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DXはなぜ必要か? 企業が直面する「2025年の崖」の正体

[January 05, 2021] BY Naoto Tonsho

経産省のレポートに記された「2025年の崖」

2020年のバズワードのひとつに、デジタルトランスフォーメーション(DX)があげられる。経済産業省がDX推進の旗振り役となり、業種・業界に関わらず企業に向けて“事業の変革”を求めている。

一方、実際の企業の受け止め方には温度差もある。経営層がDXの本質を見極め、折しもやってきたコロナ禍を変革のチャンスと捉えて取り組む企業や、創業間もないスタートアップ企業では人材確保の難しさから自然と業務全般がDX化しているというケースもある。

また、優先課題としていながらも、掴み所のないDXを前にどこから手をつければいいか判断に迷う企業も多い。反対に、DXを単なる流行りのIT用語と捉え、「うちとは関係ない」と無関心を装う企業もあるだろう。これまでおびただしい数のIT用語がもてはやされ、使い古され、そして“何も変わらなかった”歴史を振り返れば、そう考えるのも無理はない。

そこで改めて、「DXはなぜ必要なのか?」について、DXと同様に経済産業省がレポートのタイトルにも掲げた「2025年の崖」を紐解くことで見えてくる、企業がDXに取り組むべき理由について見ていくことにする。

求められている企業の「変革」

「2025年の崖」とは何かを見る前に、DXについて確認しておきたい。経済産業省では、2019年7月に発表したレポート「『DX推進指標』とそのガイダンス」(P.1)の中で、次のようにDXを定義付けている。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

要約すれば、業務の効率化を実現するためにIT技術を利用して、組織のあり方をも見直す変革を実現し、その変革によって安定的な収益が得られる組織とすることである。注目すべきは、DXが目指すのは単なる業務効率化ではなく、“変革”であるということ。

企業が長らく取り組んできた業務効率化やコストダウンはすでに高度化されており、「ビジネス環境の激しい変化」の中で、変革に至るほどのシフトアップを現場に強いるのは、ガバナンスや持続可能性の面でも課題がありそうだ。

ビジネスはグローバル化し、競争が激しくなる中で、新たなビジネスモデルの出現によって既存ビジネスがマーケットからの撤退を余儀なくされる「デジタルディスラプション」も起きている。ディスラプションとは「崩壊」を意味するが、ユーザーからすれば新たなサービスの創出であるとも言える。わかりやすい例では、音楽産業におけるCD販売からサブスクリプションサービスへの移行、そしてUberEatsの出現で外食・中食の形も変わってきている。

DXを前向きに捉えるとすれば、デジタルディスラプションを起こすプレーヤーに対して、企業が新たな価値を創造するための手段と考えることができる。

ところが、DXを推進しなければならないもう一つの理由がある。それが、経済産業省がDXとともに提示する「2025年の崖」である。

潜在的な企業の課題が、一気に顕在化する

「2025年の崖」は、経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」の副題に付けられた、日本企業が直面するリスクの呼び名である。副題には、「ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開」とある。

「2025年の崖」は、企業における人材面、技術面のリスクが絡み合い、企業の成長を阻害すると指摘されている。そればかりか、「2025年の崖」を放置した場合、2030年までに日本経済は最大で毎年12兆円の経済損失が生じると、同レポート(P.26)で指摘されているのだ。

株式会社富士通総研の「DX政策の最新動向と今後の展望」(2020年1月10日)では、「2025年の崖」について、次のようにまとめられている。

2025年にはIT人材不足が約43万人に倍増する、21年以上運用する基幹システムが60%以上になる、メインフレームの担い手の高齢化が進むなど、日本企業が抱える課題が一気に深刻化することが想定されます

このレポートでもわかるように、「日本企業が抱える課題が一気に深刻化する」と考えられており、「2025年の崖」は外的要因というよりも、企業内で先送りにされてきたいくつかの課題が2025年を境に一気に噴出する可能性があるのだ。

課題となっているシステムの老朽化とIT人材不足

基幹システム老朽化

ここからは、「2025年の崖」に並んでいるリスクについて、システム面と人材面に分けて見てみたい。

1. システムの老朽化

多くの企業では、既存のシステムがレガシーシステムとなっていると「DXレポート」(P.6)は指摘している。レガシーシステムの定義を同レポートから抜粋すると、「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステム」のこと。

一般的な現場に落とし込んでわかりやすくすると、従来、企業は基幹システムをベンダーに発注して、時間とコストをかけて自社専用のシステムを組み上げてきた。自社内にサーバーや通信回線などのハードウェアを置いて運用する、いわゆるオンプレミスの基幹システムである。

問題の中心は、レガシーシステム化したオンプレミスの基幹システムである。自社専用のシステムのため、新たなハードウェアの導入や、別システムとの連携のたびにシステムが複雑化してしまい、仮にトラブルが発生しても容易に手出しできない状態となってしまうのである。

こうした基幹システムの保守・運用にかかるコストと併せ、基幹システムのサポート終了に伴うシステム全体の見直しに莫大なコストがかかることも課題となっている。しかも、厄介なことに自社企業の基幹システムがレガシー化しているかは、気付きにくい問題でもある。

この点については「DXレポート」(P.11)でも、「メンテナンスを行わず日常的に活用できている間はレガシーであることは自覚できない」と指摘されている。レガシーが発覚するのは、「ハードウェアやパッケージの維持限界がきたとき」だという。つまり、システムにトラブルが発生して初めてレガシーに気付くのだが、その時にはブラックボックスとなっていることも考えられるのである。

また、同レポート(P.27)では、基幹システムの老朽化について次のように言及している。

日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書 2016」によると、企業が保有する「最も大きなシステム」(≒基幹系システム)が、21 年以上前から稼働している企業の割合は 20%、11 年~20 年稼働している企業の割合は 40%。仮に、この状態のまま 10 年後の 2025 年を迎えると、21 年以上稼働している企業の割合は 60%になる

そもそも、なぜ「2025年」なのか。それには、次の3つの理由があげられる。1つ目が企業のITシステムの老朽化、2つ目が日本企業で採用実績の多い基幹システムのサポート終了、3つ目が企業でITシステムの保守を担当する技術者の退職時期である。このように2025年に大きな潮目の変化が見られるため、「2025年の崖」と表現されたのだ。

2. IT人材の不足

企業によっては、会社のシステムに精通した「情報システム部」のような部署を持っている。ところが、老朽化システムの仕様を把握している人材は、高齢化やリタイヤの時期を迎えており、また、古いプログラミング言語を使いこなすスキルを持つ人材の確保は難しい。若手のIT技術者を、老朽化したシステムのメンテナンス担当に充てることもあるが、先端的な技術を学んできた若手にとっては力を発揮できず、後ろ向きな姿勢となってしまうだろう。

DXレポート」(P.27)にある「2025年の崖」を示した図によれば、IT人材は2015年の時点で約17万人不足しており、2025年には約43万人にまで拡大するという。その影響で今後危惧されるのは、システムの保守・運用を担当する人材の不在による、サイバーセキュリティやシステムのトラブル、データ滅失などのリスクである。

「デジタルガバナンス・コード」でDXが動き出す

これまで見てきたシステム面の課題、人材面の課題を総称して「2025年問題」と呼ぶのだが、この問題を解消するためにはDXが必要ということになる。

ただ、DXの定義には「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用し」とあり、多くの企業がDXを前に足踏みしてしまうのは、既存システムではデータとデジタル技術の活用が困難だからかもしれない。どこから着手すればいいのかわからないというのが、企業の本音ではないだろうか。

そうした課題に対して、経済産業省では企業がDXの取り組みを自主的・自発的に進めることを促すための認定制度「デジタルガバナンス・コード」を取りまとめ、2020年11月に発表している。

「デジタルガバナンス・コード」が優れているのは、企業のステークホルダーに向けて、その企業のDX達成度を可視化することで、投資や人材を集め、ビジネスチャンスを生む環境を整えるとしている点だ。また、「デジタルガバナンス・コード」の認定には、経営者の関与が不可欠である。認定を受けるための5つの行動原則を見ても、経営者による強いリーダーシップの発揮が求められていることがわかる。

2019年9月にデジタルガバナンスに関する有識者検討会が発表した「デジタルガバナンス・コードの策定に向けた検討」(P.2)で示された5つの行動原則は以下の通り。

原則1 成長に向けたビジョンの構築と共有
原則2 ビジョンの実現に向けたデジタル戦略の策定
原則3 体制構築と関係者との協業
原則4 デジタル経営資源の適正な配分
原則5 デジタル戦略の実行と評価

投資家へ向けたアピール材料として、デジタルガバナンス・コードが一定評価されれば、企業のDXも強い推進力を得ることになるだろう。

今、多くの企業が変革を求められている。1部署の取り組みではなく、全社的な気運を高めて、来るべき「2025年の崖」を乗り越えなければならない。月並みな言葉ではあるが、ピンチをチャンスに変えるのは今である。崖が迫りくるまでの数年間を企業のあり方、ひいては自分のあり方に変革を与えるチャンスとしたい。

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この記事を書いた人

Naoto Tonsho週刊誌の記者としてキャリアをスタート。政治、経済、社会問題まで幅広く取材。2016年頃より企業の広告・PRなど、BtoB関連にも業容を拡大。最近では、企業経営者へのインタビューや統合報告書制作などにも携わる。

    
    
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