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【ビッグデータとオフィス】データを制する者がオフィスを制する時代へ

[June 05, 2018] BY Kazumasa Ikoma

ビッグデータやIoTといった現代のテクノロジーの導入により、センサーやデバイスを通じてユーザーそれぞれの動きや好みを把握できる社会になった。その影響を受け、現在オフィスやその他建築物においても同技術の活用が進められている。スペースの活用状況データを随時収集・分析するオフィスや、そのようなサービスを提供する企業も増え、オフィスのスマート化が一般的になりつつある。

しかし、今ではそれ以上の取り組みとして、室内で得た膨大なデータを建物自体が収集・分析した上で、さらに自動的に室内環境の調整を行う技術が存在する。まさに「自ら考え動く建物=コグニティブビルディング」が生まれつつあるのだ。

テクノロジーの発展で進む、建物のコグニティブ化

「コグニティブビルディング」と呼ばれつつある建物には次の2つの機能が存在する:

1. 建物内における様々なデータの収集と分析
2. そのデータを活用した、建物全体の自動的な環境調整

単なるスマートオフィスと呼ばれる建物とコグニティブビルディングの違いは、主に「データの多様性や量」と、「建物自体における環境の自動調整機能の有無」だ。今日のスマートオフィスにも、センサーを使った日光や照明、社員のトラフィックパターンや消費エネルギー等のデータの収集・分析を行う機能はすでに存在する。しかし、オフィスの一部分でしかデータ収集が行われておらず、扱うデータに限りがあったり、もしくは得られたデータの分析結果から取るアクションをほぼすべてを人的に行っていたり、ということがまだ多くある。

ビッグデータやテクノロジーの導入によって建物のコグニティブ化が進むほど、オフィス機能拡大の可能性は現在大いにある。しかし、その重要性を理解しつつも、実際に導入に踏み切れていない企業は未だに多いのではないだろうか。今回はそんな企業向けにビッグデータをオフィス設計に活用した事例4つを前後半の2記事に分けて紹介する。前編となる本記事では「1. 建物内におけるビッグデータの収集と分析」において変革を行い、オフィスのコグニティブ化に近づけたスマートオフィスの事例2つを紹介する。

関連記事:オフィスにおけるIoTとは

#1: スタートアップ・Locateeの分析力を導入したSwiss Post本社新社屋

まずデータ活用の第一歩であるスマートオフィス化を行った事例として、Swiss Postを紹介したい。Swiss Postはスイスで長い歴史を持つ国営郵便事業会社だが、2015年に本社新社屋をベルンにオープン。約30,000㎡に及ぶスペースに2,000人の社員を入れ、彼らが自由に働く場所を選べるフリーアドレス制度を導入して「働き方改革」を行った。しかし、そのフレキシブルな働き方を企業として求めていく中で、オフィス管理における新たな課題が浮上。オフィス内での社員の流動性を上げたことで、どのスペースが今利用可能か、どのスペースがいつ、どれくらいの頻度で使用されているか等、利用状況を把握するのが以前よりも難しくなっていた。

この課題に対し、Swiss Postはチューリッヒに拠点を置くデータ分析スタートアップ、Locatee Analyticsが提供するビッグデータソリューションを導入。社内ネットワークとして利用されるLANやWi-Fiで得られる膨大なデータポイントから、どのデスクやミーティングルームが使用されているかをリアルタイムで把握できるようにした。またデータの可視化(ビジュアライゼーション)を行い、ビル全体でスペースを無駄なく利用できるようにもなった。他にも、社員のニーズを即座に把握できるようになったことで、社員の声を広いやすい環境づくりに繋げられたという。これらの分析に際して集められたデータは、社員の個人情報を守るために、すべて匿名で収集・分析が行われている。

このようなオフィス全体を見渡す「包括性」と、収集し続けられる「持続性」を持つデータを通じて、Swiss Postは個人デスクや他の仕事場においても「職場管理における透明性」を確保できるようになったという。限られたスペースだけでなく、オフィススペース全体を効率よく活用できるようになったのは、ビッグデータ活用に取り組んだメリットの1つだ。

今回の取り組みを通じて、Swiss PostとLocateeはスマートオフィスビルディングの取り組みに向けた基礎作りができたとまとめている。その後同2社はさらに社内専用アプリの開発を行い、それを通じてミーティングルームの予約制度を導入する等、オフィスにより多くのテクノロジーとデータ収集の機会を導入している。同社のHead of Work EnvironmentであるThomas Oczipka氏は「ハードウェアへの投資を一切必要としないデータソリューションを持つことは今回の一番のメリットでLocateeを選んだ理由でもあった」とビッグデータ分析を取り入れた満足感を語っている。

#2:「スペースはプロダクト」データに基づいた試行錯誤を繰り返すWeWorkとCASEの取り組み

このSwiss Postよりもさらに多くのデータを活用し、様々な角度からオフィススペースの最適化を目指す取り組みを行っているのが、今話題のコワーキングサービスを運営するWeWorkだ。

Swiss Postのようなスマートオフィスは世間的に増えつつあるが、「ビル=データ収集の場」という考え方は、コワーキング業界ではまだ一般的にはなっていないという。そう語るのは、世界最大のコワーキングサービスを提供するWeWorkのChief Product Officer、David Fano氏だ。彼曰く、通常1種類のビルを作ってそれを量産し、ある程度たったら次のものへ、というのがよく行われるが、WeWorkでは世界中でコワーキングスペースを同時期に何件もオープンしていることから、その機会を活用して試験的なスペース作りと運用が可能になっているとのこと。データドリブンな手法を基に各ロケーションで得た学びをデザインに取り入れているのだ。

Fano氏は同社の取り組みについて、世界のイノベーター育成を目的としたワークショップInnovation Roundtable内で2016年に講演を行っている。そこで語られたのは、部屋に設置された異なるセンサーがどのようにWeWorkのワークプレイス空間作りに活かされたかについて。その一例として、座席エリアのヒートマップをその後の座席アレンジメントに活用したことが紹介された。その他にも新たな仕切りやデスクアレンジメントを試しながら、スペース効率と利益率、さらに顧客満足度の最大化させる取り組みをデータ中心で行っている。Fano氏にとってWeWorkの各スペースはデータを反映させる「プロダクト」そのものなのだ。

WeWorkのデータドリブンな空間作りを支えるCASEの存在

このようなアルゴリズムに基づいたスペースデザインの背景にあるのは、WeWorkが2015年に買収したCASE Designとのコラボレーションだ。CASEは、2008年の創業から建築物の総合的データ管理システムのBuilding Information Modeling (BIM)を中心としたビルディングコンサルタントを行っており、WeWorkによる買収前までFano氏はこのCASEの共同創業者だった。

CASEのデータドリブンなデザイン手法を手に入れたWeWorkは、ユーザーのスペースにおける包括的な体験改善を目指す「ホリスティックデザイン」に目を向けた。ユーザーによるスペースの利用方法や入退室記録、ヒートセンサーから得たトラフィックパターン等様々な要素を見ることで、ミーティングルームや共有スペースの数や配置における最適なバランスを導き出すことが可能になった。さらに、WeWorkが入居するすべてのスペースにLIDARと呼ばれるレーザー画像検出技術を使用し、ミリ単位で正確なスペースの測定を行っている。このような取り組みを通じて、文字通り”1スクエアフィート”単位での収益最大化に取り組んでいるのだ。

さらにユーザー満足度を向上させるために環境的データも積極的に活用。近年IoTデバイス等の自作にも使われるマイクロコンピュータのArduinoやRaspberry Piを使った簡易デバイスを通じて、室温や照明、その他の要素を計測した。 これらのデータを通じて改善を行った例の1つに電話ブースの数の削減がある。WeWorkスペース内には電話をかけるためのブースがあるのだが、彼らはデバイスを活用してユーザーのトラフィックパターンのデータを分析。その結果、活用が少ないブースの数を減らし、その代わりにデスクの数を増やすことができた。

WeWorkデザインプロジェクトで使われた、部品やパーツの配置を示したスクリプト(Curbedより)

その他にも、採光量を測ったことで、1日を通しての光の当たり具合がユーザーのデスクの選択に影響を与えることを発見し、デスクの配置を変更。さらに画像・動画認識に使われるコンピュータビジョン技術を利用して、ユーザーによるミーティングルームの使用頻度を測定し、それらから得た総合的なデータをメンバー間のインタラクションをより活発にするための「交流エリア」のデザインに役立てた。まさにデータに基づいたデザインにスペースに落とし込んでいったのだ。

WeWorkはこれからもFano氏を筆頭にユーザーの満足度とスペース当たりの収益向上の2つに焦点を置いたデザインを追求していくだろう。今後も彼らの動きには目が離せない。

スマートオフィスを中心に触れた前半記事。後半記事では、その上を行く「コグニティブビルディング」実現に向けて実際に取り組む2つの事例に触れる。

<参考記事>
Swiss Post headquarters receives highest-level sustainability certificate
How the WeWork-CASE Acquisition May Change Your Workplace
Big Data in Modern Office Buildings: Locatee Analytics in Action at Swiss Post 
Office 2.0: Big Data is changing the design of our workplaces

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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