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日米のハイブリッドワーク比較!アメリカは役職者の出社を要求?

完全リモートワークからハイブリッドワークへ移行する企業が増え、さらに週2~3日の出社を要請する動きも広がっている。日本とアメリカのハイブリッドワーク事情について調べた。

世界で模索が続くハイブリッドワークの最適解

柔軟な働き方に対する企業の取り組みは、新型コロナウイルスのパンデミックにより一気に加速した。そして人々がパンデミック前の生活を取り戻しつつある今、オフィス出勤とリモートワークを併用するハイブリッドワークを採用する企業が増え、出社率の最適解について模索が続いている。日本とアメリカのハイブリッドワークの現状を調べた。

アメリカでは3~4割がハイブリッドワーク

ワシントンにある非営利の調査研究機関・Pew Research Centerの調査によると、フルリモートで働く人の割合が2022年の43%から2023年には35%に減少し、ハイブリッドワークが35%から41%に増加したことが明らかになった。

その一方で、スタンフォード大学などが行った、フルタイムワーカー2万571人を対象にした調査では、実際に2023年3~7月にハイブリッドワークをしていた人は全体の29.3%にとどまり、大半(58.5%)がフルでオフィスワークをしていると報告されている。アメリカでは2023年時点で、3~4割の従業員がハイブリッドワークをしているようだ。

IT業界でもリモートワークからハイブリッドワークへ

リモートワーク化を率先して進めていたIT業界でも、ハイブリッドワークへシフトする流れが加速している。ビジネス専門チャンネルのCNBCによると、Facebookを運営するMeta社も、フルリモートから週3日の出社制へと移行することを発表した

2021年6月にリモートワーク・ポリシーを全正社員に拡大した際には、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、「良い仕事はどこでもでき、遠隔動画やバーチャルリアリティの技術が発展するにつれ、大規模なリモートワークが可能になるだろう」と語っていた

しかし、2年経った今、なぜリモートワークからハイブリッドワークに方針を変えたのか。

ザッカーバーグ氏によると、対面での仕事経験の有無でパフォーマンスに違いがみられたためだという。同社の分析では、Meta社に対面で入社したエンジニアは、リモートで入社したエンジニアよりパフォーマンスの平均が高かった。さらに、キャリアの浅いエンジニアほど、週に3日以上チームメイトと直接会って仕事をすることで、パフォーマンスを高められることが明らかになったと発表している

リモートワークを支えるWeb会議ツールを提供するZoomですら、通勤圏内に住む従業員に週2日の出勤を課す方向に踏み切ったとイギリスの公共放送BBCが報じている。IT業界でも、従業員同士が物理的に同じ場所で仕事をするメリットが見直されてきているようだ。

ハイブリッドワークの場合も出社日数が徐々に増加

ハイブリッド型の勤務形態は多くの企業で今後も続いていきそうだが、オフィスワークとリモートワークのバランスは変わっていくのかもしれない。

先述のPew Research Centerの調査では、リモートワークのメリットとデメリットについても尋ねている。リモートワークのメリットは「ワークライフバランスがとれる」(71%)や「仕事が片付けられる」(56%)となっている。その一方で、「同僚とのつながりが薄まる」(53%)や「メンタリングの機会を逃す」(36%)などの欠点も挙げられている。実際、Meta社の出社要請もこうしたリモートワークのデメリットの解消を企図したものと言えるだろう。

企業側としては、これらのメリットやデメリット、業務内容を考慮しながら勤務形態を決める必要がある。Buildremote社が行ったFortune100企業のオフィス復帰調査によると、多くの企業がオフィス勤務の日数を設けており、一番多いのが週3日であった。

また、最近はオフィス勤務の設定日数を増やす企業が増えてきている。総合不動産サービスを提供するJLL社が四半期ごとに発表している調査によると、アメリカのホワイトカラーの生産性は低下し続けており、経営陣はますますリモートワークがその潜在的な原因と認識しているとのことだ。

このデータを発表した2023年5月の直近でも、世界有数の電気通信事業者であるAT&T社がマネージャーレベルの社員に定期的なオフィス出社を要請しており、同じく世界有数の資産運用会社であるBlackRock社が週3日だったオフィス勤務を週4日に増やしている。

役職者にフルタイム出社を促す流れ

米国最大の銀行で全世界に30万人近くの従業員を抱えるJPモルガン・チェースは、2023年4月、上級管理職を週5日オフィス出社に戻す方針を発表した。Financial Timesの記事によると、同社は「わが社のリーダーたちは、企業文化を強化し、ビジネスを運営するうえで重要な役割を担っている」そのため「彼らはオフィスに顔を出し、顧客と会い、教えたりアドバイスしたりする必要がある」と説明している。

JPモルガン・チェースを含め、もともとオフィスワークが原則だった金融界だが、パンデミック中はリモートワークにもかかわらず記録的な利益を生み出し、柔軟な勤務形態を続けてきた。しかし利益が減少し、雇用も減速してきたことにより流れが変わりつつある。

こうした状況のなかでもハイブリッドワークを希望する社員は多く、JPモルガン・チェースでは、上級管理職をオフィス勤務に戻してビジネスの生産性を上げることで、その他の従業員については当面週3日のオフィス出社というハイブリッド形態を継続するようだ。

しかしながら、Deloitteが2023年4月に行った、アメリカの金融企業に勤務するマネージャー以上のフルタイム従業員700名を対象にした調査では、ハイブリッドワークで働く人の66%が、週5日の通勤を求められたら転職する可能性が高いと回答している。キャリア形成とワークライフバランスの間で揺れる従業員の心情を企業側が今後どう受け止めていくのかが問われている。

日本ではハイブリッドワークが2割、テレワークが2割

では、日本のハイブリッドワークの現状はどうか。エン・ジャパン株式会社が2023年8月に実施したアンケート調査(有効回答数7783名)によると、新型コロナウイルス感染症が5類感染症になって以降の働き方は「毎日出社」が53%、「テレワーク」が19%、「ハイブリッドワーク」が19%となっている。

現在、あなたはどのくらいの頻度で出社していますか?(画像はエン・ジャパン株式会社のWebサイトより)

業種別にみると、「毎日出社」の比率が最も高いのは「インフラ」で65%であり、最も低いのは「IT・通信・インターネット」で37%だった。5類化に伴う出社頻度の変化については、「出社が増えた」との回答は10%。また、出社頻度が転職活動における企業選びにどの程度影響するかについては、63%が「影響する」と回答した。

転職活動をする上で、出社頻度やテレワーク等の働き方は、企業選びにどの程度影響しますか?(画像はエン・ジャパン株式会社のWebサイトより)

アメリカと同様に、日本でもリモートワークの継続を望む従業員は多い。2023年7月に公益財団法人日本生産性本部が実施した「第13回働く人の意識調査」では、71.6%もの人が自宅での勤務で「効率が上がった」「やや上がった」と回答しており、今後もリモートワークを継続したいかについて「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と答えた人は86.4%にのぼった。

今後もテレワークを行いたいか(画像は「第13回働く人の意識調査」の調査結果レポートより)

ハイブリッドワークで飛行機や新幹線での通勤を認める企業も

日本では、コロナ禍に大企業が働く場所・住む場所の自由化を打ち出し、話題になった。その代表と言えるのがNTTグループである。NTTグループでは、リモートワークを働き方の基本とし、働き方を自由に選択・設計可能にすることでワークインライフを推進している。

同グループでは以前からリモートワーク制度を設け、リモートワーク手当の支給やサテライトオフィスの拡充などに取り組んできた。そして2022年7月からは、日本全国どこからでもリモートワークにより働くことが可能となり、住む場所の制約もなくなった。出社が必要な場合は遠隔地であっても交通費が支給されるため、転勤や単身赴任の必要もなくなり、本当に住みたい場所を選択することができる。

このように住む場所を限定しない働き方を採用している例として、他に株式会社メルカリと株式会社ミクシィが挙げられる。

メルカリでは、2021年9月から、国内であれば住む場所に制限を設けず、交通費も月15万円まで支給する制度を導入。飛行機や新幹線での通勤も可能にした。ミクシィでも、出社日の正午までに通勤できる距離であれば住む場所の制限がなくなり、同様に交通費を月15万円まで実費支給している。出社回数は部署ごとに最適な回数を選択でき、フルリモートワークも可能だという。

足し算ではなく掛け算のハイブリッドワークをめざす

さまざまな企業が最適なハイブリッドのかたちを模索するなか、社員一人ひとりが「わくわく」しながら働けるハイブリッドワークをめざしているのが株式会社日立製作所だ。

同社では2016年から働き方改革に取り組み始め、従業員のワークライフバランスに向き合ってきた。ハイブリッドワークについては、出社とテレワークを同等に扱い、またどこからでも上司が部下の働きを見守れるインフラを整えることで、仕事の内容や評価に不公平が生まれないようにしている。

必要となるハードウェア、労務管理やコミュニケーション用ツールなどのソフトウェアは、自社内でシステム開発。ハイブリッドワークに関して多くの従業員が抱えていた「心理的安全性」の問題も仮想オフィスサービスを取り入れるなどして改善している。

働く場所に関しても、育児や介護などの状況に合わせ、働ける時間や場所を自由に選ぶことができるようにした。サテライトオフィスを拡充し、自宅での勤務環境を整えるための費用も支給している。

ハイブリッドワークの環境を整えたことで、2021年度の社内調査では78.4%の社員が「働きやすい会社だと思う」と回答した。同社は、このようにエンゲージメントが高い状態の効果として、生産性の向上、離職率の低下、ワークライフバランスの向上、企業イメージの向上を挙げている。

働く側と雇う側の双方が満足するバランスの模索は続く

パンデミックにより、多くのワーカーがリモートワークのメリットを経験した。以前のようなフルタイムのオフィスワークではなく、ハイブリッドワークで働きたいと希望する人が、すぐに減少することはないだろう。しかし、日本でもアメリカでも、生産性やコミュニケーションの面からオフィスワークの日数を増やす企業が増えているのが現状だ。柔軟性を求める従業員と生産性を重視する経営者側の双方が満足できるバランスの模索は、これからもしばらく続きそうだ。

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