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脱炭素社会とは? 日本が掲げる目標と国内企業の取り組み事例

[August 17, 2021] BY Yumi Uedo

脱炭素社会における国内の動き

脱炭素社会とは、地球温暖化をはじめとした気候変動の原因とみなされる、温室効果ガス排出量の実質ゼロ化を実現した社会のことを指す。2016年に、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」が発効されて以降、世界的に脱炭素化を求める動きが活発化している。

そんななか、日本ではパリ協定を批准したものの脱石炭化を十分に進められず、「環境後進国」との批判を受けることもあった。2019年にスペイン・マドリードで行われた国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)の期間中にも、世界の環境団体でつくる「気候変動ネットワーク」から2度目の「化石賞」に選ばれている。化石賞とは、地球温暖化対策に後ろ向きとみなされた国を対象とするもので、石炭による火力発電を推進する日本が、脱石炭化などに意欲的な姿勢を示さなかったことが受賞理由だ。

当時の日本は、国内で石炭火力の利用を続けていることに加え、発展途上国への石炭火力発電所の輸出支援も行っており、それも批判を集める要因となっていた。そこで、2020年7月、政府は「二酸化炭素を多く出す非効率な石炭火力発電所を段階的に休廃止する」方針を明らかにし、石炭火力発電の縮小へと動き出した。

その後、2020年9月に内閣総理大臣に就任した菅首相は、所信表明演説で「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言した。これにより、日本は脱炭素社会の実現に向け、ようやく本腰を入れることとなった。

2021年1月にアメリカの大統領に就任したジョー・バイデン氏も、就任直後から気候変動対策に乗り出しており、世界的に脱炭素化の流れが加速することは確実だ。また、欧州連合(EU)では、温暖化対策が不十分な国からの輸入品に対し、生産時に出した二酸化炭素量に合わせて関税など課すことを予定しており、対応の遅れた企業は大きな打撃を受ける可能性もある。

本記事では、今後、ワークプレイスの検討過程でも配慮が欠かせなくなる脱炭素社会について、鍵となる「パリ協定」の概要をおさえた上で、日本の現状と先駆的な取り組みを行う企業の事例を紹介する。

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ターニングポイントとなった「パリ協定」

パリ協定」とは、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みのこと。1997年のCOP3で採択された「京都議定書」の後継となるもので、2015年にフランス・パリで開かれたCOP21で採択された。

2016年4月の署名開始日には、過去最多となる175の国と地域が署名を行い、同年9月には世界の温室効果ガス排出量第1位の中国と第2位のアメリカが同時に締結するなど、世界的に注目を集めた。

その結果、採択から1年足らずで「世界の温室効果ガス総排出量の55%を占める55か国による締結」という要件を満たし、2016年11月に発効した。経済産業省の調べによると、2017年8月時点で、締結国だけで世界の温室効果ガス排出量の約86%をカバーするものとなっており、その影響力は非常に大きい。

パリ協定というと、アメリカが脱退したニュースを思い出す人も多いだろう。地球温暖化対策に消極的だったドナルド・トランプ前大統領が、パリ協定はアメリカに不利益であると主張し、正式に脱退したことで世界に衝撃が走った。しかし、バイデン政権に代わると即座に復帰し、国内の温室効果ガス排出量の削減や、発展途上国の排出削減を支援することなどを表明している。

パリ協定で定められた目標は、「世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べて2℃未満に抑える」もので、「2℃目標」とも呼ばれる。発展途上国を含むすべての温室効果ガス排出国に、排出削減目標を決めて取り組むことを求めている。

この「発展途上国を含めたすべての排出国が対象」である点が、パリ協定が画期的と言われるポイントだ。京都議定書では排出量削減の法的義務は先進国にのみ課せられていたため、参加国の間で不公平感が募り、効果的な取り組みを阻害する要因となっていた。また、京都議定書が発効されて約20年が経ち、発展途上国が経済的発展を遂げて排出量が急増し、発展途上国の参加なしには目標達成が不可能となっている現実もある。

「温室効果ガス46%削減」を掲げる政府と国民の意識のズレ

前述したように、日本は二酸化炭素排出量の多い石炭による火力発電を完全廃止すると明言しておらず、欧州を中心とした環境先進国から厳しい目を向けられている。さらに日本は、パリ協定の中期目標として「2030年度の温室効果ガスの排出量を2013年と比べて26%削減する」ことを掲げたが、これがほかの主要国と比べて決して高い目標ではないとの指摘があった。

それは、2013年が東日本大震災による原子力発電の停止を受け、火力発電の割合が増えた年であり、温室効果ガスの排出量の多い年と比較することになるからだ。菅首相は2021年4月、アメリカ主催の気候変動サミットで「2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減することをめざす。さらに、50%の高みに向け、挑戦を続ける」と新たな目標を表明した。26%からの大幅な引き上げとなった。

しかしながら、日本人の気候変動問題に対する意識はまだ高いとは言えない。環境省の資料によると、「気候変動の影響をどのくらい心配だと感じていますか」との問いに対し「とても心配している」と答えた人の割合は世界で78%に上った一方で、日本は33%にとどまった。

また、「あなたにとって、気候変動対策はどのようなものですか」との問いについて、「多くの場合、生活の質を脅かすものである」と答えた人の割合は世界で27%、日本ではその倍にあたる54%に上った。このことから、日本には危機意識が薄く、気候変動対策にネガティブなイメージを持つ人が多い様子がうかがえる。

日本はいまだ、国民の意識変容が必要な段階にある。菅首相が宣言した「温室効果ガス46%削減」を実現するためには、官民一体となって積極的な施策を打ち出し、国民一人ひとりが危機感を持って前向きに取り組まなければならないだろう。

脱炭素化に向けた国内企業の取り組み

目標を達成する上では、国内企業の取り組みも重要な鍵を握る。脱炭素化に向けて高い目標を掲げ、先駆的な取り組みを行う国内3社の事例を紹介する。

1. 積水ハウス株式会社

住宅メーカーの積水ハウスでは、2008年に「2050年に住まいからの炭素排出をゼロにする」ことを宣言。省エネルギーや再生可能エネルギーなどの導入により年間のエネルギー収支ゼロをめざす「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」の普及や、事業活動で発生する温室効果ガスを削減する取り組みを進めている。その取り組み目標は、「SBT(Science Based Targets)イニシアチブ」に認定されている。

SBTとは、パリ協定が求める水準に整合した、企業の温室効果ガス排出削減目標のこと。SBTイニシアチブとは、国連グローバル・コンパクト、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)が共同で運営し、企業が科学的知見に基づく目標を設定するよう推奨するとともに、企業の削減目標を審査・認定する機関である。環境省の資料によると、2021年3月時点での認定企業は世界で615社となっている。

また積水ハウスは、ZEHの先進企業として、COP23のサステナブルな都市の実現を理念に掲げるSDG11デーの閣僚級会議においてスピーチを行うなど、世界的にもその取り組みが認められている。

2. 鈴廣かまぼこ株式会社

食品メーカーの鈴廣かまぼこは、自然環境を守ることが事業の継続につながるとの考えに基づき、早くから電気自動車の導入や製造工程で出る食品くずのたい肥化などに取り組んできた。その後、2011年の東日本大震災による計画停電をきっかけに、省エネや再生可能エネルギーの活用も進めるようになった経緯を持つ。

2013年には太陽光発電システムと太陽熱利用給湯システムを導入し、工場や併設レストランで利用。2014年には地中熱利用換気システムを取り入れて空調にかかるエネルギーの削減を進め、年間消費電力の前年比15%減少を実現し、コスト削減にもつなげている。

さらに「賢いエネルギーの使い方」を模索し続け、2016年には、エネルギー収支ゼロをめざす「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」として新社屋を建設。太陽光発電や蓄電池による再生エネルギーを活用し、壁を断熱構造にしたほか、LED照明と自然光ダクトで外光を最大限に利用するなどの取り組みを行った。その結果、同規模の建物と比べ、50%以上のエネルギー削減率を実現している。

3. アスクル株式会社

オフィス用品などの通信販売を行うアスクルは、2016年に、事業所と物流センター、配送車両からの二酸化炭素排出量を2030年までにゼロにすることを宣言した。

その実現のため、2018年に仙台、名古屋、大阪、福岡の4つの物流センターで100%自然エネルギー(再生可能エネルギー)電力を導入。2020年にはさらに2カ所の物流センターに追加導入し、グループ全体の電力使用量の34%を再生可能エネルギーに切り替えた。また、2016年には配送車両の一部に電気自動車を採用。2020年には小型電動トラックも試験導入し、配送車両からの二酸化炭素排出量ゼロ化に向けて取り組んでいる。

このほか、2010年から仕入れ・調達に伴う二酸化炭素排出量の試算を毎年行っている。これを配送ルートの効率化などに役立てることで、排出量と物流コスト両方の削減に成功した。2016年には、協力を得られたサプライヤー4社合計の排出量を9割以上削減。また、簡易包装商品の開発や、森林認証製品の取り扱いの拡充など、サプライチェーン全体での取り組みも進めている。

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脱炭素化は企業価値の向上にもつながるアプローチ

菅首相が掲げた「温室効果ガス46%削減」という目標を、実現不可能なものと感じる人もいるだろう。実際に、達成に向けた具体的な道筋が見えないという声は少なくない。

しかし、地球の気候変動対策のために、脱炭素化は避けて通れない課題である。対策にはコストがかかるが、鈴廣かまぼこやアスクルの事例のようにコスト削減につなげる方法もある。また、社会的責任に積極的に取り組む企業として企業価値が高まれば、消費者や取り引き先から支持を得て、売り上げの向上につながることもあるはずだ。

自社が脱炭素社会へ向けて、今すぐ取り組めることは何なのか。規模の大小にかかわらず一歩ずつ進め、同時に社員の意識改革にも取り組むことが、地球環境を守り、それを次世代へと引き継ぐために必要なのではないだろうか。

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この記事を書いた人

Yumi Uedo 編集者/ライター。従事していた出版社およびWebメディアでは、大手企業・自治体をクライアントに持ち、多数のPR記事の取材・執筆・編集を担当。現在はフリーランスとして企業のコラムページを複数担当するほか、サスティナブルなライフスタイルの発信にも力を入れている。

    

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