世帯の貧困問題だ。

2019年の「国民生活基礎調査」によると、日本の1世帯あたりの年収は2018年時点で552.3万円。児童のいる世帯に限ると745.9万円に増加する。対してひとり親世帯はどうだろう。前出の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」を見ると、父子家庭で420万円と平均を大きく下回っており、母子家庭はさらに低い243万円となっている。ただでさえ子育てと仕事の両立に苦労するひとり親世帯は、同時に経済的な問題にも苦しめられているのだ。

そして、親の問題で経済的な苦境に立たされるのは、他でもない子どもたちである。全世帯における子どもの貧困率は14.0%である一方で、ひとり親世帯ではその割合が48.3%に急増することがわかっている(2019年国民生活基礎調査)。ひとり親世帯のおよそ2世帯に1世帯で子どもたちが貧困に苦しめられている計算になる。

ひとり親世帯の貧困を招く3つの問題

どうしてひとり親世帯は、平均よりも厳しい経済状況に立たされているのだろう。そこには大きく3つの問題が横たわっている。

問題①養育費の不払い

離婚した場合も、相手方から養育費を受けることができれば、生活費の負担は軽減される。しかし実際は、養育費を受けたことのある人のほうが少数派という現実がある。

前出のひとり親世帯等調査では、父子家庭の86.0%が養育費を受けたことがないと回答している。父子家庭よりも平均年収が177万円も低い母子家庭でさえ、56.0%が養育費を受けたことがないことがわかっている。

問題②仕事の選択肢が狭い

母子家庭のうち、就業している世帯は81.8%。さらに就業者のうち44.2%は正規職員・従業員だが、43.8%はパート・アルバイト等であり、4.7%は派遣社員だ。つまり、非正規雇用の割合が正規雇用を上回っている。

父子家庭の場合は85.4%が就業しており、就業者のうち68.2%が正規職員・従業員、6.4%がパート・アルバイト等となっており、母子家庭に比べると経済的な安定を得やすい状況にある。

ちなみに、ひとり親世帯における非正規雇用の割合は、全国平均と比して極端に高いわけではない。ただし前述のように、母子家庭・父子家庭いずれの場合も年間収入は日本平均を大きく下回っている。これは、対象を正規雇用に限定した場合も同様だ。

母子家庭 パート・アルバイト等の平均年収:133万円
父子家庭 パート・アルバイト等の平均年収:190万円
母子家庭 正規雇用の平均年収:305万円
父子家庭 正規雇用の平均年収:428万円
平成28年度全国ひとり親世帯等調査より)
一世帯当たり平均所得(全世帯):552.3万円
一世帯当たり平均所得(児童のいる世帯):745.9万円
2019年国民生活基礎調査より)

子育てを一人で担いながら働けるような仕事、時間の融通がきく仕事を探そうとすれば、自ずと選択肢は狭まってくる。その結果、正社員雇用であっても平均年収を下回るような仕事を選ばざるを得なくなっているものと推察される。

問題③スキルアップの機会喪失

ひとり親世帯では、経済状況を改善するためのスキルアップの機会が少ない点も問題だ。前述のように、母子家庭ではパート・アルバイト等の非正規雇用の割合が高く、正規雇用に比べキャリアのステップアップにつながりづらい。正社員には認められている社内教育の機会を得られないケースも多いだろう。

また、キャリアの中断も問題だ。ひとり親世帯になったことを契機とした転職は、母子家庭で45.5%、父子家庭で24.7%に上る(ひとり親世帯等調査)。つまりひとり親世帯の2〜4人にひとりが、キャリアアップ以外の目的による転職を余儀なくされているわけだ。また女性の場合は、そもそも出産した時点でキャリアの中断が起きている可能性も高い。

仕事と子育てを両立する必要があるため、自宅学習などの自助努力の余裕も少ない。母子家庭の母の帰宅時間は、午後6時〜8時が43.3%と最も多く、午後8時〜深夜・早朝の帰宅が11.3%となっている。帰宅後に家事や子どもの世話をすることを考えれば、副業やスキルアップのための学習の時間はなかなかとれないだろう。スキルアップの機会を失うことで、他のビジネスパーソンとの経済格差はさらに広がっていく。

ひとり親が活用できる公的支援

紹介してきたように、ひとり親世帯では、養育費の不払い、職業選択の不自由、スキルアップ機会の喪失という3点でハンディキャップを抱えている。全国で141.9万世帯に上るひとり親世帯が十分な就業機会を得ることは、平等性の観点から、また日本経済全体を守り維持していくためにも非常に重要だ。ここからは、ひとり親が本来の力を発揮するために活用したい公的支援について紹介していく。

ひとり親世帯の公的支援①生活費

・児童扶養手当
「18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間にある児童(障害児の場合は20歳未満)」を養育しているひとり親に対して支給される手当。最大で月額4万3070円が支給される。金額は親の所得に応じて決定され、最低額は1万160円だ。父母が新たに婚姻した場合には支給対象から外れる。支給を受けたい場合は市区町村の窓口へ相談に行く必要がある。

・児童育成手当
東京都の独自制度であるため、東京都に住むひとり親世帯のみが対象になる。支給額は児童1人につき月1万3500円。支給対象者は「18歳に達する日以後の最初の3月31日までの児童(障害児の場合は20歳未満)」を扶養するひとり親。支給は各市区町村を通じて行われる。

・ひとり親世帯向けの住宅手当制度
ひとり親世帯の家賃の一部に助成が行われる制度。例えば東京都武蔵野市では、20代未満の児童がいるひとり親家庭の父・母・養育者に対し、月1万円が助成される。自治体が独自に行っている制度であるため、助成の有無・費用などは自治体によって異なる。支給額は月額5000円〜4万円までさまざまだが、1万円程度としている自治体が多いようだ。

その他、やはり自治体等が独自に、安価なひとり親向け賃貸物件を用意している場合もある。例えば東京都中央区の区立ひとり親世帯住宅では、2DKの部屋が3万4000円で貸し出されている。

・ひとり親家庭等医療費助成制度
ひとり親やその子どもなどが病院で診療を受けた場合、医療費(健康保険の自己負担分)の一部が助成される制度。助成額はケースによって異なるが、自己負担分の全額が助成される場合も多い。受診の際、医療機関の窓口で本助成金の受給者証を提示することで、医療費の支払い時に自己負担額が軽減される。受給者証の名称・発行手続きなどは各市区町村によって異なるため、こちらもまずは居住自治体の窓口への相談から始めるのがよい。

・その他の活用可能な制度
ひとり親以外を対象としているものの、活用を検討したい制度・手当もある。

・児童手当
・障害児福祉手当
・特別児童扶養手当
・乳幼児や義務教育就学児の医療費助成制度
・生活保護
・遺族年金

基本的には市区町村の窓口で説明が受けられる場合がほとんどであるため、まずは居住自治体の役場に相談に行ってみるのがよいだろう。

ひとり親世帯の公的支援②職探し

・マザーズハローワーク
公的な仕事探しのサービスといえば、ハローワークが真っ先に思い浮かぶはずだ。実はひとり親世帯に向けては、マザーズハローワークまたはマザーズコーナーと呼ばれる専門の窓口が用意されている。

利用方法は通常のハローワークとほぼ同じであるが、子育て中の人に理解のある事業所や求人を紹介してもらうことができる。また窓口では、子育て関連の各種情報(セミナー、保育サポート)や保育園・幼稚園の情報を提供している場合もある。キッズコーナーや授乳スペースが用意されており、設備面でもママ・パパが意識されている。

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・ひとり親家庭等就業・自立支援センター

「就業する力」を身につけるための支援に力を入れている施設。就業相談や資格・技能を身につけるための講習会の実施、専門家によるセミナー開催などが主な事業内容である。ハローワークのような求人情報の提供も行われている。

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ひとり親世帯の公的支援③スキルアップ

時間とお金の問題でスキルアップを図れないひとり親のために用意されているのが「高等職業訓練促進給付金」だ。

こちらは、就職の際に有利となる資格を規定の養成機関で6カ月以上修業する場合、その間の生活費を自治体が支給してくれるという制度である。訓練期間中は月額10万円が支給され、訓練修了後にも5万円が支給される(世帯の所得によって金額は変動)。

対象となる資格は、看護師・保育士・調理師などの国家資格や、シスコシステムズ認定資格などのデジタル分野の民間資格などさまざま。資格を手にすることで働きたい仕事に就いたり、給与水準を上げたり、「飲食店を開きたい」という起業の夢を叶えることも可能だ。給付には、まずは居住自治体で事前相談をし、養成機関に入学する前に申請を行う必要がある。

ひとり親の活躍を支援する企業の取り組み事例

ひとり親が働きやすい環境をつくることは、雇用する側の企業にとっても、眠っている優秀な人材の確保につながる。ここでは3社の取り組みを紹介したい。

企業事例①株式会社パソナグループ「ひとり親 働く支援プロジェクト」

パソナグループでは、ひとり親を対象にした雇用枠を設けている。同社が本社機能の一部を移転した淡路島での勤務が条件となるが、小学生以下の子どもを持つひとり親であれば誰でも応募が可能だ。年収は350〜600万円と、母子家庭の平均年収を上回る収入が約束されている。職種は接客・経理・Web制作など幅広い。

家具付きの社宅、お弁当サービス、シングルマザーのためのコミュニティなども準備。一部オフィスにはインターナショナルスクールが併設されているなど、子育てと仕事を両立できる制度や環境が充実している。

企業事例②特定非営利活動法人フローレンス「ひとり親手当」

「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」をビジョンに掲げ、社会課題の解決をめざすフローレンス。訪問型病児保育や医療的ケア児・障害児家庭支援、ひとり親支援など、さまざまな親子支援を行っている。

同法人自体、子育てをしながら働いているスタッフも多く、そうしたスタッフ向けの福利厚生制度が充実している。在宅勤務制度、有給看護休暇制度などに加え、ひとり親に対しては毎月5000円の「ひとり親手当」が支給されている。

企業事例③株式会社ノジマ「学業支援金」「ひとり親家庭手当」

電器量販店を展開する株式会社ノジマでは、ひとり親世帯のための「学業支援金」および「ひとり親家庭手当」を支給している。

学業支援金はもともと一般社員向けにも最大で100万円が支給されていた。2020年にこれを拡充し、150万円まで引き上げた(大学入学時)。なお、中学校入学時には30万円、高校・専門学校・短期大学入学時には70万円が支給される。さらに、ひとり親家庭手当として月額5000円が支給されるほか、子どもの体調が悪くなった場合に最大20日取得できる「看護休暇」なども整備されている。

ひとり親が実力を発揮できる環境こそが平等な職場

働くことの平等性とは何なのか。他の社員が残業するなか、子どもの世話のために定時で退勤することは、人によっては「不公平」と感じるかもしれない。また、ひとり親に対して手厚い支援を与えることを「不平等」と捉える人もいるだろう。

しかし、今回取り上げたデータを見れば、ひとり親の多くが本当の実力を発揮できない社会的立場にあることがわかった。働きたいと思うすべての人が、自分の実力を発揮できる環境を整えること。それこそが平等な職場環境であり、公平な社会と言えるのではないだろうか。

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この記事を書いた人

Hiromasa Uematsu 編集者/インキュベーションマネージャー。観光系Webメディアの編集長を勤め、企業・自治体のPRコンテンツを作成。約3年でメディア規模を10倍に成長させる。現在は「Aomori Startup Center」の相談員として起業家・経営者を支援しつつ、これからの地方の働き方を発信している。



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